第弐拾仇話 後継者 ◎
第参区、この地の特性として夜間勤務の運び屋が多い事が挙げられる。
しかし、現在需要の低下や人手不足により今や夜間専門の運び屋業を続けているのは朝日奈兄妹だけとなってしまった。
望海達は彼らに依頼し、風間瑞稀の居所を探っていたが中々見つける事が出来なかった。
「望海さん、申し訳ないです。風間様は文字通り風来坊な方でして、俺たちでもどこにいるのか分からない時があるんです」
「銀河君にも調査の依頼を打診しましたが彼も見ていないようです。本当にどこに行ったんだか」
臨時ではあるが、新人の運び屋。今西銀河も朝日奈兄妹同様夜間勤務をしている。
彼の行動範囲もそうだし、朝日奈兄妹の行動範囲も考えると参区の大部分は捜索した事になるのだが、本当に何処に行ってしまったのだろうか?
「いいえ、業務前に時間を割いて頂いてありがとうございました。後は自分達で探してみます」
朝日奈兄妹はこれから夜間の業務に入る、これ以上迷惑はかけられないと望海はお礼を言い彼らと別れた。
望海は頭の中で参区の地図も確認しながら、3人で相談をしていた。
「困ったね。風間様の居場所がわからないとパーティーに参加する事も出来ない。望海、これ以上の探索は危険だと思う。夜は人魚も活発に動き出すし、引き上げてまた明日探そう」
運び屋達がこうして、夜間の業務を避けるのは天敵である人魚が活発に動き出すからに他ならない。
昔は大勢の夜間勤務者がいた為、お互い支え合う事も出来たが、今は人数も激減。負傷者も相次ぎ、引退に追い込まれた運び屋もいる。
実際に青葉も夜間に襲われ、引退を余儀なくされた。
「そうですね、まだ猶予はありますし...」
その言葉を遮るように圭太が望海の服の裾を引っ張る。
「どうしました?圭太?」
「姉貴、お腹空いた。フグ刺し食べに行こう、今日調査ばかりで何も食べてないんだけど。美味しい所知らない?僕、動けないからさ姉貴連れてって」
確かに勉強会からそのままの勢いで花菱邸に行き、参区の調査まで行っている。
フグ刺しは圭太の好物だ、それは望海も周知の事実だが何故今なんだと呆れていた。
天才肌故に奇行なのか?マイペースなのか?圭太は自分勝手な性格のようだ。
「弐区に戻ってからではダメですか?というか、何故今なんですか!?」
「いいじゃん!いいじゃん!圭太君、望海お姉ちゃんが特別に連れてってくれるってさ」
「光莉、無茶言わないでください。...そう言えばありましたね。まだ八雲やぐもさんと瀬璃菜せりなさん達に調査してもらっていない所。圭太、今回だけは特別に許可します。捜索のついでですよ」
「やった!」
「いらっしゃいませ!何名様でしょうか?」
何故、今こんな所に来ているのか望海は不思議で堪らなかった。
参区の最南端、望海も普段は足を踏み入れない地域に来てしまったのだ。
長門や赤間はフグが沢山集まる場所であり、名店も多い。
これも我儘をいう弟とそれに乗っかる年下先輩の光莉のせいだと自分に言い訳をした。
「すみません、今席が満員でして。もし、他のお客様が相席でも良いというならすぐに案内出来るんですが」
「あっ、じゃあ相席でお願いします!」
店員の対応は光莉に任せ、望海は立ち尽くしていた。
しかしだ、それが思いも寄らない幸運だった事を数分後の望海は知る事となる。そう、あの風来坊と出会う事ができたのだ。
「まさか、君達に会えるとはね。ここのフグは絶品なんだ、今日は私が奢るよ。好きなだけ食べるといい」
「お姉さん、良い人だね。貴女とは趣味が合いそうだ」
「へぇ、私の性別を一瞬で見分けられるなんて君何者だい?他の人からはこう見えて貴公子と呼ばれているんだが、君にはそう見えなかったのかな?」
その言葉に圭太はドヤ顔しながら、口を開いた。
「伊達に歌舞伎の女方やってないからね。女方は本物の女性以上に細かい仕草や動きが求められるんだ。僕と貴女はそれで言うと似てると思った。“男性に見せたい女性”って言うのが貴女の言葉にピッタリだった。ただそれだけの話だよ」
確かに圭太の直感は当たっている。
瑞稀は以前からずっと男装をしていた訳ではない。
色々な要因が重なり、今の彼女がある。
その全てを知ることが出来るのはもう少し先の話になるだろう。
しかし、瑞稀は正体がバレるのを恐れていないようだ。
上品に静かに笑っているようだった。
「ははっ、素晴らしいよ。望海、君の弟は本物の演者だね」
「風間様、圭太を認めていただきありがとうございます」
瑞稀は幼い頃から両親と一緒にお芝居を見るのが好きで、女優や俳優の知り合いも多いジャンルが違うとは言え、歌舞伎役者の圭太は気が合うのか楽しそうに談笑している。
「ねぇ、なんで風間様はここに来たの?圭太君と同じ様にフグが好きなの?」
「当たらずとも遠からずかな。私はね、ここが、参区が大好きなんだ。私を後継者に指名してくれた方もここが大好きでね、でも彼はこうも言うんだ。「自分は黄昏だって」いつか日が落ちて自分も、皆も居なくなってしまう。そんな風に言っていたんだ」
風間家の前当主も同じく、協会で会長職を務めていたが瑞稀に家督を譲り亘の祖父と同じく隠居している。
望海も歴代会長の写真を見たことがあるが、皆。空や夜に関連するような名前が多いように感じていた。北斗などの星の名前も多く見られる。
「中々、ネガティブというかアンニュイな人だね」
「だから私はこう返したんだ「黄昏だからこそ、皆を優しく照らせる」とね。私や彼は朝日の様に目の眩むような憧れの存在とは違うのかもしれないけど、それで良いと思うんだ」
その言葉に望海は首を横に振った。
「風間様は私達にとって憧れの存在です。貴女にしかない魅力と気品がある。そして、貴女にしか出来ない事もある。風間様、お願いです。私の依頼主、花菱姫乃さんを救い出す為に協力して頂けませんか?」
「ほう、囚われた姫君がいるのかい?良いだろう、詳しい話を聞かせてくれるかい」
そのあと、望海達は花菱姫乃について話を始めた。




