第壱拾話 定例会議 ★
望海達が会議室に向かう15分前、会長室には敷島会長と節子の姿があった。それぞれ専用の事務机を持ち椅子に座っている。
「お母様、この後。16時30分から定例会議が入っています」
「そうね、私達もそろそろ行かなくては。節子、会議の資料はあるかしら?」
節子は机の引き出しから会議の資料を一つ手に取るがそのあと何かを探すような仕草をする。
勿論、これは演技だ。節子が会議から抜け出す為に取った策の一つでもある。
「どうしましょう、お母様の分しかないわ。ごめんなさい、私。印刷室に行ってきます。お母様はこれを持って先に行ってて。私は後で追いつくから」
「そんな慌てなくても、もしかしたら過剰に印刷されたのがもう会議室にあるかもしれないし。...お2人の分も一応用意してあるけど来てもらえないし、仕方のない事だけど。嫌われて、当然の事をしたんだもの」
その言葉に節子はこれからする事に罪悪感を持ちながらも危機的状況には変わらない。そのまま計画を実行した。
「お母様と私の資料を用意するには皆さんじゃなくて会長秘書の私。敷島節子です。御三家の時期当主として、時期会長候補として小さな役割こそキッチリこなさないといけないの。お母様、どうかご理解なさって」
節子の言葉に大袈裟とまでは言わないが、フッと息を吐き目線を節子から逸らしている。
「分かりました。じゃあ、先に行ってるわね。くれぐれも皆さんを待たせる真似はしないように」
「も、勿論です!」
節子は目を泳がせながら会議室とは反対方向にある印刷室に向かうフリをした。
待たせると言うより、節子は会議に参加しないし出来ないのだ。
「(お母様!ごめんなさい!節子はいつもお母様を困らせてばかりね)」
一度、会議室の様子を見に行った敷島会長は10分前にも関わらず集まっている運び屋達に尊敬の念を抱いていた。
しかも、皆で会議室の掃除をしたり資料や飲み物の用意までしてもらっているのだ。
児玉は「場所を借りてる身だからやらせてください」と年長者として積極性に行っている。
そうする事で後輩達も同じように振る舞い始めるのだ。
これは好循環に繋がるだろう。
しかし、節子が来るまで中に入らず少し待つようだ。
五分前、腕時計を確認し少しソワソワしている。無理もない、いつものタイムスケジュールと違うのだから。
「大丈夫かしら?何か機械に不備があって遅れてるとか?」
一度、様子を見に行こうと印刷室に向かったのだが案の定節子の姿はなかった。廊下や階段も確認するが彼女の姿がない。
敷島会長は疑問符を浮かべ捜索する為にある人物に相談した。
無線機を持ち【コード:1000】と入力する。
「爺や、節子なんだけど屋敷の方にいるかしら?今協会の方で探しているのだけど見当たらないの」
「いいえ、此方には来ておりませんが。そうでございましたら、私の仕事仲間を呼び寄せましょう。協会近くにも1人おりますし、節子お嬢様の身に何かあってから遅い。私も出来るだけを捜索してみます」
「ありがとう、私は会議室に戻らなければ。もう時間だわ。節子、何処に行ったのかしら...貴女に何かあったら」
「ケホッ、ケホッ」
「颯先輩、体調悪いなら無理して出なくて良いんですよ。朝、微熱だったじゃないですか。貴方、昼間に体温上がりやすいんだから気をつけないと」
「うるせぇ、黙ってろ」
そう言う颯に対して、隼もそうだが他のメンバーも自分の上着をかけている。赤いブランケットも完備しているようだ。
「まぁ、直ぐに医務室に行けるし。俺が側についてるから、颯が自分で良いって言うなら良いんじゃねぇの」
颯の隣の席に那須野が座っている。
翠色の瞳に茶髪のドレッドヘアを後ろでまとめている。
頭につけているピンクのバンダナも印象的だ。
そのワイルドな容姿と歯医者というギャップに魅了されたのは何も山岸だけではない。
そんなおり、望海と光莉が到着した。
「ふぅ、ギリギリでしたね。残り20秒なら問題ないでしょう」
「大問題だ!!10分前に来てる人達だっているんだぞ?2人を待ってる間どれだけヒヤヒヤした事か」
「ごめんて、玉ちゃん」
先に到着し、心配していた児玉を2人は慰めた。
彼は、今日の集会メンバーの中でも比較的長身で180cmあるのだが威圧感はない。
それは彼の性格が関係しているのだろう。彼は堅実をモットーとしており縁の下の力持ちである事を自負している。
今日は会議という事で青いベストとスラックス、白い上着を着用している。
実は剣城は児玉に憧れを持ち、彼に服装を少し似せている。
同じく会議に来ていた希輝は彼と児玉が一緒に話しているのを見てニヤニヤしていたようだ。
そのあと、2人の運び屋が此方へと声をかけてきた。
それぞれ、山岸と隼の隣に座る運び屋だ。
「大丈夫っすよ、まだ敷島会長も来ていないみたいだし。珍しいっすね、あの人が来ていないなんて」
「いつもなら誰よりも早く来てるの!何かあったのかもしれないわ!」
そう騒ぎ立てているのは壱区北西部を担当している大鳳翼と雛澤小町だった。
2人は児玉とは逆に可愛らしい小柄な容姿をしている。翼は望海の同期であり、同じ頃に運び屋の仕事に就いた。
翼もそうだが山岸も衣装持ちであり、望海も様々な服装を見た事がある。
それは長い付き合いがあり、ファッションを熟知していた青葉の影響が強いだろう。良く、服を選んでくれていたようだ。
今日も、新しい服だろうか?オレンジのインナーに濃い紫のパーカーを着ている。
同系色の濃い紫を主体に白とオレンジのラインが入ったキャップもかぶっているようだ。何でも、最近嬉しい事があったらしい。
しかし、望海は知っている。
翼は誰よりも朝早く運び屋業務を行う為、髪を整えたり寝癖を直す暇がないのだ。
一応、望海達は朝6時から24時まで業務を行っているが翼は5時台から業務を行っている。本人曰く、合法らしい。
実際に帽子から明るい茶髪が溢れるように見えてしまっている。
黄緑色の瞳も印象的だ。
小町は黒髪のおかっぱ頭に赤い瞳。
最初、山岸と会った時。赤い着物を着ていたので座敷童と間違えられたらしい。
暖かそうな、可愛らしい赤いニットを着ている。
颯にも赤いケープコートをかけているようだ。
しかし、ニットの下に白と黒縁の襟が見え。スカートも黒、白、ピンクのチェック柄だ。
3人は知っている小町が以前来ていた服装と同じ物だ。今でも大切に着まわしているのだろう。
望海が会議室を見渡すと2人分空席がある。
一応、資料や飲み物も用意してあるのだが周囲は静かだ。
「玉ちゃん、やっぱり朱鷺田の坊ちゃんと谷川は来てない?」
児玉は一回頷き、二度首を横に振った。
仕方のない事だが、全員揃わない会議に望海は悲しげな表情を浮かべた。
その様子を遠くから見ていた山岸は其方に声をかけた。
やはりムードメイカー、暗い雰囲気は嫌なようだ。
「光莉さん!敷島会長が来てないんだけど何か嫌がらせしたんじゃないの?お菓子集りに行ったりとかさ」
「するか!そんな事!...っていうか会長さん来てないの?珍しい」
「私達でも結構ギリギリに来たんですけどね。もう定刻ですよ」
その言葉の後、資料を持ち慌てた様子ながらも優雅に壇上に上がる女性がいた。そう、敷島会長だ。
しかし、焦っているようで額に汗を掻き呼吸が荒い。
皆も慌てて来たのが一目瞭然でわかった。
「皆様、お待たせして申し訳ありません。秘書が見つからず建物内を捜索しておりました」
資料を開き、訴えるように周囲に言う会長を見て颯は顔を下に向け考えごとをしているようだ。
これはやってしまったかと思っているようだ。
節子がいないと言う事は会議を抜け出して壁に向かった可能性が高い。
体調不良だと言って自分も会議を抜け、探しに行った方がいいかと考えている時、隼から声をかけられた。
「颯先輩、俺は貴方の気持ちが分からないので言ってもらわないと分からないんですけど困ってますよね?俺はこの組織のエースだ。貴方以上に実力がある。ちゃんと頼ってください」
そう言われ、仕方ないなと思いながら小声で指示を出した。
「ほら、節子嬢がいないだろ。もしかしたら壁の方に向かった可能性が高いんだ。俺たちの範囲なら陸奥か千体にいる可能性が高い。探しに行きたんだが体調悪いしな。偵察道具だけでもと思ったんだが」
「無理でしょ。二重の意味で倒れますよ。俺、戦闘特化なんで偵察苦手なんですよね。山岸先輩なら...」
そのあと、会議室に数羽の鶺鴒が飛び立つ。
「あっ、やっば!間違えて誤作動しちゃった!しばらくお散歩させとくか」
「ちょっと山岸さん、何してるんすか!?皆んなの前で恥ずかしい」
そのあと、山岸は隼と颯に目配せしているので2人の会話が聞こえてたのだろう。しかし、感謝の気持ちというより地獄耳なのではないか?と疑っているようだった。
思わねアクシデントもあったが会長の声に全員席に座り気を保つ。
「予定通り定例会議を始めましょう」
《解説》
今回は那須野、翼、小町を中心にご紹介したいと思います。
那須野の元ネタは1995年から現在も運行している
「東北新幹線・なすの号」ですね。各駅停車タイプの新幹線です。
彼は郡山駅が終着駅という事で福島県を連想するようなキャラ付けにしています。
実家が歯医者で自身も運び屋と歯医者を兼任しているのは郡山の駅メロになっているGReeeeNのメンバーが郡山出身で音楽活動と歯科医を兼業している事からの発想です。
個人的に福島県は那須塩原など牧場が多いイメージがあるので野生味のあるワイルドな雰囲気で書いています。
山岸曰く、属性被りは好ましくないという事で東北男子はアイドルユニットと組む勢いで頑張って差別化しています。
翼の元ネタはのぞみと同じく1992年に開業しました
「山形新幹線・つばさ号」です。
服装についてですが、3月に導入予定のE8系のカラーリングにしています。「つばさ」も「やまびこ」同様複数の車両を使いますね。
そんな中でもレアな組み合わせもあるので今後ご紹介出来たらなと思います。
早朝5時代に仕事をしている件についてですが山形新幹線は在来線も通るという事で、逆算して6時にやまびこと合流出来れば良いと言う事で通常よりも早く新幹線の中で運行しています。
小町の元ネタは「秋田新幹線・こまち号」です。
座敷童は岩手の妖怪なんですが、初期の相棒がやまびこという事や合流地点が盛岡の為、容姿も似せています。
服装は車体と同じ、E6系の真っ赤な服装ですがスカートやシャツは以前使用されていたE3系をモチーフにしています。
今作での連結ペアは同じ仕事をするバディとして今後描写をしたいと思います。多分息をするように一緒にいると思いますね。
個人的に連結ペアはビジネスカップルのように思っていて周囲からはお似合いに見えるけど片方は塩対応でなにも始まらないみたいな風に思ってます。
作者はご覧の通り、解釈の魔物なので本当にヤバイ組み合わせはもう既にJRさんが消してると思ってるんですよ(意味不明)
なので一回は引退してる「あさひ」「とき」「あおば」は仕事でもプライベートでも相方だった設定にしています。




