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鉄壁の運び屋 壱ノ式 ー三原色と施錠の町ー【完全版】  作者: きつねうどん
第十章 決着
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第肆拾肆話 門 ◆

あの全区から壁が取り除かれた騒動から数日後、その話は彼らの耳にも届く事になる。


「悔しい!悔しい!悔しい!誰なの!?あんな壁を一瞬にして無くしちゃうなんて!」


「いや、小町ちゃん。正確には一週間ちょっとっすから」


「本当に隼じゃないの?比良坂町で一番強い運び屋は隼しかいないの!」


壱区の北部を担当する運び屋の拠点に隼、小町、翼はいた。

先程まで小町は冷静に翼とトランプで遊んでいたようだが、何かを思い出したかのように自分の手札を手元から離してバラバラに散らせている。

呼びかけられた隼は小町の話を無視して楽譜を書き続けていた


「俺じゃない。どれだけ【カムイ】が強力な存在でもあんな大きな壁動かせる筈がない。しかも、その間騒音も聞こえなかった。数度の地震があっただけ、まるで壁そのものを真上に引き上げたようにも思える」


その言葉に翼は目を丸くした。

全斎が挑戦状を叩きつける程、隼は比良坂町きっての逸材。

現役ならば、最強の運び屋だろう。

そんな彼が出来ない事をあっさりとやってのけた存在がいる事自体、異常自体なのだ。


「はぁ!?あんなクソデカい壁を粉砕もせず、そのまま動かしたって言いたいんすか!?ありえないでしょ!?なんすかそれ、悪魔かなにかっすか?」


小町は機嫌が悪そうにしながらも何か考え込んでいる。


「またあの秋津基地の奴らがやったんじゃないの!あの火災もそう。これ以上、比良坂町をメチャクチャにされたら溜まったもんじゃない。あのお嬢様の言ってた初嶺って奴も気になるし、小町行ってくる!」


小町は身支度をし、当てが無いにも関わらず拠点の玄関まで向かうようだ。それを翼は引き止めている。


「いやいや、小町ちゃん待つっすよ。タンマタンマ。隼も、説得して!やめろって」


「はぁ」


隼は溜息を吐きながら、2人に近寄る。

その反応を見て小町は落胆されたと思ったのか謝罪の言葉を口にした。


「隼、翼ごめんなさいなの。小町、頭がカッとなってつい」


「小町が怒るのはいつもの事だし、仲間を思って言ってくれてるのは俺達が良く知ってる。...そうだな、これじゃあいつまで経っても埒が明かないし行ってみるか。気は進まないけど」


「えっ、隼何処へ?」


「そんなの秋津基地に決まってるの!」


小町と翼は隼に促されるがまま、壱区の中心街まで移動した。

隼は資料を見ながら、比良坂町では珍しい高い建物。

そう、全斎がオーナーを務める水行川近くのホテルを見ていたのだ。

ここは協会から近いといえど、望海達の担当場所。

完全に自分達の領域から出てしまっている。

これはいけないと翼は隼に警告した。


「いや、不味いでしょ。このまま行ったら望海達の担当地域に入る事になって、一回拠点に戻って山岸さんに相談した方が...」


「もう入ってるよ。普通、秋津基地っていうのは特別な理由がない限り利用する事も出来ない。それを全斎は知った上で俺達、運び屋が侵入出来るように経路を制作してる」


「ふふん、小町なんだか悪い事をしてる気分なの!ここ、お嬢様が好きそう。金持ちがウジャウジャいるの!」


壱区の中心街でも更に発展した地域に来た3人は煌びやかな街並みを離れ、薄暗い路地に進む。


「でも、本当に不思議っすよね。壁が綺麗さっぱりなくなって。あとは外を覆う壁だけか。隼もそうっすけど、望海でも無理でしょ。こんなの。他の団体の人とか?敵なのか?味方なのか?も不明っすけど。後者だったら良いなって個人的には思ってるっすけどね。勿論、隼が俺達のエースなのには変わりないっすけど」


「謙遜は良いよ。俺だって、母さんが立派な運び屋で支えてくれる仲間がいて。不安定な中でもこうして仕事を続けられてるんだ。そんな中でもっと優秀な人材が出れば俺も過去の存在になる。...颯先輩と同じになる。それも本望だけど」


そう言うと小町は悲しい表情を浮かべるが、内心では嬉しい気持ちもあった。

自分の心の弱さを、不安な気持ちを打ち明けてくれたのだ。

隼は常時無口の無表情故に側にいる小町でさえも彼の気持ち寄り添えない事がある。

特に単体で仕事を受ける彼を大丈夫かなと不安に思いながらいつも見届けているのだ。


「大丈夫!隼はここで終わったりしない!もっと!もっと強くなれるの!小町が保守する!逆に利用してやればいいの!自分より上の存在から技術を盗んでそれを自分の物にしていく。成長の糧にすれば良いの!成長するエースも小町は素敵だと思う」


そう言うと隼は珍しく小町に対して一瞬ではあるが優しげな笑みを浮かべた。

それを小町が見逃す筈もなく、頷くと彼は何事もなかったように本来の目的地へと足を運ぶ。


「あった。ここだ」


不気味にもレンガ造りの建物に埋め込まれた状態の鳥居を見つけた。


【現在、こちらのゲートは案内を開始しております。利用される方は3桁の暗証番号をお伝えください】


まるで合成音声のような、あまりにも冷たく温かみのない声に翼は恐怖を覚えた。


「ぎゃあああ!!喋った!何すかこれ!?」


彼が動転する中、隼は冷静に資料を確認し暗証番号を探す。

これは全斎が所有する門のようだ。

ただ、隼は一つ疑問に思う事もあった。

門は常に起動状態にある。もし、暗証番号を告げずに中に入ってしまったらそれはどうなるのか?

何処に繋がっているのか?

しかし、隼は気を取り直して数字だけを呟いた。


「205」


「隼、冷静に言わないで欲しいっす」


次の瞬間、鳥居の向こう側の空間が歪み、霧に包まれる。

3人は意を決し、その中へ飛び込んだ。


鳥居の先にあったのは誰かの執務室のようだった。

しかし、部屋の主は不在のようで3人以外誰もいない。

隼は近くの立派は机の上に基地の地図を広げ、2人に説明する。


「もし、ここが全斎の執務室だと仮定するならここは4階、最上階だ。初嶺が常時待機してる場所は外にある演習場だ。行こう」


扇型の長い廊下が続く建物からは秋津基地の広大な敷地がよく見える。

様々な環境に適したバトルフィールドを持ち、改造車がそれを横切る形となっている。

狭い比良坂町に住む3人にとっては新鮮な光景だった。


そこまでの途中で隼達は何度か人に出くわす事があった。

最初は隠れていた3人だったが、そもそも軍人達に警戒心も殺気も感じる事はなく逆に自分達だけが警戒し、気疲れてしまう程だった。


そして、建物から出て演習場へ向かう頃には隠れる事もないまま軍人達の訓練を見ながら移動すると言う異常事態に陥った。


「可笑しくないっすか?確かに望海の弟みたいに民間人が利用する事もあるだろうけど、それでも少数。警戒心がないというか、自分達の事しか考えていないと言うか」


翼の言葉に隼は嫌な表情をしながらも納得しているように少しだけ頷いているようだ。


「完全に舐め腐ってる。俺達の事を警戒する必要も無いって事だ。仮にも異能力者がいるっていうのに」


3人が並んで歩いているその光景を建物の窓から見ていた久堂は初嶺に無線を入れる。


「聞こえるか?朧、今運び屋達3人がお前の所に向かってる。余り怖がらせるなよ。お前の仲間になるかもしれないんだ。中には腕の良い運び屋もいるようだ。Lv6でまずは対応しろ」


「了解」


初嶺は胸部にある、ギブスのコントローラー部分に自分のコードを入力する。

初嶺と隼、不完全ながらも血統に恵まれ強大な力を持つ運び屋同士の対面となった。


【コード:956 承認完了 設定をLv.6に変更します】


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