第伍拾漆話 早朝
「う〜ん、良し!今日もちゃんと起きられた!偉いぞアタシ!」
基本的に、各グループの花形役を受けている運び屋達は基本的に朝一の仕事を受けている。
しかし、隼は例外のようで山岸が朝一の仕事を受けているようだ。
だからこそ、周囲のメンバーから朝が弱いと言われてしまうのかもしれない。
希輝は6時にセットした目覚まし時計を押し、身支度を整えているようだ。
そんな時だった、無線機が鳴る。相手は剣城のようだった。
「良かった、目を覚ましたようだな。希輝、小坂に来てくれ。今すぐにだ」
理由もなく、突然言われた言葉に希輝は動揺する事なくすぐさま返答した。
「了解。あっ、そうだ。昨日はありがとね。剣城のお母さんが作ってくれたソースカツ丼めっちゃ美味しかった。今度、浅間先輩にも食べてほしいな」
そんな会話をしていると、後方から白鷹の声がする。
その様子に希輝は驚いているようだった。
「希輝、おはよう。今日は君が朝一じゃないみたいだよ。早く風間邸に来てね」
「まさか、白鷹にも先越されるとは。しかも、風間邸とか嫌な予感しかしないんだけど」
そのあと、彼女が小坂の風間邸に行くと何故か邸宅の玄関ドアが破壊され半開き状態になっていた。
剣城に案内される形で屋敷内に入ると中は暗く静寂に満ちていた。
「どう考えても可笑しいだろう?この状況。それ以上に人がも抜けの殻で家主の瑞稀さんがいないんだ」
白鷹が怪訝そうな目つきで【鬼火】を起動させると照らされた周囲はソファやテーブルが薙ぎ倒されている状態で何か家探しをされていたのか?棚の引き出しや宝石箱が開けっぱなしになっている。
その状態に希輝は目を見開き、腰が抜けてしまったのかへたり込んでしまった。
「窃盗?誘拐?ねぇ、これって望海達は知ってるの!?...いや、まだ時間帯的に弐区にいるか。アタシ達が1番乗りって事だよね?直ぐに浅間先輩に伝えないと」
場所は変わり壱区、同じく和田を担当する朱鷺田と谷川は伊乎乃の自宅にいた。
谷川は縁側から外の庭を眺めた後、朱鷺田のいる居間へと戻って来た。
「トッキー、雪降ってるよ。今年も谷川さんの季節がやってきたね」
「オールシーズン営業してもいいんだぞ」
「えっ、やだよ。トッキー、そこにある柿の種取って。谷川さんの好きなやつ」
2人で居間にある炬燵こたつに入りながら完全にリラックスモードに入っていた。
朱鷺田が煎餅やお菓子が入った器を谷川の方へ寄せると彼女はそれを機嫌良く頬張っている。
「トッキー、この前。敷島のお嬢さんから美味しいお菓子もらったんだ。凄い高そうな奴。また食べたいな」
「谷川!!あれだけお嬢さんに集るなって言ったのにまだやってたのか!?」
「いいじゃん。そうだ、またお屋敷に行ってもらってこよっと。谷川さん、運び屋になって1番いいなって思った事は丁度、お嬢さんの屋敷の近くに担当が振られた事なんだよね。寄ったら色々もらえるし、コーヒーもご馳走してもらえるし。うん、久しぶりに外に出たくなってきた!トッキー、行ってくるね!」
炬燵から立ち上がる谷川を見て、朱鷺田は慌てて身支度を整え一緒に玄関へと向かった。
「待て、谷川!!そんなに行きたいなら、俺も一緒に行く!!」
谷川に振り回される形で朱鷺田も敷島家の屋敷がある忍岡までやって来た。しかし...
「...なにこれ」
朱鷺田と谷川は目を見開き、唖然と屋敷の光景を見るしかなかった。
彼は目を泳がせながらも同時に頭を動かし、増援を呼ぶ為無線機に手を取った。
「...谷川、此処を動くな。山岸達に連絡する。アイツらならすぐ来れるだろ」
現場の状況を説明すると山岸や隼など他数名が屋敷の前に集まった。
門の前で倒れている警備員、割られた窓ガラス、中に入れば荒らされた痕跡のある部屋や家具の数々、完全に異常事態なのが目に入った。
「敷島会長!!」
そんな中、山岸が会長を見つけるも声が震え涙目になっている。
完全に放心状態といってもいいかもしれない。
ずっと、二階の廊下で這い蹲ばっているのが見てとれた。
「...節子が。...節子がいないの」
「「「「!?」」」」
それぞれ屋敷を隈なく探すも一向に節子の行方を探す事は出来ず、完全に皆怯え、恐怖し、小町にいたっては涙が止まらず呆然する他なかった。
そんな中だった、浅間が慌ててこちらへとやって来たのだ。
参区から希輝の報告を聞き、同じく増援をと思ったのだろう。
「山岸さん!朱鷺田さん!児玉さん達、こちらに来てませんか!?」
「浅間、今それどころじゃないんだ。敷島家の屋敷がメチャクチャで...」
山岸が説明しようとすると、なぜか話を止めようとする。
浅間はチラリと敷島邸の様子を見て、ある共通点に気づいたようだった。
「希輝ちゃん達が風間家の屋敷に行ったらこちらと同じような有り様だったそうで、御当主の瑞稀さんも行方が分からないんです。だから、児玉さん達にも捜索を依頼したかったんですけど」
その言葉に谷川は目を見開き、朱鷺田に目配せをする。
秋津基地の計画が最終フェースに入ったという事だろう。
町まで進行してきたという事は、運び屋との直接対決を所望しているという事だ。
「トッキー、これってもしかして」
「あぁ、名家を狙った連続誘拐事件。此処まで大規模な事が出来るなんて秋津基地以外考えられないだろ。どれだけ俺達の事を侮辱するつもりだ。御三家はこの町のシンボルだぞ。いや、この町そのものと言っていい」
町長の息子である朱鷺田がそう言うのだから比良坂町における御三家というのは偉大な存在という事が分かるだろう。
しかし、山岸はある予見を示し朱鷺田にある相談を持ちかけた。
「朱鷺田、もしかしたら今の状況。児玉さん達に頼るのが厳しい可能性がある。希輝達が参区に取り残されてるんだ。もしかしたら御三家を餌にして、組織がバラバラになった所を括弧撃破するのが目的なのかもしれない。それを俺たちは防がないといけない。少なくとも、児玉さん達と合流出来るまでは」
そういうと朱鷺田は深い溜息を吐く。
この中でのキャリアが長い2人は間違いなく山岸と朱鷺田なのだ。この2人が中心となって指揮を取らなければ組織は分散し壊滅してしまうだろう。
「山岸、覚悟は出来ている。曲がりなりにも運び屋を続けてきたんだ。旭からこの席を受け継いだ以上。俺は俺の責務を果たす。もう、逃げたりはしない。俺を頼ってくれ。俺もお前達の事を頼りにしてるから」
「良いな、旭が羨ましい。そうやって背中を預けられる存在がいて。俺はね、こうやって沢山のメンバーに恵まれてきたけどやっぱり時折寂しくなる時があるんだ。背中が寂しいんだ。どうしてなんだろうね?」
そんな時だった。山岸の無線機が鳴る。
他のメンバーが揃っているのに関わらずだ。
そう、青葉からの物のようだが山岸は出るのを躊躇っているようだ。
「良いのか?出なくて?」
「朱鷺田には分からないだろうけど、女の子と話をする時は緊張するんだよ。こういうのはワンコール挟むの」
「トッキーはほら、谷川さんの無線機を盗むぐらいには旭と通話するの好きだもんね」
「悪かったな」
それと同時に、今度は朱鷺田の方にも通話が入る。
同じく旭からのようでこの事態の異変に気づいたのか連絡を入れてきたのだろう。
朱鷺田は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「えへへ、旭からだ!向こうからかけてくるなんて珍しいな。...いや、これは今の俺たちの問題だ。旭だけに頼らずとも俺はやるぞ。まずは皆の力を貸してもらってからだな」
「おぉ!トッキー、成長したね。これは...もしかして」
そして、忍岡近くの氷川には2人の人影の姿があった。
同じく、無線機を手に持ち昔馴染みの相棒に連絡を試みるも返答がない旭と青葉はそれぞれ違うリアクションをとっているようだ。
前者は嬉しそうに笑みを溢し、後者は不安げな表情を浮かべていた。
4人は運び屋の職に就いて間もない頃、氷川にある歴史ある神社を待ち合わせ場所として選んでいた。
その為、2人はそれぞれ違和感を感じ此処にこれば相方がいると思っていたようだが当てが外れたようだ。
「なんだが久しぶりね、旭さんに会うの。懐かしいわ。引退されたって聞いたけど元気だった?」
「まぁ、ぼちぼち?マイペースにやらせてもらってるよ。でも、引退生活も退屈だしな。青葉、どうだ?俺とコンビを組んで運び屋として再復活しないか?」
「ふふっ、旭さんは相変わらずマイペースというかハイペースね。ついて行くのが大変そうだわ。お断りします。でも、嬉しそうね。朱鷺田さんが貴方の分まで頑張ってくれてるから?良いわね、思ってくれる人がいて。羨ましい」
「そうか?青葉は山岸に必要とされたいんだな。無線機越しで叫んだら良いんじゃないか?「寿彦さんの馬鹿野朗!!なんで私の気持ちを理解してくれないのよ!!」って」
そう言うと青葉は嬉しそうにこう続けた。
「違うわ「世界4大馬鹿野朗!!」よ。まぁ、でも。これ以上深入りするのはよした方がいいかもしれないわね。今日、愛さんの診察があって行かなくちゃいけないし。朝、近くの拠点を見に行ったら丁度皆んながゾロゾロ出て行くのを見て。可笑しいと思ったのよね、何か相談しているようにも見えたし。近くの神社に誰かいないかな?と思って来たら貴方がいた。復帰したいと言うならご勝手にどうぞ。私は貴方を応援するわ」
「じゃあ、勝手にやらせてもらおうかな?まぁ、でも俺もブランク持ちだし。トッキーに任せて、俺は気軽にやらせてもらうか。あぁ、でも自衛はしないとな。家に戻って刀を取りに行かないと」
そのあと、旭は自宅へと戻るのか?ヒラヒラと手を振りながら青葉の元から姿を消した。
そんな中、当の秋津基地内部でも鶴崎派の人間は全斎の所業に頭を抱えていた。
「星野、まだ人質は見つからないのか!?」
「申し訳ありません、鶴崎少将。無線の妨害を受け、本物の情報が本部へ届かないよう細工をされているようです」
「富士沢、お前は今すぐ比良坂町の第弐区へ迎え。彼処に私の知人がいる、私の名を出せば良くも悪くも話を聞いてもらえるだろう。名は東望海、優秀な運び屋だ」
その言葉に富士沢は基地であった少女の事を思い出した。
きっと、いや絶対に彼女の事だと彼は確信した。
「はっ、了解致しました!」
富士沢はすぐさま、鶴崎が所持する門から比良坂町のへと向かう事にした。
《解説》
希輝が言っていたソースカツ丼は福井県のソウルフードですね。カツが一枚一枚薄くて、パリッとしているので美味しいんですよ。
普通サイズでカツが3枚乗ってて食べ切れるかな?と最初食べた時に思いましたが案外ペロリといけるんですよね。
前回の福井旅行の続きなんですが、折角なので敦賀から東京までフルで乗りたいと思って、帰りはそれで乗ったんですが当日、軽井沢〜佐久平間で倒木があって1時間ぐらい長野駅にいて最終的に+80分遅れで東京に着きました。
グリーン車を取ってたので逆にありがたいというか別に良いんですけど、普通車だったらきつかったかもしれませんね。
大体15時過ぎから20時まで乗っていた事になるので約5時間ですか。1番最速の「のぞみ」で約4時間50分で東京ー博多間を移動出来るので北陸新幹線は東海道・山陽新幹線だった?
まぁ、間違いなく東京ー新函館北斗間は超えてますね。




