105.EXステージ6 その3
フェザー・フェンリル → ウェザー・フェンリルに修正しました。
フェザーだと羽ですね……。ごめんなさい
グランバルの森にある隠しダンジョン。
そこに巣くうウェザー・フェンリルはたいそうおかんむりであった。
……俺たちがダンジョンを開けっぱなしにして帰ったせいで。
『数百年ぶりの挑戦者に、俺様も胸を躍らせていたのだぞ? バルカディアの小僧がようやく約束を果たしたのだと思って、ワクワクして待っていればこの体たらく! 最近の人間どもは冒険のロマンもマナーも知らんのか! 嘆かわしいにも程がある!』
「は、はぁ……すいません」
なんでモンスターにこんな人間臭い説教をされなければいけないのだろう。
ウェザー・フェンリルの声は雷蔵たちにも聞こえてるみたいで、皆ぽかーんとしてる。
てか、ちょっと今気になることを言ってなかったか?
「あの……バルカディアの小僧って?」
『バルカディアの小僧は、バルカディアの小僧に決まっているだろうが! あの耳が長くて銀髪のひょろっとしたガキだ! お前ら人間がエルフと呼んで敵対していただろう!』
それは魔女さんと関係のあったエルフのことだろうか?
いや、魔女さんがバルカディアって呼んでいたエルフと出会ったのは千年以上前だったし、そのエルフは死んだと日誌にはっきりと書いてあった。
てことは、その子孫か。
「どんな約束をしたんだ?」
『何故、俺様が貴様にそんなことを話さねばならぬ? 身の程を弁えろ人間風情が!』
ゴゥッ! とウェザー・フェンリルから激しい冷気が発せられる。
「そ、そうだよな……すまん」
『……アイツはこのダンジョンにやって来た最後の挑戦者だったのだ』
話すんかい!
思わずずっこけそうになった。
ウェザー・フェンリルは、身を伏せると、どこか遠くを見つめる。
『確かアイツの正式な名はヒョウラン・バルカディアとか言ったか。たった一人で俺様が配置した階層守護者共を全て倒し、最下層にある俺様の場所までたどり着いたのだ。あの時ほど、心が躍ったことはない。実に素晴らしい戦いであった』
ヒョウラン、ね……。名前の響きがセイランに似ているな。
てか、このウェザー・フェンリル、このダンジョンの主だったのかよ。
『十日に及ぶ激闘の末、俺様が勝利した。今わの際に奴は言ったのだ。『いずれ貴方を倒す者が現れる。それは世界を渡る旅人。もし彼の者が貴方を倒せたら、共に終末を止める力となってほしい』――とな』
「世界を渡る旅人……」
世界を渡る旅人……それはまさか『プレイヤー』のことだろうか?
それに終末を止める力って、『終末世界』のことか?
ヒョウランさんはプレイヤーの存在を知っていたのか?
もしくは当時からプレイヤーが居たのか?
気になることが多いな。
『どうせ俺様は攻略されるまでこのダンジョンから出れんからな。アイツの言葉を信じて何百年も待ち続けた。そして、ようやく扉が開いたと思ったら、これだ! 貴様らに分かるか? 登りに登った梯子を外された気分だ!』
ダンジョンなら梯子は登るんじゃなく、降りる方じゃない? とは、流石に突っ込めなかった。
俺は手を上げる。
「質問しても?」
『許す』
「世界を渡る旅人ってのはたぶんプレイヤーのことだと思うんだが、アンタはプレイヤーについて何か知っているのか? あと数百年前にもそんな奴がいたのか?」
『知らん。ダンジョンに挑戦しに来た連中に、そんな風に呼ばれた者はおらんかった』
「じゃあ終末ってのは、なにか分かるか? この世界に危機が迫ってるのか?」
『知らん。人間の数が減ろうが、国が滅びようが俺様には関係のないことだ』
えー、じゃあ何も知らないのか、この狼。
というか、興味がないって感じだな。
そういうところ、なんか超越者っぽい雰囲気がある。
「じゃあ、ダンジョンから出られないってどういうことだ? お前は今ここに居るじゃないか」
『これは分身体だ。俺様の力と体がこんなちんけなわけがないだろうが!』
「……」
このウェザー・フェンリル、分身体だったのか。
分身体でこの強さとか、果たしてダンジョンの最下層に居る本物のコイツはどれだけ強いんだ?
それこそ『終末世界』のモンスターに匹敵するんじゃ……。
するとセイランが手を上げる。
「はいはーい! じゃあ、ほんもののおおかみさんって、すっごくつよいの?」
『当たり前だろうが小娘。その気になれば、この大陸の全てを一晩で凍らせる事も出来るぞ』
「すご~~! おおかみさん、すごい!」
『ふふん、そうだ。俺様は凄いのだ。見る目があるな小娘……ん?』
セイランに褒められて嬉しいのか、尻尾がぶんぶんと振れている。
ひょっとしてこの狼、意外と会話が好きなのか?
てか、この大陸を一晩で凍らせるって……。
セイランは目を輝かせてるが、冗談じゃない。
間違いなく、コイツの本体は『終末世界』クラスの化け物だ。
『……小娘、お前、よく見れば耳が尖っているな。ひょっとしてエルフか?』
「っ……う、うん。それがなに?」
セイランは反射的に耳を手で隠す。
俺や雷蔵たちは即座にセイランを守るように陣形を固めた。
セイランに何かするつもりなら容赦はしない。
ウェザー・フェンリルの尻尾が嬉しそうに揺れる。
『そうか、そうか。バルカディアの小僧の血縁か。うむ、確かによく見ればどことなく、アイツに似ている気がするな。天染の力にはまだ目覚めてはおらんようだが……これも運命か』
ウェザー・フェンリルはどこか納得したように頷く。
『小娘、名は何という?』
「……せいらん」
『セイランか。確かにアイツの面影はあるが、それだけだな』
「え?」
ふっと、ウェザー・フェンリルはどこか小馬鹿にしたような鼻息を吐く。
『弱すぎる。それに人としての在り方がまるで違う。アイツは常に誰かを守るために戦っていた。対してお前はどうだ? 先ほどからの戦いの中で、お前は守られてばかりではないか。お前はそれで満足か? 子であるうちはそれでもいいだろうが、子であるうちに立ち上がり、歩くことも覚えねば、いずれ苦労するぞ?』
「ッ……」
ウェザー・フェンリルの言葉に、セイランは苦虫を噛み潰したような顔をする。
俺はセイランの頭に手をのせた。
「おい、セイランを馬鹿にするな。彼女は俺たちの大事な仲間だ。弱くないし、守られてばかりの子供でもない。その発言は撤回してもらおう」
「ウガゥ」
「きゅー」
「ウッキィ」
「……みんな」
俺は自分の仲間を足手まといなんて思ったことは一度もないし、俺が必要だと思ったからこそ、皆ここに居るんだ。
雷蔵たちも今の発言は許せなかったようで、顔に怒りをにじませている。
『……ふんっ』
すると奴はおもむろに身を起こすと、こちらを見る目つきが鋭くなった。
『なら証明して見せろ。少し懲らしめてやるだけのつもりだったが気が変わった。……もう少しだけ本気を出してやる』
「……え?」
次の瞬間、ウェザー・フェンリルの周囲に先ほどまでとは比べ物にならないほどの冷気が発生した。
凍結していたモンスターたちが一斉に砕け散り、遺跡の天井や壁すらも崩れてゆく。
「ウォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!」
ウェザー・フェンリルは息を吸うと、空に向けて咆哮を放つ。
大量に発生した冷気はやがて収束し、新たに二体のウェザー・フェンリルを作り出した。
「なっ……!?」
その光景に俺は絶句する。
ウェザー・フェンリルが三体、だと?
『貴様らの力量はおおよそ見させてもらった。一体ならば、貴様らに分があろうが、三体ならばどうだ? 力はこの分身体と同等にしておいた』
「ッ……」
同等にしておいたって……まさか、コイツ、このレベルの分身を何体でも作れるのか?
桁違いにも程があるだろうが。
『更に――見るがいい!』
「これは……」
凍り付いた遺跡のあちこちに無数の雪だるまが現れる。
ご丁寧に頭に氷で出来たバケツまで飾られている。
まさか三体のウェザー・フェンリルに加えて、この雪だるままで一斉に動き出すのか?
『殺風景な遺跡だったからな。少し、俺様好みの景色に変えさせてもらった。安心しろ。ちゃんと後で元に戻す』
「……? じゃあ、この無数の雪だるまって?」
『ただの飾りだ』
飾りかよ!
無数の兵隊かと思って焦ったわ!
『可愛いだろう?』
「まあ、確かに……」
ふふん、とウェザー・フェンリルの尻尾が得意げに振れる。
『好評ならば三日ほどはこのままにしておく。実は三体ほど、表情の違う雪だるまが混ざっている。後で探してみるがいい』
「……あ、うん」
リアクションに困るな、このウェザー・フェンリル。
そういう茶目っ気なところアピールするの止めて欲しい。
すごくやりづらくなる。
てか、コイツ、実はただの寂しがり屋じゃないの?
セイランのこと言えないだろ。
『さあ、では往くぞ!』
三体のウェザー・フェンリルが襲い掛かって来た。
一体でも面倒な相手だったのに、無駄に難易度が上がっちまった。
それとも、これも込みでEXステージなのか?
クソッたれが。相変わらずふざけた難易度だ……!




