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13.従属化


「や、やったぁ……」


 クリアのアナウンスを聞いて、思わずその場にへたり込む。

 やばかった。まさかEXシナリオの難易度がここまで高いと思わなかった。


「……ってあれ? なんで戻らないんだ?」


 クリアしたら黒い空間に戻るんじゃないのか?

 それとも何かまだ残ってるとか?


「ギギィ……」


 見ればゴブリンがじっと狂鎧大猪の死体を見ている。

 どうしたんだろうか?


「ギィ、ギギィ」

「な、なんだ? パンツ引っ張るなって」


 ゴブリンはぐいぐいと俺のパンツを引っ張ってくる。

 おい、止めろ。これ無くなったらマジで俺、全裸なんだぞ。


「ギ、ギィ」


 ゴブリンは狂鎧大猪の前足の付け根、その少し上の辺りを指さす。

 

「ギィー」


 手持ちのナイフでそこを斬ろうとするが、当然鎧と分厚い皮膚に阻まれて上手くいかない。


「そこに何かあるのか? よし、ちょっとどいてろ」


 鎧を触って確認してみると、鎧同士が重なり合ってる隙間があった。

 そこに石を挟んで隙間を大きく広げる。


「……この鎧、皮膚にくっついてるのか」


 いや、どちらかと言えば、この鎧も皮膚の一部なんだろうな。

 アルマジロの皮骨みたいなもんか。


「でも繋がった皮膚は柔らかいみたいだな」


 触ると柔らかい。流石に鎧の内側までは硬くなかったようだ。

 それでもやはりモンスターと言うべきか皮も分厚い。

 慎重に切れ込みを入れていかないとナイフの方が折れちまう。


「ぬぐぐ、かったいな……」


 何度も何度も重ねるように切れ込みを入れると、プツンッと何かを切った感覚があった。

 次の瞬間、放水のように血があふれ出す。


「うぉあ!?」


 血のシャワーはやがて収まると、最後にコロンと親指ほどの石ころが出てきた。


「ギギィ♪」


 それを見て、ゴブリンは嬉しそうな声を上げる。

 ピロンと、頭の中に響く効果音。


『狂鎧大猪の魔石を手に入れました』


「魔石……そういうのもあるのか」


 でも何の役に立つんだろうか?

 ゲームやラノベだと武器やアイテムを作る定番素材だよな。

 じぃっとゴブリンが見ている。


「欲しいのか?」

「……ギィ」

「んじゃ、これはお前にやるよ。ほれ」

「……! ギギィ?」


 俺が魔石を放り投げると。ゴブリンは慌ててキャッチする。

 いいの? とゴブリンは驚いた表情を浮かべていた。


「……お前の仲間を二人、死なせちゃったからな。お詫びにはならないかもしれないが、受け取ってくれ」

「ギィ! ギィギィイイ♪」


 ゴブリンは嬉しそうに何度も頷くと、魔石を口に放り込んで食べた。

 

「え、食べるのかそれ?」


 俺がびっくりしていると、更に驚くべきことが起きた。

 魔石を食べたゴブリンが光り出したのだ。

 やがて光が収まると、そこには一回り程も大きくなったゴブリンの姿があった。

 顔も精悍になり、肉体も筋肉質になっている。


『モンスター図鑑が更新されました』


『モンスター図鑑№3 ホブ・ゴブリン

 アルタナのどこにでも生息する下級モンスター

 ゴブリンの上位種であり、剣術や槍術、個体によっては魔法も使える

 極稀にホブ・ゴブリンから更に進化を遂げる個体も居る

 討伐推奨LVは5』


 おぉー、ホブ・ゴブリンか。

 強いモンスターの魔石を食べれば、そのモンスターは力が上がるってことか。

 

「ギゴァ、ゴァゴァ」


 ゴブリン改め、ホブ・ゴブリンは俺の前で片膝をついて、恭しく頭を垂れた。


『ホブ・ゴブリンが従属カード化を希望しています』

従属カード化しますか?』


 カード化? そういうのもあるのか?

 いったいどんなシステムなんだ?


『従属化は傭兵機能の上位派生になります

 傭兵は各ステージ一度だけ、対価を支払っての雇用となりますが

 従属化は対象が死なない限り、何度でも無償で雇用することが出来ます

 カードはステータス画面に専用のバインダーが用意され、そこに収納されます

 またカードには名前を付けることも可能です』


 おぉ、なんか普通に答えてくれた。

 傭兵の上位システムか。


「俺としては願ったり叶ったりだけど、いいのか?」

「ウガゥ」


 ホブ・ゴブリンは迷うことなく頷く。

 何がそんなに気に入られたのか分からないが、俺としてもメリットしかないのでありがたく受け入れるとしよう。


「分かった。ちなみに名前を付けることも出来るらしいけど、お前、名前ってあるの?」

「……ゴァゥ」


 ホブ・ゴブリンは首を横に振る。


「ないのか。じゃあ、俺が付けても良い?」

「ゴァゥ」


 ホブ・ゴブリンは「お願いします」と頷く。


「じゃあ、ゴブ太郎?」

「……」


 不満そうだった。


「ゴブメ太夫」

「……」

「ゴブリーナ」

「……」


 駄目か。

 なんだよ、贅沢な奴だな。

 というか、今一瞬苛立ちのあまりホブ・ゴブリンから電気みたいなのが出てなかったか?

 個体によっては魔法も使えるって言ってたし、ひょっとしてそれか?


「電気……電気か。静電気びりびり太郎……いや絶対駄目だな。じゃあ雷蔵ライゾウはどうだ?」

「……!」


 ホブ・ゴブリンは嬉しそうに頷く。

「そういうのが欲しかったんだよ」と言わんばかりの笑顔。

 

「じゃあ、これからよろしくな、雷蔵」

「ゴァォゥ♪」


 ボゥンッと、ホブ・ゴブリン改め雷蔵の体が煙に包まれると、そこには一枚のカードがあった。


『名前 雷蔵 LV5

 種族 ホブ・ゴブリン』


 表記は名前とレベル、それに種族名のみ。

 ステータスとかの記載は無いのか。

 カードを手に取った瞬間、俺の体が白い光に包まれる。


「これは……イベントが終わったってことか?」


 クリアしてもすぐに帰還しなかったのはこれが理由だったのだろう。

 光が収まると、俺はあの黒い空間に戻っていた。

 はぁ……疲れた。でもとても達成感があった。



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トラさんか隣人でしたか。
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