第肆拾壱話 花火大会 ◎
「隼、小町の手を離さないで!そう、もうちょっと前に」
「いや、小町足早すぎでしょ。後ろ歩きしてるはずなのになんで普通と変わらないの」
何故か隼は耳栓用にヘッドホンと目隠しをされ、小町に誘導されているようだ。
実際に小町は後ろ歩きが得意らしく、隼は見た事ないらしいが小町の地元では話題になっているようだ。
「よし、ストップ!はい、隼。目隠しとヘッドホンを取ってもいいの!」
そう言われ、隼はそれらを取ると目の前には赤い浴衣を着た小町がいた。
周囲からは花火であろう「ヒュ〜」「ドンッ」と火花が弾ける音がする。
「...凄い、綺麗だ」
そう言うと小町は顔を真っ赤にし、嬉しそうに隼の背中をバシバシ叩いている。
「いや、小町は相変わらず座敷童にしか見えないけど。ここの花火は綺麗だよな。良く見える」
そう言うと小町は違う意味で顔を真っ赤にし、隼を同じくバシバシと叩いた。
「すみません、此処だと火花が綺麗に見えるって知ったんですけど」
「はい、此方ですね。ご案内致します。ゆっくり楽しんで来て下さいね」
同じく、花火の名所として朱鷺田の担当場所にも多くの人達が集まっているようだった。その客層を見て、彼は苦笑いを浮かべた。
「俺に対する当てつけか?まぁ、カップルばかりなのはいつもの事だけど。...はぁ、何か今年は違う寂しさがあるな。旭だって仕事で毎年やってたけど、こんな寂しい思いになったのはこれが初めてだ」
それぞれがそれぞれの思いでこの花火大会の夜を過ごしているようだが零央の方でも大きな動きがあったようだ。
「れお、はやくいこうぜ!」
「本当に宜しいんですか?連れて行ってもらって」
「勿論です。人魚も居なくなって、子供も夜出歩いても大丈夫になりましたから。息子も零央君と思い出を作りたいって言ってますし」
児玉宅の玄関側で知人親子と会話をする花菜の姿があった。
零央は嬉しそうにこれから花火大会に行くようだ。
「ケホッ、ケホッ。ごめんね、零央君。ママも一緒に行ってあげられなくて。ちょっと待っててね、お小遣いとお財布用意するから。これでお友達と楽しんできてね」
「うん!ママはちゃんとおねんねしててね。じゃあ、いってきます!」
そのあと、3人は花火大会には行かず。
何故か近くの公園に行く。そのあと、親子2人の表情が変わった。
変身を解くと、零央の目の前にいたのは圭太と黄泉だった。
「流石は歌舞伎役者。演技はお手のものだね」
「貴方もね、Dr.黄泉。まぁ、練習は花火大会の後でも良いでしょう。零央、何が食べたい?姉貴と同じくアイス?」
「れお、かきごおりがいいな。あれがいい、青いの!」
花火大会終了後、3人は人気のない場所に移動し零央は腕輪を起動させる。
「パー!」
【コード:000 自動承認 浮遊を起動するね!】
圭太の手を借りながら、零央はゆっくりと身体を浮かせる。
その姿はまるで天使そのものだった。
実際にこの後、野外での練習を重ねる内。周囲からもそう言われるようになる。
「本当に凄いな。零央、大丈夫?手を離すよ?」
「腕輪との相性も良いみたいだね。何より、念力コントロールも幼いながらにしっかりと出来ている。これは将来が楽しみだ」
黄泉は記録を取りながら、零央の動きをチェックしているようだ。
動作確認後、腕輪に調整を入れ再度起動させる。
今度は何故か、瓦割りでもするのか?その束を何個も黄泉は準備する。
「グー!」
【コード:000 自動承認 怪力を起動するね!】
その小さな拳を自分と同じ高さ近い瓦の束に当てがう。
その数、30枚。普通の子供、いや大人でも不可能な枚数を零央はいとも簡単に粉砕した。
これには圭太は勿論、黄泉も腰を抜かした。
「ちょ、ちょっと。これ、一発目だよ。本当にこの壁壊せるんじゃないの?」
「不味いね、次は50枚用意してあるのだが。足りるかな」
しかし、零央は自分に強力な力がある事を知り嬉しくなったのか?
恐ろしくも何個もの瓦の束を粉砕していく。
その日だけで何と500枚もの瓦が犠牲になった。
「チョキ!」
【コード:000 自動承認 ナビゲートを起動するね!】
「最後にやっと平和なのが出て来たね。なるほどね、比良坂町ってこうなってるんだ。でも、肆区はやっぱり映らないというか砂嵐みたいになってるね」
「電波障害のせいだろうね。それを考えると零央君が担当出来そうなのは壱区から参区までになりそうだ。そう言えば、印をもうつけてるんだっけ?児玉君のを借りて」
「大体那古野から甲斐付近は印があるよ。となると弐区は大体網羅してるって事になるのかな?残りは壱区と参区か。零央の力量が試されるね」
黄泉は零央が楽しそうに地図を見ているのを見ながら、笑顔でこう言った。
「まぁ、気長に行こうじゃないか。他の運び屋だって最初から上手くいったものなんていないよ。最初で躓く者も入れば、途中で挫折する者だっている。引退する運び屋達も多く見て来た。でも、共通して言えるのは全てに通して皆から愛されてきたと言う事だ。そして零央君もまた、皆に愛される存在になる。新しい仲間が増える以上に嬉しい事はないからね」
「けいた?よみせんせい?なんの話をしてるの?」
「君の話だよ、零央。君の事をね、待ち望んでる人達がいるんだ。やっと表に出て来られるね」
「えっとね、れおはここにいるよ?かくれんぼしてないよ?」
最後の最後で子供らしい事を言われ、黄泉は笑っているようだった。
「そうだね、でも。君の事を知らない人達が沢山いるんだ。その人達に教えてあげて欲しい。君の素晴らしさを。輝く未来をね」
そう言うと、零央は納得したのか嬉しそうに頷いているようだった。
「うん!れお、がんばるね!」
《解説》
日本三大花火大会と言えば、秋田の大曲、新潟の長岡、茨城の土浦が有名ですね。
小町が後ろ歩きが得意なのは実際に大曲〜秋田間をスイッチバック、後ろ向きでこまち号が運行されている為ですね。
新幹線では、作者の知る限り此処だけだと思います。珍しいですね。




