第漆拾捌話 向こう側
「ねぇ、お兄ちゃん。これからどうするの?」
門近辺の兵士達を粗方討伐した阿闍梨達はこれからの行動について話合っているようだった。
「そうですね。いずれにせよ、この門が何なのか?を知る必要が私達にあるかと。人の出入りが出来る事は確かなようですし、別の場所に繋がっている。これだけは言えるでしょうね」
しかし、兄妹の会話を聞き凛は門を見ながら顔を顰めていた。
「でも、お祖父ちゃんやお父さんは無闇に近づくなって言ってたよ?それに何処に通じてるのかも分からないし。危ないんじゃないかな?...えっ!?ちょっと!?阿闍梨さん!?」
そんな警告を無視して、彼は楽しそうにまるで遠足気分とでも言ったようにスタスタと門の中へ入ってしまう。
彼を心配した2人が慌てて追いかける形で入る事になった。
「実梨、貴女は出入り口を見張ってて下さい。私と凛さんでこの階段の下へと向かいます」
門の中へ入るとそこにあったのは秋津基地、ではなく長い長い階段であった。
そう、実はこの門にはもう一つの出入り口が存在している。
鶴崎や全斎からの数字を得ずとも辿り着く事の出来る場所だ。
「...なんか、怖いね。どこまであるんだろう。阿闍梨さんは怖くないの?」
「いいえ、寧ろ親近感を覚える程に私はこの場所を何度も何度も訪れたような気がするのです。不思議ですね。ほら、見えますか?凛さん。彼方に大きな扉があるでしょう?あれはね“夢の世界”への入り口なんですよ」
そう言われ凛は背筋を凍らせた。
そして何度も彼の瞳を見て、それが冗談であって欲しいと願い始めるが阿闍梨の瞳は勿論、その言動に偽りはないように思えた。
「...何でそんな事が言えるの?もしかして、阿闍梨さんこの向こう側に行った事があるの?嘘でしょ?」
すると彼は懐から紙を数枚取り出す。
それを宙に舞うように手から離すと、まるで炙り出しをするが如く皆と同じ様、拳銃を取り出し発砲した。
【コード:000 承認完了 画竜点睛を起動します】
そのあと、撃ち抜かれた紙は何かを描いた地図へと変わる。
凛はその事に驚愕し、直様その中の一枚を手に取り凝視すると冷や汗を掻き、目を泳がせた。
かなり混乱している事が伺えるだろう。
何かの土地の輪郭を見ただけでも吐き気と眩暈を覚える程だった。
「これは絶対に比良坂町の地図じゃない。しかもこれ、地図同士で陸続きになってるよね?夢の世界の地図って事?」
そう言われた阿闍梨は近くの地図同士が何処と繋がっているのか何個か組み合わせを見つけ、彼女にこの地図が出来た時の事を話す。
「私は何度も何度も夢の世界に行き、この地図を描いていたようなのです。時折、枕元にこれが置いてあっていつも不思議に思っておりました。一枚では描ききれない程、この土地は膨大なようで、これを周囲に話せば皆を混乱に陥れてしまう。そう思い、今日まで隠していました」
「私達も阿闍梨さんも門の近くを担当場所にしてる。それ以上にこの地図で分かる事が沢山あるよね。比良坂町は閉鎖された空間じゃない。思ってる以上に広い可能性がある。参ったな、阿闍梨さん以外に出入りしてる人っていないの?」
彼は少し考えるものの、渋い顔をしながら首を横に振った。
しかし、朧げながらもある2人について話をしてくれた。
「私がお城のような場所の近くで迷っていた時、ある女性が私の事を助けてくれたのです。名は富士宮咲耶、青い羽織を来た凛々しい女性でした。彼女は相方の事をとても心配していたようで「速飛は良い子だけど、抜けてる所があるからな。とても心配だ」と良く言っていました」
「富士宮...速飛...あぁ!凛、知ってる!ほら、現役最強の運び屋っているでしょう?彼のお母さんの旧姓が速飛なんだよ!もう本人は引退しちゃってるけど息子さんだったら話が聞けるんじゃない?しかも、富士宮って行方不明になった運び屋の1人ってお祖父ちゃんやお父さんから聞いた事ある!この町は異質だよ。閉鎖空間なのに運び屋達が何人も行方不明になってる。もしかしたら夢の世界に囚われてるのかもしれないね。なんとかして助け出さないと」
そのあと凛は慌てたように一生懸命目の前にある大きな両扉を開けようとするものの、びくともしないようだ。
タックルをするように何度も突進してもそれは同じ事のようだ。
しかし、阿闍梨が扉に触れようとすると触れるよりも先に勝手にそれが開き、突風が吹き荒れる。
この事に凛は勿論、阿闍梨本人も驚愕していた。
その間、チラリと向こう側から見える夜の景色を2人は見たがバタンと大きな音を立て、再び固く閉ざされてしまった。
「2人ともおかえりなさい。なんか大きな音がしたみたいだけど何かあった?」
「実梨には教えないー。凛と阿闍梨さんだけの秘密!ね?」
そう、凛が口をすると実梨は問いただすように自分の兄を睨みつける。
阿闍梨は苦笑いしながらも彼女に話すと案の定、目を見開き驚いた顔をした。
「嘘でしょ!?...いや、でも。ずっと可笑しいと思ってたんだ。引退した運び屋の皆さんって自分で勝手に町から離れちゃったのかな?って思ってたんだけどその夢の世界にいるって事だよね。でも、3人でいくのは危険だよ。もっと仲間を集めないと」
一旦、門から出て阿闍梨はこれからの事について話を始めた。
「この混乱時に夢の世界の事を話せば、更なる混乱を引き起こします。私も運び屋の知り合いは少ないですし、まずは顔合わせをするのが先決かと。落ち着いた頃にでも構わないでしょう。話を聞きたい方もいますしね」
「速飛さん、今は松浪さんか。とその息子さんだね。やらなきゃいけない事は沢山あるけど、阿闍梨さんまずは年末のカウントダウンコンサートだよ!気合い入れないと!」
「分かっておりますとも!そうなれば話も早い!早く自宅に戻ってうちわ作りをしませんと!」
そのあと、2人はスタスタと実梨を置いて寺の方へと戻ってしまった。




