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鉄壁の運び屋 壱ノ式 ー三原色と施錠の町ー【完全版】  作者: きつねうどん
第四章 異国の運び屋
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第壱拾仇話 調査結果 ◎

「ねぇ、姉貴。早く起きて!早く!起きないとアイス食べちゃうよ。カチカチの奴」


「ふぇ...アイス。ん?アイ...きゃあああああ!!何で私の部屋に勝手に入って来てるんですか!」


「夜這い?」


望海の寝ている布団の横で同じく、畳の上で雑魚寝をしている圭太がいた。今日は稽古着のようである。


「冗談でもやめて下さい。それに今は朝です。用がないなら直ぐに出て行って下さい」


「なら、用事があれば出て行かなくて良いって事だよね?」


朝日が眩しいのか?それとも圭太の行動に疑いを持っているのか?望海は訝しむ表情をした。

しかし、1通の手紙を受け取ると彼の言葉が嘘ではない事が分かる。


「Dr.黄泉が僕達を呼んでる。それぞれ別件だけど情報共有しておくに越した事はないし」


「分かりました。では、直ぐに向かいましょう。というか、圭太。貴方はいつDr.黄泉と知り合ったのですか?他の運び屋が彼を探すのに苦労していたのに何故貴方はすんなりと彼に連絡出来たんですか?」


「説明書」


「...へ?」


「ほら、姉貴の部屋の机に分厚い説明書があったから読んだ事があるんだ。その最後の方に彼の連絡先と住所が書いてあるよ」


「えっ、嘘」


すぐさま望海は文机から道具の説明書を取り出し確認する。

確かにDr.黄泉の情報が書いてあった。

自分達は道具の使用の仕方にこだわってアフターケアと言った道具の修理先を全然把握していなかったようである。

それでも協会に行けば、修理してもらえるのだから何とかなっていたと言う事だ。


「...というか、圭太。貴方、常習犯だったんですね!幻滅しました。私の部屋に勝手に入るなんて」


「家族として姉貴が夜遅くまで帰らないのを心配していただけだよ。何も話してくれないから手がかりが欲しいのはそんなに可笑しな事?」


「...くっ。分かりました、今度からは出来るだけ早く帰るようにします。やっぱり圭太、貴方には色々と敵わないですね。自慢の二枚舌で言いくるめられてしまいました。異国に行って更に磨きがかかったんじゃないですか?」


望海の思わぬ返答に圭太は豆鉄砲を食らった様な顔をする。


「何?僕が虚言者とでも言いたいの?」


「物は言いようという事です」


支度を済ませ、住所を頼りに黄泉の所へ向かう。

望海は近くまで瞬間移動しようと提案したが、圭太が比良坂町の運び屋について知りたいと言うので疑問に思いながらも望海はその質問に答えた。

何だかもう、自分はその仲間の一員だとでも言っているように見えたからだ。


「あのさ、僕が戻って来て直ぐに出会ったおじさんと光莉っていう子。姉貴はどうやって出会ったの?」


「元々、光莉は同じ女学院の生徒で。下級生なんですけど、以前はほぼほぼ不登校だったんですよ。テスト期間だけ来ているという有り様で。それでもどうにかなってたんですよね。うちは中高一貫なので、ですが情けない事に私が焼却炉でテストを燃やしてる所を見られてしまいまして。母親から認めてもらえないと自分に価値がないように感じて。テストを見せても「圭太は貴女よりもっと頑張ってるの。こんな事、当然の事でしょ。貴女は東屋の娘なんだからって」」


その言葉に圭太は暗い表情を浮かべる。

実は自身も同じ事を母親に言われた事があるからだ。

それでも、父親の意志を継ぎ歌舞伎の更なる発展と自分の思う技術や華やかさ、美しさを極めたいと彼なりにやりがいや楽しさを幼い頃に見出せたので良かったのだが一歩間違えば姉のようになっていたかもしれない。


「姉貴、母さんの言葉なんて気にしなくていいんだよ。母さん自身が別に歌舞伎をしてる訳でも習い事を頑張っている訳でもないんだ。子供を自分の事のように感情移入する人もいるけど、大半は良い方向に傾かない。人を褒めるって結構難しくて、された経験がないと相手の嬉しい言葉って思いつかないんだよね」


「そうですね。圭太、私は貴方が羨ましい。運び屋になる前の私は本当に何もないんじゃないかって。このまま、母親の操り人形であり続けるのかなって。疑問に思いながら日々を過ごして来ました。貴方に舞台の光が当たるのを見て、観客席にいる自分が無様に見えて」


望海は歩を止め、その場で立ち尽くしていた。

圭太はまだ時間はあると、彼女にこんな思いを伝えた。


「僕はね、いつも舞台に立つ時は自分じゃない。姉貴がこの舞台に居るって思いながら演技をしてるんだ。観客の声援や拍手は全て姉貴への物。自分なんて要らないってそう思ってた」


そう言われると彼女は目を見開き、目に涙を溜めた。

それを見て圭太は切なそうな顔をする。やっぱり自分の思いが姉に届いていなかったのだと感じ取った。


「圭太!ご、ごめんなさい私!ずっと、貴方が充実した日々を送っていると感じて。勝手に嫉妬して勝手に貴方を嫌いになって恨んでました。ありがとう、私の事を思ってくれて。貴方は私の自慢の弟です」


しかし、圭太はの望海の言葉に悪い笑みを浮かべているようだ。

これには彼女も思わず涙を引っ込める。


「確かに僕は比良坂町では望海の弟かもしれないけど。向こうでは違うから。ちゃんと僕の人格を肯定して、一緒に日々を過ごしてきた仲間達がいる。姉貴、まだ話の続きは終わってないよ。色々と尋問させてもらうから」


そのあとも児玉との出会いや自分の同期、その相方や隼という良い商売相手の話をする。

しかし、圭太は何処となく嫌そうな顔をした。


「ねぇ、姉貴に擦り寄ってくる男多くない?姉貴は比良坂町一の美人だと思うけど、だとしても軽率過ぎるよ。一緒にラーメン食べたり、ピアノを弾いてもらったり僕でもした事ない事をしてる人達がいるってどう言う有り様なの?僕は姉貴の弟なのに」


「さっき、自分は私の弟じゃないって言ったばかりじゃないですか!そうですね、でも私の事を確実にそんな目で見てない人も中にはいるんですよ。お兄さんと言いますか、優しく仕事を教えてくれる方もいて。ほら、斑鳩(いかるが)様っていらっしゃるでしょう?スポンサーの。あの方みたいに気さくに話けてくれるんですよ」


その言葉に圭太は「あぁ、あの人か」と思い出したように頷いている。

斑鳩(いかるが)合蔵(ごうぞう)は燕の大叔父で、次男だった事もあり同じく名門斑鳩家に婿入りした。

東姉弟を孫のように可愛がってくれて、舞台にも頻繁に顔を出してくれる。圭太の我儘も嫌な顔一つする事なく純粋に歌舞伎界の更なる発展の為にも舞台設備にも積極的に投資をしてくれる。

2人にとって、とてもありがたいスポンサーでもあった。


「珍しいね、若い人でそんな風に姉貴に接してくれるなんて。じゃあ、良かったじゃない。そう言う人が側にいてくれたら僕も安心だし。でも、姉貴はなんでそんな風に思ったの?何かオーラでも見えた?」


「違いますよ。彼には思い人がいるんです。幼馴染なんですって。でも、性別を理由に周囲から認めてもらえなくて。結構、本人もそれに耐えきれなくなってしまって。数ヶ月前に運び屋も引退されて、同居も解消してしまって」


「そうか、それはちょっと辛いね。僕が行った国はさ割とそう言うのが緩い所なんだよ。宗教によって価値観も変わるけど、比較的自由に振る舞えるし結婚してる人達もいる。こっちは閉鎖的で噂も広まりやすいし、何より人口から考えて少数派だ。自由に振る舞うにも厳しいだろうね」


「一回、どうにかならないか?と手段を打った事があるそうなんです。角筈(つのはず)という場所が2人の最後の希望だった。運び屋になってそこの文化が皆に伝わればと思ったそうなんですが、お相手が政治家の息子で。時期的に選挙も間近に迫ってて。周囲から父親の印象が悪くなるからと、協会も圧力を受けてしまって」


そう言うと圭太は深い溜息を漏らした。

これでは八方塞がりの状態だ。しかし、圭太にはある考えがあった。

それは自分の望んだ事でもあり、相手にもメリットがある事だった。


「正直、僕もそうだし皆もこの町が窮屈だって事はある程度認識してると思うんだよね。だからこそ、僕もDr.黄泉に頼る事にしたんだ。勿論、姉貴達にもね。その理由は後で話すよ」


そう言われ、望海は首を傾げながらもいい事である事は理解出来ているのか黄泉の研究所へと向かう事にした。


「Dr.黄泉、ごめんください。圭太、本当に彼は此処にいるんですか?」


「住所を何度も確認したし此処で間違いないよ」


2人が赴いた先にあったのは小さな古民家だった。

こんな所に研究所があると考えると望海は首を傾げる他なかった。

引き戸を開け、何歩か踏み込むと更にその奥に障子が見える。


恐る恐る近づいてみると火花が散り、何かの溶接作業をしているのがわかる。


「あぁ、思ったより早かったね。中に入ってもらって構わないよ。散らかってるけど」


中に入ると発明品の試作が其処彼処に転がっていた。

圭太はそれを興味深そうにそれをみている。

黄泉もコーヒーを好むのか?作業台には黄色い、青いラインが入ったマグカップに湯気が見える。


望海は周囲を見渡すと特徴的な事に気づいた。天井に穴が空いてるのだ。何かを観測するのか?屋根の上に出るのか?そこにいく為のハシゴまで存在する。

観測カメラのようにモニターも複数存在し、比良坂町のあらゆる場所の映像が映し出されている。これで監視しているのかもしれない。


実は噂によると地下には幻の施術室もあるとされ、厳しい抽選によって選ばれた町民達は研究所の見学も出来るという。

片付けが苦手なのか?物が多いのか?不思議と中が狭くみえる。

望海は近くの青いソファに腰掛けていた。


「じゃあ、まずは圭太君の方から。君の望む通りコードを使える様にしたよ。「800」向こうで使用していた物と同じで良いかな?」


「うん、良いよ。でも、僕は印を異国の地において来てしまったし向こうの仲間がつかってるから皆の様に運び屋の任務に就く事はしないけどね。それより僕はもっと大切な事をしなければいけないんだ」


その圭太の文言に望海は複数の疑問が思い浮かんだ。

それを一つ一つ丁寧に質問していく。


「圭太、私からの質問に答えてください。貴方は異国の地に赴いて歌舞伎の舞台をしていたはずです。なのに何故、運び屋の仕事をしているのですか?いいえ、それだけではありません。貴方の目的は何ですか?以前の貴方は運び屋の仕事に関心がなかった。何がきっかけで私達に絡もうとするのです」


「リチャードとフランシス」


「…どなたですか?」


「僕の舞台を見に来てくれた人達だよ。こっちの文化に興味を持ってくれて、祖父と一緒に来てくれたんだ。運び屋の事も彼らが教えてくれたんだ「君にも才能があるって」ね。舞台の合間を縫って仕事を手伝ってたんだ。そしたら現地の人より行動範囲が広がってしまって仕事を奪ってしまったんだよね。ちょっと、悪い事しちゃったかな?」


「悪い事と言いますか…なるほど、本場の方にそう言われたのですね。で、それ以上の働きをしてしまったと」


「でも、皆んな喜んでくれたからよかったのかな?それで思い出したんだ。姉貴も同じ事をやってたんだなって。それを現地の人に言ったら「是非、連れてきてくれ!」って言ってたよ。だから、一緒にどうかなって?」


「いやいや!話を勝手に進めないでください!何故、私が異国の地に赴く事になっているんですか!?」


「えっ、もう担当場所も決まってるのに?」


困惑する望海に対してDr.黄泉はゲラゲラと笑っていた。

そんなのもお構い無しに圭太は話を進めていく。


「僕の目的はただ一つ、この比良坂町を平穏な状態にする事。でも、その平穏を取り戻す為には数々の壁を突破しないといけない。それは姉貴にも分かるよね」


「えぇ、だから此処に来たんです。Dr.黄泉検査結果をお願いします」


その言葉に合わせ、彼は側にあった書類を読み上げる。


「本当に面白いサンプルだったよ。まずこれは、「人魚の血液」である事に相違はないかな?」


「はい、依頼主が採取した物であると考えられます。正直な話、ご本人から最後まで話を聞く事は出来ませんでした。ですが、第肆区の繁華街で発見した人魚から採取した物で間違いありません」


「僕はね、長年疑問に思っていたんだ。人魚は昔からずっと比良坂町に住み着いているだろう?彼女達を隔離する壁が築かれたのは今から150年前、思ったより最近なんだ。でも、彼女達の美しさも命も永遠じゃない。何処かで世代交代をしなければいけない。なのにだ、生物として欠損箇所がある」


「子孫を残す為の番つがいがいないって事?」


「ご名答。無性生殖ならまだしも、人魚は女性だ。どこまで行っても女性なんだ。性がある以上、番を探さなければいけない。君達に質問だ、比良坂町の男性は何処にいる?いや、違うな。“何種類”いる?」


その言葉に望海は喉を詰まらせ、この先を言うのが怖くなってしまった。

思わず、圭太の腕に縋り付く。

彼を守る為なのか、それとも自分を守って欲しいのか?それは本人にも分からなかった。


「大丈夫だよ姉貴。僕は自分の身は自分で守れるから。答えは2種類、青い血を持つ男性と赤い血を持つ男性だ。混血児も含めたらもっと多くなるかもしれないけどね」


「この血液から微小ではあるものの青い血の成分が検出された。父親のデータがこの中に残っているという訳だ」


「人魚もまた、人魚の母親と人間の父親の混血児という事ですか?」


「そういう事だろうね。人魚は人に恋をし、相手との間に子供を作り、その相手を自分と子供の養分にする。そこで問題だ、これを繰り返していったら最終的にどうなると思う?」


「もしかして…」


望海はその答えが今の比良坂町にあると確信した。


《解説》

今更なんですが、今回は黄泉幸慈の元ネタ。

ドクターイエローについてご紹介させて頂きたいと思います。

運行ダイヤが非公開の為、見れれば幸せなれる新幹線と言う事で。

此方でも幸運を運ぶ運び屋として、裏方に従事しています。


研究所にコーヒーがありましたが、実際に自販機で売っており専用のカップも存在していますね。

内装も車内をイメージしていて、通常の新幹線とは違い。

配線やパンタグラフなどの点検の為、沢山のカメラやそれを映すモニターがあると言う事でそれを再現しています。

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