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時間を確認するとまだ待ち合わせの時間まで3時間くらい余裕があった。私の家に行ったとしても充分間に合う。彼のこともこのまま目立つところに放置しておく訳には行かない。私たちは早速家に向かうことにした。


「そういえば俺の名前、ルイ。田んぼの田に下に糸って書いて累。」とたくさんの荷物を背負って歩きながら累が言った。

「そうですか。苗字は?」私は距離感が分からず咄嗟に敬語になった。

「藤堂。ていうかなんで敬語?さっきは普通だったよね?」私はこの質問に正直に答えようか迷った。


というのも今まで恋愛なんてからっきししてこなかった。というか興味もなかった。性欲は溜まるが、吐き出すだけで事足りた。そのため由奈にも舞にも冷めてると言われたり恋バナをされるものなら聞くことはあってもすることはなく、当然男子ともろくに話してこなかった。そのため、異性への接し方がわからない。こんなにまともに話したことがあるのはお父さんか塾の先生くらいだ。だけど初対面でこんなこと話せるわけが無い。いや初対面で共同生活を始めるのもおかしいが。


「…いや、よく考えたら初対面だなって思ったので」

「え、今更?別に同じ歳なのに」累は笑いながらそう言った。私も今更だなと思った。でもこれしか思い浮かばなかった。

「私は山口 真昼です。多分想像している漢字で全て合ってます。」私の恒例の名前の紹介をする。周りには私の名前は覚えやすくて好評である。お父さんお母さんありがとう。


「変えないんだ。ま、いいけど。覚えやすくていい名前。」「ありがとうございます」少し間を置いて累は言う

「あの、1つ聞きたいんだけどさ」「はい」

ある程度次の質問は予測できる。あのことだろう。

「なんで俺のこと引き取ってくれたの?だいぶいきなりだったし、こんな提案受けてくれると思わなかった。」あんた自覚あったんかい。そんな態度は思っても外には出さない。やはりその質問だった。

「自分でもわからないから、今すごく困ってます。」私は正直にそう言った。

「変だね、真昼」おぉ異性に名前を呼ばれた。それだけの事で動揺するのはやはり恋愛経験がないことを思い知らされる。


「本当ですよね」まじで。自分でも気が狂ったのかと思います。あなたほどでは無いけど。意外にもこの話題はそれだけで終わった。ここからでも彼の変人さが

垣間見えた。

「あの、私も聞いていいですか?」 「うん。あれでしょ」彼も予想がついていたのかそう言った。あれとは何故大学であんなことをしていたのかだ。

「はい」「実は、俺退学するか迷ってるんだよね。」

「え」私は言葉を失った。


話を聞いていくと累は昔から音楽の道に進むことを決めていたらしい。しかし、彼の家族は代々エリート一家で父と母は医者、長男は弁護士、次男は警察官、そして累はその末っ子らしい。当然親にはその夢を反対され、累も今までずっとそれに従ってきたそうだ。だが、段々と音楽への執着は増していくばかりで何度も諦めようとしたが無理だったそうだ。そして最近とうとう我慢の限界で大学なんて行ってられないと思い、わざと単位を落として退学しようとしているそう。でも両親にはそんなことを伝えられずより不本意に退学したように見せるため、単位をわざと落としているとの事だ。


そのためテストも白紙で出したりしたと本人はのほほんと笑っていた。そのおかげで両親はそれに激怒し、家賃と学費をこれから払うようにして大学へ行かせることへの大変さを学ばせたかったようだ。だか、残念なことにそれは見当違いでより大学に行く意欲が無くなったようだ。そのせいでお金も余裕がなくなって、昨日で本当に1文無しになってしまったのだそう。家賃の滞納もあり大家さんにもちょうど追い出されてしまった。ここでさっきの大学でのことだ。家賃も払えず追い出されたところで私という救世主がいてくれて助かったという。


なるほどそう聞くと今までの遅刻も納得いく。でも不思議だ。なんであの時焦って言い訳をしようとしたのだろう?別に退学したいならふざけたことを言った方がいい。それを聞いてみると

「いやあ、俺でも踏ん切りついてないんだよね。言ったけど両親にははっきり言えないから形式上やっぱ教授には誤魔化さないとね。」累は苦笑しながら言う。まるで呪いのようだと思った。私も音楽を聴くことは好きだが、やるまではいかない。累も私が絶望から逃げたいように、彼も音楽に苦しめられてきたのだなと思った。何故かそう思うと、変人だ、避けるべき人だと壁を作ってきた彼に近づきたいと感じた。恋とかではない。この感情はこう、今まで一人の世界で急に現れた同類に手を差し伸べたくなる仲間意識のような感じだ。


そうこうしているうちに家に着いた。

「どうぞ」「お邪魔しまーす」女の子の部屋としては殺風景な私の部屋を見て

「…綺麗な部屋だね」と戸惑いながら累は隅に荷物を下ろした。自分でも綺麗すぎると思う。それほど物がないのだ。あるのは最低限の家具と勉強道具と少しのアルバムだけ。由奈にも、家に招いた時本当に女子の部屋かと驚かれた。そこら辺多分私は普通の女子よりも少しズレているのだろう。

私は累にお茶を出すと、大家さんに合鍵を貰い累に渡した。

「お風呂とか色々冷蔵庫も勝手に使ってくれていいですから。私はこの後予定がありますから行きますね。荷解きとかその間しててください。」と時間を確認しながら行った。今から行ったら丁度の時間だ。

「あ、今日って晩御飯外で食べる?良かったら今日でも作るよ。」その言葉に同棲しているカップルのような感じがした。まあ共同生活だが。

「いえ、今日は外で食べます。」「了解。あ、連絡先交換してほしい。途中で分からないこと出てくると思うから。」 「はい。」そう言って私は彼にQRコードを差し出した。すると、登録画面に空の写真と一緒に累と表示された文字が出てくる。ちなみに私は実家で飼っているネコの大福を背景にしている。名前の通り真っ白の体で性別はメスだ。

「じゃあ、行ってきます。」私は由奈との待ち合わせ場所に向かった。



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