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鉄壁の運び屋 壱ノ式 ー三原色と施錠の町ー【完全版】  作者: きつねうどん
第九章 羽ばたく天使
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第肆拾弐話 不思議な8日間 ◎

場所は肆区、肥後の教会。

ステンドグラスが日光に当たり、淡くも眩い輝きを見せる真下で神に祈りを捧げる海鴎の姿があった。

そんな時、後ろの木製の扉が開く音がする。

そこには、何か手紙のような物を持った亘の姿があった。


「海鴎、ここにいたのか。手紙を読んだが、僕には理解出来ない事ばかりだ。君には独特の世界観があるのは知っているが、今までのとはまた違う内容になっているな」


海鴎は手に持っていた十字架を放し。

立ち上がった後、亘の方に向き直った。


「七星様、救世主(メシア)が現れたのです。この混沌とした比良坂町に新たな力を持った運び屋が生まれたのです」


「成る程、それは喜ばしい事だな」


しかし、亘は顔を嬉しそうにする何処か引き攣らせているようにも見える。

海鴎は血縁や環境からして独特の価値観を持っている事は容認済みなのだが、何処からその発想が出てくるのかは分かっていないのだ。

本人の価値観では神、ないしは自分の心の声と思っているようだ。


そのあとも彼は首を横に振った後、話を続ける。


「単なる運び屋ではありません。これまでのとは違う大きな力を感じます。望海様や隼様とはまた違った存在。その存在が私達を導いてくださるでしょう。ですがそれだけではダメなのです」


「ダメ?何がいけないんだ?」


海鴎には何かのビジョンが見えているのか?

教会の美しい天井を仰ぎ見ながらこう続けた。


「これから先、私達は大きな壁にぶち当たる事になるでしょう。救世主は心優しく、慈愛に満ちています。ですが、それに頼るのではなく自分達で行動してこそ真の成長と言えるのではないでしょうか?」


「確かにそうだが、当てはあるのか?」


その言葉に海鴎は笑顔で頷く。


「はい。私はこれから肆区の中心街へ向かいます。私にとって未到の地。これからは頻繁に其方で七星様達との交流を図りたいと考えています」


その言葉に亘は驚いている。

海鴎は元々、他の3人とは違い単独で行動するタイプの運び屋だった。

その為、亘はこのように海鴎の様子を見に顔を出している。

しかし、何の因果か今になって自分達と交流したいと言い出したのだ。しかも、海鴎から。


「無理をしている...と言う訳でも無さそうだな。何故、今更そんな事を?」


「人を動かしたいなら、まずは自分から動くべきと考えまして。私だけではありません。他の運び屋の方々も何か思惑や計画があるようす。まずは私が先陣を斬る事にしたまでです」


「海鴎は元々不思議な人だと思ってはいたが、益々分からなくなってきたな」


「私の事を嫌いになりました?」


「いいや、興味深いなと思っただけだよ。分かった、僕も協力しよう。こう言うのは早い方がいい」


そのあと2人は教会を出て、地図を確認しながら筑紫へと向かうようだ。


「それにしても驚いたな。君がこんな事を言い出すなんて。どうだろう?對蘇(つさ)辺りを経由地点にすると言うのは?筑紫からも近いし、範囲を広げるには身体に負担がかかる。しかも君は新米の運び屋だ。倒れたりなんかしたら、君の父君が黙ってないだろうからね」


そう言うと海鴎はクスクスと笑い出した。


「ファティは勿論ですが、ムッティもですよ。秒で診療所送りにされます。私はあの楼門の先を知らないのです。七星様の方がご存じだと思いますので貴方にお任せします。そう言えば、其方に乙黒家の方がいらっしゃいますよね?その楼門について質問がありまして」


そのあと、海鴎は4つの干支の話をする。

しかし、亘は首を傾げているだった。


「成る程、残り8つがないのか。それならば、建築家が意図してそのようにしたのだろうな。大変興味深い。海鴎はそれを自分で探しにいきたくてわざわざ、筑紫まで?」


「いいえ、私は直接見たいというより。知っている方を知りたいのです。自分が持っていない物を持っている方に会ってみたい。漠然とですが今はそんな風に思っています」


その残り8つを手にしている望海は自宅の食卓にいた。

珍しく、姉弟で食卓を囲んでいるようだ。

茶碗と箸を手にしながらも、その手は止まっている。

まるで何かを思い出したかのように呟き始めた。


「圭太、天使を見ると幸せになれるって噂。学校で聞いた事ありますか?」


その言葉に圭太は何もない、と言うより知っていながらも興味のないフリをしてるようだ。


「僕の所は男子校だし、そんなファンシーな噂は聞いた事ないよ。何?姉貴、幸せになりたいの?僕は姉貴とこうして穏やかに過ごしている時が一番幸せだと思っているんだけど、姉貴はそうじゃないの?」


自慢の二枚舌で質問攻めにされると望海は嫌そうな顔をした。


「そう言うつもりで言ったのではありません。級友が壁の近くで小さな男の子を見たそうです。その子は空を飛んでいて、天使のように見えたそうなのです。なんか、それがずっと引っかかってて」


圭太はその話を聞いて、零央が浮遊の練習をしている所を周りに見られたのだろうと検討がついた。

しかし、彼らの計画はもう最終段階に差し掛かっている。

今更、噂話をされた所で予定変更などあり得なかった。


「姉貴、天使なんていないよ。なにか、鳥と見間違えたんじゃないの?あっ、姉貴。漬け物が入った皿、僕の方に寄せて」


「はいはい。...っ!?」


その時だった、一瞬何かに押し上げられるような揺れに襲われる。

正座の状態で身体が浮き上がる程だった。


「おっと、派手に揺れたね。今日は調子が良くなかったのかな。途中で集中力が切れたのかも」


そう言いながら圭太は何事もなかったかのように食事を続けている。


「...圭太。何で冷静でいられるんですか!?火事の次は地震なんてこの町はどうかしてます」


腰が抜けたのか望海は珍しく圭太に縋りついている。

圭太は落ち着かせようと望海の背中を摩った。


「姉貴、大丈夫だよ。そんなに怖いなら、今夜一緒に寝る?」


「寝ません!今日だけの事なら引きずるような事もありませんし」


「...姉貴、最悪この状態が8日間続く事になるよ。それでもいいなら、僕も止めやしないけど」


彼の真顔など、見る機会が殆どなかった望海にとってこれが緊急事態である事は容易に気づけたのだが、それ以上に何故圭太が冷静でいて何かを知る素振りをするのか?

彼が何に関わっているのかまでは今の望海には不明のようだ。


「...え?」


圭太の意味深な言葉に望海は戸惑いながらも、就寝し明日を迎える事になった。


「よし、忘れ物もありませんし。弁当も大丈夫ですね。圭太の分は台所に置いてありますし、行きましょう」


通学をする為、望海は準備を済ませ戸締りをした後、通学路の方へ振り返った。すると、大きな違和感に気づいた。


「あれ?」


望海は目を擦り、壁の方を何度も見ているのだが何故か遠くにあるように感じる。


「可笑しいですね。あんなに遠かったでしたっけ?」


「姉貴、どうしたの?良かった、上手くいったみたいだね」


玄関から同じく準備を終えた圭太はスタスタと自身の学校の方へ行ってしまった。

圭太は嬉しそうに朝に相応しい清々しい表情をしながら彼女から去って行った。


「お、おはよう御座います。節子さん」


「ご機嫌よう、望海さん。今日はいい天気だし、風も気持ちいいからここに来たのだけど正解ね。見て、ここ私が落ちた所よ。こんなに綺麗になるなんてびっくりね。どなたがやってくださったのかしら?お礼を言わないと」


その又次の日、壱区と弐区を塞いでいた2枚の壁は何も無かったかのように取り除かれ跡地に、新たな道路側溝が出来ていた。

節子は鼻歌を歌いながら日傘をさし、散歩をしていた。


「よっす、望海。ねぇ、弐区にあんことバターを沢山乗せたトーストがあるって本当?」


「えぇ、そう言えば希輝さん甘いものに目がないんでしたっけ?ハルキクにもありますし、案内出来ますけど...何で誰も突っ込まないんですか!?何で弐区と参区も開通してるんですか!?」


「いいじゃん、喜ばしい事だし。誰がやってるのかわからないけどさ。アタシとしては甘味巡りが出来て超ご機嫌なんだよね」


そのあと、あの地震の日も合わせ8日間で壱区から肆区を塞いでいた壁はまるで元々なかったかのように取り除かれてしまった。


「ねぇ、ママ。おはなさん、げんきないの。どうしよう」


そんなある日の事、零央は複数の花を手に持ち母親に見せているようだった。


「あら、萎れちゃってるわね。零央君、押し花にしましょうか?とても綺麗なお花ね。何処にあったの?」


「おそとだよ!パパとママにもつれてってあげたいな!」


「パパも知らない所なの?可笑しいわね、信二君が行けない所って事かしら?」


その側で零央は何やらお絵描きをしているようだ。

青や水色のクレヨンを使い、画用紙いっぱいに書いているようだが雲や太陽が何故かないなと花菜は思っていた。

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