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鉄壁の運び屋 壱ノ式 ー三原色と施錠の町ー【完全版】  作者: きつねうどん
第十二章 これから
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第伍拾弐話 理解 ◯

「姉貴、どうしたの?食べないから、僕貰ってもいい?」


とある日の夜、望海と圭太は共に夕食をとっているようだが何故か彼女の手が止まっているようだった。

望海は鶴崎との出会いから彼に対してどう受け止めたら良いのか分からないでいた。


「...少し、考え事をしていまして。姉を売られた弟の気持ちというのはどう言う物なのでしょうね」


「...」


数ヶ月前より姉弟2人で食事する事が増え、圭太は喜んでいたが暗い顔をする望海を見るとぎこちない空気が漂うのは相変わらずだった。

望海は鶴崎の悲惨な過去から相手の事を理解したいと思考を巡らせているようだった。


「ちょっと圭太。黙るのはやめてください。なんだか私が悪い事をしたような気分になるのですが」


「考え事をしてただけだよ。僕の壮大な計画聞く?」


「やめておきます。嫌な予感がするので」


夕食を終え、自室に戻り調べ物をするように本棚から何冊か取り出すが数ページめくっただけで望海は直ぐ元の位置に戻してしまった。

知識を得て、視野を広げる。そんな事をしても彼の全てを知ることは絶対に出来ないと彼女は悟ったようだ。


「...明日、肆区の方に行ってみようかな」


その言葉に望海は自分でも驚いていたが、自分の状況を考えると動かすじっとしているよりも他の人に自分の悩みを聞いて貰いたいという気持ちの方が強かったのかもしれない。


それは身近にいる圭太や児玉、光莉ではなく物理的に距離の遠い人達に自分にはない答えを欲しているからなのだろう。

その答えを持ってる人物は、翌朝。

母親が開業している診療所の庭で紫陽花の手入れをしていた。


「あら、紫紋。水やりしてくれたのね。ありがとう。今日も綺麗に咲いてるわね」


母親と共に優しい手つきで花を触る海鴎は彼女にある提案をした。


「ムッティ、この幸せを私達だけで独り占めというのは些かこの花達が不憫に思います。どうでしょう?七星様のお宅に持って行ってもよろしいでしょうか?」


海鴎が花束を持ち七星邸に向かうとそこには既に3人と1頭の犬がいるという状態だった。

海鴎は3人と面識がなく、戸惑いもあったがその空気を1頭の犬が全てを切り裂いた。

人懐っこい性格なのか?海鴎に寄り添うように近くに寄ってきたのだ。


「ダメです。このお花は食べられませんよ。わわっ、顔を舐めてはいけません!」


彼が犬の対応に戸惑っていると中型犬にも関わらず軽々しくひょいと持ち上げる大柄の男性がいた。そう咲羅だ。


「珍しいな。ツンが俺達以外に懐くなど。お前も運び屋か?」


「あっ!?燕知ってる!もしかして、海鴎さんの息子さんだよね?その顔立ち、噂で聞いた事あるけど本当だったんだ!」


海鴎の様子を見て燕もそうだが、側にいた瑞穂も嬉しそうに彼らへと近寄る。

屋敷の庭が騒がしいのを見て、亘は外に出て皆に声をかけた。


「皆、楽しそうだな。家の主人達に目もくれないとは」


「あっ、亘君。ごめんなさい。でもほら、嬉しいじゃない?新しい仲間に出会えたんだもの。海鴎君って神秘的な容姿をしてるし。ねぇねぇ、お母様ってどんな人?やっぱり貴方と似てるのかしら?」


「もう、ダメだよ瑞穂。そんなに質問したら海鴎君が困っちゃうよ。ねぇねぇ、なんでお父さんと一緒の運び屋になろうと思ったの?やっぱり世襲制?」


そんな事を言いつつ、質問攻めをしている瑞穂と燕を見て咲羅は呆れたように溜息をついていた。


「済まないな。海鴎の事が珍しいらしい。2人共、もうすぐ業務再開だ。行くぞ」


「もう、咲ちゃんったら。あっ、亘君。この綺麗なお花。屋敷に飾らない?海鴎君が持ってきてくれたんですって」


そのあとも、屋敷の中で皆楽しそうに会話をし。

終えた頃には海鴎も半ば放心状態で、良い意味で疲れてしまったようだ。


「皆様、親切な方ですね。私の事も受けいれてくださって」


業務に戻る瑞穂達を見送りながら海鴎は亘にそう呟いていた。


「そうだな。特にこの状況下。目紛しく変わる比良坂町で頼もしい仲間に出会えた事は喜ばしい事なんだ。しかも、君の方からこうして訪れてくれた。それ以上に喜ばしい事はないよ」


「...私はただ。神の言葉に従っただけです。褒められるのは私ではない。受け入れらえるのも」


「君は謙虚なんだな。良いじゃないか、その神も君を構成する一部だ。上手く利用すれば良い。しかし、瑞穂達も元気だな。君を困らせるぐらいには。少し一息つこう、お茶はお好きかな?」


そう言いながら、亘は海鴎を茶室へと案内する。

この屋敷の茶室は立礼式のようで、椅子に座りながらお茶を楽しめるようだ。

亘が器具の準備をしていると、玄関の方からドアノック音が聞こえてくる。


「どなたでしょうか?皆さん、業務に向かわれたのでは?」


すると、亘はある人物の存在を思い出し海鴎にこう告げた。


「君にも紹介しておこう。筑紫には瑞穂達だけじゃなく他の運び屋達も集まるんだ。今の時間帯なら彼女かな」


そう言いながら亘は玄関の方へと向かっていった。


「ごめんください」


そう、望海が七星家の屋敷の扉をノックすると亘が対応してくれた。


「ご機嫌様、望海。君と会うのは久しぶりだな、任務の帰りかな」


「はい、近くに寄った物ですから挨拶をしておきたくて。あの、他の皆さんはいらっしゃいますか?」


チラリと屋敷の方を除くが、亘は首を横に振っているようだ。


「申し訳ない、生憎任務で出払っているんだ。でも、丁度良かった。君に紹介しておきたい人がいてね。今、茶会を開いている所だったんだ。なに、足を崩して貰っても構わないし菓子も僕の方で用意してある。生憎、君の好きなアイスはないけどね」


「亘さんも私の事を揶揄わないでください。ですが、紹介したい人と言うのは気になります。是非、ご一緒させてください」


亘に案内され、廊下の奥にある茶室に通されると確かに望海と面識のない青年がいた。

しかし、海鴎は知っている。人々の噂話や神の言葉によって。

望海の顔を見た瞬間、彼女が何か問題を抱えている事に気づいたようだ。


「七星様、迷える子羊を私の元へ連れてきて下さったのですね。いいえ、違いますね。望海様が自らここを選び、私達の元へ来てくださったのでしょう。これは運命でしょうね」


中々、望海には聞きなれない言葉の数々に困惑していたが穏やかな笑みを浮かべるに彼は悪い人ではないのだろう。

狼狽える望海が、先程質問攻めにされた自分のようだと海鴎は笑みを浮かべているようだった。


「自己紹介が遅れました。私の名は海鴎紫紋、しがない運び屋をしております」


「シモンさん?変わった響きのお名前ですね?ご両親が名前をお考えに?」


「海鴎は異国の宗教を信仰しているんだ。母親の影響でね」


「はい。私の母は異邦人として医学をここ比良坂町に教授しようと考えていました。それと同じく信仰していた宗教も同様にです。そのあと、若き日の父と出会いここで神に永遠の愛を誓い私が生まれました」


「海鴎とは母君の診療所を通じて知り合ったんだ。こちらではDr.黄泉の治療を受ける事が出来ないからね。運び屋の治療も受け入れてくれる大切な場所だ。本当に感謝しているよ」


「母も喜んでいます。診療所の休憩室に簡易的な礼拝所を設けたら任務の前に神に祈りを捧げる方が多いそうで、同士が生まれるのは誠に喜ばしい事です」


「何と言うか、独特な世界観をお持ちの方なのですね。私が今まで出会って来た方々とも違うような。不思議な感覚です。海鴎さんは今日はどうしてこちらに?」


亘がお茶を立ててくれると言うので、望海は海鴎の隣に座り彼と話を始めた。


「私は以前、人と会う事を拒んでいました。信じる物が違う事は私も周知しております。周りから反感を買うことも覚悟の上で神に支つかえて参りました。ですが、少しだけ寂しくもあったのです」


「それは理解してくれる方がいなかったからですか?」


その言葉に海鴎は首を傾げる。

自分にその気持ちがあるのか彼自身も疑問に思ったのだろう。

次の言葉を望海も同じく首を傾げながら待っていた。


「どうなのでしょうか?確かに理解者はいた方が良いと言うのですが、私の全てを理解出来る人はいないでしょう。きっと、そうではないのです。例え分からなくとも、理解しようと努めてくれる姿に私は心撃たれるのかもしれません。七星様や他の皆様のように私を知りたいと思ってくださる方がいる事に安堵しているのです」


「確かに無関心ほど残酷な物はありませんね。...あの、性別も、年齢も、生き方違う方に対してどう向き合えば良いのか分からないのです。分からなかったとしても、理解しようとする姿勢を見せる事が大事なのでしょうか?」


そんな会話をしていると亘の立てたお茶が2人の前に差し出される。

海鴎は場慣れしていないのか、次の一手を考えているようだ。


「こう言う時は「結構なお手前で」と言うのでしょうか?」


「私は昔、茶道を習っていた事があるのですが「美味しく頂きました」と言うようにと先生から教えられた事があります。いずれにしても飲み終えた後の話ですけどね」


「望海はこう言う物に詳しいな。君の家は確か歌舞伎を生業としている所だったか。こう言った事を昔から叩き込まれてきたのか?」


「亘さん程ではありませんよ。貴方のように優雅に手際良く出来ませんし、ならっていたのもほんの数年ですから殆ど忘れてしまいました。でも、その時間が無駄だったとは思っていません。今はやめてしまいましたけど、複数の習い事を通じて学んだ事は沢山ありますから。今でも先生とは町内で会話する事もありますし」


そのあと、亘は海鴎と望海を交互に見やる。


「どうしたのですか?七星様?」


「いいや、そういえば2人には”海“という文字が使われているなと思って。僕は肆区から出た事がないんだが、他の場所からは海は見えるのかなと思って。写真越しでしか見たことがないから気になって」


「いいえ、他の区も同じように海なんて見えませんよ。でも、おかしいですね。確かに池や川はありますけど、比良坂町に海はありませんからね。昔両親から名前の由来みたいな物を教えてもらったような気がするのですが忘れてしまいました」


お茶会が終わった後も、時間が許す限り望海は七星邸で過ごした。

そんな中、亘がある資料を持って来てくれたので3人で閲覧した。


「以前、望海達が緊急会議で瑞穂達を壱区へ連れて行ってくれただろう?その内容から秋津基地に関する手がかりを僕なりに調べてみたんだ」


「何か分かったんすか?」


「望海様は音無様をご存知ですか?彼は元々肆区の出身だったそうなのです。それと共に母親は人魚で、所謂人魚と人間の混血児だったと残っていた僅かな資料から知る事が出来ました。混血児というのは比良坂町では珍しく、避難を浴びる事もあったでしょう。音無様だけではなく、他の混血児も同様無戸籍の状態だったと」


「比良坂町の生まれなのに、居場所もなく町を追い出され軍が彼らの居場所になった。だからなのでしょうか?ここだけの話、鶴崎真紅郎が壱区に顔を出したのです。自分はここで生まれたとそう言っておりました」


その言葉に亘は悲しげな表情を浮かべた。


「皆、故郷を思い。帰りたいと願っているのにそれが出来ない。そうなった時、彼らの立場を考えたら二つに行動が絞られるだろう」


「私達と共に、ここで暮らす。所謂、調和を目指す。...それか、私達を殺してまでここの居場所を奪う。まさか、鶴崎が前者で全斎が後者の行動をしていると言う事ですか!?」


「有り得ない話ではありません。彼らもまた、考え方の違いで対立しているのでしょう。音無様が今、どういう立場におられるのかは検討が尽きませんがもし、後者の考えを持ち比良坂町に来るのなら」


「あぁ、間違いなく。彼は肆区へ戻ってくるだろうな」


そのあとの事だ、海鴎がとある場所に望海を連れて行きたいと言うので同行する事にした。


「いつも、疑問に思っている事が有りまして。ここの楼門、4つしか干支がないのです。膨大な範囲をお持ちの望海様なら何か分かるかと思いまして」


その言葉に望海は目をカッと見開き、海鴎の方を見た。

しかし、彼は首を傾げている。


「成る程、貴方が最後の仲間だったんですね。海鴎さん、私達の集まる協会の天井には8つの干支があるんです。貴方がいてくれて本当に良かった。これで全部揃ったと言う事ですね」


そう言うと海鴎はポッと顔を赤らめる。


「や、やめてください!私は神に使える身!世帯を持つつもりはありません!望海様も破廉恥な言動はお控え下さい!」


「...え?えぇ!?そんな意味で言った訳ではないんですが。は、はぁ。以後、気をつけます。...なんか、凄い純情な人だな。翼も中々のチェリーボーイだと思ったけど。それ以上かも」


そのあと、遠く離れた壱区で翼がくしゃみをしたのは言うまでもない。

《解説》

以前から登場している楼門のモデルは佐賀県にあります武雄温泉楼門ですね。

東京駅駅舎もデザインされた辰野金吾が設計された物です。

なんか運命的な物を感じますよね。

最古と最新の幹線の起点駅が合わさると全ての干支を揃える事が可能になるんですよね。

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