第肆拾参話 カウンドダウン ◎
「零央、お疲れ様。頑張ってくれたから、沢山駄菓子買って来たよ。全部食べていいからね」
弐区の公園で待ち合わせをしたのか?沢山のお菓子が入った紙袋を圭太は零央に見せているようだ。
その様子を見ていた黄泉は自分自身を指さしている。
「圭太君、僕には何かないのかな?」
「れお、ママからおかしは1にち3つまでっていわれてるんだ。だから、よみせんせいにもあげるね」
零央は数個菓子を取り彼に見せているようだ。
菓子を差し出された黄泉は、当たり前のように断る。
「冗談だよ。これは君の物だ、日を分けてゆっくり食べなさい」
「うん!」
零央は嬉しそうにお菓子を3つ選んでいるようだ。
「にしても、おじさんに気づかれずに良く夜に連れ出したね」
「君にも手伝って貰ったが大変だったよ。望海君と同じ変装能力を使って、友達のフリをしたり、その親のフリをしたり、幼稚園の担任のフリをしたり、花火大会に行こうだの、幼稚園でお泊り会があるだの何とか理由をつけてダメな時は朝、人気がいない時間達に彼を呼んで作業して貰った」
「れお、がんばってはやおきしたよ!」
「そっか、Dr.黄泉は武器の開発者だから全部の武器を使いこなせるのか。確か、初嶺って人もそうだよね」
公園のベンチに座りながら、自分達の話題になっている初嶺について話を始めた。
「そうらしいね。愛君も彼の存在が気になるらしい。資料によれば相手に応じて、対応を変える事が出来るらしいね。Lv1からLv8の八段階の微調整を可能とし、僕の作った武器の紛い物と言った方がいいだろうか?それを使いこなしているらしいね」
「Dr.黄泉としてはやっぱり悔しい?勝手に武器をパクられて」
「どうだろうね?質にもよるが、ラインナップを見るに戦闘特化にしてあるのはすぐに分かる。軍に所属する運び屋に相応しいようカスタマイズさせているのだろう。無知な技術者ではないようだ。むしろ、僕達運び屋を良く理解しているように思えるね。もしかしたら、何度も比良坂町に視察に来ているのかもしれないね」
「久堂、初嶺の話聞いたか?近いうち、比良坂町の運び屋達に引き渡すそうだ。いいのかお前はそれで」
秋津基地、音無は少年兵時代から共に過ごした親友久堂雪道の所へ訪れていた。
育ての親である久堂は何事もなかったかのように彼と話を進めている。
「何だ、音無か。別にあいつが赤子の頃から決まってたようなものだろ?育ての親の俺が知らない筈がない。人工保育で育てた動物を野生に返す飼育員と同じ心境だ」
その言葉に音無は苦笑いを浮かべた。
「酷い表現だが、大体合ってるのが辛い所だな。初嶺は?あいつはどこにいる?」
その言葉に久道はガラス張りで上から覗き込めるような場所に移動する。
ガラス向こうの室内には一糸乱れぬ動きの元、他の軍人を相手にする初嶺の姿があった。
正直、音無からすれば初嶺は以前は軍の中でも影が薄かった。
久堂について回るような少年というイメージだったのだが、突然覚醒したように表に出始めたのだ。
久堂は呆れながらも、現在の状況を説明した。
「相変わらず他の奴らの相手をしているよ。本当、一般教養もさせておけばよかった。軍人だらけの環境にいたら戦闘狂になるのは目に見えてる。音無、お前たまに比良坂町に行くだろ。初嶺も連れていけ」
「御免被る。俺じゃ、初嶺をコントロール出来る気がしない。あいつはロボットみたいに無表情で何を考えてるかわからないしな」
初嶺は赤子の状態でここ秋津基地に連れてこられた。
これ自体は完全なるミスで、人魚と人間との間に生まれた男子だけがここ秋津基地に連れて来られる。
音無と久堂も含め男子は父親に似て人間の形そのものであり、人魚のように食用になれない。
比良坂町に居場所もある筈もなく、少年兵として売られ様々な基地や部隊を転々とし今に至る。この存在を緑の血と呼ぶ輩もいる。
しかし、一部の人間は知っている。
その緑の血の少年達さえ、この世の物とは思えない怪物の生贄にされている事に。
移動で使用する門も、鶴崎と全斎が立ち去る時に現れた霧もその怪物に気に入られた事によって手に入れた物だ。
そんな中で初嶺は緑の血を持つ少年たちを乗せた運搬車に紛れて乗せられていた、赤い血をもつ子供だった。
比良坂町に戻すにしても、親の行方も分からず何度も久堂や音無が比良坂町に赴き手がかりを探しても出てこない。
おそらく、何者かによって連行されてしまったのだろう。
“帝国”比良坂町は今後もそう言った未知なる領域に影響を受けていく事は避けては通れない道だろう。
久堂は壱区で隼や山岸に会った時の事を思い出しながら話を続けた。
「俺は何度か運び屋達に会って、客のフリをして近づいた事もある。俺たちとは違って、堅苦しくなくいい奴らそうだった。表面上はな。だからこそ、アイツが別の組織に入って居場所を見つけられるのかが俺には良く分からない。環境の違う奴らと支え合って、生きていければ育ての親としてこんなにも嬉しい事はない。でも、理想と現実は違うだろ?」
「どうなんだろうな。運び屋にも色んな奴がいるだろ。わざわざ異国の地で運び屋になって、姉に対して激重感情を抱いてる変な奴もいるし。まぁ、結局はアイツがどうしたいのか?が一番大事なのかもな」
そのあと、休憩時間になったのか?他の軍人達が初嶺から遠のいていく。
彼は自分の視界に久道と音無を見つけると一直線に其方へと向かった。
「どうだ?粗方マスター出来たんじゃねぇの?」
「...いいえ。実は私でも再現不可能なのがチラホラありまして。例えば、カムイ。久堂の言う通りやって見たのですが、何も起きませんでした」
【カムイ】元々は颯が開発し、それを隼が自分の手法で使用しやすくした物である。
本来は練習用に弓を使用するのだが、隼の場合は拳銃で起動を行っている。
そのせいか?原因は不明だが初嶺では再現出来ていないようだ。
「まぁ、全部出来たらそれはそれで恐ろしいしな。一応、全斎准将には報告しておくが。あの方も責めるような事はしないだろう。運び屋は色々と不明な事が多すぎてな。俺から言わせれば、あちらさんの方が不気味というか。秘密主義の集団って感じだな。そう言えば、音無は運び屋の本場に行った事があるんだろう?どんな感じだ?」
「えっ!?俺に話を振られても。まぁ、古き良き伝統あるギルトと国民にも親しまれている老舗の運び屋達という感じだろうか?比良坂町の運び屋はちょっと可笑しいまであるからな。突然変異とまではいかないが」
まぁ、確かに目の前の初嶺しかり。比良坂町の運び屋達は厳しい環境に身を置いてるが故に素晴らしい戦闘機能と瞬間移動、地理の把握を持ち合わせている。
そんな中でもうすぐ、格付けが行われようとしているのだ。
この、蠱毒の中で誰が頂点に立つのか?
それはまだ、誰にもわからない。




