第壱拾陸話 愛弟子 ▲
「黄泉先生、ちょっとご相談したい事が」
場所は協会の医務室、黄泉が薬品や医療機器の整理をしている時1人の女性が話しかけてきた。
彼女の名前は東出愛。黄泉と同じく運び屋専属の女医だ。
茶髪のお団子頭と黄色い瞳をし、顳顬には赤いヘアピンを3本つけている。
白衣を着ており、中には白と赤いボーダーシャツを着ているようだ。
彼女はその医学の才能と特殊な目を高校生の時、黄泉に見出され彼の弟子となった。
元々、周囲とは違う念力を可視化してしまう瞳に困惑しコンプレックスにもなっていたが黄泉は彼女が運び屋になる前から一般患者にも関わらず献身的な心のケアをした事により彼女は彼に感謝と尊敬の念を抱きその背を追った。
彼女の手には2人のカルテがあり、仕事の相談がしたいと尋ねて来たようだ。
「先ほど、リハビリ病院に行って来まして青葉さんの様子を見てきたんですが利き手を負傷したという事もあってかなり身体的もそうなんですが精神的にも苦しいと。何かストレスを緩和出来そうな方法がないかとご相談に伺ったんですが」
「そうだね、特に食事の時は不便だろう。山岸君とも以前そう言う話をしたんだ。日頃から彼が料理を作ってるみたいだしね。利き手じゃなくても良いスプーンやフォーク。後はトング型の箸も紹介したよ。食事のメニューは彼が自分で考えたいと言っていたけどね」
「本当に仲睦まじいというか素敵なご夫婦ですよね。だからこそ、青葉さんの離脱は山岸さん本人もそうですし他メンバーの方々にも堪えた。今後もモニタリングや、検診の際にご本人もそうですしご家族からも色々と確認しながら日常生活の弊害を取り除いていきます。...所でもう1人の方なんですが」
そう言うとそのもう1人というのも黄泉は分かっているのか、愛と目を合わせ苦笑いを浮かべたり顔を下に向けている。
それほどまでに問題児という事だろう、2人も相当手を焼いているようだ。
「朱鷺田君に関しては取り憑く島もないからね。本当に旭君が彼を上手くコントロールしていたのが伝わってくるよ。谷川君は?彼女なら、彼について色々知ってるだろう?というよりも、以前旭君から治療がてら色々と聞いた事があるけど、彼も危険区域を担当してたからね。僕に頼る事も多かった。家柄もあるけど、生い立ちが特殊だからね」
「以前、お宅に訪問した時に谷川さんは協力的になってくださって幼少期の事とか、家での様子も聞いていたんですが。何となく、自分の性別を受け入れられないのかなと。難しい表現ですが性別は2つしかない。その中で彼は自分が男性である事を恐れてる。だから、幼少期は女の子の格好をしたり。今でも髪を伸ばしているのかなと」
黄泉は愛からカルテを受け取り、中身を確認しているようだ。
実際にはフリをしていると言った方が良いかもしれない。
頭は常に朱鷺田に関する情報で一杯だった。
「トランスジェンダーとまではいかないが、男性に対する恐怖心が拭いきれないのかもね。女装を解いたのも男性である事にメリットがあったからだって聞いて、恐ろしいなと思ったよ。ただ、それほどまでに男性として旭君の側にいたいという事なのだろうけど」
「朱鷺田さんは本当に心と身体の性別がチグハグなんですよね。だからこそなんでしょうけど、ご近所の方にも大人気で。町長の息子さんでもありますし、眉目秀麗で、おまけに子供にも優しいと。一度お母様がご病気で倒れて、町長さんの仕事のお手伝いをされてた時皆さん凄い寂しがってて、早く復帰してくれないかなと言っていたそうですね」
「僕程ではないにしても、人気なのは間違いないからね。でも、当の本人は自分が周囲の操り人形である事を自覚してアイドルのように愛想を振り撒いている状態だ。コレは由々しき事態だと思う。これからの為にも何とか彼には立ち直ってもらわないと困るんだよ」
その言葉に愛は真剣な表情で頷き、自分専用の赤と白のドクターバックを持って朱鷺田達が住む家に向かった。
「...あれ?工事してる?」
愛が家を訪問すると、2階部分だろうか?ブルーシートや大工が出入りしているのが見える。
一応、インターフォンを押し周囲の様子を伺うが騒音で何もわからない。ダメ元で庭先に向かうと、2人の男女がいた。
しかし、2人とも長髪で遠目から見ると女性2人に見えてしまう。
身長差もそこまでないので尚更。
何やら、散髪でもするのだろうか?縁側の床には新聞が敷かれ、男性は椅子に座っている。
愛は恐る恐る其方に近づき声をかけた。
「あ、あの。すみません、インターフォン押しても応答がなかったので此方に来てしまいました」
そう言うと男性の方は顰めた顔をする。
美人なので尚更、愛は恐怖した。
「黄泉先生は?俺は嫌だぞ。未熟な医者から治療を受けるの」
「ちょっと、トッキー失礼だよ!ごめんね、素直に女性が苦手だって言えば良いのに」
愛はそのあと渇いた笑いを浮かべる。
男性になるのも嫌で女性嫌いとなってしまえば、それはもう人間不信と一緒ではないかと。
これから散髪を受ける男性は朱鷺田縁。
色白の肌に琥珀色の瞳を持ち、鮮やかな赤髪を持っている。
普段から着物姿で今日も白い着物に鴇色の帯、青い羽織を羽織っている。
丁寧に櫛で髪を解いている女性は谷川鞠理。
同じく色白で白銀の長髪と水色の瞳が印象的だ。
彼女は洋服姿で、白いシャツに青いロングカーディガン、黄色のベルトをしているようだ。
モデル体型なのか細身で身長は164cmあるという。
因みに朱鷺田は171cmだ。
「あの、どう言う心境の変化があって?ずっと髪を伸ばされてたと聞いてたので、理由をお聞きしたくて」
医者としてもカウンセリングがてら愛は朱鷺田の心理を知りたいようだ。しかし、当の本人は黙ったまま下を向いているが頭の位置を谷川に直された。
「はーい、真っ直ぐ前を向いてね。トッキーも変な髪型にされたら嫌でしょ。まぁ、一言で言えば失恋だよね。ずっと、旭が自分に向けてくれてたのが友情じゃなくて愛情だって全然気づかなくてずっと旭を困らせてたんだよ」
そう言うと朱鷺田は顔を真っ赤にし、それを消そうと首を横に何度も降っている。
「谷川!!お前のそう言うデリカシーのない所どうかと思うぞ。...いや、俺の方が酷かったか。ずっと彼女みたいに手を繋いだり、腕を組んだり女々しい事して、旭を困らせて。でも、ずっと側にいてくれて。怒る事もなく、一からやり直そうって。気持ちが固まるまで気長に待ってるからって。そう言ってくれたんだ」
そのあと、朱鷺田はギュと両手で着物を掴み堪えるようにポロポロと涙を流しているようだ。
それを思うにもう既に彼の気持ちはある程度固まっているのかもしれない。
愛は許可をもらい、縁側に座りながら2人の様子を見届けていた。
邸宅もそうだが庭も立派な物で遠目だが奥の方に蔵がみえる。
目の前からは池の方に水が流れるよう、ししおどしが鳴るの音が聞こえてくる。中には錦鯉が優雅に泳いているようだ。
しかし、他を見渡すと花壇の方だろうか?手入れされていないのか花ごと落ちた椿や、今にも枯れそうなチューリップの花が咲いている。
以前、愛は谷川に家事は当番制で庭の手入れや掃除は旭がしていたと聞いていたので彼が居なくなって花達も元気がないのだろう。
植物は水もそうだが、太陽の光も必要なのだ。
「愛から見たら、俺達の関係って奇妙だろ?自分でも良く分かってるよ。母方の祖父母の家に幼馴染3人で住んでるんだ。俺は籠の中の鳥だ。こんなんだから親父とも折り合いがつかなくて、でも1人じゃ何も出来なくて飛び立つ勇気もなくて、結局旭ばかりに負担をかけて何も出来てないし、何も返せてない。これは俺の贖罪なんだよ」
「ほら、出家する時も頭丸坊主にするじゃない?流石にそこまではやらないけどさ、トッキーも色々とリニューアルしたいんだよ。この家みたいにさ」
「そう言えば、工事されてますよね?奥の居間に色々積み上がってますけど、2階から持ってきたんですか?」
愛が後ろを振り向き、目配せすると絵画が何点かあるように見える。
他にも、高そうな壺や掛け軸もあり流石お金持ちの邸宅と言った所だろうか?
「元々、3人で相談して老朽化してた2階を取り壊す事に決めてたんだ。谷川は嫌がってたけどな、気に入ってたみたいだし。これで少しは前に進めると良いけど。でも怖いよ。道標がある訳でもない。温かな太陽の光もない。そんな中で俺は羽ばたいていけるのかな?でも、嫌なんだよ。俺は幼い頃から旭に嫌われたくないってずっと思ってた。でも、それは好かれたいの裏返しだって事に最近気づいた。本当に残酷だよな。旭が居なくなってやっと気づいたんだから」
「そうだよ、トッキー。ちゃんと罪は償わないと。出所して旭に会いに行けば良いじゃん。手始めに谷川さんに焼酎と柿の種を恵んでくれて良いんだよ」
「俺に集るな!柿の種なら他の奴と一緒にちゃんと買ってあるだろ。旭がいつ来ても良いように好きなお菓子買っておかないとな。偶に数が減ってる時があるから家に寄ってるんだろうけど」
「あっ、ごめん。それ、谷川さんが食べてるからかも。偶にさ、魔法の粉が舐めたくなるんだよね」
その言葉に汚いとでも言うように朱鷺田は軽蔑の眼差しを向けた。
まぁ、それ自体は冗談で朱鷺田の言うように旭が家によると口にしているようである。
「愛、先程の謝罪も込めて袋ごと全部持って行って良いぞ。名前的にも愛や黄泉先生に食べてもらった方がお菓子も喜ぶだろ」
「えぇ...食べ切れるかな。朱鷺田さん達と違ってうちは2人なんですよね。もう1人いてくれたら凄い助かるんだけどな」
それはお互いに思っている事なのだろう。朱鷺田は珍しく優しく微笑んだ。
散髪を終え、違和感があるのか?何度も首や頸を触っているようだった。
「まぁ、谷川は意外と器用だからな。お前に任せて正解だった。ほら、約束通りお小遣いな。散髪代と思えば安いものか」
「よっしゃ!何買おっかな。確か、漫画の新刊が出てたんだよな。それにしよっかな」
谷川は鼻歌を歌いながらもらった札束を大事そうに手に取っていた。
その姿はまるで親子のようだと愛は思った。
「何だか、微笑ましいですね。家族って感じがして」
「そうか?まぁ、温かい家庭には今も憧れてるけど。この先何があるか分からないしな。自分で言うのもなんだけど、孤児院の視察とか支援とかしてて子供が好きなんだ。まぁ、谷川もデカい娘みたいなもんか。そう思うとちゃんと自分は知ってたんだな。大切な物に。...後はそれを守るだけの力が欲しい。出来るかな俺に」
「大丈夫ですよ、朱鷺田さんなら。だって今もこうして行動に移してるんですから。旭さんは貴方が出来る人だって分かって離れたんでしょう?貴方の力が必要なんですよ、きっと」
朱鷺田はそのあと首を傾げながらも嬉しそうに微笑んでいるようだった。
「だと良いけど。ずっと旭の背中を追いかけてきたんだ。今度は肩を並べられるようになりたい。今はそう願うよ」
《解説》
今回は東出愛、朱鷺田縁、谷川鞠理を中心に書かせて頂きたいと思います。
愛の元ネタはドクターイエロー同様、計測車として活躍するイーストアイです。
車体の色に合わせて、赤と白をメインに。
ヘアピンは実際の塗装で先頭車両に赤い線があるのでその再現です。
朱鷺田の元ネタは「上越新幹線・とき号」ですね。
地元の方に愛され、一度引退した名前ですが復帰し現在でも最速達列車として運行しています。
各駅停車→引退→最速達と波乱万丈なキャリアを積んでいますね。
その人気を再現する為に町長の息子という風にさせて頂きましたが、父親のモデルは新潟県出身の元総理大臣、田中角栄氏からですね。
朱鷺田の田は田中もそうですし、新潟が米所という事で似合うかなと。
名前の縁は実際の国産最後のオスのトキの名前が「ミドリ」だったと言うことでそれに因んでいます。
谷川が「みどり君」と言うのはその為ですね。
彼の容姿は実際の鳥のトキに似せています。
谷川の元ネタは「上越新幹線・たにがわ号」ですね。
1997〜2002年まではあさひと共に、それ以降から現在に至るまでときと共に運行しています。
「たにがわ」の運行ダイヤが朝と夜に固まっている事から、作者がサボっていると妄想して気まぐれでやる気のないキャラづけにしています。
「はやて」も同じく朝と夜のみの運行なんですが、名前的に病弱な雰囲気がありますし、デビュー時は最速達だったのでそれなら仕方ないと。じゃあ、たにがわは一体なんだんだ。サボり魔かとなりました。
旭が好きなお菓子は完全にハッピーターンですね。
彼の実家が銀行なのは佐渡金山をモチーフにしているので、金が集まりそうな場所と言えば銀行だろと関連づけています。
そう思うとお菓子の形状も小判に見えてきましたね。
恐ろしいですね、相方と合わせて政治と金を牛耳ってますからね。
谷川は柿の種、朱鷺田なんですがイメージ的に「雪の宿」が好きそうなので完全に新潟のお菓子メーカーさんで集めてます。




