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鉄壁の運び屋 壱ノ式 ー三原色と施錠の町ー【完全版】  作者: きつねうどん
第七章 運命の晩餐会
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第参拾肆話 出動 ◆

「あわわわ!えっと!えっと!みどり君!谷川さんの靴下何処!あぁ、もういないんだった!ていうか、洗濯は各自でだった!回すの忘れてた!」


場所は壱区、浅間から連絡を受け取った谷川はこの緊急事態に壁の柱に何度も激突しながら慌てて身支度を整えているようだった。

そんな時だ。安心するようなホッとするような声が玄関から聞こえてくる。


「鞠理、いるかー?外、大変な事になってるぞ。逃げなくていいのか?」


「パパ!」


「おぉ、俺にもデカい愛娘がいつの間に。どうした?靴下散らばってるけど。全部片方だけじゃないか?」


旭がこの緊急事態だからなのか心配して家に顔を出してくれたようだ。

本人も余計なお節介だと思っていたが、何かあってからでは遅いと仲間の無事だけは確認しておきたかったようだ。


「そうなんだよ。いつも神経衰弱みたいにバラバラなの。旭、谷川さんの靴下のペア探すの手伝って」


「ならストッキングとかないのかよ。それで良いだろう?」


谷川もその通りだと、自身のタンスからストッキングを探しているようだ。


「もう、みんなして谷川さんをこき使ってさ。こんな事出来るの旭とみどり君と後、まーちゃんも追加ね!呼び出し喰らっちゃってさ。...あっ、でも。越後の方どうしよう?彼処も壁近いけど谷川さん、見習いだからいけないよ」


顔を真っ青にしていると旭は笑顔で自分を指差している。


「俺がいるだろう?何の為に来たのかと言われたら地元の為と言わざるを得ないな。ほら、鞠理。準備出来たか?行くぞ」


「うぃっす!久しぶりだね、旭とコンビ組むの。お父さんと一緒だ」


そう言うと旭は楽しそうに笑っている。幼い頃からそうなのだ。

谷川といると心が安らぐのだそう。彼女を見てると癒されるのだ。


「なんだよそれ、それじゃトッキーはなんなんだよ」


「それは勿論、お母さんと一緒だよ。谷川さんは幸せ物だね。2人に甘やかせれたドラ娘だよ。旭、気をつけて。本当に何があるかわからないから。ここから先は誰にも分からない。旭や谷川さんでさえもね。一応、まーちゃんを通じてみどり君が集会の手筈を整えてくれてって言うから谷川さんも参加してくるよ」


後半真剣な表情で谷川は旭を見つめている。

しかし、旭は安心したように笑顔で頷いた。


「鞠理、俺の中でも答え合わせをしておきたい。その集会の時。無線機を俺に繋いでおいてくれないか?古いコードなら俺も利用出来るし。協会の屋上でお前たちの会話を聞いてるよ」


「旭、また盗聴するの?まぁ、表に出るのは難しいから仕方ないか。分かった。越後は任せるよ。谷川さんは指示が飛んでて忍岡に行って敷島家の安否確認と近くの避難場所に住民を誘導しないといけないんだ。じゃあ行ってくる」


そのあと、旭と谷川はそれぞれの場所に向かうようだ。

旭が越後に到着した際、案の定燃え上がる炎と人魚達の耳を塞ぎたくなるような悲鳴が聞こえる。


「これはまた凄い事になってるな。まぁ、秋津基地の奴らだろうな。こんな大規模な人員を配置出来るのは。これも親父さんの言っていた計画の一つか」


そう言いながら旭は長い巻物とまるで血のような赤墨のついた筆をとりスラスラと何かの模様を描いている。

何か、水の流れを模した絵のようだ。


【コード:200 承認完了 越乃四郎を起動します】


壁の天辺まで移動し、瞬時に起動させると巻物から大量の水が瞬時に溢れ出し水路を鎮火させる。


「あっ、やっべ。つい癖で派手にやり過ぎた。大丈夫か、俺目立たないし。人が来る前に早く終わってくれ。これ一度起動させると長いんだよ。不味い、近くで火が消えてる。誰かが鎮火作業やってる。終わったら直ぐ逃げないと」


そう、旭の言う通り同じく壱区で鎮火作業に専念している者がいた。


【コード:007 承認完了 クロヨンを起動します】


旭とおなじく水を発動出来る武器を持つ白鷹がこの場で活躍していた。

大滝のように水路に水が流れ込み十字路になっていると言う事もあってか壱区、参区側はなんとか鎮火出来たようだ。


「流石、白鷹!でも、向こう。越後でも火が消えてるんだよな。可笑しいな。朱鷺田さん、仕事で参区にいるって浅間先輩言ってたのに。誰がやってるんだろう?」


「...希輝。それより、僕達が出来る事をキチンとこなさないと。浅間先輩から指示出てたでしょ」


しかし、その言葉に希輝はドヤ顔しながら何かの資料を持っているようだ。


「大丈夫、心配しないで。ちゃんと民家の調査記録まとめたから。でも、安心した。朱鷺田さん、ちゃんとアタシ達のこと見ててくれてたんだ。案外、面倒見が良い人なのかもね。気高い町長の息子さんってイメージがあったけど。いつかお話しする機会があれば良いんだけどな。難しいかな?旭さんの事とか色々聞きたいし」


希輝達は浅間の指示を受けたのみで集会についてはまだ伝えられていなかった。

それはこの緊急事態故に一度に沢山指示を出すと混乱するだろうという浅間の気遣いもあったのだろう。


旭や希輝達は積極的に動き出している中で気づけていないグループもいた。それが山岸達のグループだった。


とあるアパートの食卓で座りながら白と緑のテーブルクロスを見ながら動かない。と言うより、動けない1人の女性がいた。

しかし、チラチラとキッチンの方何度も見ている。

物音がするのを考えるに誰かが其方で料理をしているのだろう。

何かハンバーグのような物を焼く匂いが漂っている。


彼女の名前は森園、良いや今は山岸青葉。

旭同様、引退した運び屋の1人であり山岸の妻であり相棒だ。

緑色のウェーブのかかったボブヘアーに若草色の瞳。

美しい葉をモチーフとしたアクセサリーを身につけており、お気に入りなのか?水玉模様のロングスカートを身につけている事からもお洒落さんなのが分かる。

実際に彼女はデザイナーやスタイリストとしても仕事を請け負っている。


学生時代はミスコン準グランプリに輝くなど、学園のマドンナ的存在だった。山岸ともあったのも同じ頃、高校生の時だった。

青葉は昔から摂食障害を患い拒食と過食を繰り返していた。

それは様々な要因からなるストレスが影響しているだろう。

両親から「男の子だったら良かったのに」と言われ、青葉は自分の事を認めてもらいたいと女性として努力を重ねた。

時には無理なダイエットをする時もあった。


そんな時、挟み撃ちに合うように沢山の男性から言い寄られる事も多かった。「自分はそんなんじゃないのに」と外見だけで判断してくる異性達に気が滅入っていた。

そんな時に出会ったのが山岸だった。彼の性格上、青葉に対して自然体で振る舞ってくれる数少ない異性だった。


「青葉、もうすぐハンバーグ焼き終わるから待ってて。大丈夫、このハンバーグは箸でも食べられるぐらい柔らかいから青葉でも食べられるよ」


「えぇ、いつもありがとう。寿彦さん。...あら?何か焦げてない?何の匂いかしら?」


青葉は立ち上がり、匂いを辿っていると山岸はハンバーグが焦げたのかと思い慌ててキッチンに戻った。しかし、無事な事から何か胸騒ぎがした。

そんな時、無線機が鳴る。相手は「コード:006」山岸は良く知っている。以前もバディを組んでいた小町からだった。


「小町?どうした?」


「寿ちゃん!千体が!千体が大変なの!家の近くでしょう!隼も仕事に行っちゃって。小町、1人ぼっちでどうしたら良いのかわからなくて!颯も今日は体調悪くて寝込んでるし」


「分かった!直ぐに会いに行くよ。ここにずっといるのは危険だ。不来方(こずかた)まで移動して。銀行の前で落ち合おう。...ごめん、青葉。俺行かなきゃ。皆んな俺の事待ってる」


「大丈夫、理解してるつもりだもの。寿彦さんは直ぐに小町ちゃんの所に行ってあげて。不安がっているだろうから。私もここにいるわけには行かないわ。確か避難所があったはず。そこに行って待ってるから」


青葉も身支度を始めているようだが、山岸はその様子を見て聞き分けが良過ぎて逆に不安に駆られていた。

青葉はいつもはこうではないのだ。もっと、笑っていて自分にだって鋭いツッコミを入れてくれるしっかり者だがその分愛嬌がある人なのだ。

山岸は青葉の手を握り、祈るようにこう言った。


「青葉、必ず迎えに行くから。避難所で俺が来るまで動かないでくれ。変な男について行っちゃダメだぞ」


「なあに?改まって。大丈夫よ、私には王子様がいるもの。ちゃんと迎えに来てね。寿彦さん、じゃあ先に行ってるから」


「...あぁ、うん。行ってらっしゃい」


小町と合流した山岸はブツブツと先程の青葉の言葉を考えているようだった。


「なぁ、小町。青葉の王子様ってどんな人なんだろう?やっぱ、隼とか颯みたいな人かな?」


「...寿ちゃん、それは新手のボケなの?それとも惚気なの?まぁ、ある意味。2人に良く似てると思うの」


「えっ!?やっぱそうなのか!?どんなイケメンなんだろう。俺会ってみたいな」


そう言うと小町は持っていた乙女の必需品である手鏡を渡した。

山岸はそれを見て、炎のように顔を真っ赤にしていた。

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