120.迷宮扉
井口から得た情報については、エイトさんにもフレンドメッセージで送っておいた。
情報共有は大事。
ログインはしていなかったから、後で返事は来るだろう。
(そういえば、エイトさんが狙撃兵たちを欲しいって言ってた理由はなんなんだろう?)
元自衛隊って話だし、ひょっとして何らかの伝手でもあるのか?
アイドルって人脈広いのかね。
「井口は狙撃兵になった人たちについては何か知ってるか?」
「すいません。そちらについては何も。ただ……色々と会話をしたはずなんですけど、覚えてないんです」
「……無理やりカード化された影響か」
「おそらくは」
記憶の混濁……女神の雫で治せるか?
いや、今の井口はアンデッド系のモンスターだ。
女神の雫は劇薬になる可能性が高い。
アンデッド系にも効くアイテムやスキルでもあればいいんだけどな。
「ところで先輩、今更確認で申し訳ないんですけど……」
「なんだ?」
「ここってどこなんです? 日本にこんな場所、ありましたっけ?」
「あ……」
そういや、待機室についてはまだ説明してなかったか。
というか、それを説明するには『異世界ポイント』についても説明しなきゃいけないんだよな。
井口が『異世界ポイント』について認識できてないのは、終末世界で確認済みだし……。
「えーっと、どう説明したらいいか……。異世界ポイントが説明出来れば楽なんだけど……」
「……異世界ポイント?」
井口は俺の言葉をオウム返しに繰り返す。
え? 認識できてる?
「井口、お前、俺が今、なんて言ったか分かったのか? 異世界ポイントだぞ? 異世界ポイント」
「はい。そう何度も繰り返さなくても聞こえてますよ。異世界ポイント、ですよね?」
「……どういうことだ?」
どうして認識できてるんだ?
考えられるのは、クラウン・レディオの支配から抜け出したから?
もしくは、終末世界じゃないから、一時的に認識できてる?
どちらにしても、これは好都合だ。ありがたい。
「えっと、実はな――」
俺は井口に異世界ポイントや、これまでの出来事について話した。
話している最中、隣でセイランや夜空も「おぉー」と反応してきた。
……そういや、コイツらにも『異世界ポイント』そのものについては、ちゃんと話してなかったか。
そういう『設定』だと思って、特に説明もしてなかったもんな。
「……なるほど、それで先輩、あの頃、妙によそよそしかったんですね。私が食事に誘っても、全然つれないですし」
「いや、それは普通に行きたくなかっただけだぞ?」
「あうっ!? せ、先輩、そういうことを面と向かって言うのは……」
「だって、あの頃のお前に好かれる要素があったと思うか?」
「ぐぬぬ……何も言い返せない」
井口は悔しそうに震える。
「りゅーぅ、あんまりそういうこというの、よくないよ?」
「ウッキィ……」
するとセイランと夜空が呆れるような眼差しをこちらに向けてくる。
な、なんだお前ら、どっちの味方なんだよ。
しかし二人にじーっと見つめられると、なんか罪悪感が湧いてくる。
「……まあ、その、今はそこまで嫌っちゃいねーよ。普通だ、普通」
「オッケー了解です。これからガンガン上げていきます」
「期待してるよ」
実際、井口は戦力としてはかなり強い。
スキル的には、夜空と嘆きの亡霊を足して二で割ったような感じだ。
夜空ほどの火力や突破力はないが、召喚とダメージ転嫁で、持久戦においてはかなり優れている。
「まあ、ストーリーやクエストを進めていけば、元に戻せる方法も見つかるだろ。それまでは色々大変だろうが、頑張ってくれよ」
「え?」
井口は一瞬、何を言われたのか分からないようにぽかんとした表情を浮かべる。
「もど……え? 私、戻れるんですか?」
「はっきりと断言はできない。でも人からモンスターに変異したなら、同じようにモンスターを人に戻す方法だってあるだろ」
よくあるのが、その変異させたモンスターを倒す、とか。
そうでなくても、女神の雫のようなとんでもないアイテムだってあるのだ。
変異した人を元に戻せるアイテムなり、スキルだってきっとあるだろう。
「……そんなこと、考えてもみなかったです」
「なんでだよ。普通、考えるだろ。……あ、いや、考えてる余裕もなかったか。すまん、無神経だった」
「謝らないでくださいよ。そっか……そうですよね。戻る方法……あるなら探したいです。それにもしそんな方法があれば、他の皆だって……。そうよ、私、なんで勝手に諦めてたんだろ」
井口が俺の方を見る。
「やっぱり先輩は先輩ですね。今はちょっと、その……変態みたいな格好してますけど、それ込みで、全然ありです」
「うるせぇ、黙れっ」
見た目については触れんじゃねーよ。
「あははっ」
笑う井口の声には、職場で話していた時のような明るさが戻っていた。
表情も、どこか柔らかくなった気がする。
「それじゃあ改めて、これからよろしくお願いします、先輩」
「ああ、よろしくな」
「よろしくー」
「ウッキー」
「ウガォゥ」
雷蔵たちも井口を歓迎してるみたいだし、すぐに馴染めるだろう。
「あの、それで先輩、次に終末世界に行くのって……?」
「まだ先だ。コロニーや家族が気になるだろうが、準備は整えてからだ」
「……分かりました」
井口には悪いが、終末世界はおいそれと行けるような場所じゃないからな。
キャンプ場のコロニーはおそらくもう壊滅しているだろう。
だが山奥にある別のコロニーに向かうにも、嘆きの白や釈迦蜘蛛のテリトリーを通らなきゃいけない。
(……危険度で言えば、クラウン・レディオよりやべぇんだよな、あいつら)
現状、ゲームで言うところの『倒せない敵』みたいなもんだしな。
行く気がないとは言わないが、相応の準備は必要だ。
となれば、戦力アップは必須。
「じゃあ次はセイランと小雨だな」
「ん?」
『ぼー?』
話に飽きて、ジュースを飲んでるセイランと、鯉みたいに餌をパクついてる小雨を見つめる。
新しく手に入れた終末の楽譜について試してみるか。
終末の楽譜はエイトさんから貰ったのも含めて三枚。
E、F、Gの連番だ。
前回がCとDの連番だったから、これならセイランも演奏できる可能性が高い。
ただ不安なのはセイランの体調だな。
前回も演奏後はかなり消耗していたし。
「回復アイテムはたっぷり用意したし、聖歌猿も回復の準備させて、後は――」
「りゅーぅ、そんなしんぱいしなくても、だいじょうぶだよ~!」
セイランはちょっと不機嫌そうに口をとがらせる。
『……過保護め』
ハスキー……じゃなかった屍狼の頭の上に鎮座する雪だるまがぽつりと呟く。
だって心配じゃん。
変態は小さい女の子が可愛そうな目に合うのは大嫌いなんです。
「だいじょうぶだよ! あたしをしんじて!」
『ぼー』
セイランと共に、何故か小雨も胸を張る。
「分かった。でも気を付けろよ。異変を感じたらすぐに知らせてくれ」
「うんっ」
俺はセイランに終末の楽譜を渡す。
セイランは前回同様、しばらくの間、じっと楽譜を見つめる。
やがてセイランは両手を広げると、大きく息を吸い込んだ。
「ラー……あー……υжΔ¶ИИ~♪ ΔυБ、щЛщБξ~♪」
唄が始まった。
あの時のように、セイランの瞳の色が変わり、青く輝き始める。
(やっぱり終末の楽譜を使用するには複数必要なのか)
それもおそらくは連番で。
「~~~~~~~~~~~♪」
その光景に、井口は絶句していた。
雷蔵たちも、セイランの美しい歌声に聞き入っている。
しばらくして唄が終わる。
「……ふぅ」
「おっと」
前回同様、唄い終えると、セイランは気を失ってしまった。
すぐに聖歌猿が『癒しの歌』を発動させる。
「……お疲れ様、セイラン」
『終末の楽譜EとFとGが演奏されました』
『終末の力が一部解放されます』
『小雨のスキル『迷宮扉』のロックが解除されました』
『セイランの『色魔法』のロックが解除されました』
アナウンスが頭の中に流れる。
「今度は『迷宮扉』も使用可能になったか……」
名前からして、ある程度予想は出来るが、それでも、まずは試してみないことには始まらないな。
セイランの『色魔法』も気になるが、まずはこっちだ。
「小雨、さっそく『迷宮扉』を使ってくれ」
『ぼぼぅー♪』
新しスキルを手に入れて、機嫌が良さそうだ。
小雨がクルクルと回ると、目の前に『世界扉』とは形の違う新たな扉が出現した。
それも一枚ではなく、三枚。
扉の形も違い、それぞれの上にはアルタナで見たような文字が浮かんでいる。
(読めないけど、意味は分かるな……)
それぞれの扉の上に表示されている文字は『終末世界』、『戦国乱世』、そして――『廻転輪廻』。
終末世界は俺たちが知っているあの世界で間違いないだろう。
戦国乱世は、おそらくは大河さんが進めているデイリーダンジョン。
「迷宮扉ってのは、デイリーダンジョンを自由に行き来できる扉ってことか……」
てことは、デイリーダンジョンは全部で三つあるってことか。
戦国乱世の方はともかく、こっちの『廻転輪廻』ってのは、どんな世界なんだ?
名前だけじゃ想像ができないな。
扉もめっちゃ禍々しいし、ヤバい予感がビンビンする。
「あ……」
「どうした、井口?」
井口は三枚目の扉『廻転輪廻』をじっと見つめる。
「……似てる」
「似てる?」
「この扉……あの時、世界中に現れた扉にそっくりです」
「……なんだって?」
井口はそっと『廻転輪廻』の扉に触れる。
黒く、禍々しく、そしてどこか神聖さすら感じる三枚目の扉。
(これが現実世界に終末をもたらした扉だと……?)
じゃあ、やっぱり終末世界はデイリーダンジョンを悪用したプレイヤーの仕業ってことか?
いや、それよりもだ。
その扉がこうして目の前にあるんだ。
もしかしたら、この扉の向こうに、終末を止めるヒントがあるかもしれない。
(……開けてみるか?)
ヤバかったらすぐに扉を閉めればいい。
幸いにも、セイラン以外は皆、すぐに動ける状態だ。
何かあってもすぐに対応できる。
俺は雷蔵たちに目で合図を送る。
雷蔵たちも無言で頷いてくれた。
「……開けるぞ」
俺は『廻転輪廻』の扉のドアノブを捻る。
扉が開き、向こう側の景色が視界に映りこむ。
「なんだ……ここは? どういうことだ?」
そこに広がっていた光景。
そのあまりの不可解さに、俺はそう呟くしかなかった。
読んでいただきありがとうございます
これにて第四章は終わりです
なんか第三章と同じような終わり方になってしまってごめんなさい
でもここで区切らないと、四章が長くなりすぎるのでいったんここで区切ります
ということで、大河さんの本格的な参戦は五章に持ち越し
そして次の章で、ひとまず大きな区切りが一つ着く予定です
面白かった、続きが気になる、更新頑張れと思って頂けたら、ブクマやレビュー、ぽちっと☆で評価したり、感想を頂けると嬉しいです
引き続きよろしくお願いします




