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鉄壁の運び屋 壱ノ式 ー三原色と施錠の町ー【完全版】  作者: きつねうどん
第八章 最恐と最強の運び屋
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第参拾漆話 待ち合わせ ◼️

とある親子には、合流場所があった。

16歳の青年は楼門の2階で父親が来るのを待っていた。

天井を見上げるといつも疑問に思う事がある。

何故、干支が4つしか描かれていないのかと?


「残りの8つはどこに行ったのでしょうか?きっと、私の知らない場所にあるのかもしれませんね」


何処かの噂話で聞いたのと同じように鮮やかな金髪にブラウンの瞳、比良坂町では見慣れない白い祭服に赤いストール、首には金のロザリオをかけているようだ。

そのあと、下から声がする。父親が来たようだ。

彼は父親の元に行く為、下に降りる事にした。


「紫紋!無事で良かった!肥後(ひご)の方は消火活動が終わったから戻って来て良いよ。でも、良く分かったね。火事になってるなんて」


青年の名前は海鴎(かいおう)紫紋(しもん)、異国風の名前を持っているが実際に彼の母親は異邦人の女医である。

名をマルタというそうだ。

マルタは比良坂町に医学を伝える為、此処で開業医として働いていたが運び屋だった紫紋の父親が彼女に惹かれ、結婚した。


比良坂町では混血児は珍しく、偏見も多いが3人はとても仲が良く家族愛に溢れている。

実際に父親は紫紋を溺愛しており、当て字も彼が妻との思い出の花である紫陽花(あじさい)から連想して名付けた。

今日も今日とて、紫紋を無事を確かめた後、泣きながら抱きしめている。親バカのようだ。


「私には神の声が聞こえるのです。今朝、教会で祈りを捧げた時にお告げが降りまして。肥後は危ないと。出来るだけ私の行ける範囲で皆さんを非難させました」


「ありがとう、紫紋。流石は自慢の息子だ。開業してまもないのに良く頑張ってるよ。偉い!」


「ですが、ファティ。この困難は更なる困難を呼び起こします。私はご覧の通り、貴方に守られて支えられて運び屋業をしています。完全とは程遠い。この楼門と一緒です」


そう言いながら紫紋は其方を指差している。

父親も干支の絵を知っているので、同じく首を傾げているようだ。


「本当に不思議だね。何で此処には4つしかないんだろう。乙黒家の人なら知ってるかな?」


名門乙黒家は海鴎親子とも繋がりがあり、親世代。

斑鳩合蔵の息子、海鴎の父親、燕の父親は揃って三羽ガラスと言われた。

紫紋自体は面識がなく、父親を通じて話を聞いているぐらいだ。

そして残りの8つがある壱区の協会に焦った表情を浮かべる児玉の姿があった。


対策本部だろうか?協会入り口に建てられた簡易的なテントに浅間がおり、周囲に指示を出している。

実は彼女は運び屋になる前、協会で事務をしていた経験を持ち。

ある程度、協会職員と面識がある。

その為、他職員も積極的に動いてくれているようだ。


「済まない浅間、状況は?壱区の皆は無事か?」


児玉が遠くから声をかけると、浅間は彼に気づき此方へと寄って来てくれた。


「児玉さん、ご無事で良かったです。山岸さん達の担当区域は壁から離れているので火災を確認出来なかったそうで到着が遅れるそうです。希輝ちゃん達が消火活動に協力してくれて壱区から参区はなんとかなりそうなんですが、望海ちゃん達は大丈夫ですか?」


「あぁ、仕事の一件が片付いて連携が取りづらい肆区側を担当してくれてる。緊急事態だからな黄泉もこき使って弐区側を頼んである。これで何とか人は回りそうだな」


児玉が此処に向かう迄の間、殆ど消火活動が終わり黒い雲が夜空に充満するという状態となっていた。

今まで比良坂町でこんな大規模な火災が起こった事は勿論ない。

こんな大混乱に落ち入りそうな場面でも冷静に対処し、消火活動に尽力してくれた仲間達には感謝しかなかった。


望海達も花菱の最期を見届けた後、筑紫にて瑞穂達と合流し消化活動に現在尽力している。

そんな中、希輝達三人が浅間の所に駆け足でこちらへ来て話かけてきた。


「浅間先輩!壱区と参区の民家の損傷具合も調査して来ました。やっぱり壁付近の民家は火種の影響で木造系の損傷は激しいです。でも、避難誘導は迅速に出来たので死傷者は少ないです。ただ...」


「ただ?」


「参区側の水路に男性の死体を見つけた。今、愛さんに検死の依頼をしている。この火災で巻き込まれたのかもしれない。他にも水路に細工をしてあるのを見つけた。火災当時、断水状態だった。油の匂いも酷かったし、誰かが水を止めて、大量の灯油かガソリンの類いを流して放火した可能がある」


参区側の死体は紛れもなく花菱の物だろう。

これで、人魚という運び屋の天敵とその裏で暗躍していた売人が亡くなったが。新たな課題が出てきたのも事実だった。


「そう、ありがとう剣城君。三人ともありがとう、お疲れ様。もう、夜も暗いし親御さん達も心配するわ。児玉さんもきてくれたし、後は大人達で対処するから」


「...いや。...あの。僕たち、気づいた事があって。この壁って今なら壊せるんじゃないかって三人で話してたんだ。そうだよね?希輝、剣城?」


もうそこまで先を読んでいる事に児玉は驚愕すると同時に関心していた。

浅間は常々、賢い後輩に恵まれたなと嬉しい気持ちになる。

元々、3人は旭の行方を探す為。小坂まで範囲を広げようという計画をもっていた。

今、その時が来たのだ。天敵もいない今こそチャンスだと。そう思っているようだ。


「その話、俺にも聞かせてくれないか?何故、そう思った?賢い三人の事だ、何か企みがあるんだろう?」


後輩達が成長する姿を見るのが、児玉の最近の楽しみでもあった。

特に希輝達の行動というのは今後の自分達の仕事にも影響してくる。

担当場所が複重し、将来共に仕事をする可能性もあるからだ。


「えぇ。アタシ達、元々参区の中心街まで行動範囲を広げられないかな?ってずっと考えていたんです。人魚がいなくなった今、運び屋達に天敵はいない。もっと言うと、比良坂町の壁を全部無くす事が出来たら可能性も無限にあるって思って」


彼女の言葉に児玉は考えを巡らせる。

確かに壁がなければ、これ以上に嬉しい事はない。

町の更なる発展にも繋がるだろう。

しかし、民家と同じで作る事は安易でも取り壊すとなると更なる課題が持ち上がる。

特に比良坂町という土地特有の問題もあった。


「なるほど、確かにこの厄介な壁を退けさえすれば運び屋達も安全に業務につけるな。だが、問題がある。壁と民家の距離が近すぎる。上から少しずつ壊すにしても、落石が民家や人に落ちればこれ以上ない被害を被る。それに残骸の撤去場所も必要だ。それ以上にもっと根本的な問題がある」


「誰がこの壁を破壊して、それを運搬出来るだけの怪力持ちがどこにいるのかという事か。壁の高さ15m、横10km、厚さ80cm。それが8枚。どれだけ探してもこの街にそんな偉業を成し遂げられる人物がいるかどうか」


頭の良い三人だからこそ、この作戦が不可能かつ無謀な事に気づいてしまったのだろう。

しかし、希輝は諦める事が出来なかった。

腰につけていた拳銃を手に取り、コードを入力する「923」と。


「Dr.黄泉!お願いです、何とかなりませんか!?」


「何とかと言われてもね。面白い提案だが、今の運び屋にそんな事出来る人物はいないよ」


「じゃあ、逆に考えてどんな人だったら可能だと思いますか?」


Dr.黄泉は少し考えたあと口を開いた。


「まず、運び屋というのは大小念力という物がある。この中で念力のコントロールに優れ、大量に所持しているのは児玉君だけだな。それ以上にどうしても壁を動かしたいのなら怪力は勿論、それを持ち上げる浮力も必要だ。ここまで来ると、体格や身体能力よりも能力への適性と自身の念力の多さ、容量の良さが求められる。そんな人物がいるなら私も会ってみたいね。いるのなら、間違いなく最強の運び屋と呼んでも良いんじゃないかな?」


「そんなー、児玉さん。何とかなりませんか?」


「こればかりはどうにもならないだろ。俺も担当地区があるし、削って余力を回した所で失敗するのは目に見えてる。若い頃の俺だったら話は別だったかもしれないがな」


これ以上話が進まないと考えた浅間は話を切り上げ、今後について話し合う事にした。


「では、二日後。火災の被害状況をそれぞれ報告する緊急会議を開きましょう。今日、仕事で出払っている人も何人かいるし、珍しく朱鷺田さんや谷川さんも来てくれるって言うから全員集まれるかもしれないわね」


その言葉に浅間と黄泉以外、全員驚いている。

無理もない。2人が集会に参加するなど天地がひっくり返ってもあり得ない事だったからだ。

児玉は先程、町長の送り迎えをし朱鷺田ともあったがまだまだ自分の仕事に精一杯という感じで今はそれで良いと気長に見ていた矢先にこのような事が起きたのだ。驚くに決まっている。


「えっ!?比良坂町長の息子で家の事情で一回運び屋を引退した朱鷺田さんと労働力皆無の無気力美女谷川さん!?大丈夫なのかな?絶対的なリーダーの旭さんが居なくなって、外の事より内部の方が問題が山積みな気もするんだけど」


「珍しいな。あの地域は担当がコロコロ変わるし、協会側も遠慮して定例会議も任意参加で基本来ないのに。それだけこの火災は恐ろしいって事なのかもしれないな」


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