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鉄壁の運び屋 壱ノ式 ー三原色と施錠の町ー【完全版】  作者: きつねうどん
第二章 事の始まり
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第捌話 休日 ◎

「それじゃあ、依頼を受けて来ます。午後には戻って来ますので」


週末の日曜日、定例議会の前日の事だ。

今日は望海や光莉は制服でなく私服姿だ。

望海もそうだが光莉も、青と白の袴姿をしている。

振袖には桜の花びらや、絵師の想像なのか?それとも現実なのか?

高波とその奥には美しい山が見える。ただ、2人は桜は見れても後者の光景を眺めた事は一度もない。


2人の差異と言えば、足元だろうか?望海はブーツを履き、光莉は赤い花尾の下駄を履いているようだ。

特に光莉は振袖が邪魔なのか?赤い紐で(たすき)掛けをしているようだ。


「私も美容院に行こっと!背徳感あるよね、服装点検前に髪染めるのって」


光莉の決意は固いようだ。児玉はもうどうにでもなれと言った様子でコーヒーカップを磨いている。

明日、光莉が会議に遅刻する様子まで念頭に置いていた。

その数時間後、光莉は上機嫌で喫茶店へと戻ってきた。

児玉は項垂れながらも、嬉しそうにする光莉を見ていた。

雑誌で見た希輝と同じく、鮮やかな金髪姿で戻ってきたのだ。


「玉ちゃん、(はな)ちゃんが教えてくれた美容院凄い良かったよ。私も行きつけにしようかな。今まで、高い所ばかり行ってたけどお手頃な所でもキチンとやってくれるんだね」


これだからお嬢様はと児玉は内心思ったが言わないでおく事にした。

児玉の妻で零央の母親は花菜(はな)という名前だ。

音大に在籍中に児玉に会い、まさかの学生結婚をする事になる。

詳しい話はおいおい児玉から聞く事になるだろう。


「まぁ、冗談はさておき。流石にベテラン勢としては今の状況を黙って見てられないんですよ。旭も青葉も居なくなって、朱鷺田の坊ちゃんも谷川も会議に出ようとしない。会議に行ったって全員集まんなきゃ意味ないのにね」


その言葉を項垂れながらも今日も同じく光莉の為にコーヒーを淹れているようだ。

児玉はずっと、昔からのメンバーを見てきた。勿論、光莉もだ。

年月が経てば、メンバーが変わっていくのは仕方のない事だが今回ばかりは様子が違うようだった。


「まぁ、確かに可笑しな話だよな。それぞれ、事情があるのは仕方ない事だ。目的だって違うだろう。組織結成の理由だってな。特に旭達は仕事だけじゃなくて同居して常にいざこざがあってもおかしく無い状態なんだ。実際に俺も相談に乗ってたし。だが、なんか引っかかるんだよな」


カウンター越しに座る光莉に目配せすると同じように頷いていた。

旭の性格や他メンバーの様子を見て、光莉は項垂れるように椅子に腰掛けていた。


「旭はさ、色々あったけど運び屋の仕事に誇りを持ってたし不満とか我慢している所もあるだろうけどそれでも続けてたんだよ。それが、積み重なって爆発しちゃったのかなって思ってたんだけど。引退ならまだしも、家を離れてるっていうじゃん?しかも、朱鷺田の坊ちゃん達も表に出てこない。遥ちゃんにも確認したけど、会ってないって言うしね。...何か隠してんのかな。私達にも言えない何か」


「だとしたら、それ相応の事に巻き込まれてる可能性が高い。谷川はあまり知らないが、他2人は良い所のお坊ちゃんだしな。権力闘争も十分あり得る話だ」


その言葉に光莉は拳をテーブルの上に叩きつけた。

これは児玉に対してと言うより、自分自身に対してなのだろう。


「はぁ、パパとママが生きてたらそう言うのも融通が効いたんだけどな。いや、だったら運び屋なんかしてないか。玉ちゃん、ごめん。ちょっと1人で考えさせて。望海が帰ってくるまででいいからさ」


「分かった。バックヤードで在庫整理してるから後で呼んでくれ」


そのあと、児玉は奥の方へと向かうようだ。

光莉もまた、今後の事を考え思いに耽っているようだ。

小一時間、たった頃だろうか?望海がケーキの入れ物を持って店内に入ってきた。


「ただいま戻りました。ケーキを貰ったので一緒に食べましょう」


「あっ、帰って来た。おかえり〜。玉ちゃん、望海が帰ってきたよ」


約束通り、カウンターの奥にいる児玉に声をかけると望海に対していつものように笑顔で接している。

彼女に要らぬ心配をかけたくないという彼なりの思いやりだろう。


「おっ、帰って来たか。さては俺が綺麗にしたコーヒーカップを汚しに来たな。良いタイミングだ」


カウンターに向かい望海は光莉の隣に座るようだ、先程貰ったケーキを広げている。

光莉は皿を棚から取り出し並べ、児玉はコーヒーを用意する。

これを見ても、3人の連帯感。言わなくともお互いの役割をキチンと理解しているのだろう。長年の絆が目に見える。


児玉は壁にあるカレンダーを確認し、次の言葉を投げかける。


「2人共分かってると思うが、明日の夕方第壱区に行く。いつもの定例会議だな。望海は大丈夫だと思うが光莉、遅れるなよ」


その言葉に光莉は呆れながら何度も頷いた。

メンバーの揃わない会議、それに行く意味があるのかと言われたら微妙な所だが約束は約束だ。


「分かってる、分かってるってば!運び屋は時間厳守が基本!皆んな時間に厳しいのは知ってるよ。学校から行けば間に合うし、望海も一緒だから問題ないよね?」


笑顔で光莉は望海に投げかけるが、当の彼女は呆れたような顔をしていた。まぁ、案の定と言った所だろうか?


「それは良いのですが、光莉。また髪を染めましたね?女学院は校則が厳しいのは貴女もご存知だと思いますが?明日行って、反省文を書かされたらどうするつもりですか?会議に遅刻する可能性もあるんですよ?」


そのあと、光莉は頬を膨らませ近くにあるマガジンラックから雑誌を手に取った。訴えるように表紙を何度も叩きだす。


「だって、希輝ちゃんが悪いんだよ!こんなお洒落な髪型してたら誰だって真似したくなるって」


今度は中を捲り、記事の内容を読みだした。


「「お洒落は身近な自己表現。流行に合わせたり誰かの真似をするのも楽しいけど、やっぱり自分がどうなりたいか?どう見せたいか?を追求するのが一番アタシは楽しいかな?」だってさ!やっぱり美意識高い人は違うね!」


「あ〜、おじさん。息子君を迎えに行きたいなぁ。零央君に会いたいなぁ。現実逃避したいなぁ、絶対明日反省文で遅れる未来が見える!」


児玉は首を項垂れながらも先程使ったコーヒーカップを洗い丁寧に磨いていた。

そして、翌日。それぞれの思いが交差する定例議会が起きようとしていた。


《解説》

今回は光莉の服装についてご紹介したいと思います。

東海道新幹線が歴史ある新幹線という事で、光莉もそうですが望海も華やかな袴姿をしています。

高波と山の元ネタは葛飾北斎の「富嶽三十六景・神奈川沖浪裏」をモチーフにしています。

富嶽とあるように東海道新幹線といえば富士山を拝めると言う事で入れています。

桜は日本を代表する花である事や最初に日本で鉄道が開業したのが新橋〜横浜間、現在の桜木町付近という事で入れています。

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