113.デイリーダンジョン 共闘戦 その2
狙撃兵を倒し、無限リスキル状態からエイトさんを解放する。
エイトさんは一体だけ倒せばいいといったが、実際には手順はもっと複雑だ。
何故なら駅前中央広場を囲むように配置されている三体の狙撃兵は、それぞれが互いの射程圏内に収まっている。
仮に囮を使って空撃ちさせて一体に接近したとしても、残りの二体がそれを感知し、狙撃してくるのだ。
しかも遮蔽物があろうが、フレンドリーファイアも関係なしにぶっ放してくる。
だから狙撃兵に接近するには、他の二体の注意も引く必要がある。
(エイトさんの救出が最優先だが、出来れば狙撃兵も全て片付けておきたい……)
リポップした後の対応策も用意しているが、復活するまでの時間が不明な以上、最初の奇襲で確実に仕留めておきたい。
なにより狙撃兵を残した状態で、魔導士と戦いは避けたい。
(その為には、まずは下ごしらえだ)
嘆きの亡霊に大量の下級幽霊を召喚してもらう。
どれだけ準備に時間をかけても、警戒範囲に入らない限り、奴らは動かない。
その点を大いに利用させてもらおう。
狙撃兵を仕留めるアタッカーは俺と雷蔵、それと屍狼だ。
それぞれ、嘆きの亡霊が召喚した大量の下級幽霊を引き連れて、配置についてもらう。
攻撃準備が整ったら、狼煙を上げて合図。
まずは下級幽霊を向かわせる。
『ォァゥ!』
警戒範囲に入った敵に対し、狙撃兵は即座に反応し、射撃を行った。
銃弾を受けて、下級幽霊は消滅する。
物理攻撃が効かない幽霊相手でも、狙撃兵の射撃は有効なようだ。
だがこれで15秒のCTが発生した。
「行くぞ!」
俺はソウルイーター『魂葬刃断』を。
雷蔵は『紫電一閃』を。
屍狼は『高速ワンワンドリル』を。
各々、狙撃兵に接近し攻撃を仕掛ける。
(移動ルートは問題ない。このまま接近できる!)
駅前のビル群は多少の高低差はあれど、基本的にどれも似たような高さだ。
パルクールの要領でビルを渡り、狙撃兵へと接近する。
道路なんかの大きな幅は二段飛びを使えば問題なく移動可能。
雷蔵には呪い人形がサポートについているし、屍狼は壁や空中も走れるから問題ない。
『! ギギィ!』
狙撃兵もこちらに気付くがもう遅い。
既にこちらの間合いだ。
「おらぁ!」
『ギァァア……』
狙撃兵は銃でガードしようとしたが、ソウルイーターの『魂葬刃断』は魂だけを斬る斬撃だ。
ガードは意味をなさない。
『ァ……ァァァアアアアアア!?』
魂への直接攻撃は、狙撃兵にとって効果抜群だったようだ。
モンスター図鑑の説明から、アンデッド系のモンスターだと推測していたが、どうやらその通りらしいな。
『経験値を獲得しました』
経験値獲得のアナウンスが流れる。
レベルが高いわりに一撃で倒せたか。
エイトさんの言う通り、遠距離攻撃に特化したモンスターという事なのだろう。
「……雷蔵と屍狼も無事に倒せたようだな」
見れば、残り二か所からも追加の狼煙が上がっていた。
これで狙撃兵は全滅。
すぐにエイトさんにメッセージを送る。
「嘆きの亡霊と下級幽霊たちは作戦通りここに残ってくれ。狙撃兵が復活したら合図を頼む」
『……■■■■』
嘆きの亡霊は了解と頷く。
嘆きの亡霊も以前よりも下級幽霊の召喚出来る数も多くなり、CTも短くなった。
復活した狙撃兵への時間稼ぎは、大量に召喚した下級幽霊たちに任せておけばいい。
狙撃兵は警戒範囲の敵、特に自分に近い者、攻撃しようとするものを優先的に攻撃するからな。
あらかじめ狙撃兵の周囲に大量に囮を用意しておけば、復活後の対策としては十分だ。
残りの二か所にも同じ対策を施してる。
下を見れば、ちょうどエイトさんがログインしたみたいだ。
二段飛びを使いながら、地上へ降りる。
「リュウ! ありがとう、助かったよ」
「どういたしまして」
俺とエイトさんはパンッと手を合わせる。
「狙撃兵は三体とも倒した。あとは魔導士だけだ」
「流石だね。じゃあ、事前の打ち合わせ通りに」
「ああ」
エイトさんと共に駅前の広場へと向かう。
途中で雷蔵と合流し、それから少し遅れて屍狼もやってきた。
セイランや小雨、夜空たちも呼び出す。
「うぉ、ほんとに8だ!」
「初めましてだね、セイランちゃん。私の名前は3+3=8だ。よろしくね」
「う、うん……」
事前に話はしていたが、やはり生で見るエイトさんに、セイランは動揺を隠しきれていないようだ。
そりゃそうだよね。だって8だもの。
「ミーちゃん、ハッくん、皆、出てきてくれ!」
同じようにエイトさんもカードたちを呼び出す。
数字の「3」、「4」、「5」、八分音符、四分音符、骸骨騎士に似たアンデッドが二体、ミイラが一体に、骨の馬が一体。
これがエイトさんの仲間か。
……数字や音符以外にもちゃんとしたモンスターが居るんだな。
いや、事前に聞いてはいたけど、なんか実際に見て安心した。
スタート地点がパルムール王墓だったからか、やはりメインはアンデッド系のようだ。
「ハッくんとシブっちがウチのバフ役だ」
八分音符と四分音符が何やら音を奏でると、エイトさんたちの体が光る。
聖歌猿や音楽猿と同じようなスキルか。
こちらも雲母たちにバフを掛けてもらい戦闘準備を整える。
(……負ける気がしないな)
慢心も油断もするつもりはないが、それでも確固たる確信があった。
このメンバーならば、負けることはないと。
確かに終末の魔導士は討伐推奨LV60の強敵だ。
しかしそのレベル差を覆せるほどの戦力が、こちらには揃っている。
「じゃあ、行くか」
「ああ」
周囲を警戒しながら駅前の広場――終末の魔導士の警戒範囲へと足を踏み入れる。
すると、壊れているはずの街灯に青白い炎が灯り、周囲を照らしてゆく。
俺たちが足を踏み入れた場所から徐々に奥へと。
それらが全て灯ると、駅ビルの扉が開き、黒いボロボロのローブに身を包んだモンスターが姿を現した。
尖ったフードを目深に被り、痩せこけた手には体と同じほどの長さのねじれた木の杖を持ち、ローブの隙間から見える腰には宝石が連なった数珠や、卒塔婆のような細い板をぶら下げている。
いかにも魔導士といった外見だ。
『モンスター図鑑が更新しました』
『モンスター図鑑№21 終末の魔導士
終末の力によって変異した存在
救世の鍵を狙う輩を決して許さない
強力な魔法、召喚、呪いのスキルを使いこなす
強い未練を残したその魂は、ずっと終末世界に囚われている
討伐推奨LV60』
救世の鍵を狙う輩、ね。
クリア条件が門番を撃破し、救世の鍵を入手するだった。
確かにコイツが門番と見ていいだろう。
「……ァァアア」
フードの下に僅かに見える口元からはうめき声が漏れている。
肌も病的なほどに青白い。
狙撃兵と同じく、コイツもアンデッド系のモンスターで間違いないだろう。
「来るよ!」
「ああ」
「……ァァァァアアアアアアアアアアアア!」
終末の魔導士が杖を掲げる。
次の瞬間、奴の周囲と広場のあちこちに高位屍鬼が出現する。
召喚だからか、モンスター図鑑は更新されないが、エイトさんの見立てではこいつらの強さはLV30~40前後。
しかも個体によって武装や使うスキルが異なっているらしい。
(確かに剣や盾を装備した個体、素手、杖とバラバラだな)
次の召喚までは60秒。
その間に、こいつらを全て片付けなければ、魔導士にダメージは与えられない。
(――全く問題ない!)
俺はアヒルパンツにソウルイーターを咥えさせて、武装をファントムバレットに変更。
アンデッド系のモンスター相手なら、やはりコイツが一番だ。
雑魚相手に、ソウルイーターのストックを消費するのは惜しいからな。
「ウガォォオオオ!」
「ウッキィイイイイイ!」
雷蔵や夜空たちも、次々と強力なスキルを駆使して、高位屍鬼を蹴散らしてゆく。
「やるね! 私たちも負けてられないな!」
エイトさんも走り出す。
同時に、エイトさんの周囲に数字の「1」が現れた。
「全部「1」にな~れ!」
エイトさんの掛け声と共に、数字の1が弾丸のように放たれ、高位屍鬼へと命中する。
「……ォァオ?」
その瞬間、高位屍鬼の動きが急激に鈍くなった。
「おりゃぁ!」
すかさずエイトさんが殴ると、高位屍鬼は豆腐のようにあっさりと飛び散った。
(……凄いな。あれがエイトさんのスキル『オール1』か)
エイトさんは『数値変化』という、対象のステータスの数値を一つ、1~9の数値に変化させられる効果を持つスキルを持っていた。
あれはその上位版『オール1』だ。
1秒間、相手の全ステータスを1に変えてしまう恐るべきスキル。
たった1秒と侮るなかれ。戦闘における効果は絶大だ。
一体ずつしか対象には出来ず、射程も短いらしいが、それを補って余りある有用性がある。
しかも俺の『脱衣』と同じくデバフ扱いではない特殊スキルなので無効化も出来ない。
とはいえ、流石にLV差次第では抵抗されるらしいけど。
(――強い)
見た目は色物でしかないが、その強さは紛れもなく本物。
エイトさんは次々と高位屍鬼をなぎ倒してゆく。
仮に無限リスキル状態にさえ陥らなければ、エイトさんならば、共闘などせずとも、二回目でクリア出来ただろう。
そう思えるほど確信があった。
「これで最後!」
二十体も居た高位屍鬼はものの数十秒で全滅した。
倒した際に発生するデバフも呪いも、称号『艱難辛苦を超えし者』のデバフ無効によって通用しない。
エイトさんも、今回はデバフ対策を十分に行っていたから大丈夫だ。
残るは終末の魔導士だけ。
「ッ……」
ここまで圧倒されるとは思わなかったのか、魔導士から動揺する気配が伝わってくる。
苦し紛れに魔法スキルを放ってくるが、『マジックミラー』や、エイトさんの『まほうの3』によって防がれる。ちなみに『まほうの3』は3秒間、魔法スキルを数字の3に変えてしまうスキルだ。地面に落ちた3を拾って遠くに投げると、その先で再び炎になった。すげぇ。
「終わりだ!」
「食らえ!」
エイトさんが『オール1』を魔導士に放つ。
それに合わせるように、俺が『魂葬刃断』で止めを刺す。
それで終わりになる――はずだった。
だが攻撃を当てる寸前、風圧によって魔導士のフードが取れて、その素顔が露わになる。
「…………え?」
その素顔を見た瞬間、俺は反射的に手を止めてしまった。
何故なら、そのフードの下にあった素顔が俺のよく知っている人物だったから。
「なんで……どういうことだ?」
『……ァ、アァ……ア』
痩せこけ、髪もボサボサ、虚ろな目の下には酷いクマが浮かんでいた。
でも、見間違えるはずがない。
だって毎日、職場で顔を合わせていたから。
いつもいつも苦労させられていた。
でもここ最近はようやくまともに仕事が出来るようになってきたと思っていた。
そんなお前が……どうしてここに居る?
「なんで……どうしてお前がここに居るんだ――井口!」
終末の魔導士の素顔。
それは紛れもなく、俺の職場の後輩――井口綾香本人だった。




