第玖話 登校 ◎
「先生、おはようございます」
そんな声が女学院の校門前に響き渡る、早朝からそれぞれ委員会や部活に精を出す生徒達を生活指導の教師は服装点検の傍ら見守っていた。
何も問題ない生徒はそのまま見送り、優雅に手を振り校舎内に入るのを見送っているようだ。彼女も例外ではない。
「おはようございます。東さん、今日も朝早くから。今日は委員会はなかったはずだけど」
「はい、そうなんですが今日は日直で。色々、記入をしたり花に水やりをするので早めに」
教師は望海がいつも早くから来て、図書館等で勉強しているのを良く知っている。
生徒は勿論、教師陣の信頼も厚くクラスでも学級委員長をしている。
以前、生徒会役員にも推薦された事もあるようだが運び屋との仕事両立のため今のポジションを望んでいるようだ。
「おほほ、ご機嫌。今日も良い朝ですこと!モーニングのトーストも美味でしたわ!餡子とバターが乗ってて」
女学院に相応しくお優雅?に挨拶した光莉は猛ダッシュで校舎内に入ろうとするものの教師に捕まってしまう。
「お待ちなさい!夢野さん!また、そんな派手な髪にして。今度は七色に染めるつもりですが!?」
「えぇ、七色はダサくない?2色とかまでなら良いと思うけどさ、あっそうだ次。メッシュ入れてもらうかな」
「比喩表現です!後で用紙を取りにきなさい、放課後までに反省文を提出するように」
教師と光莉の漫才を望海は勿論、朝練で校舎内を走っていた生徒も楽しそうに笑いながら見ていた。
光莉は確かに問題児だろう。しかし、校則の厳しい女学院の中で自分を突き通し続ける彼女の姿勢は少しの偏見や軽蔑もあるだろうが大半は尊敬の意も持ち合わせている。
実際に光莉に憧れを持つ生徒もいる。以前は学校に来てなかった為、校内も暗くどんよりとした雰囲気だったが彼女がいる事によって雰囲気がパッと明るくなった。光莉は間違いなく皆の光なのだ。
望海は彼女の性格に救われた場面も存在する。
厳しいスケジュールで行われる習い事にやりがいを見出せずそんな時に「サボっても良いんだよ」と言ってくれた彼女には感謝していた。
時より、その時間で映画館に行ったり食事をしに行く事もあった。
「では、光莉。私は先に自分のクラスに行ってますので。放課後、合流しましょう。ちゃんと反省文も書いてくださいね」
「ちぇ、早くこれば先公にも見つからないと思ったんだけな」
その言葉に望海はクスクスと笑いながら教室に移動した。
中に入るともう既に窓の外を眺める1人の女子生徒がいた。
望海は彼女の事を知っているが、あまり交流が無かったので少し挨拶をした後、自分の席に行き教科書など荷物を広げていた。
「上から見えてたわよ。まさか、貴女があの問題児と連んでるなんてね。貴女はそんな人じゃないでしょ」
そう言われると、望海は苦笑いせざるを得ない。
彼女の名前は花菱姫乃、光莉と同じ金髪なのだが地毛のようで本人は「他所の血が入っている」と言っていた。
望海の思う他所の血と言えば外国人が該当するだろうが、閉鎖された比良坂町ではそう言った人達も珍しく偏見を持たれやすい。
以前、知り合いの瑞穂から新人の運び屋が母親に似て綺麗な金髪とブラウンの瞳を持っていると知り合いから聞いた事があると話をしていた。
是非、お会いして見たいなと思うのだが担当場所も肆区でしかも瑞穂達とも合流していないと言う事は望海でも会いに行くと言う事が難しい。
相手から此方に来てもらう事を願うか、自分から行くか。
多忙な望海には後者の行動を移す事は難しいだろう。
気長に、会えたら良いなと思う程度にとどめておく事にした。
髪型も光莉から借りた少女漫画でしか見た事がない縦ロールをしている。本当にそんな人がいるんだと望海は思っていた。
灰色の瞳に、父親からプレゼントしてもらったと自慢していた高そうな宝石が埋まった髪飾りをつけている。
メジャーな宝石なので望海も知っているダイヤモンドだろう。
望海は黒板に向かい自分の名前を書きながら彼女と会話する。
「そうですね、以前の私だったら考えられなかった。最初だって抵抗したんですよ、問題児と連みたくないって。でも、光莉が一方的に話しかけてくるんですよ。何色が好き?とか。この髪飾りも光莉が見つけて、一緒に観に行こうって。映画面白いのやってるから観に行こうよって」
そう笑いながら望海は顳顬にある髪飾りを指すっている。
それを見て姫乃な何故か悲しげな表情を浮かべた。
「...何だか姉みたいね。妹を連れ回す姉みたい。そう、なら良いわ。正直、ちょっと心配だったのよ。夢野光莉って子、問題児だし。貴女、脅されてるんじゃないかって。向こうの家の事、良く知らないし。お父様も面識がないって言うしね」
姫乃の父親は壱区の都筑や参区の生田を中心に活動する貿易商だ。姫乃の私物も外来品が多く、仲の良い友達にプレゼントをして楽しそうに会話をしているのを望海は見た事がある。
望海本人も海外に頻繁に行っている父親からのお土産だとチョコレートやクッキーなどクラスメイトとしてもらった事もあった。
姫乃は母親もいないようで、女学院附属の寄宿舎で生活をしている。
望海や光莉は学校から近いし、何より運び屋業の関係上、自宅通いをしている。
「脅すって、東屋にそんな権力ないですよ。だったらスポンサーの方が権力ありますからね。まぁ、向こうもお優しい方ですし。弟が新しい舞台装置が欲しいと言っても快く引き受けてくださいますからこの縁は大切にしないと」
そんな雑談をするが、望海は珍しい状況だなと思った。
実は姫乃は東屋に良く出入りしているというか、望海の弟である圭太の大ファンなのだ。
その為、今日も彼について聞き出してくるのかな?と思いきや意外と塩らしい。先程の会話から元気がないように見えたので望海は少し心配していた。
いつも通り、授業を受け。放課後、光莉のクラスに行くが朝書けば良いものを後回しにする癖があるのか今になって必死に書いているようだった。
まぁ、幼少期に両親を亡くしてまともに学校に行かなかった彼女がキチンと学校に来て曲がりなりにも1日を過ごしているのだから望海はこれ以上何も言う事はない。彼女のペースでやらせてあげれば良いと思っていた。
「望海!もうちょっとで反省文書き終えるから!待ってて!」
「もうちょっと...って後5分で会議が始まるんですが」
教室の時計よりも自分の持っている懐中時計の方が正確なのだろう。
望海は其方を見ていた。この時計は協会から贈呈される物で特に選ばれた運び屋だけが使用出来る物だ。
運び屋は誰よりも時間に正確でなければならない。
望海はいつも、一つ一つの依頼がその人の人生や生死に関わる物だと思いながら仕事を受けている。
もし、大切な人の死に際に間に合わず依頼人が何も思いを伝えられなかったら?それを思うと寒気がするだろう。
比良坂町は特に危険な土地だ。何があってもおかしくない。
「ここにいましたのね!東望海!」
そんな時だった、いつものように不機嫌そうに姫乃がズカズカと2人のいる教室内に入ってきたのだ。
一瞬、戸惑うような素振りもあったが気を取り直し勝気な表情で口を開いた。その様子に望海は安心感を覚えていた。
「圭太さんはいつこちらにお戻りになられるの?早く、彼の歌舞伎が見たいと皆言っているのよ?」
「それは申し訳ありません。思ったよりあちらでの反響が良かったみたいで、追加公演をすると聞いていますので数ヶ月間は滞在するかと」
そう苦笑いしながら質問に応じていた。
しかし、望海は姫乃の事を迷惑だとか嫌だと言う風には思っていないようだった。
弟の圭太は現在此処を離れ、アングル王国で歌舞伎の舞台公演を行っている。
しかし、圭太がやっていたのは歌舞伎だけでは無かった事を望海はこの後知る事になる。
彼女との会話が終わり、姫乃が去るのと同時に光莉は鉛筆を手放した。
「よし、終わった!やばい、後2分しかない!」
「早く先生に提出して協会に行きましょう」
すぐさま瞬間移動で学校を後にした。
2人が辿り着いたのは協会の会議室前、此処から複数人の運び屋の声が聞こえる。
その中には児玉は勿論、山岸の相方や隼の相方もいるようだ。
2人はそのまま、会議室の中へと向かった。
《解説》
光莉が朝食に食べていたトーストは名古屋に因んで小倉トーストを選んでいます。
たまに食べたくなるんですよね。コメダのモーニングとかでついつい選んじゃいますね。
今作では海外の高速鉄道も登場予定です。
望海の苗字や、歌舞伎というワードからお詳しい方なら気付けるかもしれませんね。
アングル王国と仮想の国となっていますが、モデルは鉄道の本場。
元ネタはとある魔法学校の特急もありますキングス・クロス駅から同じく作品のモデルにもなった街並みがあるエディンバラを担当しています。




