第陸拾肆話 籠城戦
「ただいま、おーい。2人とも帰ったぞ。いないのか?」
旭が自宅へ戻るといつもなら、玄関に駆けつけるか、寂しそうに待っている朱鷺田の姿すらも見当たらない。
「珍しい、2人で仲良くお出かけか?しょうがない、暇だしパチンコでも打ってくるか」
そんな冗談を言いながら彼が縁側に繋がる廊下を歩いているとある物を眼にする。
切れ目を見るに、刀なのだろう。それによって斬られた竹や藁の束が無数に散らばっているのだ。
これには旭も唖然とした。
「おいおい、庭の掃除担当俺なんだぞ。困るな、こんなに汚されたら。...切れ目が俺にそっくりだ。鞠理は斬り方が違うしな。とすればトッキーか。まぁ、荒削りな所はあるが実戦でも通用するだろう。珍しい、いつもは縁側に座って羨ましそうに見てくる癖に。やっぱり自分でやる方が楽しいよなそりゃそうだ」
幼馴染として、仕事の相方として朱鷺田を良く知る旭は彼が時折苦しみ、悩んでいる事を良く知っていた。
どうしても、何か我慢しているような抑圧しているように思えて仕方ないのだ。
「やっぱり離れて正解だったな。俺じゃあ、縁を活かせない。活かしてあげられない。いい意味でも悪い意味でも他人だしな。あぁ、そうだ。刀は何処だ?あと、メジャーも欲しいんだよな。トッキーの裁縫箱にあったと思うけど」
そのあと、旭は朱鷺田の部屋にズカズカと入り込み家探しをしている。
飾ってある刀を見つけ、それを手に取っているようだ。
しかし、刀は抜く事が出来ない。
コード入力が必要なようだが、何か問題が発生したようだ。
【コード:エラー 現在このコードは使われておりません】
「はぁ!?嘘だろ!?やめてくれよ、お気に入りの刀なんだ。抜けないのは困る!もうひとつのは...あぁ、ダメだ。鞠理の部屋にある。年頃の女の子の部屋に勝手に入るのはちょっとな。嫌われたら嫌だし」
そんな時、旭はある案を思いつく。
いつも修理を依頼している黄泉へ連絡してみようと無線機を手に取った。
「パパ、ゆかりおにいちゃんがれおのことよんでる。いかなきゃ。れお、いってくるね」
時刻は戻り拠点である洛陽にて、零央は朱鷺田から連絡を受けた所から始まる。
「やっぱり、壱区も人手が足りないか。聞けば誘拐事件も絡んでるらしいからな、皆混乱してるんだろう。こう言う時、精神的に強い旭やしっかり者の青葉がいれば状況は違ったんだがな。仕方ない、零央。皆んなの力になってやってくれ、気をつけてな」
「うん!」
零央はすぐさま水行川へと向かった。
「さて、玉ちゃん。もう、“あれ”しかないんじゃない?圭太君も翼と一緒で雪を用意出来るんだよね?まず、行動範囲の広い私達で参区と肆区の皆と連携を取れるようにしないと。節子お嬢様達を探すにしても私達少数じゃ無理があるよ」
「翼って言う人とは違うかもしれないけど、大方一緒だよ。ティムから教わったんだ。こう言う時って何が役に立つのか本当に分からないよね」
「ならまずは希輝さん達と合流しなくては。“無理矢理にでも”」
「希輝、窓から顔を出すな。敵に気づかれるぞ」
「ねぇ、剣城。今、一瞬人影みたいなのが見えたんだけど気のせいかな?...いや、気のせいじゃないな」
そのあと、白鷹が何か飛んできた物に気づいたのか2人の前に出る。
【コード:007 承認完了 クロヨンを起動します】
目の前に勢いよく流れる大滝が現れる、白鷹はそれに吸収された苦無を掴み取った。
「及第点と言った所だな」
そんな声を耳にした3人は自身に胸騒ぎがするのを感じとった。
しかし、その不安を吹き飛ばすような出来事も直ぐに起こった事も事実だった。
「おい、運び屋を見つけたぞ!追え!」
希輝達はその言葉に自分の居場所がバレたのかと思ったが、逃げてもいないのに「追え」とは言われないだろう。
「もしかして、望海達が近くに来てる?まさか、正面突破してきたとか言わないよね。いや、ベテラン勢がそんな事」
「いた!皆さん、説明は後でさせてください。まずは児玉さんの所に集まって!」
「...希輝、そんな事あったね」
「あぁ!!アタシの中の3人はもっとスマートにこの窮地を解決してくれると思ったのに、やっぱり脳筋だったか!!でも、そんな所も好き!!」
望海の指示の元ついていくと、児玉を中心に光莉と圭太がいた。
「望海、今から何をするつもり?」
「児玉さんはこの比良坂町で1番念力を持つ運び屋です。今から、彼の最高傑作をお見せします」
「よし、全員揃ったな。これを起動させている間、俺は城から出られない。無理矢理にでも城から弾き出されたら、それに連動して消滅する。意地でも俺を守ってくれよ」
「城!?でも、比良坂町に城なんかないですよ!?」
希輝が辺りを見渡しそれっぽい物を探すが当たり前のように見つからない。その言葉に児玉はニヤリと笑みを浮かべた。
「それを今から作るんだよ!」
【コード:700 承認完了 一夜城を起動します】
一瞬にして石垣、堀、城門が出来上がり今度は城の内部を形成していく。天辺の天守閣まで瞬く間に出来上がってしまった。
「児玉さん、練習した甲斐がありましたね。初めてではないですか?こんなに大規模な城を作ったのは?」
「本番で無茶するような事はしたくなかったんだがな。これなら、ある程度防衛は可能だろう。お前たち3人は今のうちに浅間の所に戻れ」
しかし、そんな言葉を無視して希輝は興奮した様子で金箔が張り巡らされた茶室を見ていた。
「児玉さん、こんなに映える物を見たら絶対に帰る事なんて出来ません!それにさっき、敵の奇襲を受けたんです。白鷹、さっきのやつ望海に渡して」
白鷹は先程手に取った苦無を望海に渡す。
その様子を見た圭太は何かに気づいたようだった。
「もしかして、百地が近くにいるのかもしれない。姉貴、僕はすぐさま天守閣に行って偵察と雪を降らせてくる。出来るだけの事はしないと」
「えぇ、彼はかなりの手慣れのようでした。正直、私達が束になって対応したとしても優勢に事を運べるかどうか分かりません。お願いします。どうか、共に戦ってはもらえませんか?」
「勿論!」
その一方で洛陽に残された黄泉は外からその巨城を見上げていた。
「本当に素晴らしいね。児玉だからこそ、成せる技だ。しかし、開発した僕はそれ以上に素晴らしい。僕も彼らの元に向かった方がいいだろう。合流しなければ」
そんな時だった、黄泉の無線に連絡が入る。
こんな緊急事態に何のようだと連絡先を確認すると、彼にとって今は見覚えのない数字が表示されている。
「200」の数字、これが何を意味するか黄泉にはすぐに分かった。
「何だい?珍しいね、君から話しかけてくれるなんて」
「黄泉先生、アンタの発明品。突然使えなくなったんだがどうなっているんだ?」
自宅で刀を握りしめながら、旭は首を傾げているようだ。
その刀の名は三鳥毛刀身が夕焼けのように赤く燃えあがる事から旭は朱鷺田の瞳を連想し気に入っている刀でもあった。
谷川の持つ刀は姫鶴一文字共に鳥を連想させる名前であり、元は朱鷺田が所有する予定だったが彼女が引き継いている。
それ故に、山岸から谷川姫と言われているようだ。
「君ね、僕の発明品にケチをつけないでくれるかい?機械にだって限界があるんだ。ましてや君は一線から退いた身だ。そう言うのは雑に扱わず、記念品のように保管しておくべきだと思うよ。青葉君を見習ってね」
確かに旭は秋津基地を探る為に何度も武器を壊しては理由を伏せた状態で黄泉に機械修理の依頼をしていた。
ただ、この件に関しては彼は無関係だが今までしてきた事を旭は思い出し。確かに自分らしくない。
かなりの無茶をしたと、自分でも驚いているようだった。
その証拠に何で自分が生きているのかと不思議に思うぐらい自分の身体の感触を確かめ、そのあと壊れるように高笑いをした。
「そうか!そうか!あはははははは!!それは済まない事をした黄泉先生!!ところでトッキーと鞠理が家に寄ってもいないんだ。先生知らないか?」
旭は自分の今いる場所を見渡し、軽く2人を探す仕草をしているようだ。
「無知なのは君の方だよ。折角だし、協会の方まで散歩してきたらどうだい?君の会いたい人に会えるんじゃないかな?旭君」
黄泉は勿論なのだが愛や初嶺も運び屋達の武器を同じように使う事が出来る。
彼は壱区のみを零央と同じナビゲートを使い、2人の居場所を旭に伝えた。
「確かに最近体が鈍って来てると思ってたんだ。ありがとう、黄泉先生。では、其方に向かうとするか」
「付け足しておくが、僕はもう壱区は殆ど弟子に任せているんだ。助けが必要なら其方に...切れた。本当に旭君はマイペースだね、人を巻き込むのが上手いというか。幼馴染とは言え町長の息子を運び屋に誘うぐらいだ。図太い神経がなければ不可能だっただろうね」
黄泉は呆れながらも笑みを浮かべていた。




