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鉄壁の運び屋 壱ノ式 ー三原色と施錠の町ー【完全版】  作者: きつねうどん
第三章 捜索
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第壱拾肆話 合流 ★

節子を助けてから数日後の事、協会にて待ち合わせをし肆区に向かうようだ。

節子も気合い十分と言ったようで、ボクシングの試合前のようにジャンプをしたり構えのポーズをとっているようだ。

中々のお転婆お嬢様のようだ。光莉以上かもしれないと望海は思った。


「望海さん、いよいよね!」


「はい。正直言って不安しかありませんが、今は手がかりを掴まないと」


手紙の真相を探る為、望海は自分の行ける範囲で調査を行うようだ。

であれば、勝山(かつやま)か筑紫に絞られる。

なら人の多い所の方が望ましいと中心街の筑紫に行く事にした。


「まぁ!凄い、とても賑わっているのね。望海さんはいつもここに来ているの?羨ましいわ」


壱区から出ない節子にとって、各区の中心街に出向く事が中々ない機会だろう。

興味深々に八百屋や青果店を見ているようだ。

ただ、どうしても輸入品に頼りやすい比良坂町では物価高の傾向にある。

ただ、ありがたい事に何故か海産物だけはお手軽価格で手に入れられるようだ。

逆に肉類は以前山岸が言っていたように値段が上がっているように見える。


「えぇ、時々。ここは商人の街ですから、夜になれば屋台も出ますよ。ここなら人も多いでしょうし、何か話が聞けるかもしれません」


通りを暫く歩いている時の事だった、魚屋の方から何かの話声が聞こえた。


「本当だって、七星の坊ちゃんが夜中に歩いてる所を見たっちゃん!」


「すらごと言え、坊ちゃんがそげん事するわけんちゃろ」


その会話を聞いて望海はふらつき始める。

しかし、亘が繁華街に行っている事を現地人が知っているのは幸運だった。

と言うよりも世間は狭いのか噂も広まりやすいのかもしれない。


「な、訛りが。でも、言いたい事はなんとなく分かりますね。あの、坊ちゃんというのは?」


魚屋の主人に声をかけると先程の訛りは嘘の様に2人に分かりやすく教えてくれる。


「この近くに、七星っていう金持ちの家があんだよ。そこの坊ちゃんが強そうな男を連れて夜な夜な動き回ってるって話だ。きな臭いだろ?」


「...成る程、それはきな臭い話ですね」


「他にも見た人がいて、その連れてた男が咲羅じゃないかって言ってる人もいる。咲羅はバリ、カッコよかよ!男の中の男たい!」


その咲羅という名前に望海は反応した。

七星の坊ちゃんと咲羅が一緒にいる。

望海は以前、咲羅に会った事がある。知り合いと一緒にいるのなら、話が通じるかもしれない。

しかし、彼の迫力に圧倒されまともに話した事はない。

望海は頭を抱えた。


光莉や児玉も連れてこれば良かったかなと後悔したが、節子の前でそんな事も言っていられない。

と言うより、今まで多忙なのを理由に節子から目を背けていたのだ。

仕方がないとはいえ、罪悪感もあった。

七星の家の位置を教えてもらい恐る恐る其方に向かう事にした。


「あれが咲羅さん?確かに屈強な殿方ね。壱区にはいないタイプだわ」


屋敷の両扉も咲羅の前では小さく見えるほどだ。

番犬の様にそこから微塵も動こうとしない。

それを望海は警戒するように近くの壁から隠れるように見つめていた。

節子も探偵気分で、望海の真似をしているようだ。


「あ、あの。さ、咲羅さん...」


その刹那、咲羅は眉を動かし抜刀し始めた。

その刀は勢いよく頭上に降りかかる。


「「きゃあああああああ!!」」


望海と節子はお互いを守るように涙目になりながらしゃがみ込む。


「咲羅、大丈夫だ。この2人は人魚じゃない。刀を下ろせ、花紋鏡で確認済みだ」


「...は!?ごめんなせ」


刀をしまう音が聞こえると、2人は顔を上げた。

目の前にいたのは屈強な咲羅と対照的な小柄な少年だった。

そう、節子に手紙を出した張本人七星亘だ。


そのあと亘はふと2人を見つめる、何となく文通相手のイメージに似ていたからなのだろう。

しかし、何もなかったように気を取り直した。


「済まない。咲羅は今、人に化けた人魚に敏感なんだ。君達の特徴が彼女らに類似しているものだから刀を向けてしまった。主人としてお詫びする」


「人魚というのはあの水路にいる?」


「そうだ。先日、人間に化け損ねた人魚を見つけた。足の鱗が完全に消えず、歩行もぎこちなかった。それに反して彼女の容姿は見目麗しいかった。だからこそ奇妙だと僕に住民が教えてくれたんだ」


表情は冷静に見えるが亘は話をしていくうちに思い出してしまったのだろう。少し、肩や手が震えてるように見えた。

咲羅も心配になったが、とりあえず見守る事にした。


「...それって人魚が地上にいるという事?」


「目撃者は夜の繁華街でその姿を見ている。「青い血」と呻き散らしていたらしい。だから...」


そのあと、彼は口を噤んでしまった。もう、これ以上は限界だろう。

13歳の少年が抱えて良い物ではない。これ以上は話を聞く事は出来なさそうだ。咲羅は彼に要点だけ伝えた。

あの血液サンプルを望海に渡すようにと。


「坊ちゃん、例をアレを...」


「例のアレってなんですか?」


「望海、君に頼みたい事がある。説明は屋敷の中でさせてくれ」


そう言われ、屋敷の中に入る。

望海は御三家の屋敷に入るのはこれが初めてで度肝を抜かれた。

実家も和風な佇まいで敷地内に専用の稽古場もあると言う事で同級生からも立派なお宅だと言われた事があるのだが洋風ながらもカウンターバーや茶室まであるのだからもう家と言って良いのかと疑問に思うレベルだった。


「まぁ、とても素敵なお屋敷ね!茶室もあるなんて羨ましいわ!」


敷島邸には茶室はないようだが、まるで旅館さながらの檜風呂が存在する。

節子もお風呂の時間が1番好きで1日の疲れを取る大事な時間だと思っているようだ。


「節子さん、そんな呑気な事を言っている場合ですか?」


「じっちゃんの趣味だ。2人には僕の部屋に来てもらう。大事な物なんだ。それをある人に届けて欲しい」


そう言われ、部屋に入ると彼は真っ先に机の上にあるトランクケースに向かった。以前、咲羅が瑞稀の元に持っていったのと同一の物だ。それを持ってきて2人の目の前に開けて見せる。


これを見た2人はどう思ったのだろうか?

想像に難くないだろう。以前聞いた手紙の内容と咲羅の刀、目の前にある黄色い液体を見て全て合点が言ってしまった。

目の前の彼が節子の文通相手である事も、人を斬り殺したのが咲羅だという事も、そしてこの正体が人魚の血液であるという事も。


この時点で、御三家は皆きっかけは違うものの人魚との絡みがあるという事になる。

これによって、各組織で情報共有がされる事になるだろうが後は専門家。Dr.黄泉の力が必要になるだろう。


望海はこの光景に思わず後退りしようとしたが、それとは反対に節子はその場に止まり立ち尽くしていた。


「...これは貴方にとって、とても大切な物なのね?」


「勿論。これをDr.黄泉に届けて貰いたい。とても聡明な科学者だと聞いている。彼なら、詳しい鑑定も出来るかもしれない。でも、僕は君達の様にここからは出られない。彼に直接会う事は叶わないんだ。以前咲羅に参区まで彼の捜索をお願いしたが手がかりも何も掴めなかった。だから望海、君に頼みたい」


「Dr.黄泉は神出鬼没な方です。児玉さんは彼にお会いしたそうですが私はまだ会った事がありません。他の方とも協力してみますが今後会えるかどうかも分かりません。それでもよろしいですか?」


望海にしては意地悪な返答をした。

しかし、望海もこの状況に対して危機感を抱いていた。

どうして今まで気づかなかったのだろうかと。自分でも後手に回っているのが理解出来た。

しかも今現在。不完全ではあるものの人魚達が陸に上がって来ているのだ。

もし、人と見間違う程になってしまえば人々は疑心暗鬼に陥るだろう。

それが人魚達の狙いなのかもしれない。


「それならそれで仕方がない。僕は君に頼んでいる身だ、優秀な運び屋である君が出来ないというなら誰も出来ないだろう。だが、覚えておいて欲しい。この比良坂町は何かを隠している。今の僕にはまだ分からないが、この町住民全てが実験台にされているそんな気がするんだ」


比良坂町はまだまだ謎に包まれている。その全ての謎を解くのにはかなりの時間を有するだろう。

しかし、立ち止まる事など許されない。

望海は覚悟を決め、彼からトランクを受け取った。


「それには同意します。今まで私はこの比良坂町にいる事に何の不満もありませんでしたし恐怖もしていませんでした。児玉さんや光莉と一緒にいる事に安堵していた程です。でもその生活が今、脅かされようとしている。それは放って置けません」


「ありがとう、望海。Dr.黄泉には七星亘からだと伝えておいてくれ。よろしく頼むよ」

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