第肆拾話 研究所 ◎
「あっ、おじさん。聞こえる?今稽古終わりなんだけどさ、良かったら零央の迎えに行こうか?確か、姉貴たちも仕事だったよね?」
以前、黄泉からもらった無線機を使用し。圭太は児玉に連絡を入れているようだ。
「本当か!?凄い助かる。丁度、依頼の時間に重なっててな。花菜ちゃんも体調が悪くて、安静にさせてやりたいしな」
「なら尚更、僕に頼ってよ。何かいる物ある?確か、オムライス用の卵がないって昨日言ってたよね?奥さんに何か買って行った方がいい?薬とか食べ物とか」
「花菜ちゃんの分は大丈夫、俺が事前に買い出しに行って来たしな。喫茶店の分だけ頼めるか?卵とあと...」
その会話が終わった後、圭太は悪戯をする子供のように無邪気に微笑んでいた。
「よく来たね、君たち。圭太君、児玉君を欺く口実は?」
「勿論言って来たよ。零央を幼稚園に迎えに行く途中で、喫茶店で使う食材を買ってくるって言ったら感謝の言葉も貰ったからね。小一時間は大丈夫じゃないかな?」
以前の緊急会議から1週間後の事、黄泉は圭太と零央を研究所に呼び出し話をしていた。
勿論、この事は児玉もそうだが。望海や光莉にも言っていない。
完全に秘密裏で行われている物だった。
「それは宜しい。では、始めようか。零央君、君は運び屋として十二分に素質があると僕も愛君も考えている。それと以前、希輝君達からこんな事を言われたんだ。人魚が居なくなった今、あの巨大な壁を破壊出来るのではないかとね」
あの火災のあと、区域を仕切る壁は人魚の棲家としての機能を失っていた。
現在もあのまま、断水状態のまま放置されている状態だ。
圭太はその壁を思い出し、破壊出来る可能性のある人物に目を向けた。
行儀良くソファに座り、黄泉からもらったのであろう桃のジュースを飲む零央の事だった。
「もしかして、それを零央にやらせるの?僕は幾らでも協力するけど、零央に何かあったら僕。冗談じゃなくておじさんに殺されるんじゃないかな。あの人、零央の事溺愛してるから」
その言葉に作業台近くの椅子に座りながら何かの腕輪をいじる黄泉からある言葉を告げられた。
「可愛い子には旅をさせろと言うだろう?子供というのは親だけに育てられるものじゃない。色んな人に出会って、色んな事を学んで自分で選択肢を選んでいくものなんだ。勿論、無茶させるつもりはない。今回は特別に一から道具を作り直した。安全装置もつけてある。さあ、零央君。試しにつけてみてくれたまえ」
そう言われ、零央は2つの腕輪を受け取る。
圭太に手伝ってもらい、両腕にはめると自動的に起動し音声が流れた。
『こんにちは!コード:000 グー、チョキ、パーで好きなものを選んでね!』
「えっ、なにこれ?ズルくない?僕も欲しいんだけど」
「ねぇ、よみせんせい。000ってれおのこと?」
はめてもらった腕を見ながら零央が黄泉に質問を投げかけると彼は頷いているようだ。
「元々、サンプル用のコードで君のお父さんも使った事があるんだが折角だし息子の君に使ってもらおうと思ってね。これは今から零央君専用のコードだ。大人達は律儀に入力しているが零央君にさせるのは酷だろう。もっと分かり易くする為に子供に身近で覚えやすいジャンケンを使う事にしたんだ」
【コード:000】は全ての始まり。黄泉が初めて実戦で使用する為に制作したコードである。
児玉は勿論、光莉も使用していたが初期はこのコードはなく安全装置という概念すらなかった。
しかし、次第に仲間が増え。その差別化の為にこのコードが使われる事になった。
ある意味、正式に使用しているのは零央が最初という事になる。
「これを一週間足らずで制作するってDr.黄泉はいつ寝てるの?僕のも改修に出したら3日後に戻ってくるし、気持ち悪いよ。あっ、今のは褒め言葉として言ってるからね」
「失敬な。愛君にも今回は手伝ってもらってるよ。さて、次は機能を説明しよう。今回はシンプルに3種類の機能を入れてある。1つ目が重いものも難なく持ち上げられる“怪力”2つ目は自身や周囲を浮かせる事ができる“浮遊”3つ目は地形や建物内をスキャンして人物や物を探す事が出来る“ナビゲート”どうだい?シンプルながら強力なラインナップだろう?」
機能の説明を受け、零央は嬉しそうに目を輝せジャンプしているようだ。
しかし、腕輪の機能を黄泉の言葉だけで理解出来たという事は零央はかなり賢い子供と言う事が分かるだろう。
実際に幼稚園の先生すらも、零央の普段の様子に良い子以上に時折恐ろしさを感じているようだ。
それもまた、教育熱心な父親の影響もあるだろう。
児玉は時間があれば教育本を読み、時間を惜しまず零央に知識と愛情を与えた。零央が神童と言われるのも時間の問題だろう。
「すごい!すごい!れお、パパみたいにヒーローになれる!?」
「いや、もうとっくにおじさん越えしてると思うよ。これ、皆んなが知ったら絶対に嫉妬すると思うよ。だって零央の場合単独行動してもある程度支障がないしね。僕もある程度、器用貧乏な立ち回りは出来るけど腕輪一つでここまで出来るなら苦労しないしね」
圭太は興味深く零央の腕輪を見ているようだ。
彼のいたアングル王国は運び屋の本場ではあるのだが、武器や施設等の技術が繁栄しているかと言われればそうではない。
圭太が古い武器を使用している事でも分かるように、昔からの設備や物を今でも大切に使っているという状態だ。
逆に本場という立場を利用し、他国から優秀な運び屋をスカウトしていると言った状態になりつつある。
圭太もその例の一つだろう。
「今の君達は道具を武器庫やトランクに保管して、敵が出たら取り出し、コードを入力し、使用する。かなり段階を踏まなければならない訳だ。その点、零央君はハンドサイン一つで能力を使う事が出来る。言わばオーバーテクノロジーといってもいいだろうね。とは言え、サンプルがないのも確かだ。これから練習を重ねて使いやすいように調整していかなければならない。その大きな目標としてあの壁の破壊があるという感じかな?」
運び屋達にそれぞれ拠点があるのはそう言った大型の武器を保管する為でもある。
喫茶店にもそう言った場所があり、多種多様な武器が揃っている。
使える武器は個人差もあり、その人達に合わせ黄泉や愛はオーダーメイドで作っているようだ。
勿論、チーム間で共有出来る物もある。
朱鷺田達の使用する【毘沙門天】が最たる例だろう。
黄泉や愛は製作者の為、自衛手段としても運び屋達の武器を全て使用する事が可能だ。
しかし、普段から業務に就いておらず実戦経験もない為。
威力や効果が減少してしまう事も考慮しなければならない。
「零央、どう?僕も協力するけどあの大きい壁達を退かせそう?」
圭太は零央の気持ちを確認する為に問いかけるが、その零央本人ですら首を傾げそのあと横に振った。
「わからない。でも、パパいつもいそがしそうにしてるかられお、おてつだいしたいんだ。パパのちからになりたい」
「健気だね。子供はいつも親に無償の愛をくれる。君がお父さんに愛されるのは、それ以上に君がお父さんを愛しているからなんだろうね」
その言葉に零央は優しく微笑んだ。
「まぁ、僕も夏休みだし。零央の付き添いなら幾らでも出来るけど姉貴達はこの時期が1番大変だって言ってたね。人の動きも活発になるから」
そう言うと、零央は寂しげな顔をする。
何か、彼の中で父親に言えなかった事があるのかもしれない。
「れおね、はなびたいかいにいきたいんだ。あと、おまつりにもいきたい。でもね、パパにいえないんだ。おしごとがんばってるから。ママも、おそとにあんまりいけないから」
そう言うと圭太もそうだが、黄泉も優しく零央の頭を撫でた。
「大丈夫だよ。今年は僕たちがいるからね。良いかい?Dr.黄泉は誰にでも幸運を運ぶんだ。零央君。君の願いも必ず叶うよ」
「そうだよ。零央、我慢しなくていい。君は1人じゃないんだ。子供もそうだけど、大人でも我慢して良い事なんて一つもないからね。お父さんの代わりなんていないけどさ、僕達と一緒に行くのは悪くないでしょ?」
「うん!ありがとう、けいた!れおね、パパみたいなすごいはこびやさんになるんだ。ううん、パパをビックリさせるの!みててね!」




