第漆拾壱話 未熟 ◼️
百地を追う望海と希輝は、城の中を縦横無尽に駆け巡っていた。
「(不味い、本当に人が足りない。白鷹達は児玉さん達の護衛についてるし、Dr.黄泉も圭太の治療をしてる。アタシ達、2人だけで本当にあの忍を倒せるの?さっき、かすり傷しか負わせられなかったのに?)」
希輝の心の中に不安と、恐怖が波紋のように広がっていく。
彼女の推測では百地を相手にするなら3、4人は必要だろうと考えていたのだろう。
そんな事を考えていたら、自然と足が止まってしまっていた。
「希輝さん?どうしました?」
「(浅間先輩だったらどう動いてた?もっと上手く出来てたのかな?)」
焦りながら下を見つめ、拳を握り締める希輝に望海は刀を鞘に戻した後、ゆっくりと近づいた。
「ちょっと、疲れちゃいましたよね。休憩しましょう。私は忙しいのが当たり前になってしまっているので、希輝さんに合わせるべきでした」
「違うの!...ごめん、望海。今、色んな事考えてた。考え過ぎてた。ずっと、コンプレックスだったんだ。頭デッカチなだけで経験の足りない自分が。未熟なのを知識で補おうとしてこれまで沢山の事をしてきた。でも、ダメだったんだ。現にアタシは浅間先輩を心の支えにしてる。3人でここまで来たのに、何も変わってない」
「そんな事、絶対にありません。でも、希輝さん達には今。浅間さんの力が必要なんでしょうね。朝からずっと参区内で包囲されて、精神的にも肉体的にも苦しいのでしょう。そんな時、頼りになる相手を欲するのはおかしな事ではないと思います」
そのあと望海は考えた後、突き放すようにこう言った。
「そんな状態でここにいられても迷惑です。希輝さん、貴女は自分がどう言う存在か何も分かってない。組織を纏めるのは浅間さんでも白鷹さんでも剣城さんでもない。紛れもなく貴女なんです。貴女が望む事をすれば良いんですよ」
「ありがとう、望海。ごめん、アタシ達2人で百地を相手するのは無理がある。すぐに壱区に行って応援を呼んでくる。その間、望海はどうする?」
「今の状況で狙われたらいけないのは児玉さんです。彼に何かあったらこの城がなくなってしまう。私は囮になります。その為の変装技能ですから」
そのあと、希輝はその場を後にした。
【コード:700 承認完了 狸の八変化を起動します】
望海は児玉の姿に扮した後、身を隠す事にした。
単身の状態で緊張感に包まれる中、無線機が鳴る。
「タイミング悪いな、誰だ?」
希輝が戻るまで、返答を無視しようかとも思ったが「001」の番号に望海は苦笑いしながらも応答した。
その後の事だ。浅間の元に希輝からの連絡が届く。
それを合図に旭は炬燵から立ち上がり、朱鷺田を呼び寄せた。
「トッキー、何で山鳥毛が使えなくなってるんだよ。コードエラーが出て鞘が抜けないんだ。この有事の時に」
「あぁ、そうか。コードを更新したから旭は使えないのか。後で落ち着いたら愛に同じように更新してもらえれば良いじゃないか。そんなに焦る事もないだろう?」
「旭、あの刀気に入ってたもんね。刀身がみどり君と目の色が似てるって、側にいてくれるみたいで嬉しいって」
そう言うと朱鷺田は頬を赤らめ、旭は谷川の口を塞ぎながら目を泳がせていた。
「そ、そうか。なら、あの刀は旭に任せるよ。それと旭、いや谷川お前達に相談したい事がある。これからの事だ」
その言葉の後、旭と谷川もそうだが近くにいた浅間も真剣な表情で頷いた。
「希輝ちゃん!」
「浅間先輩、お願いします。力を貸してください。望海が今、囮になってくれていて。すぐに戻らないと百地が」
無線で連絡を受けた浅間は朱鷺田達との中継地点である和田に来ていた。
信濃の方から悲痛の表情で向かってきた希輝を浅間は抱き止める。
心配した朱鷺田達3人も側にいたが希輝の表情を見るに状況が芳しくないのはすぐに分かった。
「浅間、すぐに参区へ行ってやれ。こっちは俺達で対処するから。もしかしたら、零央も要件が終われば其方に向かえるかもしれない」
「ねぇ、みどり君。肆区の人達って連携取れないの?あの会議の時も数人来てくれたじゃん」
「それは児玉さん達が壱区まで運んだから成り立ってただけで、足が無ければどうにもならない。比良坂町が全部開通したからと言って今から肆区まで歩くなんて事をしたら日が暮れるぞ」
「それはそれで面白そうだけどな。でも、現実的じゃないのは確かだ。済まないが、俺達は俺達でやる事がある。トッキー、角筈で良いんだな?」
「あぁ、流石に親父と鉢合わせるのは不味いからな。角筈にも行政施設が並んでいる。まずはそこで証拠集めだ。親父の知り合いもいるだろうし、俺の事を知る人もいるだろう。名前を出せば、入れてくれると思う」
浅間はすぐさま、希輝と共に参区へ向かう。
朱鷺田達も町長と軍との繋がりを探る為、角筈へと向かった。
騒がしい声が聞こえる角筈の街中を隠れるように朱鷺田達3人は移動しているようだ。
「あっ、そうだ。谷川さん、この前出た新刊買い忘れちゃったんだよね。あのデカい本屋寄っていい?あそこなら絶対あるって。良いな、あのカメラ欲しいな。あのキャラクター雑貨のお店も行きたい。良いね、角筈。谷川さんのオアシスだよ」
「鞠理のお気に召したようで何よりだ。知ってるか?角筈はな、1番多くの人が集まる場所って言われてるんだ。実際に沢山の運び屋が此処から依頼人を届けてる。俺達も此処を狙ってた」
「...でも、結局叶わなかった。俺は構わないよ、旭と谷川と一緒に運び屋を続けられるなら。お前達以上に大切な物は何もない。いや、自分を1番に大切にしなければならないのは理解しているつもりだけどな。でも、旭。お前はそうじゃないだろう?諦めてないだろう?朝日は幻じゃない、俺達の目の前に存在すると証明したいんだろう?」
そのあと、旭は穏やかな笑みを浮かべ頷いた。
「そうだよ。それにな、何も角筈という場所は俺達だけの物じゃないんだ。鞠理は面識がないかもしれないが、昔な俺たちの同期になる筈だった運び屋がいるんだ。今も“幻の運び屋”そう言われてる。この角筈の地で一緒に運び屋をする筈だった仕事仲間だ」
「成田阿闍梨、彼を寺から引き摺り出す。俺達の、比良坂町の本来の姿を取り戻すんだ。行くぞ、お前達」




