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鉄壁の運び屋 壱ノ式 ー三原色と施錠の町ー【完全版】  作者: きつねうどん
第八章 最恐と最強の運び屋
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第参拾陸話 挑戦状 ◆

「ここが蝦夷出版って所か。俺、初めてきたかも」


隼は地図を手に持ちながら北部の蝦夷出版までたどり着いたようだ。

しかし、同時期に火災が起こっているなど隼もそうだが同行していた節子は知りもしない。


夜間にも関わらず、照明が消されていないの階が無いのを見るにどれだけ多忙なのかが目に見える。

中に入り受付をし、日向葵と面会をする事にした。


「はるばる遠くからありがとうございます。貴女が花菱姫乃さんですか?お会いできて光栄です」


編集部なのだろう、パーティションで区切られた客人スペースに3人は通され葵は姫乃と握手を交わしていた。


「こんな状況で貴女にお会いしたくなかったのだけど、本当に私を保護してくださるの?」


姫乃は慎重に、確認するように何度か質問を彼女に投げかけている。

もう同じような失敗を繰り返したくないのだろう。

無理もない、別の場所で不遇を受ければ更なる悲劇を招く事になるのだから。しかし、穏やか表情で葵はこう説明した。


「えぇ、私個人というより同じ境遇の方々が集まった施設、団体があるんです。最終的には自立した生活をして貰う事になると思いますが、しばらくは穏やかな生活が送れると思います」


キチンとした内容の資料も渡され、節子も内容を確認しこれなら大丈夫だと頷いているようだ。


「なら良かったわ。もし、私たちの手が必要なら遠慮なく言って。私や隼さんもこの地域を見回りしているし、力になれる事はしたいの」


そのあと、しばらく話をし姫乃を葵に任せ2人は出版社を後にしようとした。

しかし、外に出た後突然現れた1人の男性に節子は封筒を押しつけられた。危機を察した隼は節子を後ろに誘導する。


「誰だアンタ」


「松浪隼、比良坂町内で一番戦闘能力に優れた運び屋そう聞いている。君に挑戦状を持ってきたんだ。私たちが育成した最恐の運び屋「初嶺朧」と戦ってくれないか?その封筒に彼のデータが入っている参考にしてほしい」


それに合わせて節子は手に持っていた封筒を震えながら見ていた。

ただ、全斎にしては早急過ぎるのだ。

元々、初嶺が赤い血を持つ事は知っているしそれと並行して久堂に運び屋達を探らせていた。


しかし、初嶺が実際に銃を手に取ったのは丁度今頃なのだ。

言ってしまえば、仮初の計画書を運び屋達に渡した事になる。

ただ、最終的に初嶺はこの資料通りの人間になるという事実だけは変わらなかった。


全斎からしてみれば資料の真偽などどうでもいいのだろう。

大事なのはただ一つ、自分の目的の為に初嶺や運び屋達を利用する事だ。しかし、隼はそれを拒否した。


「断る。俺にそんな事をする道理がない。何かメリットがあって言ってるのか?」


「勿論、あの鶴崎真紅郎を蹴落とすにはこれが一番だ。気に入らないんだよ、彼奴は。私の出世の癌のような奴でね、早く責任を押し付けて消したいんだ」


全斎は長年、鶴崎に対する不満を持っていた。

実は比良坂町の外は秋津基地だけではない。

基地関係者はそれを良く知っている。勿論全斎もだ。

だからこそ、彼はこの場所に居座り続ける鶴崎に恨みを持っている。

それ以上に彼は組織に対して保守的なのだ。逆に全斎は改革派。これでは意見が噛み合う筈がない。


「貴方、鶴崎と対立しているの?という事は秋津基地の関係者?」


「ダメだ、節子嬢。俺の後ろに隠れて」


しかし、情報を聞き出したい節子は話を続けた。

運び屋達は現在、秋津基地に完全に翻弄されている状態だ。

今は少しでも手がかりが欲しいだろう。


「軍で派閥争いが起こっているという事かしら?組織として機能していないの?貴方の格好を見るに、そこそこ良い階級の方よね?お偉いさん?」


その言葉に彼は笑い出した、そして楽しそうに頷く。

それ以上に優雅に拍手までしているようだ。


「そう、私は准将の位にいる。鶴崎はその上の少将。彼奴は組織の中で最年長であり、秋津基地のトップでもある。この全斎(ぜんさい)秀一(しゅういち)を差し置いてだ。周りは私と鶴崎がツートップと言う輩もいるがね」


楽しそうに言う全斎に対し、逆に隼は珍しく不機嫌な顔をした。


「呆れた、理解出来ないね。出世の為に運び屋を巻き込むなんて、最低だ」


「何度でも言いたまえ。私は私の目的を果たす迄だ」


そのあと、全斎は何か1人で呟いている。

いや、違う。無線を通じて誰かと会話しているようだ。

全斎派の人間は複数人いる。そのメンバーの1人だろう。


「そうか百地、よくやった。こちらも要件は終わった。すぐ帰還する。では私はこれで、秋津基地で再会出来る事を楽しみにしているよ」


「待て!」


隼が掴み掛かろうとするが、全斎はその場から消えてしまった。

まるで、鶴崎と同じように目の前で霧がかかったように2人の視界が歪み、並行感覚も鈍くなる。

しかし全斎が去るとその効果も消え失せた。


「ねぇ、隼さん。何?今の?」


「...分からない。なんだ、幻覚?薄気味悪い」


珍しく隼は背筋を凍らせるが、此処で立ち止まっている訳にもいかずその場を後にした。


場所は変わって弐区、児玉の自宅では3人分の布団が用意されているが2人しかいないようだ。

眠たそうにしながらも愛おしそうに子供を撫でる母親と、幸せそうに一緒に寝る子供。そう花菜と零央の姿があった。


「零央君、まだ起きてるの?」


「うん、パパがかえってくるのまってるんだ。きのうれお、おやすみなさいっていえなかったから」


「...そうね。...ふわぁ」


そのあと、寝息を立てている母親を見て零央は布団を深くまで被せようと頑張って持ち上げているようだ。

しかし、幼稚園児には大人用の布団は重いだろう。上手く引っ張る事が出来ないようだ。


そんな時、鍵を開ける音が聞こえる。児玉が家に戻ってきた。


「ただいま...2人とも寝ちゃったかな」


毎日、夜遅くまで活動している児玉には中々家族との時間がなかった。

しかし、合間を縫って会いにきてくれる事は花菜もそうだし零央も理解している。

児玉は小声で呼びかけながら起こさないようになのか?足音を立てないように歩を進めているようだ。

しかし、零央の声を聞くとホッとしたのか安心した表情をしている。


実は数時間前に見送った朱鷺田にも寝る前に会いたいなと息子の事を話していたようだ。

その思いが叶って、ホッとしたのだろう。


「パパ、おかえりなさい!あのね、れお。ママにおふとんうまくかけられなくて。パパ、てつだって!」


「あぁ、花菜ちゃんは寝ちゃったのか。昨日も遅くまで待っててくれたからな。ただいま、花菜ちゃん」


そう言いながら、零央と一緒に毛布をかけていると花菜は穏やかな笑みを浮かべているようだ。

零央も父親に会えてホッとしたのだろう。少しウトウトしながらも自分の布団に入りながら何か会話をしているようだ。


「パパ、きょうもえらいひとのはなしをして!」


「そうか、そうか。良いぞ、今日は誰にしようかな」


横で寝そべり、零央を寝かしつける児玉だったが内心では心の騒めきが治らなかった。

仕事を望海と光莉に任せるのはいつもの事で彼女達を信用していない訳でもない。

しかし、そうでもしないといつまで経っても心と体が休まらないのは児玉自身もよく分かっていた。


「パパ、どうしたの?...やっぱり、れおやめようかな」


「いやいや、今日はちょっと零央には難しいからどうしようかなって考えてたんだよ」


目の前の子供との時間を大切にしたい、それ以上に息子に遠慮してほしくない思いがあった。

仕事が多忙なのは仕方ない、1日は24時間しかない。

だからと言って子供との時間を作らないのは言い訳でしかない。

時間は作るしかない。それが児玉のポリシーだった。


零央は好奇心旺盛で、色々な事を知りたがる。

特に偉人の話を聞くのが好きなのだそうだ。


「今日はちょっと難しいぞ、零央は林檎は好きか?」


「うん!あかくて、まるくて、あまいの!」


「そうだな、そんな木になる林檎が落ちるのを見て全部の物が下に落ちる事、そしてそれがどんな場所でも起こる事を発見した偉い人がいたんだ」


「どうしてりんごはしたにおちるの?れおもジャンプしてもそらをとべないのといっしょ?」


その言葉を聴いて、児玉はぎゅっと零央を抱きしめた。


「そうだ、零央は賢いな。ここには引力と磁力っていうのがある。だから磁石みたいに地面に全部くっ付くって事だな」


「じゃあ、れおはそらをとべないのかな?」


「良いや、諦めるのはまだ早い。いいか、確かにS極とN極を合わせるとくっ付く。でもS極とS極は反発し合うんだ。その力が大きくなればなるほど重い物を持ち上げる事が出来る。零央なんかすぐ浮いちゃうぞ」


「ほんとう!?」


そのあとだった、2人の会話を遮るように電話がなる。

恐らく、朱鷺田からの指示通り浅間を通じて連絡が来たのだろう。


「パパ、おはなししてくれてありがとう。れお、おやすみなさいするからおでんわしてきていいよ」


「悪いな。じゃあおやすみ、零央」


零央は寝たふりをし、会話の内容を盗み聞きしていた。


「はい、児玉です。...黄泉、何でお前が。はあっ!?火災!?場所は!?」


余りの大声に幼い零央はビクッと体を震わせた。


「有り得ないだろ!?壁の水路全域!?一体誰が!?消火活動は?そうか、浅間が指揮してくれてるのか。俺も仲間の安否確認をしてから向かう。中心街は?避難場所として使えそうか?」


そのあとも数分会話をした後、児玉は電話を切った。

すぐさま準備を始め、その数分後自宅を後にする。


「パパ、だいじょうぶかな?」


不安な表情になりながらも零央は児玉を見送った。



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