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17.蛇って怖いよね


 光が収まると、俺は見慣れた森の中に居た。


「さて、今回のクリア条件はNPCが目標地点まで到達する、か……」


 てことは、対象となるNPCがどこかに居るはずだ。

 マップで確認する前に、まずはこっちだ。


「――出てこい、雷蔵」


 俺は画面からカードを取り出すと、空へかざす。

 すると、カードが光り輝き、一体のホブ・ゴブリンが姿を現した。

 ちゃんと俺が選んだ装備を付けた状態だ。


「ゴァウ♪」


 どうやら装備を貰えたことが嬉しかったようで、雷蔵は何度も剣を振り回したり、防具を確かめている。


「久しぶり……って程じゃないが、またよろしく頼む雷蔵。あと、装備似合ってるぞ」

「……?」


 雷蔵は俺の方見て首を傾げている。


「……ゴァ! ゴ、ゴァゴォウ! ゴァウ!」


 数秒して、慌てた様子で「あ、久しぶり!」みたいなリアクションをした。

 お前、一瞬俺のこと分かんなかったな。

 いや、気持ちは分からんでもない。

 だって、今の俺、変態仮面パンツマンだもの。どう見ても社会的不審者だもの。

 ……ごめんな。


「雷蔵、今回の目的はNPCの護衛だ。確認するからちょっと待っててくれ」

「ゴァゥ」


 雷蔵は頷くと、周囲の警戒を始めた。何が起きても対応できるようにするためだろう。

 言わなくても自ずと動いてくれる。とても優秀だ。頼りになる。

 とりあえずマップを開いて、フィールドを確認してみると、三つのアイコンが点滅していた。二つは緑色、一つは青色。

 場所は前回と同じグランバルの森みたいだ。

 緑二つは俺と雷蔵だろう。

 ということは、この青色がNPCと考えるべきだな。


「場所はここからそんなに離れてないな」


 走ればすぐに見つけられるだろう。

 

「雷蔵、向こうに――」

「きゃぁああああ~~~~!」


 悲鳴が聞こえた。おそらくは女性。

 ふと、青色のアイコンが表示される方向から叫び声が聞こえた。

 マップを確認すれば、青色のすぐ側に赤色のアイコンが出現していた。

 赤――つまり敵だ。


「まずいな……急ぐぞ、雷蔵」

「ゴァウ!」


 俺と雷蔵は悲鳴の聞こえた方へと向かう。

 

「誰か……誰か助けてえ~!」

「シャァァァアア!」


 そこには蛇のモンスターに襲われている少女の姿があった。


『モンスター図鑑が更新されました』


 頭の中に響くアナウンス。

 俺は走りながら、指先で画面を操作し、図鑑を確認する。


『モンスター図鑑№4シャドースネイク

 グランバルの森に生息する下級モンスター。

 視力、聴覚は低いが、非常に優れた皮膚感覚とピット器官を有している

 体長は最大で2メートルほど

 毒は無いが、素早い動きで敵に巻き付いて噛みつく

 極稀に特殊なスキルを有する個体が生まれる

 討伐推奨LV3』

 

 シャドースネイクね。

 強さとしてはゴブリンより上だが、狂鎧大猪よりかはずっと下だ。

 落ち着いて戦えば勝てない相手ではないはず。

 

「雷蔵! 俺がアイツの注意を引く! お前は女の子を守れ!」

「ゴァゥ!」


 雷蔵は「了解だ」とばかりに頷く。

 全身を装備で固めているから、防衛にはうってつけだろう。


「こっちだ! シャドースネイク!」


 俺は小石を拾い上げると、シャドースネイクへと投げつける。


「ッ……シャァアア!」


 案の定、シャドースネイクは怒って俺の方へ標的を変える。

 声よりも石に反応したってことは、図鑑に載ってるとおり聴覚は低いみたいだ。

 蛇特有のウネウネとした動きが気持ち悪い。


「うぉぉ……、今更だけどこわっ……」


 大きな蛇って普通に怖いよね。

 狂鎧大猪の時は必死すぎて、そんな余裕無かったけど、デカい生物ってそれだけで恐怖心をあおる。


「でも今の俺なら問題ない! なぜなら開放感が違うからだ!」


 変態仮面の裸マントパンツマンだぞ! 泣きたくなるぜ!

 体が軽いし、もう何も怖くない!

 だからモンスターとの戦闘だってへっちゃら!

 だってゲームだから! こんな変態姿でも許される!

 無論、井口のバカや会社の同僚に見られたら余裕で死ねる!社会的に!


「シャァァァ!」

「しゃあしゃあ、しゃらくせえわ蛇が!」


 シャドースネイクの噛みつきを躱し、カウンターで一撃。

 表皮を切り裂き、傷を付ける。


「シャァァ……!」

「ちっ、浅かったか」


 ダメージは浅い。

 ナイフは軽くて使いやすい分、決定力には欠けるか……。

 今の一撃、雷蔵の剣なら首を落とせてただろう。

 だが重装備故に、攻撃を避けられなかった可能性もある。

 回避できたのは、俺の強みのおかげ。『紙装備』による攻撃や敏捷のアップがあったからこそ。

 どちらが正解という訳ではない。俺はこっちを選んだ。それだけのこと。


「シャァァ!」

「ッ……速いな!」


 シャドー・スネイクの動きが変わった。速度が上がったのだ。

 先ほどまでの蛇行した動きと違った直線的な動き。

 その姿はまるで一本の槍のようだ。


「でも丸見えだ!」


 そんな見え見えの攻撃、食らうわけがない。

 俺は左手に装備した丸盾で防ぐ。

 防ぐというか、弾いて受け流したって感じか。

 その瞬間、シャドースネイクが体勢を崩した。


「ジュラァ……?」

「おっ」


『パリィに成功しました』


 アナウンスが流れる。

 今のがパリィか。極低確率らしいが、成功したようだ。


「トドメだ!」


 狙うのは先ほどの傷口。

 そこに重ねるようにしてナイフを突き刺す。


「……ジャァァ」


 今度こそシャドースネイクは絶命した。


『経験値を獲得しました』


 アナウンスが流れる。


「……よしっ」


 初めてのモンスターとのまともな戦闘だったが上手く戦えて良かった。

 事前に狂鎧大猪と遭遇してたのも大きいな。アレに比べれば、たいていの魔物は緊張せずに戦える。


「……でも今までと違って倒した直後にアナウンスが流れたのは何でだ?」


 クリア条件じゃないモンスターの場合はその場でカウントされるとかかな?

 ゴブリン達とは戦ってないし、狂鎧大猪は倒した瞬間にクリアだったし。

 だとすれば、もし仮に経験値が貯まればプレイ中にレベルアップってこともあるのだろうか?


「……おや?」


 ふと、シャドースネイクの死体を見ると、傷口から何かが出てきた。

 小指の爪ほどの大きさの石だ。

 雷蔵が狂鎧大猪から抜き取った魔石に似ているな。

 とりあえずこれは回収しておこう。


『シャドースネイクの魔石を手に入れました』


 やっぱり魔石だったようだ。

 動かなくなったシャドー・スネイクの死体を見ているとあることに気づく。


「……よく見るとエラみたいな器官があるな」


 頭部のやや後ろ。首に当たる部分に魚のエラみたいな器官があった。

 陸に居るってことは肺呼吸だろ? なんの為の器官なんだ、これ?

 そういえば蛇行じゃなく、直線的な動きをするときにここを開いていたような気もするな。

 呼吸のためじゃなく、圧縮した空気を排出して、動きを加速するための器官とか?

 まあ、モンスターだもんな。普通の蛇とはそりゃ構造も違うか。


「でも、これが分かっただけでも十分だな」


 皮膚と違ってここは内面が剥き出しになっている。

 閉じている状態でも隙間が確認できた。

 最初の一撃で、ここを攻撃してれば一撃で仕留められただろう。

 狂鎧大猪の時みたいに、動きや体の構造が分かっていれば、遭遇した時に対策を取りやすいからな。


「ゴァ、ゴァウ」

「今そっちに行くよ」


 俺は雷蔵と少女の元へ向かった。


「いやぁ、助かりましたぁ~。お兄さんたちはぁ、命の恩人ですぅ~」


 ぺこぺこと少女は俺達に頭を下げる。

 なんとも間延びした口調の少女だな。というか、髪が凄いボリュームだ。

 まるで羊毛のようなモコモコヘアー。

 マップを確認するが、他に青色のアイコンは無し。

 この子が対象のNPCで間違いなさそうだ。


「おやぁ、おにーさん、どこを見てるんですかぁ~?」

「あ、いや、すまない。ちょっとよそ見を……」

「ん~~……」


 その少女は俺をじっと見つめて、ややあってぽんっと手を叩いた。


「あ~、ひょっとしておにーさんたち、『ぷれいやー』って奴ですかぁ~」

「ぷれいやー……?」


 間延びした口調で、少女は何やら気になることを口にした。



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