第肆話 追跡 ◾️
場所は壱区の信濃、とあるアパートの階段を駆け上がり自身の本拠地に戻ろうとする運び屋がいた。
彼女の名前は浅間遥奈、ハーフアップにした黒髪のロングヘヤーに紫色の瞳。赤い口紅が印象的だ。
赤いブラウスと黒いジャンバースカート、この服装を見るに赤色がお気に入りなのかもしれない。
年齢的に二十代前半に見えるが、口紅も合わさってより大人っぽい。外から見れば自立した女性にも見えるだろう。
とある号室の扉を開けると既に、一人の少女がいた。
浅間に反して、此方は派手な金髪の柔らかそうなツインテールに青い瞳。
指先の爪も重そうな黄色のネイルと同じ色のグローブをしているようだ。
黒のインナーに濃い空色のジャンバー、白のショートパンツとまさに若者ファッションの代名詞とも言えよう格好をしている。
「あっ、浅間先輩!おかえりなさい!そうだ、今日の売り上げ額まとめておいたので後で確認お願いします。明日、朝一で提出して来ますから」
入室して早々、今日の決算報告の書類を見せられた浅間は苦笑いを浮かべた。
別に彼女の行動が迷惑だとか、そう言うのではなく逆に優秀過ぎるのだ。それは彼女に限った話ではない。
成瀬希輝、外見からして派手で浅間と正反対に見えるが彼女、中々の切れ者だ。
計算能力に長け、算盤一つで軽やかに答えを導き出してしまう。実際に彼女専用の机には年季の入り使い込まれた算盤があった。
しかも、ネイルをしたその重そうな爪で行うのだから浅間は毎度感心していた。
「ありがとう、希輝ちゃん。そう言えば、角鹿の件どうだった?協会に申請出来そう?」
角鹿、比良坂町の地名のひとつなのだが、運び屋達にはそれぞれ担当場所というのが存在している。
これは個人やグループによっても異なり、例えば浅間は壱区のみだが希輝は壱区と参区の範囲を担当している。
もし、四つ全区を担当する運び屋となってしまったらそれはもう限られてしまう。その数、たったの三名。
しかもこの三名、かなり多忙を極めておりキャリアも長ければ顧客の信頼も厚い。
特に皆が口にする望海は、運び屋の顔的存在でもあり容姿、性格も相まって老若男女に好かれている。
とりあえず、彼女にまずは相談してみようという町民も多いのだ。
希輝はその三人の負担を減らすのは勿論だが、ある人物の行方や情報を探すために此処から更に行動範囲を広げようとしていた。
運び屋達は勝手に好きな範囲でビジネスをする事は出来ない。必ず所属団体への申請が必要とされている。
彼女は輝く笑顔と共に両手でグットサインを作っている。
「はい!もうバッチリ!白鷹や剣城と一緒にプレゼンしたら敷島会長も驚いてて。拍手をもらいました」
その話を聞いて、浅間はクスッと小さく笑った。
同じ仲間である白鷹蓮夜、剣城遼馬は希輝と同じ高校の同級生で、同じく運び屋をしている。
彼らもまた、以前は一人で運び屋業をしており何でも卒なくこなす浅間の助けなど要らない程、頭脳明晰で仕事も淡々とこなしていく。
まだ、デビューして間もない若手の部類に入るのだが期待の新星としてのポジションを確立していた。
そんな彼女らの目標は望海達三人だ。
それは共通認識として存在しているだが希輝個人としてはある人物の事を気にかけ、その行方をおっていた。
「...これで少しは旭さんの手がかりが掴めればいいんだけどな。あの、朱鷺田さんや谷川さんに会いましたか?浅間先輩でも難しそうですかね?」
希輝は悲しそうな顔をしながら浅間に問いかける。
ダメ元で聞いているのが分かる口ぶりだ。
しかし、希輝も必死なのだろう。浅間もなんとか手伝ってあげたいと言う思いがあった。
「ごめんなさい。中々2人に会う機会がなくて。協会もそうだし会議にも普段来ないから。私でもどうする事も出来なくて」
「そうですよね。浅間先輩、ありがとうございました。もっと範囲を広げるべきかな。参区の小坂まで行けたら聞き込みも出来るだろうし」
参区には小坂という中心街、人が集まる地域というのが存在している。
他にも弐区の那古野や肆区の筑紫などもあるが希輝達では小坂でも厳しいだろう。
念力の強弱があるのは以前に伝えたが、どうしても血統は勿論。運び屋としてのキャリアによって行動範囲が限られてしまう事も多い。
純粋な赤い血でもなく、キャリアが浅い希輝達が出来る事は限られてしまう。正直、角鹿まで範囲を広げている時点で既に優秀以上の成果を上げている。
「希輝ちゃん、焦る気持ちはわかるけど無理をしないでね。方法は幾らでもあるし、範囲を広げるのは身体にかなりの負担をかける。違うアプローチも考えてみましょう」
「そうですね。はぁ、あの壁がなければ戦闘のリスクも無くなるし万が一無理をしてもなんとかなるのにな。白鷹や剣城に無理をさせられないし、今はチャンスが来るのを待つしかないか」
そうやって冷静な判断が下せる彼女に浅間は安心感を覚えていた。
同じ年頃に望海や隼と派手な運び屋もおり、希輝もその中に加えても遜色ないだろうと浅間は考えていた。
その全てを受け入れてくれそうな輝く笑顔と優秀な頭脳はきっと、いや絶対に今後必要となってくるだろう。
希輝や浅間が一緒に拠点の内部を見ていると、全体的に片付いてはいるのだが様々なジャンルの物があるなという印象がある。
基本の四人の作業机にはノートや教科書、参考書など勉強道具が置かれている。
希輝達は学生なので、学業に邁進するのは大事ではあるのだがこの三人はいつも定期テストで上位に入る程の勉強ガチ勢でもある。
その証拠に壁際にある黒板には難しそうな数式や、本棚にも難解そうな分厚い参考書もある。
他にも恐竜の置物や図鑑があるがこれはそれを好む剣城の私物だ。
それとは打って変わり、バスケットボールやそのゴールも存在する。
白鷹は文武両道で、勉強もそうだがバスケや野球経験もある。
かなりの剛腕のようで、同じく野球経験のある山岸でさえキャッチボールを躊躇う程だった。
希輝の見つめる先には黄色、紫とカラフルなネイルが並んでいる。
彼女は甘いものとお洒落が大好きで、良く色々な所に行って甘味巡りをしている。
特に和菓子は祖父母が店を営んでいる事もあって、自分で作ってみたり、祖父母と一緒に新商品を考えたりと積極的に店の手伝いをしている。
旭に出会ったのもそれが関係している。いつも、笑顔で嫌がるような素振りもなく原材料の運搬や配達も心良く受け入れてくれた旭にいつも感謝していた。
やはり、運び屋は人もそうなのだが美術品や工芸品と貴重な物を運ぶ。いわば派手な仕事を皆やりたがる。
希輝も運び屋になりたての時はそうだったし、今もその気持ちは強い。しかし、その度に旭の凄さを噛み締める時がある。
どんな依頼でも関係なく、平等に大事に運んでくれる存在は中々探してもいる物ではない。
だからこそ、お礼を言いたいのだがそんな肝心の彼がいないのだ。
同業者になり相手の懐に飛び込み、機会を得ようとするが中々旭は勿論他メンバーですら接触できていない。
朱鷺田縁、谷川鞠理この二人は現場もそうだが所属する協会ですら顔を出さない。
本当に閉鎖的なグループで、身内だけに心を開いていると言った状態だ。
旭相手だから谷川は軽快に連絡を取り合っていたが外部の人間ともなると難しいだろう。
「じゃあ、浅間先輩。アタシはこれで失礼します。二人は尾山にいるみたいなんで、ちょっとそっちの様子を見に行ってきます」
「分かったわ。じゃあ、帰りも気をつけてね。また明日」
希輝が尾山の到着すると、湿度が高く曇り空になっている事に気づく。尾山は雨が多い。
希輝もよく母親から「弁当は忘れても傘は忘れるな」と口を酸っぱく言われていた。
黄色い折り畳み傘を差し、歩いていると赤い傘を持った青年を見つける。
彼女は軽く手を挙げ、軽快に声をかける。
すると赤い傘の主は振り返った。
「よっす!白鷹、お疲れ!」
「...お疲れ、希輝。剣城はもうちょっと時間がかかるっていうからここで待ってるよ」
その言葉に彼女は頷く。
白鷹はアルビノにも似た、銀髪に赤い瞳。
彼は先程の口調でも分かるように吃り癖があるようだ。
あまり、喋りたくないのかいつも赤いマスクをつけている。
全体的に、バスケのユニフォームにも見えるような格好をしている。
白い半袖に赤い枠に黒のビブスには「1」の数字が刻まれている。
彼が好む数字で実際にいつもテストで1番の成績を収めている。腕には銅色のリストバンドをしているようだ。
「23時59分、今日も時間を有効活用出来た」
そのあと、2人の元には懐中時計と傘を持ちながら近寄る少年の姿があった。
比良坂町で1番遅くまで仕事をこなしているのは剣城、彼だ。
黒髪の短髪に青い枠ぶちのメガネ。今日は青い傘を持っている。
濃い空色のロングコートにベスト、白いワイシャツを着ている。
首元には銅色のネクタイをしている。黒の手袋もしているようだ。
実は彼の尊敬する運び屋に服装を似せている所もあるが、遠目からみると知的な博士のようにも見えるだろう。
中々三者三様で個性的な面々だ。実際に学校でもクラスも違ければ、交友関係や部活も異なっており三人の共通点と言えば定期テストで上位に入り、お互い面識のない仮想敵、ライバルのような関係を以前は構築していた。
しかし、旭が引退した事は希輝の心にかなりの負担をかけた。
食事も喉を通らず、勉強もままならないのではテストでも結果は振るわない。
その違和感を白鷹と剣城はいち早く察知し、彼女の相談に乗れば直様行動に移した。
それほどまでに彼らは頭の回転も早ければ行動も早い。
しかし、彼らは若者だ。運び屋達は様々な年齢層を持ち合わせているが若くして、運び屋になる者は大体世襲制か師匠、後ろ盾がいる事が多い。
会議での発言権も求めて、彼女らが頼ったのは以前はソロで活動していた浅間だった。
彼女は三人に対して深く干渉する事はない。
それは彼女が知的かつ、あっさりとした人間関係を求めているからだ。これが希輝達には心地良かった。
お互いに自分は自分の仕事をして、ピンチの時はお互いに支え合う同盟関係という方が正しいのかもしれない。
尾山に黄、赤、青の傘が並ぶ。しかし、三人が目指すのは角鹿であり。最終目標は参区の小坂。
道のりはまだまだ遠いが、この三人ならやってくれるだろう。
《解説》
今回は大雑把に北陸新幹線、長野新幹線についてご紹介したいと思います。
北陸新幹線は全4種類「かがやき」「はくたか」「つるぎ」「あさま」がいますが「あさま」は以前、長野新幹線で使用されていたという事もあり3人より年上、お姉さん設定にしています。
史実通り、1種類の運行だったという事で長野新幹線としてソロで活動しそのあと北陸新幹線として仲間と合流したという感じですね。
浅間が赤い口紅やブラウスを身につけているのは長野新幹線で使用されていたE2系に赤いラインが引かれていた事に由来します。
現在使用されているのがE7系なのでそれも交えて黒を入れたのですが空色や銅色も入れるとゴチャゴチャしそうだったのでやめました。
後輩である希輝、白鷹、剣城の服装はE7系に因んでいます。
2015年開業の新参者という事で若々しい現代風のファッションにしています。比良坂町は閉鎖された空間なので昭和レトロな雰囲気でやってます。東海道新幹線開業の1960年代をイメージしています。
浅間は長野を、後者は希輝が石川県、白鷹が富山県、剣城が福井県と北陸三県をイメージしてキャラ付けをさせて頂いています。
希輝がお洒落好きなのは美しい駅として有名な金沢駅がある事、美意識が高いという事ですね。
甘い物好きなのも和菓子が有名で東茶屋街も名所としてありますね。
有名パティシエの出身地であり実家が和菓子屋を経営していた事から彼女にも設定を盛り込んでいます。
ネイルが黄色と紫がありましたが東京方面ですと名前が表示される電光掲示板があさま、はくたか、かがやきが紫になっており。
富山から金沢方面ですと表記が変わり、かがやき=黄、はくたか=赤、つるぎ=青となる為どちらでも大丈夫なようにネイルで表現しています。
これは東海道新幹線も同じくのぞみ=黄、ひかり=赤、こだま=青となる為。北陸新幹線の3人はそれぞれの同じ色のキャラを目標にしたり仲良くしているという設定です。
白鷹が文武両道でバスケを得意としていますが、北陸三県は全国学力テストの成績が良いという事で3人は勤勉で頭が良い全体のブレインのような存在にしています。
富山県出身のバスケ選手がおり、差し入れにお菓子のビーバーをチームメイトに持って行ったそうですね。作者も北陸に行くといつも買ってます。多分3人も拠点とか学校で仲良く食べている事でしょう。
剣城は3月に福井・敦賀延伸が決まっているという事で福井県は鯖江がメガネフレームの産地という事で眼鏡っ子にしています。
恐竜を好むのも化石が良く発掘され、有名な恐竜博物館がある為ですね。なので、理知的な博士君のような格好をさせています。




