第弐拾捌話 救出 ◎
「姉貴、まだ帰らないの?」
「えっ?」
「どうしたの?望海、もしかしてまだあの子の事考えてるの?」
勉強会も終わり、3人で机の片付けをしている間、望海は姫乃の事を考えていた。
珍しくボーッとしていたのだろう。
しっかり者の望海らしくないと2人は思ったようだ。
望海は少し躊躇いもあったが、2人に相談してみる事にした。
「...ちょっと、気になっちゃって。姫乃さん、数日学校に来てないから」
「姉貴の直感って結構当たるからな。そこまで心配なら見舞いにでも行く?」
「あっ、じゃあ私も一緒に行く!玉ちゃん、まだ果物残ってたよね?それを持っていこうよ」
3人は喫茶店を出て、すぐさま壱区の都築にある花菱家の別邸に向かった。
玄関の扉をノックすると、エプロンドレス姿の女性が出てきた。
その姿を見るに家政婦なのが分かる。東郷だ。
「どちら様でしょうか。旦那様、お嬢様のお知り合いの方ですか?」
「こんばんわ、私は夢野光莉。姫乃と同じ女学院の生徒なの。彼女が病気で学校に来てないから望海が心配してて」
その言葉に合わせて、望海と圭太は前に出てお辞儀をした。
「こんな夜更けにすみません。姫乃さんの同級生の東望海です、こちらは弟の圭太。お見舞いに来たのですが、姫乃さんに会う事は出来ますでしょうか?」
持参した葡萄や桃の入ったフルーツの籠を差し出すが家政婦に断られてしまった。
東郷からすれば、姫乃の級友を巻き込む事になってしまう。
姫乃は女学院での日々を楽しんでいた。
そんな彼女からこれ以上大切な物を父親から奪われる訳にはいかない。
それ以上に姫乃を外部の人間に合わせるなという父親からの命令もあった。
「お気遣いに感謝します。ですが、旦那様がどんな方であろうとお嬢様と客人を接触させるなと言われておりますので」
「僕としては面会しなくても良いからドア越しで話だけでもさせて貰えると嬉しいんだけど。この前、贈り物も貰ったし。お礼も言いたいんだけどな」
家政婦は目を泳がせながら戸惑っている。
しかし、それに意地悪をするように圭太は更に続けた。
やはり、二枚舌。しかし、彼の行動により窮地を脱出する事が出来るだろう。
「僕を誰だと思ってるの、東圭太だよ?彼女は僕のファンなんだ。僕が来て迷惑な事なんて絶対にないよね、違う?君は家政婦だ、主人の喜ぶ事をするのが貴女の使命だと思うけど?」
「圭太!言って良い事と悪い事があります。彼女も困っているでしょう?」
しかし、想像に反して家政婦は首を横に振り諦めたように口を開いた。
何より、姫乃の思い人である圭太に言われたのだ。
数日前の会話の流れからして、対面させ勇気付けるのが得策だろう。
「ごもっともな意見です。私は自分の保身に走って、旦那様の行動を傍観していました。お願いです、どうかお嬢様を助けて頂けませんか?詳しい話は中でさせていただきます」
3人は豪華な客間に通される、天井にはシャンデリアが設置され重厚な赤い絨毯とアンティークなソファ、とても別邸とは思えない程の作りだった。
家政婦から座るように促され、席に着く。
「監禁ですか!?どうして!?」
そのあと望海は姫乃がいるであろう、奥に見える2階への階段を見やる。
望海達は姫乃の家庭環境を良く知らない。
それは彼女が寄宿舎で生活しているのもあるが、何より姫乃にプレゼントをし、クラスメイトにも時よりお土産を買ってきてくれる良いおじさまのように見えていたからだ。
しかし、それは言ってしまえば姫乃をこうして虐待している事を周囲に悟らせない為のカモフラージュとも言えるだろう。
表では愛想が良く、家庭内では暴力的なのはよくある例だ。
東郷は目を伏せながら、思い詰めたように詳細を話し始めた。
「はい、先日お嬢様と旦那様が晩餐をされた際に口論になり監禁されてしまったのです。正直言って、お嬢様はかなり危険な状態です。部屋の鍵は旦那様が持っていますし、私は不憫に思い窓から配膳を試みたのですが、お嬢様は呼びかけにも応じません」
「じゃあ、私達としては姫乃お嬢様を救出するか。そのクソ親父から鍵を取り返せばいいのね。弐区の運び屋舐めんなよ、絶対に救い出してあげるんだから」
「光莉。ですが、私にも非があります。彼女を送り出した時、嫌な予感がしていたんです。すぐに戻らず、その場に止まって様子を見ておくべきでした」
「困ったね。まず、彼女を救い出すにしても居場所をあの男に勘づかれたら本末転倒だ。彼女を保護する場所と、それ以上に男と彼女を引き離さないといけない。何かいい案ないかな」
3人で策を考えている中、家政婦は手帳と書類を持ってきた。
「1週間後、参区の方で富裕層を集めた晩餐会があるそうです。旦那様も出席予定で、そこに入り込めれば鍵を手に入れる事もその内にお嬢様を救出することも可能です」
そう、この晩餐会以前朱鷺田が児玉に対して連絡を入れていた時に口にしていた物と一緒だ。
お互い事情は異なるものの、ここで合流する事になる。
「成る程、二方面作戦という事ですか。壱区の方で姫乃さんの救出。
その間に参区で囮役が彼の相手をすると。ですが、問題があります。その富裕層の集まりに私達子供が参加出来るとは思えません」
しかし、東郷はそれを承知の上で頷きある紙を望海に手渡した。
それは望海達が単なる高校生ではなく、お嬢様を集めた女学院の生徒だからだ。
東郷はもし親族やその知り合いを伝にと思っていたようだが、それ以上に彼女達は運び屋。これが思わぬ人物を呼び寄せる事になる。
「このような会合にはパートナーの方を同伴される方もいらっしゃいます。このリストの中に知人の方がいらっしゃれば説得して同行させて頂く事も不可能ではないかと」
望海は戸惑いながら、来客リストを確認する。
「...あ」
「望海、どうしたの?」
「この方だったら私達に協力して貰えるんじゃありませんか?」
その指さした先には「風間瑞稀」という名前があった。
望海達も以前から面識があり、小坂にて邸宅を持っているという事を知っている。しかし、風来坊を見つけるのは容易ではない。
望海達は参区に赴き、夜間勤務の運び屋達に協力を仰いだ。




