第漆拾話 手の内 ◆
「クチュン!」
「颯、体温が低くなっています。体調が悪化する前に室内に向かうべきかと」
そう言いながら、初嶺は颯に自身の上着を被せた。
北部の宇須岸へと到着した隼達3人は即座に偵察を開始し、その結果を待っているようだった。
「悪いな、初嶺。寒いのは得意な方だけどな、ここまで雪が降ると颯様でも耐えられねぇや」
そう親しく話をする2人を隼は少し離れて所から見守っていた。
「颯先輩が出した可愛い偵察隊、まだ戻ってこないんですけど。あんな小さい綿飴みたいな外見で大丈夫なんですか?」
「心配すんな、鳥は小さければ小さいほど警戒心が強いんだよ。それに柄長鳥は気性が荒い。ほら、きた」
そのあと、雪景色に紛れながら数羽の小鳥が颯の元へ戻ってくる。節子にも教えた柄長鳥達だ。
「3羽か、まぁ半分くらい戻ってこられれば上出来だな」
「...ザンギ」
突然の隼の一言に颯は呆れるような表情をした。
「おい、こら。隼、その発想力は音楽を作る時に活かせ。捕まった鳥達が唐揚げになったとか考えてるだろ。あくまでも、念力で作った化身だって颯様は教えたよな?また、一から教え直さないといけないかよ」
「失礼、颯。今、興味深い話が。貴方が隼に対して運び屋としての技術を教えたのですか?」
「そうだな。山岸から「年が1番近いし、担当場所も重なる事が多いだろうから色々教えてやってくれ」って言われたんだ。大技のカムイは俺が考案して、隼はそれを好き勝手にアレンジしてるって感じだな」
「颯先輩、その言い方やめてください。仕方ないでしょ、機動力を上げるには身軽にしないといけないんだから。弓なんか準備している暇ないんですよ」
そんな時だった、北部の中心街から見える位置に軍隊の姿が見える。位置的に大友だろう。
「来たか。隼、初嶺。お前たちも準備しとけ、戦の開始だ」
そう言いながら颯は弓を射る準備を始める。
【コード:005 承認完了 パヨカカムイを起動します】
その頃、不来方では山岸と小町が北部への偵察を開始していた。
【コード:005 承認完了 真偽の鶺鴒を起動します】
「出たの!寿ちゃんの広範囲、無限偵察」
「ウチは人も多いし、担当範囲も広くて大変でね。そのリーダーをやらせてもらってるから、目が回らないわけ。この中で本物はただの1羽。それが消えるまで何度も増殖し続ける。軍人様にはこの愛らしい鳥の目玉を射抜けるかな?それまで終わらないよ。小町、俺達の敵はもう分かってるよな?」
「勿論!小町達だって、望海達に良いとこ取りさせるつもりはないの。隼のいる北部の運び屋が1番凄いって所見せてあげなきゃ!」
「俺達だって、独自に調査を進めた。まさか、俺達の客の中に軍人様が紛れ込んでいるとは思わなかったよ。久堂雪道、おそらく奴が初嶺に武器を与えた張本人だ。もし、俺の考えが合っているなら久堂が北部の部隊に関わっている筈だ」
小町は今までに調査した彼に関する資料を読み込んでいる。
「間違いないの。これまで、隼は勿論。他のメンバーとも接触してる。完全に手の内が見えてる状態。寿ちゃん、どうするの?何か対策は?」
「ない!」
その威勢の良い返答に小町は呆れていた。
「ただ、イレギュラーがある。青葉がいる事だ。久堂は青葉の存在を知らない。それに隼達3人だって、未完成ではあるものの新しい武器を用意してる。これが、どう戦況に関わるのか実物だな」
「久堂伍長、相手が攻撃を開始しました!見えない攻撃に苦戦を強いられています!」
「心配するな、あれは氷見戸颯の【パヨカカムイ】だ。担当場所が変わったとは言え、松浪隼が来る以前は北部の顔だ。油断するなよ。エース級の奴がトリッキーな技を使う程、怖いものはないからな」
関所近くの指令部に各部隊に指示を送る久堂の姿があった。
伍長という立場ながら、北部やそこを担当する運び屋に詳しい事を理由に大きな部隊を任されていた。
「全斎准将の指示があるまで攻撃の手を緩めるな。北部は運び屋の数も多ければ、質も良い。朧の育成モデルとして選んだのは正解だった。相手にとって不足なし、一気に包囲しろまずは陸奥の方まで押し戻せ」
そんな時だった、伝令係が焦った様子で久堂へと近づいてくる。
「久堂伍長、大変です!初嶺が相手方にいます!しかも、我々と交戦中との事!」
その言葉に久堂は目を見開くも、当然の事だとすぐ平常に戻った。
「朧、お前にもようやく仲間が出来たのか。面白くなって来やがった。だが、完全に手の内が見えてる状態でお前に何が出来る?俺は見たいんだよ。お前がお前自身を越えようとする所をな」
「大丈夫よ、落ち着いて。地下に避難すれば安全だから」
その頃、千体では青葉が地下シェルターへの避難誘導をしていた。
この地域を担当する運び屋は山岸達以外にもいるが、地下専門となると2名しかおらず、多忙にくれていた。
「どうしましょう。寿彦さん達も側にいないし。この人数を裁き切れるかしら?」
そんな時だった。寒さに慣れていないのか?身体を震わせながら白に梅色のラインが入ったベンチコートを着込む男性がいた。
彼の名前は常陸、山岸達と共に千体を担当する運び屋の1人だ。
「大丈夫!大丈夫!こんなハプニングどうって事ないって。山ちゃん達は向こうで頑張ってるんだからさ。うぅ、千体さっむ!尻拭いさせられる身にもなって欲しいよ」
そう言われると青葉は苦笑いを浮かべる。
確かに山岸達も万能ではない。時にはトラブルに巻き込まれる時もあるのだ。
そんな時にいつも手を貸してくれるのが常陸、彼だった。
「私がいない間も寿彦さん達がご迷惑をおかけしました。そういえば、貴方も下総に行かれる事があるのよね。あの方、お元気?さっき、旭さんを見かけて思い出したの。私は面識がないのだけど、朱鷺田さんとも仲良しだったお寺の息子さんがいるって聞いた事があって」
そう言うと常陸は何かを思い出したのか、とある人物の名前を上げた。
「あぁ!妹なら協会で見た事あるよ。幻の成田兄妹の事だろう?兄貴の方は今も寺で引きこもってるんじゃないか?運び屋より、家を継ぐ事を選んだんだから今後俺たちと関わる事があるかと言われたら難しい話だと思うが。妹の実梨が活躍してるんだ。兄貴も運び屋になってたら凄かっただろうな」
「そうよね。旭さん達も彼と一緒に角筈で仕事がしたかったなって言ってたもの。光莉さんや児玉さんも彼に振り回されたらしいけど何だかんだ言って気に入っていたみたい。協会の地下に彼専用の部屋まで作ったんですって。寿彦さんが秘密基地みたいで羨ましいって言ってたわ。あらいけない。私も地下に行かないと」
そのあと青葉は住民の安否確認を行う為、地下通路へと足を進める。
しかしだ、何か不気味な音が聞こえてくる。
何かの呻き声のような生物の鳴き声が聞こえてくるのだ。
「...変ね?地下は防音な筈何だけど気のせいかしら?」
その正体が判明するのはこの騒動が終わった翌日の事になる。




