第漆拾参話 帰還 ★
鶴崎との話を終えた節子達は、軍がホテル方面に派遣されるのを見守った後これからの事について話を始めた。
「私はお母様も心配してるだろうし、屋敷に戻らなくちゃ。でも、名残惜しい気持ちにもなるの。亘さんと瑞稀さんに会えた事、こんな状況で言うのも失礼かもしれないけどとても嬉しかった」
節子は寂しげな表情を浮かべながらも口元は何処か嬉しそうに瑞稀と亘を交互に見た。
「私もだよ、お嬢さん。でも、離れていても心は繋がっている。また、手紙を書くよ。勿論、亘にもね」
「ありがとう。僕も瑞穂達が心配だ。出来るだけ肆区の側まで行かなくては」
その言葉を聞いた零央は自分を売り込むようにアピールをする。
目立つように大きく手を降っているようだ。
「れおね、おさかまでだったらいけるよ。おきゃくさま?」
「小坂は参区だね。でも、ちょうどいい。私の屋敷も側にあるしそこから移動出来れば参区と肆区の境目までいけるかもしれない。亘もそれで構わないかな?」
瑞稀が問いかけると亘は何か考え事をし、何かを思い出すように口を開いた。
「実は噂話で聞いた事があるんだ。誰かが参区と肆区の間に地下通路を作って人が通れるようになっているらしい。確か、赤間と豊前の間だったか。じっちゃんにも聞いてみたが、壁の下敷きになって入り口も分からないらしい。でも、壁のない今なら」
「赤間なら私の行動範囲内だ。面白そうだね、すぐに向かおう。零央、小坂までよろしく頼むよ」
「いらっしゃいませ!」
節子と別れ3人は小坂へ行くと衝撃の物が目に飛び込んできた。児玉の作り上げた城を3人は仰ぎ見る。
「こんな立派な物をいつの間に、さては児玉の力かな?」
「れお、パパにあいたいな。だっこしてもらうの」
零央が不安気な表情を浮かべながら、城を見ていると亘は彼の手を握り安心させようとしている。
その顔は何処か切なそうに見えた。
「そうだな、僕もじっちゃんに会いたい。幼い頃に両親が人魚に襲われて以来、唯一無二の家族なんだ。零央、ここまでありがとう。君の父上の場所は分かるかい?」
「れお、ナビゲートつかえるからだいじょぶだよ。まいごにならないんだ」
そのあと、零央はナビゲートで城の全貌を暴いてしまった。
外見だけでなく、その中身の複雑性に2人は驚愕する。
零央はすぐさま父親の場所を特定し、其方へと向かった。
「あった!こんな所に!」
赤間へ到着し、境界線を隈なく探すと下へと続く階段を発見する。
しかし、中は暗闇で1メートル先でさえ詳細を掴めないようだった。
しかし、それを手助けするように瑞稀が火を灯した。
【コード:087 承認完了 鬼火を起動します】
「確か、肆区はDr.黄泉の発明品が使えないんだったね。通路の境界線ギリギリまで私も一緒に向かおう。長い事、使われてなかったみたいだ。灯りもないし、道も狭いね」
普段、優雅に美しい屋敷で過ごす2人とは対象的にこの通路は狭く、薄暗い。
ポタポタと水滴音も聞こえ、通路というより最早洞窟に近いだろう。
それでも亘は祖父や仲間に会いたい一心で駆け足で歩を進めた。
そのあと、鬼火がゆらゆらと不安定に動きはじめ次第に萎みそうになる。ここまでが境界線のようだった。
この不気味な地下通路はまるで水の中にいるのではないか?と錯覚するほどに凍てついていた。
「瑞稀さん、ここまでで大丈夫だありがとう。貴女も気をつけて、戦いはまだ終わっていない。まだ、比良坂町の秘密も全て明らかになった訳じゃない。むしろ、ここからが正念場だと言っていい」
「勿論。私も小坂に戻って少しでも皆の力にならなくては。私の予想では百地もそこにいるだろう」
「僕の方も音無伍長が瑞穂達を相手にしている可能性がある。あと、この通路も半分だ。行かなくては」
瑞稀と亘は最後に固い握手を交わした後、それぞれの方向へと足を進めた。
「亘君!!」
地下通路を抜け、身を潜めるながら屋敷に向かおうとしている途中で瑞穂と出会した。
彼女は泣きながら、軽々と亘を持ち上げぎゅっと抱きしめる。
「何処に行ってたの!皆、心配してたんだから!」
「済まない瑞穂。秋津基地の連中に捕まってしまってな。壱区に捕えられてしまったんだ。でも、大丈夫。頼もしい仲間のお陰でなんとか辿りついた」
そのあとも、亘は今の状況を瑞穂に聞こうとしたが追っ手が来てしまったようだ。
「おい、いたぞ!運び屋だ!あの女から狙え!」
軍人達を見た瞬間、いつもは優しい瑞穂の目つきが変わった。
亘を降ろし、彼の前に出ると拳を前に出し、構えの姿勢をとる。
それは、素人がするような無秩序で不安定な抵抗ではない。
何年にも及ぶ鍛錬によって、培われてきた洗練された物だった。
「今、亘君が話をしようとしてたでしょ?人の話は最後まで聴きなさいってお母さんに言われなかった?」
瑞穂は素早く敵の懐に入り込み、固い肘を使い溝落ちを突く。
その拍子に落とした銃を相手の足目掛け、発砲する。
「次は心臓を撃つわ。私は別に良いのよ、貴方達が火器が効かないのは知っているし。拷問がてら何度も撃っても。でも、亘君が目の前にいるんだもの。この子に死体は見せたくないの。言ってる意味、分かるでしょう?」
「ひっ、この女も鬼だ!ここの運び屋は鬼しかいないのかよ!」
軍人は足を引きずりながら慌てて逃走していった。
「流石は葦原武術道場、師範代の娘。咲羅が認めた女性だな。僕の為に鬼になってくれてありがとう。瑞穂」
「当たり前よ。七星家を守るのも運び屋の役目だもの。亘君、話を遮ってごめんなさいね。とりあえず、他の3人とも屋敷の近くで落ち合えるよう他の運び屋達に伝令をお願いしておくわ。望海ちゃん達が本当に羨ましいわ。電波が悪くて、無線機も使えないし。Dr.黄泉の発明品も使えないし散々よ」
瑞穂は試しに無線機を使ってみるが、やはりと言うべきかノイズが入り通話が困難となっている。
どうして肆区のみがそのような事態になっているのか?
今の瑞穂達では原因を突き止めるのは困難だろう。
「でも、だからこそ。瑞穂達の真の強さが際立つんだと僕は思ってる。比良坂町で1番強いのは紛れもなく肆区の運び屋だ。誰が何と言おうともね、頼りにしているよ瑞穂」
その言葉に瑞穂はいつものように、穏やかな笑みを浮かべ返答した。
「仰せのままに、坊ちゃん」
《解説》
瑞稀と亘が通った地下通路は下関と門司港の間にある関門人道をモデルとしています。
作者も先日、突発的に「下関に行きてぇ!」となって何故か行く事になってしまいました。
ただ、普通に仕事があって夕方からでないと移動が不可能なのですが下関は飛行機でも鉄道でも面倒くさい位置にあるんですよね。
仕事終わりに空港のモノレールもそうですし、荷物を預けるのも保安も面倒くさいという事になってごり押しの状態で新幹線で東京から小倉までその日は移動して翌日に門司港と下関に行くという限界移動を行いました。
一蘭が24時間営業なのは東京から新幹線で福岡までいく人の為にあるんですかね。到着したのが深夜帯で空いている飲食店も少なかったので凄く助かりました(白目)
人道に行きたい方は下関より門司港側の方が便利です。
観光列車の潮風号が最寄り駅まで運行しています。
下関側だと最寄りのバス停がありますね。




