第参拾仇話 緊急会議
他メンバーが会議室で待っている頃、望海達は瑞穂達を壱区に案内していた。
咲羅の手には何故かスイカがあり、軽々と持ち上げているようだ。
それを圭太は嬉しそうに受け取っていた。
季節が夏という事もあり、この時期にピッタリではあるのだが緊張感のない。のどかな雰囲気が流れていた。
「ほれ、スイカだ」
「やった!姉貴、後で零央とスイカ割りしていい?」
圭太はまるで優勝カップでも持ち上げるように天高くスイカを持っている。
流石、普段から歌舞伎で重い鬘や着物を身につけている事はある。
望海が呆れながら彼を見ていると瑞穂が声をかけてきた。
目を合わせるとお互い穏やかな表情を浮かべる。
「この前は本当にありがとうね。咲ちゃんがお礼するならスイカが良いって言うから沢山持って来ちゃった」
「いいえ、当然の事をしたまでですから。にしても結構な人数が集まりましたね。瑞穂さん達も来ていただきましたし」
あの晩餐会の件の後、望海達は肆区のメンバーと共に消火活動を行った。
肆区は土地柄故に人の流れも少ない所か、電波障害を理由に黄泉の武器を使う事すら出来ない。
なんとか、彼も現地に赴き何度も調査をしているのだが原因がわからず困っているという。
もし、それが解決すれば全区での武器の使用も可能となるだろう。
「あっ、圭太!まさかひと玉丸ごと使うつもりですか!?」
そんな望海の叫びも虚しく、圭太と零央は勝手に進めてしまっている。
剣を出し、それでスイカを切るのか?剣先で空を斬るように何かのマークを描いているようだ。
「あの子、望海ちゃんの弟さん?燕より、子供みたい」
圭太を見ながら、燕は首を傾げている。
当の姉である望海は呆れているようだ。
「圭太は精神年齢5歳ですから、同じ5歳の零央君と気が合うんでしょうね」
零央も休日という事や、喫茶店にいても誰もいないという事で会議場近くまで同行していた。
スイカの近くでしゃがみ込み、圭太の様子を見ている。
「けいた、なにしてるの?」
「先に切れ目を入れておくんだ。そしたら綺麗に割れるんだよ。...あっ、マッドサイエンティストだ」
案の定、にこやかな笑みを浮かべながら黄泉が近づいてくる。
今日は愛も一緒のようだ。
緊急事態という事で今回の会議に出る予定らしい。
「こんにちは、黄泉先生の弟子の東出愛です。おやおや、見慣れない顔だねボク?お名前は?」
「東圭太、17歳の現役高校生兼歌舞伎役者です」
愛は零央に声をかけているのだが、先に口を開いたのは圭太の方だった。零央は警戒するように、圭太の後ろに隠れる。
「はははっ、異国の運び屋は一味違うな。君の後ろに隠れてる、その少年の事も教えて欲しいな」
「しらないひとには、なまえをおしえちゃダメってパパにいわれてるから」
「まぁ、偉いね君。パパと一緒に来たの?パパも会議に出るのかな?」
黄泉と東出は興味深々に零央の事を見ている。
零央は付き纏われ、困惑しているようだ。
2人には零央の事が何か特別な物のように見えるのだろう。
実際に父親譲りの強力な念力を持っているようで、全身から青い炎のようなオーラが見えるようだ。
まるで血管が透けて見えているように念力の流れが、2人には見えている。
念力の量は個人によっても違う。
その容量の多さを測るのに1番適しているのは印の数だろうか?
児玉は実際に全区に30から40箇所にも及ぶ印の数を持っている。
その血縁である零央が膨大な念力を持っているのは当たり前の事だろう。
「黄泉先生、この子はもしかして!」
「あぁ、児玉君と同じ念力を感じる。いや、それ以上の逸材だ。児玉君も隅に置けないね。こんな隠し子がいたとは」
黄泉は嬉しそうに零央を見ているようだ。
しかし、児玉が来ると途端に表情を変えた。
「別に隠した覚えはないんだけどな。黄泉、うちの息子に何かようか?話ならアッチで聞いてやるよ」
その指差す向こうには、軽蔑の眼差しを向ける望海と光莉がいた。
「...いや、遠慮しておこうかな。そうだ、圭太君。今度、零央君と一緒に僕の研究所へ来たまえ。インスピレーションが沸いてきたんだ、今度面白い物を見せてあげるよ」
「けんきゅうじょ!?れお、いってみたい!」
「辞めろ、黄泉!零央は秘密基地とか研究所っていう言葉に弱いんだ。ほら、会議が始まる。行くぞ!」
会議場に着くと、もう既に他のメンバーは揃っており児玉は朱鷺田と谷川がいる事を確認し安心しているようだ。
目を合わせると、頷き返している事もありキチンと意思疎通は出来ているのだろう。
そのあと、山岸が揶揄うように笑顔でこう言った。
「流石、大御所。来るのも遅いですな。今日は中々華やかなじゃない?肆区の皆さんにもきてもらって。バーベキュー大会でもするの?先日、消防訓練あったし」
「練習は本番のようにって言うけどさ。まさか、本番が一発目に来るとは思わないじゃん?でも、皆無事で何より。山ちゃん、バーベキュー大会はちゃんと皆が揃ってからね」
「やった!皆、光莉さんが奢ってくれるってよ!ちゃんと覚えておけ!光莉さん、やっぱり牛タンは欠かせませんよね?」
「調子のんな!」
光莉と山岸の漫才に周辺もそうだが、屋上で聞いていた旭もクスクスと笑っていた。
「いいな、俺も混ざって漫才トリオでも組むか」
その一方である人物が首を傾げながら、瑞穂と咲羅を見ているようだった。
颯が自分の肘を相手の肘に当てるとハッと彼の方をみた。
「おい、どうしたよ。隼。そんなにアイツらの事が珍しいか?肆区の運び屋らしいしな。お前が前に住んでた所の奴らだっけか?」
「ま、まぁ。でも、あの2人。なんか見覚えがあるんだよな。幼い頃。凄い話しかけてくれて、周囲に馴染めない俺の遊び相手になってくれて」
そんな思い出話を語る隼を見て、颯は嬉しそうにしていた。
会議終わりにでも、彼らに声をかけてみようと思ったようだ。
気を取り直して、皆席に着き。
いつもより、広い会議室を使いそれぞれの議題を提示する。
まず、望海から今回の放火に関する犯人の手がかりを提示した。
「今回の火災、とてもじゃありませんか単独犯で行えるとは思えません。今回、さまざまな目撃者の証言から秋津基地所属の百地玄四郎と言う人物が今回の放火に関わっていると推測します」
「...秋津基地」
節子は会議の様子を壁際で見ながらそう呟いた。
手には一応、手がかりになればと全斎からの資料を持っているが不安になったのかギュッと握りしめている。
「弟の圭太によれば秋津基地はここからそう遠くない場所にあるとのこと」
車で移動出来る距離にあると言う事は少なくとも数キロ先の近い場所にあるのは明らかだ。
しかし、比良坂町の住民もそうだが運び屋達はその存在に気づいていなかった。
会議の資料を見ながら希輝はボソリと独り言を発した。
「何でこんなにも近くにあるのに基地の存在に気づかなかったんだろう。やっぱり比良坂町が壁に囲まれた場所だから?」
正直、運び屋達は比良坂町の外の地理を把握出来ていない。
町を良く知る朱鷺田でさえも、資料の内容に訝しみ本当にこんな物があるのか?と疑っているようだ。
屋上にいる旭はと言うと、もう既に比良坂町外の地理が書かれた地図を持っている。
比良坂町と秋津基地が二つ点在する地図だ。
しかも、秋津基地の敷地やその建物内の地図まで持ち合わせているようだ。
結論から言えば、これは“後ろ盾”による援助の元で手に入れた物だ。
旭でさえ、秋津基地の内部に入るのは厳しいだろう。
旭は情報収集を町の中に縛り、政治家や企業家を中心に情報収集をしていた。
実家が銀行だったと言う事で顧客情報が手に入りやすいと言うのも合わさっての事だろう。
「秋津基地は私達にとって未知の場所です。まずは情報を集めるのが最善かと考えます」
「それと並行して、私からお話させていただいてもよろしいかしら?」
節子はそのあと、軽く手を挙げ。
不安げな表情を浮かべながら皆の前で話を始めた。
「節子さん?」
騒めいた会場が一旦静まり返る。
いつもそうだ、皆彼女の話に耳を澄ませ聞き漏らす事はない。
やはり、敷島家の力は絶大だと望海は思った。
「以前、隼さんと壱区の北部へ行った時、同じく秋津基地の全斎秀一准将からとある資料をいただいたの」
その言葉に翼は隼を問い詰めた。
火災時、隼は北部にいた為。他のメンバーと合流するのも1番遅かった。
チームの統率が取れていない中で全斎の事を話せば混乱を招きかねないと口を噤んでいたのだろう。
「本当なんすか!?隼!?」
その翼の言葉に隼は苦い表情を浮かべながら腕や足を組んでいるようだ。
「頂いたというか、押し付けられたと言った方が正しい。しかも、ご丁寧に秋津基地の見取り図と「初嶺朧」という男の詳細を事細かに記した資料を渡された」
節子はその言葉に頷き、資料を捲りながら説明を開始した。
「初嶺朧、元々軍が育成した運び屋との戦闘を想定しシュミレーションする為の存在。彼を利用する軍人達も多いそうよ。全斎さんは彼と戦い、自分達の所に引き入れて欲しいと考えているみたいね」
「そんな無茶苦茶な。完全に俺たちは軍の手のひらの上じゃないか」
「でもさ、玉ちゃん。軍人が育成した運び屋がいるって事は、近々私達との戦闘を企んでるって事だと思うよ。逆に全斎って人は良心的じゃない?初嶺って人は基地のデータベースそのもの。それを私達に渡してくれるって言ってるんだから」
その言葉を聞いた屋上の旭は目を見開いた。
「...おい。聞いてないぞ。そんな事」
何度自分の資料を探ろうとも、初嶺に関する情報は出てこない。
それによって旭はある可能性を考えた。
全斎によるハッタリか?もしくは旭達が秋津基地に探りを入れているのを知って巧妙に初嶺の存在を隠していた。彼を隠し玉にしていたか?その2つだろう。
旭は一度、谷川に確認を取るべきだと会議の内容を聞いているようだ。
そして会議室では望海が光莉のその言葉に恐怖を覚えていた。
逆に言うと初嶺と互角以上に渡り合えない場合、一方的に比良坂町に進行されるという事だ。
初嶺が今後の基準になってくる事は間違いないだろう。
「圭太!零央君!会議終わりました、帰りますよ!」
「ちょっと待ってよ姉貴、今いい所なんだ。零央、僕の手届いた?トンネル崩れないように慎重にね」
砂場でトンネルの開通工事をしているようだった。
「圭太、貴方ね...」
しかし、全力で遊んでくれるからこそ零央は圭太に懐いているのだとそう思った。
「よっ、初めましてだよな。壱区の運び屋をしてる氷見戸颯って言うんだ。これでも昔は組織を引っ張ってたんだぜ。同業者同士仲良くな」
颯は瑞穂や咲羅に近づき、気さくに握手を交わしているようだ。
「初めまして、葦原瑞穂よ。肆区もそうなんだけど、参区も担当させてもらってるわ。もしかして、先輩になるのかしら?私達は運び屋に活動してまもないし」
「いいって、普段会えない奴に畏まった態度をとってもしょうがないだろう?うちの後輩には厳しいけどな。俺の自慢のエースっていうか弟分も紹介しておくよ。おい、隼。こっちこいよ」
そのあと、嫌そうというか躊躇いながらも隼は3人の方へと向かう。
瑞穂達も何かに気づいたようで、目を見開いたあと嬉しそうに笑みを浮かべているようだ。
「まぁ!ねぇ、貴方もしかして隼君!そうよね?ピアノが得意だったでしょ?今でも続けてるの?」
「いや、今は運び屋に専念してて。たまに曲が思い浮かんだら作曲とか。演奏したりとか色々」
「元気そうで何よりだ。また、こう言った形で会えて嬉しく思う」
咲羅がそう言うと隼は安心したように笑っているようだった。
「えっ?何?隼って俺の知らない所で彼女と彼氏を作ってたの!?キィィ!うちの隼君は誰にも渡さないんだから!」
「お馬鹿。隼が昔仲良くしてた奴らだよ。山岸も知ってるだろ、アイツが肆区にいた事。良かったな隼、いつも悪い事ばかり思い出してるって言ってたけど。いい思い出もあるじゃねぇか」
それぞれ、会議が終わり帰路につく中で誰かを待っている人がいるようだった。
「あれ、朱鷺田は帰らないのか?」
会議室の入り口付近で谷川を待つ彼を見て、山岸は声をかけているようだ。
「あぁ、谷川を待ってるよ。元々、寄り道する予定だったしな。でも、あいつ遅いな。ちょっと心配になってきたな。なんか整備してくるとか意味不明な事言ってどっか行っちゃってさ」
「あはは!谷川姫らしいな。でも、ちょっと気になるんだよな。ほら、お前が落ち込むのは分かるじゃん?でも、谷川が表に出てこないって、やっぱり旭が居なくなって寂しいのかね」
「どうなんだろうな?いつも通りな気もするし、内心ではショックを受けているのかもしれないけど...まさか」
そう言って朱鷺田はスタスタと谷川の方に向かうようだ。
「うん、うん。ゴメン、旭。何度が実家に寄ってパパから情報もらってたんだけど初嶺に関する情報はないみたい。本当に秘密裏なのか?でも、籍はあるんだよね。本名もそうだし顔写真もあるんだよ。でも、軍人の1人というか。整備関係の部署にいただけで実戦には...」
中々、確信に迫る情報を谷川は口にしているが朱鷺田が視界に現れると動転したのか?無線機をバッと落としてしまった。
「ち、違うんだよ!みどり君!これはそのスパイごっこというか!」
「その向こうに旭がいるのか?」
そう言って朱鷺田は無我夢中で無線機を取ると旭はこれだけ告げて会話を終えた。
「トッキー、俺がいない間も花壇の世話頼むぞ。特に雪椿はな。ちょっと前に咲いてただろ」
「...あぁ、ゴメン。そこまで手が回らなくて。旭、会いたいよ。今何処にいるんだ?」
「ダメだ、家を出る時。言っただろう?思いは常に伝えてあるって。雪椿の花言葉は?それが答えだよ」
そのあと、谷川は無線機を奪い取った。
「もう、トッキー。旭にはまだ会えないよ。雪椿の花言葉はね...」
「...知ってる。変わらぬ愛だろう?分かったよ、もうちょっとだけ待つから」
そう言うと谷川は寂しげながらも優しく微笑んでいた。
《解説》
今回沢山のメンバーが集まっているので、箇条書きで元ネタをご紹介します。
・咲羅が圭太にスイカを渡すのは薩英戦争からです。
スイカ売りに扮して、敵艦船に忍び込もうという作戦があったそうですね。
・今更ですが、隼が肆区出身なのは先代寝台特急時代の「はやぶさ」に由来します。東京〜熊本間で運行されていました。
元は薩摩隼人から名付けられていますね。
・実際に雪椿の花言葉は変わらぬ愛です。作者ウソツカナイ。
因みになんで消防訓練の後にバーベキュー大会が繋がるのかと言うと幼いころ、実家のマンションで実際にやってたからですね。
その頃は住民の方も、家族連れも多かったですし駐車場も広かったので幼い頃の事をふと思い出して書いただけです。他意はありません。




