第肆拾伍話 対決 ◆
隼達、3人が演習場へ赴くとだだっ広い草原に1人の青年がいた。そう、初嶺。彼の事だ。
待機のポーズをし、真っ直ぐに3人を見つめている。
その瞳からは何の感情も感じ取る事が出来なかった。
機械のような姿に3人は背筋が凍り、本能的に危機を察知した。
翼や小町は普段の隼も何処か無機質で浮世離れしており、捉え所のない人物だと思う時もあるがそれ以上に初嶺という存在は異常なまでに人間見がない。
何処か宇宙人やエイリアンのようにも見えた。
2人は相手に聞こえないようにヒソヒソと隼に耳打ちをする。
「隼、俺ならいつでも準備出来てるっすよ。愛さんに新しいコード使わせてもらえるようになったんで、足手纏いにはならない筈っす」
「隼、いつものフォーメーションで大丈夫?アイツ、人魚とは違う。人の形をしてるのにヤバイ匂いがするの」
隼にも2人の緊張感が伝わっているのか、素早く攻撃の準備が出来るようにホルスターに手を翳している。
「こんな所で悪あがきをしても仕方ない。いつも通りやるしか無いだろ。...3...2...1...GO!」
1番先に動いたのは翼だ。水色の雪の結晶のマークがあしらわれた弾丸をセットし、目の前で発射する。
すると白い着物をきた見目麗しい女性が現れ、口から凍てつく息を吐いた。
【コード:008 承認完了 雪女を起動します】
翼の雪女により、草原が忽たちまち雪原へと変わる。
隼や小町達にとって雪の降る環境は得意だ。
これで初嶺の足を鈍らせる事が出来るなら優位に持ち込めるだろう。
その様子を初嶺は興味深げに見ているようだった。
戦闘中だと言うのに緊張感がない。
その時点で隼は嫌な予感がした。
もしかしたら、自分を超える存在が目の前にいるのかもしれないと。
「成る程、地形を変える事が出来るですか。大変、勉強になります。では、私も参りましょう」
初嶺もまた、自身の銃を手に持ち。赤い弾丸を詰める。
手慣れた仕草、到底紛い物の運び屋には見えなかった。
彼もまた日々の鍛錬により、本物以上の洗礼された動きを身につけていたのだ。
そのあと、隼達は絶望の底に叩きつけられる事になる。
初嶺は真下に弾丸を発射させた。
【コード:956 承認完了 亡霊火を起動します】
「「「!?」」」
初嶺が動き出したのを見て、3人が驚いたというのではない。
問題は亡霊火を起動させた事だった。
隼はやはりかと、苛ついていた。
山岸が得意とする【亡霊火】初嶺の資料にも使用出来る物のリストに入っていた。
しかも、本物よりも高火力で放たれるそれは運び屋の技量を表していると言っても良いだろう。
隼も山岸本人から直々に教えてもらい、その威力を褒められた事もある。
それを許可もなしに勝手に使用し、自分の思い出達を塗り替えていく。その事に隼は許せなかった。
「それは、山岸先輩がいつも人魚に対して使ってたやつ。やっぱり、お前は俺達の紛い物だ」
「...私が、貴方達の紛い物」
雪原は忽ち、炎で溶け水面へと変わる。
隼が資料を見た時、同じくある事に気づいた。
自分は勿論、山岸や那須野、颯が使用する道具を初嶺は使用している。
おそらく、育成のモデルにしたのだろうと隼は考察していた。
だとすればだ。自分達の情報を初嶺に渡した者がいると言う事だ。
その時、隼はもう以前から自分達と逆の事。
つまり、もう既に秋津基地から比良坂町に来ていた人間がいると言う事をこの状況下で考えていた。
だとすればだ。これは突発的な犯行ではない。
何か計画性のある行動であり、もう既に何か仕込まれている事が見てとれた。
それを考えた時、隼の思考が停止寸前まで追い込まれる。
そのあとだった、さっきまで無表情だった初嶺が突然笑みを浮かべたのだ。その様子に隼はゾッとした。
「いつも、久堂から聞いていました。私の使用する道具は誰かを参考にして作られたと、その誰かを私は知る事は叶いませんでした。やっと、出会う事が出来ました。貴方だったのですね」
久堂、その存在が自分達の情報を盗んだ大元なのだろう。
隼はしっかりとその名前を覚えておく事にした。
そのあと、小町がアシストに入るように鬼の模様が描かれた赤と青の弾丸を連続して発射させる。
【コード:006 承認完了 赤鬼青鬼を起動します】
「油断するんじゃないの!隼だけじゃない小町もいる。小さいからって舐めてかかったら痛い目に遭うの!」
鬼の化身が鎌や鍬を持ち、初嶺に襲いかかる。
しかし、彼の笑みが消える事はなかった。
小町は一瞬、戦意喪失するように無表情になるが気を取り直し果敢に初嶺と対峙する。
【コード:956 承認完了 Lv.7に変更します】
「素晴らしい。これが、オリジナル。これが本物の運び屋。私はもっと貴方達と戦いたい!」
初嶺の様子を心配した久堂は隠れて様子を見ていたが一番最悪の事態に陥ってしまった。
「あぁぁぁぁぁ!!アイツ、勝手に調整を弄いじりやがった!不味い、手加減しろって言っただろうが!」
小町の行動に隼も焦りを見せ、大技カムイの準備に入る。
カムイを呼び起こすには正式な手順が必要なのだが、隼は弓の模様が施された銀色の弾丸を使用する。
それを何とセットすると、自分の眉間に銃口を押し当てた。
完全に傍目から見れば自殺行為に他ならない。
しかし。カムイは死に追いやられてこそ、完成する。
母熊を目の前で殺され、いない悲しみを強さに変える。
それを知った時、隼はまるで自分のようだと悟った。
発射させると緑色のオーラを纏った熊の化身が登場する。
【コード:005 承認完了 カムイを起動します】
「早く初嶺を止めろ!これ以上レベルを上げられたら俺達が対応出来なくなる!」
日熊の化身も追い討ちをかけるように初嶺へ向かう。
彼は相手に合わせて、対応を変える事が出来る。
使用出来る武器もその度に変わるのだ。
しかしそうなれば、自分達が使える手段がドンドン減っていく。
隼は長期戦になれば成る程不利だと考えた。
【コード:956 承認完了 無銘太刀を起動します】
多量の念力を込めた太刀により、小町と隼の化身達は真っ二つに切り捨てられる。
そのあと、1番近くにいた隼が初嶺に距離を詰められた。
「動きが...早すぎる」
「「隼!!」」
小町と翼が叫びそちらに駆け寄ろうするが、逆にそれが仇となってしまった。
「私の邪魔をしないでください。もっと、もっと戦いたい!次は何をしてくれるんですか?心拍数が上がっているのが分かります。今までに無い感情を私は感じているのです」
その言葉を口にしながら、近づいて来た2人の首を攻撃し気絶させる。
残された隼は同じく目の前の眉間に刀を翳かざせられ、ショックの余り後ろに倒れてしまった。
3人が倒れた事を確認した久堂はシャーベット状になった雪原を苦い表情をしながら足を進めた。
「朧、良くもやりやがったな。勝手にリミッター外しやがって。いいか俺達は殺人鬼じゃないんだ、軍人なんだよ。戦闘のプロが自分を制御出来ないでどうする?」
「それについてはお詫びします。ですが、このような事は一度もありませんでした。感情が昂る事も、自分の判断で戦闘を行いたいと思った事もです」
「後でみっちり反省文だ。その前に、この運び屋達を比良坂町に送り返さないといけない。手伝え、朧」
そのあとの事だった。協会からの連絡を受け。
望海達5人は水行川にて隼達の捜索をしていた。
「零央、ナビゲート使える?」
「うん!チョキ!」
【コード:000 自動承認 ナビゲートを使用するね!】
圭太と零央は夜になっても帰って来ない3人の行方を探す為、望海達と共に手分けし捜査を行なっていた。
ナビゲートを使い、目の前に投影された周辺の地図と生体反応を確認する。
「ここ、怪しいな。路地裏なのに人が固まってる。姉貴、こっち!路地裏だ!」
望海達3人も合流し、5人で路地裏に向かうと鳥居の前で傷だらけになりながら倒れている3人を見つけた。
「...酷い、誰がこんな事を。ねぇ、翼しっかりして!ねぇ、ってば!」
望海が慌てて翼の身体を揺するも中々、返答が来ない。
「玉ちゃん!Dr.黄泉と愛さんを呼んで!この傷じゃ私達でも治せないよ」
「分かった!圭太、零央良く見つけてくれたな。お手柄だ」
「愛君、小町君の様子は?」
「脳震盪を起こしていたようです。他に大きな傷はないようですが暫くは安静にしてもらわないと」
「こちらの2人も似たようなものだな。望海君、3人は何処にいたんだ?」
「協会から少し離れた所にある路地裏です。本来、私達の担当地域なのですがどうしてあんな所に」
協会の医務室でベットに寝かせられた3人を望海は心配そうに見ていた。隼に至っては魘うなされているように見えるから尚更心配になったのだ。
心配そうにする望海に零央は小さな手で彼女の手を握りしめた。
「のぞみおねえちゃん、だいじょうぶだよ。れおがみつけたとき、おにいちゃんたちのこころうごいてたもん。れお、みえたよ」
「こころ?心臓って事?零央くん、心臓が見えたの?どうやって?」
疑問を投げかけたにも関わらず、零央は心臓という言葉が理解出来ないのか首を傾げていた。
そのあと、児玉が医務室へと入ってきた。
「もう深夜だ。2人とも帰るぞ。後は黄泉達2人に任せよう」
「そうですね。零央くん、帰りましょうか?色々気になる事はありますが、3人が回復してからまた詳しい話を聞きましょう」
「うん!」
その数分後、入れ替わる形で山岸が協会へと向かっていた。
側には愛もおり、状況説明をしているようだ。
「愛、3人の容体は?」
「大きな怪我はありませんが、脳震盪を起こしている状態で。今は眠っています」
そう言うと山岸は安心したような、逆に不安にも駆られた様子で大きく溜息をついていた。
「まぁ、何となく気づいてたよ。隼達なら初嶺の所に向かう。と言うか、行かなきゃいけないってね。どうして、俺達なのかね。...いや、そんな事言っちゃいけないんだろうけどさ。俺は、皆と穏やかな日々を送りたいんだよ。不可能だって知ってるけどもう誰も失いたくないんだ」
「...山岸さん。出来るだけ、迅速に対応はさせて頂きます。出来るだけ早く皆さんが現場復帰出来るように」
しかし、愛の言葉に山岸は首を横に振った。
「良いよ。今は安静にしてやって。これから先も何があるかわからないんだ。特に隼は精神的ショックも大きいだろう。元々、繊細な子だしね。大丈夫、仕事は幾らでも俺達で引き受けるからさ」
そのあと、山岸は医務室に入り。
3人が寝ているベットに向かうと、隼が魘されている事に彼は気づいた。
山岸は悲しげな表情をしながらも、少し躊躇いながら彼の手を握る。
すると、隼が安らかな表情を浮かべ子供のような寝顔をするので山岸は少し笑っているようだった。
「おかえり。良く、戻ってきたね。今はゆっくり休んで」
そのあとの事だった。山岸の無線機が鳴る。
連絡先も表示されているのだが【コード:200】と山岸からしたらもう使用していない古いコードだった。
しかし、山岸はためらうことなく相手と連絡をとる。
「ごめんなさい、寿彦さん。余計なお世話だと思ったんだけどいつもより帰ってくるのが遅いから貴方に何かあったのかと思って心配になって」
相手は青葉だったようだ。確かに彼女の言う通り隼達の捜索や見舞いに追われてもう深夜になっていた事を山岸は今になって気づいた。それほどまでに仲間が大事と言う事なのだろう。
「あぁ、ありがとう。俺じゃないんだけど、若い子達が無茶をしちゃってさ。怖い思いをしたみたいだから、出来るだけ寄り添ってあげたくて」
「...そう。それは心配ね。私も何か手伝っ...いいえ。なんでもないの。私じゃ貴方の足手纏いね。聞かなかった事にして」
「そんな事ないよ。むしろ、今必要なのは青葉みたいな人材だからね。あと、青葉さん。うちさ、若い子が2人増えて7人いるから。差し入れの数合わないのよ。俺だけいつも羽生られてるからさ。贈ってくれるのは嬉しいんだけどさ。俺の事いじめないで」
そう言うと青葉は動転しているのか?無線機の向こうからしどろもどろになっているのが山岸でも想像出来た。
「寿彦さん、貴方。また、仲間を増やしたのね!何かおかしいと思ったのよ。翼くんや小町ちゃんでもそんな事しないだろうって。そう、新しい子が入ってるのね。で、その子が無茶をしたと」
「まあね。俺でも手が付けられないぐらいの問題児。でも、どうにか生かしてあげたいんだ。この組織に勇気を出して入ってくれた。その気持ちに応えてあげたい」
そのあと、山岸は窓から見える満月を見ているようだ。
青葉が居なくなったあの夜と同じ月だ。
「じゃあ、その気持ちに応えてあげて。貴方の声が聞けて安心しました。じゃあ、帰り気をつけてね」
そのあと、薄らと隼が目を開けポツリと何かを呟いた。
「...山岸先輩?今、誰と話してたんですか?」
「ん?俺の相棒。俺が隼君のお父さんなら。向こうはお母さんかな?隼はお母さんに会いたい?」
普通なら、隼も嫌な表情を浮かべるだろうが意識が混濁しているのか?素直にこう言った。
「...母さんがいないのは寂しい。それは貴方も一緒でしょ?」
「うん、そうだね。寂しい。凄く寂しいよ」
そう言うと隼は安心したように再び目を閉じた。




