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鉄壁の運び屋 壱ノ式 ー三原色と施錠の町ー【完全版】  作者: きつねうどん
第七章 運命の晩餐会
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第参拾弐話 予兆 ◎

「圭太、大丈夫かい?心配になって戻ってきたんだが」


謎の老人が姿を消し、目を丸くする圭太だったが瑞稀の声かけによって呆然としていた意識を取り戻した。

もしかしたら、人類を超越した得体の知れない存在と会話していたのではないか?と勘繰ってしまう所もあったがスーツと心を正し、瑞稀の方へと振り返る。


「うん、ありがとうって言って何処かに行っちゃった。会場に戻ろう。僕達の目的はまだ終わってないしね」


その言葉に彼女は頷き、花菱の捜索に向かった。

しかし、この広い会場内では中々彼の何所が掴めない。


「あの男は何処だ?人が多すぎる。ねぇ、客人が会場にいないなんて事ある?」


「あるとするならばVIPルームかな。そこで賭け事をする輩がいてね。彼もそこにいるのかもしれない。でも、私達が入るのは容易ではないよ」


「!?」


圭太は何か異変に気づき、周りを見渡す。

そう、あの老人の予言が命中してしまったのだ。

偵察に出ていた鴉の一羽が姿を消したのだ。


「どうしたんだい?」


「鴉が一羽消えた。何処かから奇襲を受けたみたいだ。ここって屋上まで出られる所ない?誰かが潜んでいるのかも、相当な手慣れだ。僕達の行動を妨害されたら困るんだよね」


「それなら西棟に案内しよう。確かそこなら屋上に行けたはずだ」


「じゃあその前に姉貴達に連絡を入れておこう。予備の1羽がまだ残ってる。何かあったら援護を頼もう」


圭太はすぐさま近くのバルコニーに向かい、鴉の足に手紙をつけた。

すぐさま、鴉は彼女達の元へと飛び立って行く。

そのあと2人は西棟へと向かった。


「星野、全斎の行方は?」


「申し訳ありません、鶴崎オーナー。百地(ももち)の姿は捉えたのですが、未だ足取りは掴めず。ここの招待客になっているようですが」


比良坂町では見る事が出来ない、最先端の電動車椅子に鶴崎は腰掛け星野の呼ばれた男性と共に旧式のエレベーターに乗ろうとしているようだ。


そう、先程圭太と会話していたのは鶴崎真紅郎その人であった。

彼もまた、ホテル経営者として比良坂町に潜り込んでいるがその正体は秋津基地のメンバー。

音無同様、少年兵として売り出された男性の1人だった。


実際に出兵時に負った足の怪我により、杖もそうだが車椅子生活を余儀なくされている。

秘書のように振る舞う星野も、秋津基地にて彼の側近をしている人物だ。


「この会場内に運び屋が数人来ている。この異常事態に動いてきたのやもしれん。星野、出来るだけで良い。手を貸してあげなさい。とは言え、向こうも異能力者。私達が介入すれば混乱は免れないか」


指定の階層に到着し、鶴崎と星野は廊下を移動しているようだ。


「私達では門の創造は出来ても、運び屋のように縦横無尽にとは行きません。...鶴崎少将!?大丈夫ですか!?また、発作が!?」


その時だった。まるで心臓を鷲掴むように鶴崎が車椅子の上でもがき始めたのだ。

星野は慌てて、錠剤と水を差し出し。彼の口に含ませる。


「...済まない。私の身体も限界か。今夜はもう基地に戻る。確か、生田にも門はあった筈だ。帰還する。星野、補助を頼む」


「かしこまりました。その間、全斎が悪さをしなければ良いのですが」


鶴崎と星野のまた、全斎という人物の行動を監視しているようだ。

ホテル経営者として比良坂町に出向いているのも、彼の釘を刺す為だろう。

しかし、鶴崎は高齢なのか?寿命なのか?は分からないが体調が芳しくないようだ。

2人はそのまま会場内から姿を消してしまった。


「ごめんなさい、お待たせしてしまったかしら?隼さんにはもう協会に来てもらっているわ。あとは私達で彼女を連れ出すだけなんだけど、進捗はいかがかしら?...思ったより芳しくないわね」


そして、場所は変わって第壱区。望海と光莉は都築の別邸の前にいた。

そこに節子も合流したのだが事態は一向に進んでいないようだった。

光莉が双眼鏡を使い監禁されている姫乃の部屋と(おぼ)しき窓を見ているのだが何の動きもないようだ。


「申し訳ありません節子さん。家政婦の東郷さんと協力して扉や窓から声をかけているのですが何の返答もないんです」


「投影機を使ったけど部屋の中にはいるみたい。ベットで疼く待っているのは見えたけど、どうしたものかな」


光莉が苦い表情を浮かべながら窓を見ていると、節子も同様に窓を見上げ首を傾げながら考えているようだった。


「あら、優秀な2人が足踏みするほど事を私が解決出来るかしら?そうね、窓からなら登攀(とうはん)道具を使って()じ登る事も可能でしょうけどまずは窓を開けてもらわないと」


その言葉に望海は頷いた。3人で問題の窓を見ながらどうにか姫乃を出させられないか?と案を出し合っているようだ。


「そうなんですよね。どうにか窓を開けて貰えるように誘導したいのですが、まずは話を聞いて貰えない事にはどうにも」


「まぁ、まず私達じゃ無理だろうね。どうする?誰か連れてくる?それとも望海がなんとか説得する?」


その言葉に節子は目を見開いた。


「望海さん、何とか出来るの?」


望海は目を泳がせ、何故か光莉から遠ざかろうとする。

策があるのにも関わらず、自分から言わなかったと言う事は自信がないのか?出来ないのか?いずれにしても望海本人は後ろ向きな考えをもっているようだ。


「おい、待てや。望海さっき言ったよね?「圭太に変装すれば彼女もちょっとは気にしてくれるかも」って」


「まぁ、変装が出来るの!?小説で見た事あるわ、双子の兄弟が途中で入れ替わっていたり、片方になりすましたりするのよね。私、見てみたいわ!」


「まだ試作段階なんです。Dr.黄泉がどれだけ良い武器を用意してくれても自分の念力が弱ければ具現化するのも難しい。何とか知人の姿形や声帯を再現出来る程度でして。表で使える物では...」


そう言うと望海は袴の腰にぶら下げていた狸の根付(ねつけ)がついた印籠(いんろう)を手に取っている。

これが彼女の変装道具になるのだから驚きだ。


「それで良いじゃん。変装は高度な技術が必要になるし出来ないのは当たり前。私だって出来ないし、誰にも出来ない事を望海はやってるそれはとても立派な事なんだよ。...とりあえずやってみろ」


「は、はい」


後半、低い声で言われ冷や汗を掻きながら望海は準備を始める。

節子はそれを楽しそうに見ていた。


両親を事故で失った光莉は児玉と出会うまでかなり荒れた生活をしていたという。

無理もない、心の支えであった両親を亡くし自身の生きる意味を失いかけていたからだ。

勉強が振るわなくても習い事が上手くいかない時があっても光莉は懸命に努力し、続けていた。

そんな時、両親が言ってくれた「光莉は世界一位だ」という言葉。

これが彼女の胸にいつも響いていた。


しかし、そんな言葉を投げかけてくれる人達はもういない。

自分は誰かに望まれて生まれてきた。

それをまた言われたい、その思いが悪い方向に傾いた時期があった。

金をばら撒き人の気を引いた、暴力で人を支配しようとした。


本当はそんな事を望んでもいないのに、他の方法が思いつかなかった。そんな時に出会ったのが児玉だったらしい。

彼は人の役に立つ事で誰かに大切にして貰えると解いた。

そこから光莉は児玉と共に運び屋として活動していく事になる。


児玉は誕生日になるといつも光莉に金メダルをプレゼントしている。

それが今の彼女に取っての心の支えになっていた。

次第に望海も催促され、同じく彼女にプレゼントしている。


「光莉、ありがとう。貴女が背中を押してくれなかったら私は何も出来ませんでした。貴女は私の希望を叶えてくれるんですね」


「当たり前でしょ、私は夢を乗せる運び屋なんだから。夢の先に希望はあるの。ほら、行ってらっしゃい。私の可愛い後輩!」


【コード:700 承認完了 狸の八変化を使用します】


起動させるとまるで異次元から出てきたのか?印籠が開き、望海を覆うように鮮やかな着物が何着も登場し、彼女の身体を包み込む。

全ての着物が落ち、消え去る頃には圭太の姿形そのものとなっていた。

これには節子も驚き、光莉は自分の事のように誇らしげに頷いていた。


変装した望海は屋敷の中に入り、東郷に驚かれながらも姫乃の部屋の前に移動し声をかけた。


「...ねぇ、俺の声聞こえる?いるのなら、返事をして欲しいんだけど。姉貴から病気で休んでるって聞いたから君の様子を見に来たんだ」


何とか手探り手探りで望海は圭太の口調を真似しようとするがもう既に何か間違っている気しかせず、頭の中が混乱していた。


「...」


「この前、俺にハンカチをくれたよね。改めてお礼を言わせて欲しいんだ、ありがとう。次は桜姫の演目にしようと考えているんだ。物では返せないけど、舞台で必ずお礼するからそれまで待っていて欲しいな」


「...嘘つき」


その言葉に望海は何も言えなかった。

例え、双子の弟だったとしても彼の心情まで理解する事は出来ない。

確かに圭太は望海から彼女が学校を休んでいるのを知っている、ハンカチのお礼をしたいとも言っていたし、桜姫の台本を読んでいた。

しかし、当の本人が何処まで考えて言っていたのかまでは望海にも理解出来ないのだ。


そのあと、床が軋む音がする。

姫乃が扉側へと近づいてくるのが分かった。

ズルズルと倒れ込むような音もするので望海の近くで体育座りをしているのだろう。そのあと、涙声が聞こえた。


「私ね、思い出したのよ。幼い頃、姉がいたの。彼女は蒼い鱗を持った人魚だったわ。最初、火事だと思ったの。断片的に記憶が残っていて、父も火事で屋敷が焼け落ちたって言ってた。でも嘘だったのよ。本当は...本当は...」


泣き出しそうになる姫乃を望海は慌てて慰めようとした。

姫乃が何故寄宿舎暮らしをし、今でも別邸を利用しているのを考えると本邸の場所は何処なのか?と薄々疑問には思っていた。

まさか、火災で焼け落ちたとは思っても見なかったが。


「無理に言わなくていい。怖い記憶を忘れてしまう事は罪にはならないんだ。前向きに生きようとするなら尚更」


「嫌よ、だって唯一の姉妹だもの。血の繋がった姉だもの。全部嘘だったの。あの男が姉を焼き殺そうとして、抵抗したから収集がつかなくなって屋敷諸共消失したのよ。私は嫉妬していたのよ、貴方達姉弟に。心の底では全部分かっていたのに何も出来なかった。あの男の言う通りだわ、私に何が出来るというの?」


望海は扉の前で次の言葉を考えていたが、今の状況では前向きな言葉も後ろ向きな言葉も逆効果だろうと考えていた。

姫乃が暗い表情をする時はいつも兄弟姉妹関係の事だった。

亡くなった姉を思い、懐かしさと悲しみに浸っているのだと。

望海はただこれだけを告げて彼女の元から立ち去ろうと考えた。


「今夜は星が綺麗だから窓を開けて見て欲しい。新月だから綺麗な月は出ていないけど」


「最後の最後で圭太さんらしい言葉をくれるのね。貴方達姉弟、本当にそっくりよ。でも、実の姉でも弟の一人称を把握していないなんて意外だったわ。それに彼は私を気遣ったりはしないの。逆に貴女の方が優しくて気を使ってくれる、圭太さんが貴女に言った言葉よ。忘れたの?」


「あ...いや、えっと」


正体をバレた事に戸惑っているのか?

それとも一人称を間違えた事に後悔したのか?

弟の言葉を軽く受け止めていた事に対して図星を突かれたのか?

どれも正解だし、どれも違うとしか今は言いようがなかった。


「まぁ、良いわ。ありがとう、長い間付き合ってくれて。私、天体観測が趣味なの。だから、今日見る事は最初から決まっていたのよ。だから、貴女も外に出て待ってなさい。すぐ向かうから」


その言葉を受けて望海が外に出た時には姫乃は光莉と節子に支えられ、鉤縄を使い降下している最中だった。

望海が変化を解き、元の姿に戻ると同時に圭太から使いの鴉がやってきた。


「うわっ!?」


「きゃっ、何!?」


光莉や節子は突然の鴉に驚くものの、それに反して望海は慣れた手つきで自身の左手に鴉を留める。


「大丈夫、鴉は頭が良いですし人を襲うような事はしませんよ。圭太からの伝言のようです。偵察を妨害する輩がいるとの事。節子さん、あとはお任せできますか?私と光莉で参区へ向かいたいのですが」


「望海さん達も多忙ね。後は私達に任せて。姫乃さん、まずは協会で栄養補給をしてから壱区の北部に向かいましょう。丁度ね、貴女の話を聞きたいって言う方がいるの。貴女と同じ人魚の末裔と聞いているわ。どうかしら?」


節子は昨日行った隼との打ち合わせ通り、葵と会うようだ。

自分と共通点のある人物がいると聞き、姫乃は目を見開いた。


「そんな方がいるのね。私、何も知らなかったわ。自分だけだと思っていたのに同じ境遇の方がいるなんて是非お会いしてみたいわ。お願い出来るかしら」


「良いな、節子お嬢様に送迎して貰えるなんて。滅多にないんだよ。依頼料、高く付くよ。お金がいくらあっても足りないんだから」


「光莉、余計な事は言わなくて良いんです。では、よろしくお願いします。お気をつけて」


そのあと、望海と光莉は圭太達のいる参区へと向かった。

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