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繰り返す世界と最後の48時間  作者: アスカ・ヴィヴィディア
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6話:文化祭の嵐、波乱の幕開け

秋風が吹き始め、校庭の木々が少しずつ色づき始めた頃、健太たちの通う高校では文化祭の準備が始まった。教室の黒板には、文化祭実行委員会からの連絡事項や、各クラスの出し物の候補が所狭しと書き込まれている。例年、文化祭は生徒たちの自由な発想が炸裂する場であり、奇抜な企画やパフォーマンスが目白押しだった。


健太のクラスでは、出し物を決める話し合いが何度か行われたものの、なかなか良いアイデアが出ず、議論は堂々巡りをしていた。そんな中、あるクラスメイトが突拍子もない提案をした。


「よし、決めた!うちのクラスは巨大ジェンガで勝負だ!」


その提案に、教室は一瞬静まり返った後、大爆笑に包まれた。巨大ジェンガとは、文字通り巨大なジェンガを体育館に設置し、クラス対抗で競うというものだった。ジェンガのブロックは、人が持ち上げられるギリギリの大きさで、倒壊の迫力は満点だ。


「それ、マジで面白そう!体育館借りれるか聞いてみようぜ!」


「負けたクラスは罰ゲームで、校庭一周全力疾走な!しかも、コスプレで!」


クラスの雰囲気は一気に盛り上がり、巨大ジェンガ案でほぼ決まりかけていた。体育館の使用許可もあっさり取れ、巨大ジェンガの製作に取り掛かる段取りまで決まっていた。健太も、そのコミカルな雰囲気に思わず笑みを浮かべていた。文化祭は、普段の授業とは違う、特別な空気に満ちていた。


その時、近くの席では、雫が数人のクラスメイトと楽しそうに話していた。健太は、その様子を横目で見て、少しだけ微笑んだ。雫とは、最近、学校の帰り道で一緒に帰ることが多くなり、色々な話をするようになっていた。他愛のない話がほとんどだが、健太にとっては、かけがえのない時間だった。雫の明るい笑顔を見ていると、心が安らいだ。


「健太、何読んでるの?」


雫が話の合間に気づき、健太に声をかけてきた。


「あ、これ?最近、異常気象についての本を読んでて。なんか、最近変な天気が多いなって思ってさ」


健太がそう答えると、雫は少し驚いた表情で言った。


「そういえば、この前お父さんが言ってたんだけど、最近、災害復旧の仕事がすごく増えてるんだって。特に、地盤改良とかの依頼が多いみたい」


雫の言葉に、健太は少しだけ反応した。「地盤改良」という言葉に、聞き覚えがあった。最近、ニュースや新聞でよく目にする企業名…「ジオテック・インフラストラクチャーズ」。


「ジオテック…?なんか聞いたことあるな」


健太が呟くと、雫はさらに驚いた表情で言った。


「え、健太くん、ジオテックのこと知ってるの?うちの父の会社も、ジオテックさんと取引があるって言ってたような…」


健太は、まさか雫の身近なところにジオテックとの繋がりがあるとは思っていなかったため、内心驚いていた。偶然にしては、あまりにも符合が多すぎる。


その時、教室の入口付近では、エミリーが数人の女子生徒に囲まれて、楽しそうに話していた。彼女の周りにはいつも人が集まっており、その明るい笑顔は、クラスに新しい風を吹き込んでいるようだった。健太は、エミリーの方をちらりと見たが、特に視線を交わすことはなかった。彼女はまだ、健太にとって遠い存在だった。エミリーの周りの賑やかさと、自分の孤独の間には、目に見えない壁があるように感じた。


放課後、クラスでは再び文化祭の出し物についての話し合いが行われた。巨大ジェンガ案でほぼ決まりかけていたその時、担任の先生が深刻な表情で教室に入ってきた。


「みんな、ちょっと話があるんだ。実は、校長先生から、文化祭の出し物について、もう少し真面目なテーマで取り組んでほしいという要請があったんだ」


先生の言葉に、教室は一瞬静まり返った。巨大ジェンガで盛り上がっていた空気が、一気に冷めていくのがわかった。落胆の声があちこちから聞こえた。


「校長先生曰く、最近の社会情勢を鑑み、文化祭を通して生徒たちに社会問題への関心を深めてほしいとのことだ。特に、環境問題について、何らかの形で取り上げることを推奨されている」


先生の言葉に、クラスからは不満の声が上がった。「せっかく巨大ジェンガで盛り上がってたのに…」「今からテーマを変えるなんて、時間がないよ!」


しかし、校長先生からの要請とあっては、従わざるを得ない。クラスは再び出し物のテーマについて議論を始めた。重苦しい空気が教室を支配していた。


「環境問題か…具体的に何をすればいいんだ?」


「最近、異常気象のニュースが多いけど、そういうのをテーマにした展示とか、どうかな?例えば、過去の災害の記録とか、今後の予測とか…」


健太は、昼休みの会話を思い出し、何気なく提案してみた。それは、ジオテックについて個人的に調べたいという気持ちと、クラスの現状を打破したいという気持ちが混ざった、半ば衝動的な提案だった。


健太の提案に、最初は戸惑っていたクラスメイトたちだったが、最近の異常気象に対する関心の高さから、次第に興味を示し始めた。特に、テレビでよく見る気象予報士が解説するような展示ができたら、注目を集めるのではないかという意見が出た。


「それ、意外と面白いかも!最近、ニュースでよく見るジオテックって会社、災害復旧とかで活躍してるらしいよね」


誰かがそう言うと、他のクラスメイトもそれに同意した。


「ジオテックの技術を紹介する展示とか、作ったら面白そうじゃない?地盤改良の仕組みとか、映像とかで紹介したら、分かりやすいかもしれない」


健太は、ジオテックの名前が出たことに、複雑な気持ちになった。ジオテックについて個人的に調べたいという気持ちはあるものの、文化祭の出し物と直接結びつけるのは、本来の目的とは少し違うと感じていた。しかし、雫の父親の会社とジオテックが取引があるという情報、そして何より、校長先生からの要請という状況で、反対するのは難しかった。それに、文化祭の準備を通して、ジオテックについてより深く知ることができるかもしれない、という期待もあった。


結果的に、クラスの出し物は「異常気象と未来の技術」というテーマに決まり、その中でジオテックの技術を紹介するコーナーを設けることになった。健太は、ジオテックの歴史や技術に関する調査を担当することになった。雫は、父親の会社を通してジオテックから資料提供を受けられないか交渉してみると言ってくれた。エミリーは、相変わらず他のクラスメイトと楽しそうに話しており、特にこの件に関わることはなかった。健太は、雫と話す機会が増えたことを喜びつつも、エミリーとの距離を感じていた。二つの世界の間に、透明な壁があるように感じた。


放課後、健太は図書室に向かった。文化祭の準備という名目があれば、堂々とジオテックについて調べられる。図書室の薄暗い書架の間を歩き回り、埃を被った古い資料を手に取るうちに、健太は改めてジオテック社の異様な成長ぶりに気づかされた。それは、まるで、異常気象という追い風を受けて、急成長を遂げた企業のようだった。


その日の帰り道、健太は雫と一緒に帰った。他愛のない会話をしながら歩く時間は、健太にとって心地よかった。しかし、心の片隅では、ジオテックへの疑念がくすぶり続けていた。そして、エミリーの、どこか遠くを見つめるような視線が、時折、脳裏をよぎっていた。巨大ジェンガが幻と消え、文化祭のテーマが大きく変わったことで、健太の日常にも、大きな波が押し寄せようとしていた。

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