ルームメイト
訓練の初日を終え、訓練生たちは寮に集められていた。男子寮と女子寮に分かれ、各部屋にはランダムに選ばれた3人が割り当てられる。これからの過酷な訓練と未来の戦場を共にするルームメイトたちとの出会いは、緊張感と期待が入り混じっていた。
市川キヨマサが割り当てられた部屋に入ると、すでに2人の訓練生が待っていた。1人は見るからにチャラい印象で、軽薄そうな笑顔を浮かべている。派手な髪型にリラックスした服装が、彼の飄々とした性格を物語っていた。もう1人は対照的で、鋭い目つきと強面な表情、鍛え抜かれた筋肉が目立つガタイのいい男。どちらも独特の雰囲気を持っており、キヨマサは少し身構えた。
軽く沈黙が流れたあと、チャラい方がニッと笑って口を開いた。「お、全員揃ったみたいやな!じゃあ俺から自己紹介するわ」と、明るい関西弁でしゃべり始める。「大阪産まれ大阪育ちの中谷タイヨウや!お前らよろしくな!」と親しげに言い、さらに、「ちなみに、俺はもう特殊能力が発現しててな、これが俺の能力や!」と続ける。
するとタイヨウは片手を前に出し、その手が徐々に巨大化していった。通常の倍以上の大きさにまで膨れ上がった腕が、キヨマサの目の前に現れる。タイヨウは自信たっぷりにニヤリと笑い、「名付けて『部位拡大』や!体の部位を巨大化することができるんやで。巨大化させた腕に殴られたら、ごっつう痛いで!」と冗談交じりに言いながら拳を振り上げ、軽く空振りして見せた。その軽妙な態度と実際の能力のインパクトに、キヨマサは驚きと共に少し気圧される。
タイヨウが一通り話し終えると、キヨマサも自己紹介を始めることにした。「愛知県出身の市川キヨマサです。…能力はまだ発現していません。よろしくお願いします」と、少し堅苦しい感じで話す。キヨマサの真面目で謙虚な態度が表れていたが、その硬さにタイヨウはおかしそうに笑いながら、「お前、そんなガチガチになるなよ」と言って肩を軽く叩く。
その瞬間、タイヨウはもう一人の訓練生に目を向けた。「そっちの兄ちゃんは?」と軽い口調で声をかける。
しかし、ガタイの良い訓練生は、冷たい目つきでタイヨウを一瞥し、「俺に気安く話しかけんじゃねぇ。今、仲良くなったところで、どうせいつかは死ぬだろ?その時、いちいち辛ぇ思いしたくねぇしな」と、高圧的に言い放つ。その冷徹な言葉と険しい態度に、タイヨウもキヨマサも一瞬言葉を失い、空気が少し気まずくなった。
タイヨウは気を取り直して、「ま、まぁ、お前がそういうならそれでええけどな」と軽く受け流すものの、冷淡な態度を見せるその男に内心では不安を感じていた。キヨマサもまた、自分と同じ年頃とは思えないその男の鋭い表情に圧倒されていた。
その時、突然スピーカーからの放送が鳴り響いた。「今から訓練を始める。訓練生は訓練場に集合せよ」と、無機質な声が告げる。キヨマサたちはそれに従い、気まずい空気を残したまま部屋を出て訓練場へと向かう。
廊下には他の訓練生たちも続々と出てきており、誰もが不安と期待を胸に秘めた表情を浮かべていた。自分たちがこれからどんな訓練を受けるのか、そしてどのような戦いが待ち受けているのか。キヨマサの胸にはまだ知らない未来への不安と、自分の力を覚醒させるという未知の期待が混在していた。