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繰り返す世界と最後の48時間  作者: アスカ・ヴィヴィディア
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4話:繋がる手、遠くの雷鳴

夜空の下、健太と雫は手をつないで歩いていた。街灯の柔らかな光が二人を優しく照らし、夜風がそっと頬を撫でる。初めて手を繋いだ時の、あの少しの緊張と、それ以上の喜びが、今も二人の間には確かに存在していた。それは、特別な出来事を乗り越えた二人にだけ許された、穏やかで幸福な時間。


「……ねえ、健太くん」


雫が、少し照れたように、繋いだ手にほんの少し力を込めた。その仕草は、言葉にしなくても、彼女の気持ちを雄弁に物語っていた。


「ん?どうした?」


健太は、雫の顔を覗き込むように、優しく問いかけた。繋いだ手から伝わる温もりは、健太の心を優しく満たしていく。


「……こうして、健太くんと手を繋いでいると……なんだか、本当に大切なものを見つけたって、そう思うの」


雫は、夜空を見上げながら、そっと呟いた。その表情は、夕焼けに照らされていた時よりも、さらに穏やかで、満ち足りていた。


「僕も同じだよ、水瀬さん。君と出会えて、本当に良かった。まるで……ずっと探していたパズルのピースが、やっと見つかったみたいだ」


健太は、少し照れながらも、自分の気持ちを素直に伝えた。繋いだ手に、さらに少し力を込める。


二人は、しばらくの間、言葉を交わさずに、ただ手をつないで歩いていた。沈黙が流れる。しかし、それは、気まずさとは無縁の、心地よい、親密な沈黙。言葉にしなくても、二人の心が通じ合っている、そんな特別な時間。


やがて、二人は公園の入り口にたどり着いた。そこで、健太は、少し名残惜しそうに、ある提案をした。


「水瀬さん、せっかくだから、もう少しだけ、一緒にいないか?この先に、夜景が綺麗な場所があるんだけど……」


「ええ、いいわよ。私も、もう少しだけ、健太くんと一緒にいたい」


雫は、嬉しそうに微笑み、健太の提案を受け入れた。


二人は、夜景の見える場所へと向かった。そこは、街の明かりが一望できる、小高い丘の上にあった。眼下には、無数の光が瞬き、まるで、夜空の星が地上に降りてきたかのような、幻想的な光景が広がっていた。


「わあ……綺麗……」


雫は、夜景に見惚れ、小さく息を呑んだ。その瞳は、夜景の光を反射して、きらきらと輝いている。


「本当に綺麗だね。でも……水瀬さんの方が、もっと綺麗だよ」


健太は、少し照れながらも、自分の素直な気持ちを伝えた。


雫は、健太の言葉に、頬をほんのり赤く染めた。そして、照れくさそうに、視線を逸らした。その仕草は、とても可愛らしく、健太の心をときめかせた。その頃、健太と雫が穏やかな時間を過ごしている公園から遠く離れた場所、健太のクラスメートである優斗は、自室のテレビにかじりついていた。画面に映し出されているのは、朝から繰り返し放送されている特別ニュースだった。


「……まただ……」


優斗は、画面を見つめながら、小さく呟いた。彼の表情は、不安と、ほんの少しの興奮が入り混じっていた。


画面に映し出されていたのは、アメリカ中西部、広大な平原の映像だった。そこは、通常、穏やかな気候で知られる地域だが、映像に映っていた空は、信じられないことに、真っ黒な雲で覆われていた。そして、その雲の間からは、絶え間なく、稲妻が閃光を放っていた。


しかし、その稲妻は、通常の稲妻とは明らかに異なっていた。色、形、そして、発生の仕方が、全て常識を超えていたのだ。


まず、色。通常の稲妻は、白や黄色、または、薄い青色をしているが、映像に映っていた稲妻は、赤、青、緑、黄色、紫など、様々な色が混ざり合った、虹色に輝いていた。まるで、オーロラが地上に降りてきたかのような、幻想的な光景。


次に、形。通常の稲妻は、ジグザグとした線状の形をしているが、映像に映っていた稲妻は、球状になったり、螺旋状になったり、時には、複雑な幾何学模様を描いたりしていた。まるで、意志を持っているかのように、自由自在に形を変えている。


そして、最も異質なのは、発生の仕方だった。通常の稲妻は、雲と雲の間、または、雲と地面の間で発生するが、映像に映っていた稲妻は、雲のない空中で、突然、発生したり、地面から空に向かって伸びていったりしていた。まるで、重力や電気の法則を無視しているかのように、不可解な動きを見せていた。


さらに、映像には、雷鳴も記録されていたが、その音は、通常の雷鳴とは全く違っていた。地を這うような重低音、金属が軋むような音、そして、人間の叫び声のような音など、様々な音が混ざり合った、不気味な音だった。それは、自然現象というよりも、むしろ、何かの怪奇現象を記録した音源のように、人々の不安を煽る音だった。


ニュースキャスターは、深刻な表情で、この現象について解説していた。気象庁の専門家は、前例のない異常気象だと述べ、原因は不明だとしながらも、地球の磁場に何らかの異常が発生している可能性を示唆していた。また、物理学者は、未知のエネルギーが関与している可能性を指摘し、宇宙からの影響も否定できないと述べていた。


しかし、どの専門家の見解も、決定的なものではなく、人々の不安を解消するには至らなかった。ニュース番組には、現地の住民のインタビューも放送されていたが、彼らは皆、恐怖と困惑を口にしていた。


「……まるで、世界の終わりみたいだ……」


ある住民は、震える声で、そう語っていた。


優斗は、テレビの画面を食い入るように見つめていた。彼は、科学部に所属しており、自然現象や物理現象に強い興味を持っていた。今回の異変も、単なる異常気象ではなく、何か根本的な異変の前兆ではないかと感じていた。


「……一体、何が起こっているんだ……?」


優斗は、自問自答を繰り返していた。彼は、インターネットで、今回の異変に関する情報を検索したが、ニュースで報じられている以上の情報は得られなかった。どのサイトも、ニュースの情報を引用しているだけで、独自の見解や分析をしているものはなかった。


その時、優斗の携帯電話が鳴った。画面を見ると、科学部の顧問である、佐々木先生からの電話だった。


「……もしもし、佐々木先生……?」


優斗が電話に出ると、佐々木先生は、落ち着いた声で、しかし、どこか緊張した様子で、話し始めた。


「……優斗くん、ニュースは見たね……?アメリカで起こっている、あの雷の件だよ……」


「……はい、見ました。あれは……一体……?」


優斗が尋ねると、佐々木先生は、少し間を置いてから、重々しく言った。


「……あれは……ただの異常気象ではないかもしれない……地球規模の、何らかの異変の前兆かもしれない……」


佐々木先生の言葉に、優斗は息を呑んだ。彼は、佐々木先生が、そのようなことを軽々しく言う人物ではないことを知っていた。


「……先生……それは……一体……?」


優斗がさらに尋ねようとした時、佐々木先生は、言葉を遮るように言った。


「……詳しいことは、今すぐには言えない。だが、君には、このことを知っておいてほしい。そして、もし、何か異変に気づいたら、すぐに私に連絡してほしい……いいね?」


「……わかりました……」


優斗は、佐々木先生の言葉に、強く頷いた。


電話を切った後、優斗は、再び、テレビの画面を見つめた。画面には、相変わらず、虹色の稲妻が、空を切り裂くように、閃光を放っていた。


その頃、健太と雫は、夜景を見ながら、穏やかな時間を過ごしていた。彼らは、遠くで起こっている異変のことなど、何も知らずに、ただ、互いの存在を確かめ合うように、静かに寄り添っていた。しかし、遠くの空では、世界の均衡を揺るがす、異質な雷鳴が、静かに、しかし確実に、近づきつつあった。

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