144.変わった現実
『ウェ~~~イ! 愛すべき国民の皆ぁ見てるぅ~? みんな大好き徳川ロドリゲスだよ~。今日は皆に大切なお知らせがあるんだ~。ついさっき考えた新しい法案なんだけどぉ、怪獣災害対策として、合衆国の徴兵制をぅ――』
深夜のニュースに映る金髪グラサンのいかにもザ・チャラ男って感じの大男。
どうやらコイツが徳川ロドリゲスらしい。
んで、日本の将軍らしい。
「……どういうことだよ?」
マジで訳が分からない。
何がどうしてこうなったんだ?
終末世界から戻って来たと思ったら、現実がおかしくなってた。
頭を抱えていると、スマホが鳴る。
画面を見れば、エイトさんだった。
「……もしもし」
『リュウ? 良かった。そっちは無事?』
「無事と言えば無事だけど……なにこれ?」
『だよね。私も今、絶賛混乱中』
エイトさんと会話をしながら、部屋の中や、他の番組を確認してゆく。
「スーツが着物になってたり、フローリングが畳になってたよ」
『こっちも似た感じかな。掲示板は確認した?』
「いや、まだ」
『じゃあ、後で見てみ……あ、いや、中級者スレは私が確認済みだから、リュウには他の掲示板を確認してほしいかな、うん』
「そうなのか? いちおう、俺も見ておいた方が――」
『いいから! そっちは大丈夫だから、見なくていいから! ね?』
「あ、うん分かった……」
なんかエイトさんの口調に妙に迫力があるけど、どうしたんだろう?
まあ、今は気にしないでおこう。
「それで、何か気になることでも書き込まれてたか?」
『うん、まずこの状況、異世界ポイントのプレイヤーは皆、私達と同じ反応を示してる』
……プレイヤーは世界がおかしくなったことに気付いてるか。
てことは、やっぱ原因は異世界ポイントか?
こんなトンデモアプリが他にもあるなんて、考えたくはないし……。
『特に驚いたのは、現実でもスキルが使えるようになってる点かな。スマホで異世界ポイントのアイコンをタップすると、ゲーム内の姿に切り替わるみたいなの』
「現実でスキルが使えるように!? それって大丈夫なのか?」
今までは小雨の『世界扉』を使わなければ、現実でスキルを使うことは出来なかった。
つまり、限られたプレイヤーしか出来なかった事を、全プレイヤーが可能になったってことだ。
そんな事になれば、世界中が大混乱になることは必至だ。
『うーん、それがどうにも現実そのものがちょっとファンタジーな世界になってるみたいなんだよね。歴史も変わってるし、元の世界には居なかった存在――討伐者や怪獣なんてのも居るみたい。だから、私達プレイヤーだけが特別な存在って訳じゃなさそう』
「……なんだよ、そりゃ」
今の世界ってそんなとんでもない事になってんのか。
マジでアニメや漫画みたいな世界じゃねーか。
「……ん? てことは、エイトさんはもう試したの?」
『うん。ちゃんと8の姿になったよ』
「なったんだ……」
ちゃんとって……。
エイトさん、現実でも8になっちまったのか。
8の姿のトップアイドル。……絵面がシュール過ぎる。
『すぐにログアウトしたけどね。ログインすると、黒い空間じゃなく、現実にあのステータス画面出てくるような仕様に代わってた。ポイント交換も可能だし、待機室への移動も可能だよ。こっちは扉じゃなくてワープみたいな感じになってたけどね』
「待機室の内部に変化は?」
『なかったね。ハッくんやミーちゃんも無事だし、狙撃兵さん達や他のメンバーも全員居た。バインダー経由なら、現実にも呼び出せるよ』
その辺は異世界ポイントの仕様のままか。
後で待機室には行かないとな。
本当は戦いが終わった後、すぐに戻る予定だったし。
(町の外観も多少変わってるな。ネットの方は……)
エイトさんとの会話を続けながら、俺はパソコンで現代の情報を集めてゆく。
元号も違うな。歴史の転換点は15世紀末から16世紀にかけて。
戦国時代に出現した怪獣と超常者の存在が、歴史を大きく変化させた。
超常者の先駆けとなった日本が世界をリードし、現代に至る。
「……戦国時代、か」
『やっぱりリュウもそこが気になるよね』
「終末世界は未来を変える力を持っていた。なら、同じように過去を変えて、現代にフィードバックするコンテンツがあっても不思議じゃない。異世界ポイントで関係性がありそうなのは――」
「『――デイリーダンジョン『戦国乱世』』」
俺とエイトさんの声が重なる。
まあ、考えられる可能性としては、それしかないよな。
『掲示板の方も、似たような推測だったよ。リュウは知り合いに『戦国乱世』に行けるプレイヤーはいる?』
「いちおう一人。トラっていうプレイヤーだ」
『……トラ。名前だけなら、よく掲示板で見るよ。かなり有名なプレイヤーだよね? よく知り合えたね?』
「色々あってね」
だってお隣さんだったし。
まあ、その辺はエイトさんには伏せておくけど。
状況が状況とはいえ、大河さんの許可なしにペラペラと内情を喋ることはしない。
というか、現実の職業エロ漫画家、異世界ポイントでの職業SMバニーメイド女王様とか、俺やエイトさん並みに色物だし。
ただ――圧倒的に強い。俺やエイトさんよりも遥かに。それだけは間違いない。
「今からそっちにも連絡してみるよ。何か進展があったら、また連絡する」
『了解。こっちも何か分かったら、連絡するよ』
俺はエイトさんとの通話を終える。
すぐに大河さんへ連絡を入れた。
「……出ないか」
部屋を出て、隣の部屋のインターフォンを鳴らす。
何度か鳴らしたが、反応は無い。
「……部屋にも居ないのか?」
仕事で缶詰めにでもなってるのだろうか?
後でログインしたら、フレンドメッセージも送っておくか。
「……念のため、家族にも連絡しておくか」
スマホの履歴を見る限りじゃ、問題ないと思うが念のためだ。
姉さんにライ~ンでメッセージを送る。
棚の書類や、名刺を見る限りじゃ、会社や入社時期も同じ。
「過去が変わったけど、給料や貯金残高は変わってないんだな……」
世界が変わっても、その辺は世知辛い。
次にスマホの『異世界ポイント』のアイコンをタップする。
『――異世界ポイントを起動します』
頭の中に響くメッセージ。
同時に、俺の姿が変化する。
浪人のような着物から、モザイクと乳首に星のシールを付けた変態の姿へと。
「……そういや、モザイク装備のままだったな」
てか、マジで現実でこの姿になったよ。
世界扉をくぐった時とは、感覚が全然違う。
エイトさんの言う通り、目の前にあの半透明の板が現れ、おなじみの項目が表示されていた。
さっそく、スキル『着替え』を使ってモザイクをアヒルパンツに変える。
「グワァァ~~……セイラァァン……グワァァ~……」
コイツ、俺が穿いたら露骨にテンション下げやがって。
このロリコン野郎が。舐めてんのか。
俺はアヒルパンツに若干イラッとしながら、久々にポイントを交換して、現金を取り出す。
確かにスキルも、ポイント交換も問題なく使用できるな。
「……紙幣の人物が変わってる」
一万円札の人物が徳川ロドリゲスになってた。
……なんか嫌だな、この札。
てか、一万って事は、物価や貨幣価値も同じなのか。
怪獣とかが実在する世界なら、経済や流通も色々と変わってそうなもんだけど……。
雑で矛盾を孕んだ改変……本当に大丈夫なのか、この世界?
まあ、その辺を考えるのは後でいいか。
「……大河さんはログインしてないか」
とりあえず、メッセージだけは送っておくか。
それじゃあ、待機室に行くか。皆を待たせちまってるし。
「――キャアアアアアアアアアアアアア!」
ふと、外から女性の悲鳴が聞こえた。
窓を開けて、外を見れば、そこには逃げ惑う女性と、巨大な蛇に無数の人の腕が生えた化け物の姿が見えた。
「……あれが怪獣ってやつか」
初めて見たが、終末世界にでも出てきそうな見た目をしているな。
というか、こんな市街地にも普通に現れるのかよ。
ネットの情報だと、怪獣が出現する場所は限られているって話じゃなかったのか?
ネットの情報がデマだったのか、それとも何か例外があるのか……。
「ギィィイイシャアアアアアアアアアアアア!」
「イヤアアアアアアア! 誰か……誰か助けてええええええええ!」
怪獣は無数の手を、ムカデのように動かしながら、女性に襲い掛かろうとしている。
女性の方は顔は暗くて見えないが、大正ロマンって感じの服装をしている。
ここは現実なのに、マジで並行世界に来たような気分だな。
「討伐者ってのは、近くに居ないのか?」
どうする? スキルやカードが使用できるとはいえ、怪獣の力は未知数だ。
俺が迂闊に動くよりも、助けを呼んだ方が良いのではないか?
そもそも、こんな見た目で外に出るとか、完全に変質者じゃないか。
「……なんて、考える自分が嫌になるな」
エイトさんやノンノンデニッシュさんなら、きっと迷わず動いただろう。
自分の見た目うんぬんよりも、助けられる命を優先する。
あの二人は、そういう人達だ。
俺は窓から身を乗り出すと、一気に飛ぶ。
そのまま二段飛びを発動し、空中で加速。女性と怪獣の間に割り込むように着地する。
「!? ギィイイイシャアアアアアアアアア!」
突然の闖入者に、怪獣の動きが一旦止まるが、すぐに俺目掛けて襲い掛かってくる。
「ソウルイーター!」
女性に襲い掛かろうとしていた、怪獣目掛けて一閃。
一気に腕を十本くらい斬り落とす。
ブッシャァァァァ! と、青い血が周囲に飛び散る。
「ギャアァァアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
怪獣が悲鳴を上げる。
……斬った感覚や、気配からして、強さはマザー・スネイクと同程度か?
しかしモンスター図鑑は更新されない。
この辺は、仕様が違うって事か?
ともかく、マザー・スネイクと同等――LV20程度なら、問題なく倒せる。
「お怪我はありませんか?」
「え、あっ、はい。……あれ?」
俺は後ろを振り向かずに、女性に声を掛ける。
振り向いちゃいけない。
今は深夜、視界は暗い。
今ならまだギリギリ、マントで俺の姿は、女性に見えていないはずだ。
……それにしても、なんかこの声、どっかで聞いたことがあるような……?
「なら、早く逃げて下さい。ここは俺が引き受けます」
「シャアアアアアアアアアアアアアアアア!」
怪獣が再び動き出す。
だが、腕を一気に斬られた影響か、動きがかなり鈍くなってる。
「隙だらけだ」
『不快』を発動。
怪獣の動きが一気に鈍る、
運よく、『麻痺』が当たったようだ。
俺は一気に間合いを詰めると、ソウルイーターで怪獣の首を斬り落とす。
『経験値を獲得しました』
「おっ」
頭の中に響くアナウンス。
モンスター同様、怪獣を倒しても経験値は手に入るのか。
怪獣とモンスターって何が違うんだ?
「あ、あの! 助けて頂きありがとうございます」
後ろから、先ほどの女性の声が聞こえる。
まだ居たのか。
てか、この声……まずいな。早くこの場を立ち去らないと。
幸い、まだ後ろ姿しか見せていないし。
「れ、礼は結構です。それじゃあ――」
「ま、待ってください! あの……先輩、ですよね?」
「……」
くそ、向こうも気付きやがったか。
俺は心の中で舌打ちする。
そう、俺が助けた女性は、井口だったのだ。
なんか聞き覚えがある声だなって思ってたのだが、さっき確信した。
おそらく向こうも、声で俺だと気付いたのだろう。
普段は鈍い癖に、なんでこういう時だけ鋭いんだよ。
「ひ、人違いですよ?」
「またまた、何言ってんですか先輩。というか、先輩、いつの間に討伐者になったんですか? ウチの会社、副業禁止なのに~。いーけないんだ、いけないんだ。えへへ、先輩の秘密、一個ゲットだ~♪」
うっっぜぇ。
そうだ。ここ最近、あっちの井口ばっかと話していたせいで忘れていたけど、コイツってこういう性格だったわ。
助けられた相手が俺だと知った途端に、馴れ馴れしい態度取りやがって。
もういいや。説明も面倒だし、さっさと逃げて――。
「あ~~先輩、見つけましたよ! 待機室に来ないと思ったら、どうして現実でそんな恰好してるんですか?」
「りゅーぅ、みっけ。みんな、しんぱいしてたんだよー」
と、思ってたら予想外の闖入者がやってきた。
井口とセイランだ。
「お、お前ら、こっちに来るな!」
「どうしたんですか、そんなに慌てて。とりあえず無事みたいで良かったです。何かあったのかと思って心配したんです……よ?」
「え?」
現実の井口と、未来の井口の視線が合う。
「え、な、なんで私が……もう一人?」
「………やべ」
未来の井口はいち早く状況を理解したのだろう。
さーっと未来の井口の顔が青くなる。
……どうしよう、この状況?
「りゅ~~ぅ~~♪ えへへ……」
ぎゅーっとコアラみたいに抱き着いてくるセイランを引き剥がす余裕もないまま、俺は途方に暮れるのだった。




