24.EXステージ2 その3
『経験値を獲得しました』
『ササキリュウジのLVが12から13に上がりました』
レベルアップを告げるアナウンス。
俺と雷蔵は勢いもあって四回目の増援も難なく倒すことができた。
ただ最後の一匹はあえてとどめを刺さずにしばらく瀕死の状態に留めた。
「ふぅー……」
「ゴァ……」
やはり連戦はキツい。
息が続かず、運よく『麻痺』が発動しなければ危うかった場面もあった。
「雷蔵、今のうちに採った魔石は食べておけ」
「ゴアゥ」
二回目、三回目の時は会話してるうちに増援が来ちまったからな。
この休憩時間の間に雷蔵に魔石も食べさせておく。
俺もショップで『水』を、ポイント交換で『美味しい飴』を購入する。
現実とは違うとはいえ、攻撃を食らえば怪我もするし、汗もかくし腹も減る。
ショップで水が売っていたときはかなり嬉しかった。
「……確かに美味いなこの飴」
べっこう飴とはまた違った上品な甘さが口の中に広がってゆく。
疲れた脳と体に糖分は必須だ。
とはいえ、そこまで時間は掛けれないのでバリバリと噛み砕いて、水で流し込む。
「……この水もかなり美味いな」
ポイント交換の水は現実で利用できるが、ショップの水はゲーム内で使用できる。
お値段は1リットル1,000イェン。
割高だが、疲れた体に浸み込んでくる。
欲を言えば回復アイテムみたいなものでもあれば嬉しかったんだがな。
「雷蔵、お前も飴食べ……ん?」
「ッ……ゴァゥ」
見れば、雷蔵がビクンと震えていた。
「どうした?」
「……ゴァウ」
雷蔵は一瞬、何かを迷う素振りをしたが、首を横に振った。
てっきり狂鎧大猪の魔石を食べた時のように進化するのかと思ったが違ったようだ。
まあ、図鑑にも進化できる個体は極稀って書いてあったしな。
もしくはレベルがまだ足りなかったのか。
雷蔵は飴を受け取ると、美味しそうにバリバリと噛み砕いた。
「シャ、シャァァ……」
『経験値を獲得しました』
どうやら生かしておいたジャイアント・スネイクが絶命したようだ。
欲を言えば、もう少し休みたかったが贅沢も言ってられない。
「さあ、戦闘再開だ」
「ゴァゥ」
森の奥からジャイアント・スネイクが現れる。
その姿を見て、俺は顔をこわばらせた。
「ッ……おいおい、マジかよ」
ジャイアント・スネイクの数が増えていた。
これまでは五体だったのに、今回はなんと七体。
てっきり数は五体で固定だと思っていたから、これは流石に想定外だ。
「とはいえ、やることは変わらないがな」
姿が見えた瞬間に、『不快』は発動させている。
麻痺によって、一体の動きが止まる。
残りの六体が突っ込んでくる。
数の脅威とは恐ろしい。
たった二体増えただけで、それまでの戦術が通用しなくなる。
(ちっ、全員に『不快』を掛ける前に接近されるな……)
五体でギリギリだったのだ。
二体も増えれば当然、CTが間に合わなくなる。
「ゴァゥ」
すると雷蔵が前に出た。
どうしたんだ?
大きく息を吸い込むと、前方へ向けて雷撃を放った。
「ゴァァァアアアアアアアアア!」
「ッ……これは」
その雷撃はこれまでのとは範囲がまるで違っていた。
六体のジャイアント・スネイク全てを巻き込む電撃の範囲攻撃。
「ジャァァァ……」
「ジャガ……カッ……」
「……ジュラァァ」
その電撃を浴びて、なんと三体のジャイアント・スネイクが『麻痺』状態になったではないか。
「雷蔵、お前……」
「ウガゥ♪」
ひょっとしてさっきの妙な様子は、新しいスキル、もしくは既存の『雷撃』がパワーアップしたってことだったのか?
ドヤ顔でこちらを見る雷蔵。
どんなもんだいと言っているようだ。
(……コイツ、サプライズしたくてわざと黙ってやがったな)
生意気な眷属だ。
後でお説教だからな。
とはいえ、助かったのも事実だ。
「よし、今のうちに一気に攻めるぞ!」
「ゴァゥ!」
動けるジャイアント・スネイクは残り三体。
これなら今までと同じ戦術で戦える。
『経験値を獲得しました』
『ササキ リュウジのLVが13から14に上がりました』
再び、残り一体を残して戦闘終了。
「ハァー……ハァー……」
「ゴァ……ゴォゥ……」
雷蔵のおかげで助かったといえ、やはり二体の差は大きかった。
「……今後は増援は七体になるって考えた方がいいな。雷蔵、今のうちにさっきのスキルの詳細を調べたい。いったん、カードに戻ってもらえるか」
「ゴァ」
ゲーム内で召喚したのだから、戻すこともできるはず。
傭兵と違い、召喚回数に制限はないから、また呼び出せるはずだ。
予想通り、雷蔵はカードに戻った。
『名前 雷蔵 LV13
種族 ホブ・ゴブリン
戦闘力 ☆☆☆
スキル 防衛、鉄腕、雷撃、雷閃
忠誠度 高い』
確認すると雷閃というスキルが増えていた。
それにレベルが上がって、戦闘力の星の数も増えてる。
『スキル』
・雷閃 アクティブ 口から広範囲の雷撃を放つ。威力は雷撃より低い
命中した対象を対象を50%でスタン。防御-10%
CT60秒後に再発動可能。
なるほど、全体攻撃かつ高確率でスタンさせるスキルか。
雷撃に比べて威力は低く、CTも長い。
だがこれは使える。
スキルを確認したので、再び雷蔵を召喚する。
「全く、スキルを覚えたんなら、ちゃんと言ってくれよ」
「ゴァゥ……」
雷蔵はシュンと下を向く。
怒られるとは思っていなかったのだろう。
あくまで俺を喜ばせたいと思っての行動だったのは間違いない。
「……まあ、助けられたのも事実だ。これからも頼りにさせてもらうぞ」
「! ゴアゥ♪ ゴァゴアオ!」
俺の言葉に、雷蔵はバッと顔を上げると、笑みを浮かべた。
「戦術を変える。よく聞いてくれ」
「ウガゥ」
雷蔵の新しいスキルを活用しない手はない。
開幕速攻で『不快』と『雷閃』を使い、出来るだけ敵をスタンさせる方向でいこう。
打ち合わせを終え、少し休憩した後、残りの一体にとどめを刺す。
『経験値を獲得しました』
さあ、再戦だ。
六回目、七回目も同じく七体だった。
しかし雷蔵の新スキルのおかげで、むしろ前よりも楽に倒すことができた。
『経験値を獲得しました』
『ササキ リュウジのLVが14から15に上がりました』
しかし八回目。
ここで更にジャイアント・スネイクの数が増えたのだ。
今度はなんと九体だ。
「ッ……ハァ、ハァ、ハァ」
「ゴァー……、ゴァー……ッ」
ギリギリだった。
度重なる連戦の疲労と、武器の摩耗。
疲労が一気に襲ってきた。
「くそっ……オススメ商品、全然使えねぇじゃねえか……」
流石に数の暴力は凄まじく、どうにか出来ないかと考えて、オススメ商品だった『美味しい餌』と『温かい球体』を思い出した。
ひょっとしたら敵の注意を引けるのかもと思ったが、蛇どもは餌にも球体にも見向きもしなかった。
今回はハズレだったのだろうか?
『雷閃』のCT回復のタイミングと、『不快』で麻痺が発動しなかったらマジで全滅していた。
『経験値を獲得しました』
『ササキ リュウジのLVが15から16に上がりました』
九回目も同じく九体。
俺も雷蔵もすでに満身創痍だった。
ここでついに弾倉が弾切れとなった。
それでもまだクリアのアナウンスは鳴らない。
まだ終わらないのだ。
『経験値を獲得しました』
『ササキ リュウジのLVが16から17に上がりました』
(……まだか? まだ終わらねぇのか……)
流石にこれ以上はキツいぞ?
そして遂に十回目の増援。
現れたモンスターを見て、俺は目を疑った。
「なんだ……コイツは?」
そこには十体のジャイアント・スネイク。
いや、正確には九体のジャイアント・スネイクと――。
「ジュラララァァァァァ……」
『モンスター図鑑が更新されました』
『モンスター図鑑№5マザー・スネイク
グランバルの森に生息する上級モンスター。
ジャイアント・スネイクの進化系。
真っ黒な表皮は防御、魔防ともに高い数値を誇る
視力は退化しているが、非常に優れた皮膚感覚とピット器官を有している
体長は最大で20メートルまで成長する。
牙には猛毒があり、風系の強力な魔法スキルを使用する。
旺盛な食欲で獲物を丸のみにし、生きたまま腹の中でゆっくりと消化する。
討伐推奨LV20』
マザー・スネイク……。
なるほど、コイツがこの蛇共の親玉ってわけか。
「……くそったれが」
銃弾は弾切れ、体力ももう限界だってのに、ここにきてのボスモンスターかよ。
これはちょっと……いや、かなりヤバいかもしれない。