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鉄壁の運び屋 壱ノ式 ー三原色と施錠の町ー【完全版】  作者: きつねうどん
第十一章 過去と今と未来
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第伍拾話 工房

「...えっと。それで本当に私の助手になるんですか?本当に?冗談ですよね!?」


初嶺はあの後、愛と待ち合わせをする為。千体へと来ていた。

愛は彼の治療が終わり、自身の工房(アトリエ)、黄泉の研究所と同等の場所へ帰ろうと思っていたようだ。

彼は冗談ではないと言いたげな様子で首を横に振った。


「協会からのご厚意で、生前両親が暮らしていた住居は見つける事が出来たのですが、長年人が暮らしていなかったせいか猫屋敷と化しているようで。直ぐに住める状態ではないので愛さんの助けをお借りしたく」


「あぁ、分かりました。黄泉先生に同じ事を相談したらそう言われたんですね。「愛君に頼みなさい」とか言われたんでしょう。というか、猫屋敷ってもしかして近くにある。あの非対称の家ですか?デザイナーズハウスみたいな」


「良くご存知ですね。私の両親は独特の感性を持っているようです。ですが、思ったより居心地が良いと言いますか暮らしやすいですよ。猫にも名前を付けて遊んでいます。「アローキャット」と「ストリームキャット」如何でしょう?」


その言葉に愛はまるで頭痛が痛いと言われているようだなと思った。


「それってキャット要ります?アローとストリームでいいのでは?と言うか、マジか。まさかお隣さんだとは思わないじゃん!立派だけど、誰も住んでないなと思ったら。でも良かったですね。帰る場所があって。比良坂町は空き家が多くて、時々不安になる時もあるんですけど、こうやって貴方の事を待っててくれる家がある。それって素敵な事ですね。猫もいるみたいですし」


「えぇ、大切な家族だと思って一緒に過ごして行きたいと思います。ですが愛さん、問題は解決していません。私の任務達成の為にもどうかご協力を」


こう聞くと、初嶺が軍隊出身の人間である事が良く分かるなと愛は思った。

彼女は渋々、自分の工房へと案内する。

赤い屋根に白い壁、近所の子供達には人気のようでまるで西洋の絵本から飛び出してきたようなファンシーな家と良く言われる。

隣が近代的な初嶺の自宅と相まって、より非現実性を際立たせている。


「とりあえず、中にどうぞ。基本的な設備は黄泉先生の所とそう大差ないと思います。向こうはとっ散らかってますけど」


非現実感のある外見に対して、内装は近代的、寧ろ比良坂町では最先端の設備を揃えているようだ。

室内には複数の監視モニターがあり、愛の担当範囲が映し出されている。

ただ、患者がリラックス出来るよう診察室やカウンセリングルームには木製の家具や観葉植物などが置かれている。

愛なりの心の気遣いなのだろう。


「ここまで外見と内装が違うお宅も珍しい。愛さんは機能重視の方のようですね」


「あはは、良く言われます。でも、私はこの工房を気に入っているんです。普段は私しか出入りしませんし、仮眠室や大きめのソファもありますから寝床には困らないと思います。それ以上に私、初嶺君のお宅が気になり過ぎて。ほら、窓から毎日のように見えるでしょう?気にならない方が無理ありますよ」


その言葉に初嶺は少し考えた後、少しだけ愛に自分の家を案内する事にした。

家の玄関を開けると緑色の首輪をつけた2匹の猫が出迎えてくれる。両方とも珍しい三毛猫のようだ。


「アロー、ストリーム。出迎えご苦労、愛さんに失礼のないように」


愛らしいなと彼女は思うものの、2匹の名前に違和感を覚えたようで初嶺に声を投げかける。


「三毛猫って、殆どメスの筈では?いや、待ってください。まさか」


「えぇ、両方ともオスの三毛猫です。通常、三万分の一の確率なのですが。私は運がいいようだ。他の猫達は保健所や引き取りたい方にお譲りしました。ですが、この子達はどうしても自分の手元に置いておきたくて。貴重な存在は時として周囲を狂わせ、不幸にしてしまいますから」


「確かに、高額で取引されるなんて言いますもんね。なんと言えば良いのでしょうか?この子達はまるで私達みたい」


そう言いながら愛は優しい手つきで猫達を撫でている。

しかし、ふとある人物を思い出し彼女は動きを止めた。


「でも私達は幸せものですね。黄泉先生という優しい飼い主に出会えましたから」


「Dr.黄泉を飼い主と呼ぶのは些か失礼では?恩師と呼ぶ方が正しいように思えますが?」


「いいえ、飼い主ですよ。あの人は全然、自分の部屋も片しませんし、何日も会ってないなと思ったら研究に没頭して飲食もせず餓死寸前になってたり。基本的に生活能力がない人なんですあの人は」


そう言うと初嶺は珍しくフッと静かに笑った。

彼にとっては、黄泉は医学に精通し自分の事を救ってくれた愛と同じく命の恩人とも言える存在だ。

そんな黄泉の意外な一面を聞いて、嬉しくなったのだろう。

自分が運び屋の仲間の輪にいる事を実感出来たからだ。


「では、このように毎日。私達が飼い主の顔を見に行かなければならないようですね。いつ倒れてるかもわからない訳ですから」


「えぇ、是非お願いします!」


《解説》

初嶺の両親並びに猫達の元ネタですが、新青森延伸の際に短期間ではありますが運行していました「E954 FASTECH 360 S」ですね。

試験車両という事で1号車、8号車の先頭車両の形状が異なっておりそれぞれ「アローライン」「ストリームライン」と呼ばれていました。猫の名前の元ネタですね。

何故そもそも、猫なのか?というと付属していた空力ブレーキの形状がネコミミと呼ばれていた為ですね。


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