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鉄壁の運び屋 壱ノ式 ー三原色と施錠の町ー【完全版】  作者: きつねうどん
第十五章 旧知の友
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第陸拾伍話 枯葉 ◆

旭が自宅へと戻っている中、青葉は1人神社に取り残されるように立っていた。

冬になり、雪の重りで落ちていく葉達を見てまるで自分のようだと感じ取ったのだろう考え込むように俯いているようだった。


「...私だって、怪我がなければ今頃皆んなと一緒に」


そう言いながら彼女は右肩を摩っているようだ。

ただ、それ以上に自分の当時の行動を思い出した時それを悔いたりもせず。寧ろ、それが自分の運命だったのではないか?と思える程に納得している。


と言うより、その先に何があるのか?青葉には良く分かっていないようだった。

今の組織は青葉が在籍していた当時より変わってしまっているそんな中で活躍する相方の事を思い。無理矢理笑顔をつくっているようだった。


「私には寿彦さんがいるじゃない。今だって私の分まで運び屋を続けてくれている。それ以上に誇らしい事はないわ。私は彼を守ったの!人気だって私の方があったわ!なのに、どうして?」


どうしてこんなにも心が満たされないの?そう言おうとしたが自分には弱音は似合わないと堪えるようにしゃがみ込んでいるとドタドタと何かの足音がした。軍人達だ。

青葉は自分の口を慌てて塞ぎ、物音を立てないように静かに印の方へと足を運んだ。

移動場所は千体、愛の工房がある場所だ。


「やっぱり、何か可笑しいと思ったのよね。地下に住民が出入りしてるじゃない。寿彦さんは?此処にいないの?」


比良坂町には地下シェルターと呼ばれる避難所が存在している。千体にもそれは存在し、不安な表情を浮かべた住民達が水や食料を地下へと運搬しているようだ。


青葉も手伝いたい所なのだが、いかんせん先約がある。

まずは愛の待つ工房へと向かう事にした。


「...えっと。カルテも準備出来ましたし、時間も問題ないですね」


診療所では愛が懐中時計を開き、時刻を確認しているようだ。

その数分前には、初嶺が慌てて工房アトリエから出て行ったのを見て愛は違和感を覚えたが青葉の診察が終わってから理由を聞いても遅くないと思っていた。


予定の時間になると、ドアベルの音が鳴り響いた。

丁度、秒針が12時を指したと同時に青葉が中へと入ってくる。


「ごめんなさい、ちょっと遅かったかしら?」


「いいえ、ピッタリです。流石、青葉さん。引退されても時間は正確ですね」


「同居人が同居人だから、相手に時間を合わせないといけないし生活リズムもそこまで変わらないのかもね。ずっと、こんな感じだから」


山岸はメンバーの中でも朝一に仕事を受けている。

それ故に青葉の生活リズムも自然と彼に寄っているようだ。

しかし、青葉はいつも思う事がある。

リーダーとして相応しく、前線で数多の仕事をこなしその上、寝坊せず毎日決まったスケジュールで動いている夫にどうしてそんな体力があるのか?と。


ただ、それと同時にこんな夢を見るのだ。

満開の桜の木の下で山岸がいつもそれを見ながら眠りに耽っている夢を。

青葉はつい甘やかすように膝枕をしようとするがいつも山岸に拒否されている。

会話が成立しているのをいつも不思議に思っていた。


「では、予定通り定期検診ですね。奥の部屋へどうぞ」


初嶺を工房へ招き入れたあの日から、スペースの一部を彼が使用している。

決められた場所に道具が規則的に配置されているのを見るに彼の几帳面さが分かるだろう。

武器のメンテナンスを彼にお願いしているようだ。


2人は奥にあるカウンセリングルームへと足を運ぶ。

青葉は此処の雰囲気を気に入っているようで、リハビリが辛い中での小さな楽しみとなっていた。

そのあと、愛は青葉のカルテを確認しながら説明をする。


「黄泉先生の方から、伝言がありまして。腕や手の動きを見るに日常生活では問題ないと。ですが、運び屋業の復帰についてはやはり考えさせてほしいと承っています。どうでしょうか?何か日常生活で不便な事などはありますか?」


「今の所は特段不便に思う事はないんだけど。その、料理が出来なくて」


「包丁が上手く持てなかったり、細かな作業が出来ないという事ですか?」


「いいえ、そうじゃなくて。主人がやらせてくれないの。「危ないから」って全部自分でやってしまって」


「あー」


山岸は青葉に対してかなり過保護だ。

青葉も料理が出来ない訳ではない。寧ろ、知り合った頃は毎日のようにレシピを教えてもらい自分で出来るように練習にも付き合ってもらっていた程だ。


腕は山岸の方が上なのは否めないが、それでも手伝う事ぐらいは可能だ。しかし、それを彼がやらせてくれないのだという。

ただ、その思いを愛は理解しているようだった。


「無理もありません。大事な、大事な奥様ですからね。黄泉先生からも当時、生死を彷徨う程の重傷を負ったと聞いていますし神経に達する勢いで深く抉られたとも。私は担当医を後任している立場なので当時の状況は関係者に聞く事でしか掴めません。だとしても、自分の目の前で相棒である貴女が人魚に襲われたのを見たらトラウマを抱えるのも仕方ありません。過保護なのは、貴女を失いたくないと言う意思の現れだと思います」


青葉はいつも側にいてくれた彼の事を思い出し、確かに彼ならそうするだろうなと頷いているようだった。

しかし、それ以上に青葉は暗い表情になりながら遠くを見つめている。


「本当に貴女はそう思う?寿彦さんにとって私が大切な存在だって、相棒だって。それに心配しないで復帰したいなんて言わないから」


その言葉に愛は何も言えなかった。

だが、一つだけ言える事もある。

青葉の知らない所で山岸がどれだけ、思い詰めているのかを。

そして、本当は青葉は運び屋として復帰したいと思っている事も。

懸命なリハビリがその証拠だろう。


青葉の場合、肉体的と言うよりも精神的ケアが必要だと黄泉からも言われていた。

皆、過去の自分を責め続けている。

愛は何らかの方法で青葉に前に進んで欲しいと考えていた。


「青葉さん、引退してから皆さんに会いに行った事はありますか?」


「いいえ、行けてないの。どんな風に話したらいいのかわからなくて。近くまで行った事もあったけど、人がいないのを見計らって差し入れだけ置いて帰ったわ」


「偉い!」


「えっ?」


突然の愛の言葉に青葉は驚く。


「ちゃんと会いに行こうとした上で差し入れまでするなんて、青葉さんはやっぱり仲間思いな人ですよね。これからも続けてください。実は、隼さんが青葉さんに「お礼が言いたい」って言ってたんです。近々会えるかもしれませんね」


「いいのよ、お礼なんて。今の子はしっかりしてるのね。寿彦さんからは手がつけられないって聞いてたけど」


そう言いながら、青葉は優しく微笑んでいる。

組織の為に何かしたい。

その気持ちは今でも変わっていないのだろう。

もう一押しと言った所で、愛の無線機が鳴る。


「もう、いい所だったのに。折角、青葉さんの笑顔が見れたのに邪魔するなんて」


「愛先生、そんな事言ったらダメよ。私の事はいいから出てあげて」


その言葉に愛は頷き、通話を開始する。


「はい、こちらコード:926 東出愛です。急患ですか?」


「愛、こちら那須野だ。済まないが緊急事態だ。今から氷川に来てもらえないか?」


「えっ!?今からですか?理由をお聞きしても?」


戸惑う愛を心配したのか、青葉も彼女の近くまで寄ってきた。

やはり何かに巻き込まれたのかと、長年の直感が彼女をそうさせたのかもしれない。


「敷島の令嬢が誘拐事件に巻き込まれた。しかも、秋津基地から大量の軍が押し寄せてる。今、朱鷺田達とも協力して対応に追われている。負傷者も出るかもしれない。だから中継地点の氷川に来てくれないか?側には翼も一緒にいる」


「わ、分かりました」


こんな状況、イレギュラーな事態に愛は顔を青ざめていた。

黄泉の弟子として、担当地域を譲り受けたからと言って経験不足なのは否めない。

しかも、この場合黄泉も同じ状況に陥っており彼の手を借りる事も難しいだろう。

この大人数を1人で捌ききれるのか?愛は不安で肩を震わせていた。


そんな時だった。落ちそうなる愛の無線機を青葉が拾い上げ、会話を続ける。


「那須野さん、状況は?寿彦さんは側にいないの?」


「青葉!?済まない、山岸は不来方に行ってるんだ。人が分散してお互い連携を取り合うのが難しい。北部に敵が押し寄せてる。宇須岸より北に行ってる奴もいる状況で其方の対応で底一杯なんだ」


「宇須岸、随分と遠くまで行ってしまっているのね。ねぇ、千体の辺りは大丈夫なの?彼処は人が多い地域よね、避難誘導は?...ごめんなさい、行けない場所まで無理に言う必要もないわね」


青葉は確認も込めて、千体に人はいるのか?聞いているようだった。しかし、那須野もそうだが翼も担当外だ。

それ以上にこの異変に対処出来るのはベテランかつ千体を良く知る青葉しかいないだろう。


「いや、流石青葉だ。この状況下で冷静に分析出来てる。山岸の相棒はお前しかいない。皆んなそう言ってる。お願いだ、今回だけでもいい。手を貸してくれないか?青葉の力が必要なんだ。今、この状況で千体に行けるのは青葉しかいないんだよ」


「...そんな事、急に言われても」


戸惑う青葉に追い討ちをかけるように無線機から翼の声がする。


「青葉さん!俺からもお願いします!あと、差し入れのお菓子美味しかったんでまた買って来て下さい。勿論、お礼はしますから」


その言葉に青葉は笑みを浮かべる。

先程の旭の言葉の通りだと彼女は思った。

自分は誰かに必要としてもらいたい。

その思いが彼女の中に残っている限り、この思いが揺らぐ事はないだろう。

そのあと、いつもの調子を取り戻したのかこう続けた。


「ふふっ、私。男の子には容赦しないから。3倍返しでお願いね。待ってて、直ぐ愛さんと一緒に氷川に向かうから。それまで良い子で待ってるのよ?翼君」


「はい、喜んで!」


通話を終えると青葉は小さく溜息をついた。


「...さ、流石。山岸さんをも尻に敷く女王様っぷり。お見それしました。でも、こう言う時。経験豊富な青葉さんが側にいてくれて本当に助かりました。ありがとうございます」


「女王様なんて言わないで。先輩として、どういう風に接したら良いのかわからないのよ。じゃあ、行きましょうか?愛さん」

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