第弐拾肆話 迎賓館
「なんやそれ、めっちゃおもろいやん!」
「そうでしょ?うちもビックリして!」
此処は参区の大和、とある館の重厚感のある赤いカーペットが敷かれた階段を楽しそうに喋りながら駆け上がる2人の運び屋が居た。
和洋折衷の歴史ある由緒正しい、赴きのある場所と言っても差し支えないだろう。
以前は比良坂町に赴いた著名人達を此処で迎え、来客達を楽しませた迎賓館。とある、物理学者はこの館のピアノを弾いたという。
今は望海達のように協会には所属しない、違う運び屋団体の本拠地として使用されている。
そんな中で期待のエースとして現在活躍しているのが火神千鳥。
黒髪のポニーテールに金色に輝く羽飾りを付けている。
和服姿で真っ赤な着物に黒い帯が特徴的な少女だ。
そんな彼女には先輩で師匠と呼べる存在がいる。
彼の名は島風賢治、波打つように柔らかな黒髪に異国の民族衣装なのだろうか?
白いシャツに水色のベストとズボン、青い腰巻きのような物を付けている。
同系色の鍔が横に広い帽子も特徴的だ。
壁には絵画が、場所の所々に使い込まれた暖炉もあり2人はピアノの音がする方へと向かっているようだ。
「奏坊ちゃん、あかんで。それ、貴重なピアノやねん。そんなぶっ叩いたら壊れてしまうわ」
賢治がピアノ椅子に座る少年に声をかけるがムスッとした表情で演奏を続けている。
その旋律は羅列で、曲として機能していない。
ある意味、交響曲を奏でていると言ってもいいだろう。
これからピアノの発表会でもするのだろうか?
青を基調とした子供用のスーツとベスト、蝶ネクタイを付けている。
襟には草花を模した、金色の刺繍がされている。
「ふんっ、賢治の分際でこの僕に指図するな。青塚家の力の恐ろしさを知らないのか!?」
青塚家は賢治や千鳥の所属する団体のスポンサーのような立ち位置にいる。様々な事業に携わっており、百貨店や銀行、スポーツにも力を入れておりラグビーや以前は野球チームも経営していた。
「はいはい、それは十分理解していますとも。せやけど坊ちゃん。お父様から言われたでしょ?御曹司として、誰かをもてなす事の大切さと喜びを学びなさいって。それが将来の糧になるって」
実は運び屋によって、与えられた役割が異なる事がある。
千鳥の場合は望海達のように依頼人を無事に届ける為、戦闘の心得も身につけている。
しかし、賢治や奏などの仕事は娯楽としての側面が強い。
例えば、ツアーガイドのように自分の担当範囲の中で名所や食事処の紹介などを依頼人にもてなす事があるのだ。
此処の館も、レストランやバー、ダイニングルームがあり来客が訪れる事がある。
節子や瑞稀、亘も同じくガイドとして旅館やホテルの手配。レストランや料亭の紹介は勿論、自身も楽器の演奏も行い客人をもてなす。
自身の邸宅も宿泊出来るよう設備を整えているのだ。
「にいさま、どうされたん?なんや、さわがしいけど」
近くのダイニングルームからゆったりとした口調と歩調で1人の少女が出てきた。
奏の妹なのだろう。しかし、兄妹関係が反転したように奏は彼女に抱きついていた。
「吉乃!この僕を賢治が虐めるんだ!」
「まぁ、そないなこと」
そう言いながら、まるでスローモーションをするようにゆっくりと着物と同じ紫の上品な瞳で其方を見つめている。
妹である青塚吉乃は奏と同じくガイド職を務めている。
もしかしたら、望海よりも大和撫子という言葉が似合うかもしれない。
黒髪に紫の大きなリボンをし、同じ色の着物には鳥や花枝を模した金の刺繍が施されている。
この様子に賢治は勿論、千鳥も苦笑いを浮かべていた。
しかし、仲が悪いという事ではなく。彼らにとっては日常茶飯事で一連の漫才のような物なのだろう。
4人は優雅にダイニングルームで飲み物やスィーツを味わっていた。
「でも、さいきん。なんや、ぶっそうになってきましたね。さんくはまだおだやかやけど、にくはだいじょぶなんやろか?」
吉乃はコテンと小さく首を傾げている。
弐区まで担当しているのは賢治と千鳥だけだ。
吉乃が心配になるのも無理もない。実際に人魚達が地上に上がって来てるのだから。
まだ、4人のいる大和は弐区側も肆区の壁からも遠い場所にある。
特に、ここら辺は高台が多く自然の要塞にもなっているので十分安全確保は出来るだろう。
「大丈夫ですよ、吉乃さん。ウチも貴女方をお守りしますし。何より弐区には望海さん達がいる。ほんまにカッコええわ、全区を担当するなんて普通出来ます?ウチには無理ですわ」
「そんな事ないで、ひーちゃんやって立派やん。俺らはどうしても、非戦闘員やし依頼人を護衛するみたいなんもキツイねん。勿論、道には詳しいから脱出経路みたいなんは確保出来るんやけどね」
その会話を聞いていた奏は同じ立場にある御三家の事を思い出す。
「そう言えば、御三家の皆さんはどうやって自衛をしているのだろうか?向こうも武器はあれど、限度があるだろう?」
「たしかに、にいさまのいうとおりですわ。なにか、つよさのひけつでもあるんとちゃいますの?そういえば、ちどりさん。もうそろそろ、おしごとのじかんちゃいますの?」
千鳥は自身の腕時計を見ながら慌ててコーヒーを飲み干した。
「そうでした!此処にいると時間が経つのを忘れて!ウチ、那古野まで行かな...いえ、行かなきゃ行けないのに!」
「おっ、ひーちゃん弐区バージョンになっとる。まぁ、気軽に頑張りぃや。ほな、ひーちゃん。気をつけてな」
そうして千鳥は皆に見送られ、弐区の方へと向かった。
《解説》
今回登場した4人は近畿鉄道で運行されている特急及び観光列車をモデルとしています。
火神千鳥→ひのとり
島風賢治→しまかぜ
青塚奏→青の交響曲
青塚吉乃→あをによし となっております。
拠点である迎賓館のモデルは奈良県にあります「奈良ホテル」ですね。現在はJR西日本が運営しておりますが、以前は近畿鉄道とも共同運営していたという事で縁ある場所として選びました。
ピアノも実際に物理学者のアインシュタイン博士が弾いていた物を大切に展示してある為描写をしました。




