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宝釣りⅡ

作者: しゃる

この世界の人間はみな、『ギフト』と呼ばれる才能をもって生まれてくる。たいていは二、三個。多い人は十数個のギフトを持っている。

 文字通り『才能』であるから、伸ばすも殺すもその人次第。

 魔族に体力で劣る人類の希望であり、大人たちは才能あふれる若者たちを大切に育てていた。

 かの勇者はそのギフトとたゆまぬ鍛錬によって、暴虐の魔王を討ち果たしたという。

 多くの子供たちにとって、自分のギフトが判明する『天啓の儀』は待ち遠しくてしかたがないものだった。


 さて、この男。名をダスト。

 彼のギフトは『宝釣り』である。

 この『宝釣り』は、数多あるギフトの中で一、二を争うハズレギフトだった。『宝釣り』は釣りをしたときにお宝が釣れる確率が上がるというギフト。

 どこがどうハズレなのかと聞かれたら、釣り上がるお宝のほとんどはガラクタで、長靴、枝、謎の固形物、キレイな石が釣れればいいほうなのだ。

 加えて彼のギフトは『宝釣り』ただ一つ。負け組を横に並べて頭一つ抜き出る存在だった。

 将来を憂いた両親が、彼を貴族の学校に裏口入学させるも成績を残せず除名。

 自責の念にかられたダストは故郷の村を飛び出した。

 なぜかついてきた幼馴染のジュエリア(ジュリ)とともに旅を続け、ある湖のほとりにある村で宿を開いた。宿で出される料理が絶品で、地方へ向かう旅人はこぞってここを利用した。

 ただ、この料理もダストが作っているわけではない。彼の妻となったジュリが『料理の才能』というギフトを持っているのだ。

 自責の念が消えることはなく、むしろ膨らませながら日々を送っていた。



「……はあ……。」


 ダストは大きなため息とともに糸を巻き始めた。

 昼から日が落ちるまで湖に釣り糸を垂らし、大した成果もないまま家に戻る。

 そんな生活を続けることもう数か月。

 さすがに情けなくなってきて、なんのために村を出たのかさえ分からなくなってきた。

 彼の悩みはもう一つある。

 愛する妻の誕生日がもう一か月先に迫っているのだ。

 手づくりなんてしても大したものを作れる技術は持ち合わせていない。

 ちゃちいものをプレゼントしてがっかりさせたくはない。

 かといってペンダントを買う金すらない。

 普通の『釣り』ギフトを持っていたなら、あるいはその程度稼げたかもしれないが、残念ながらダストのギフトは『宝釣り』だ。


「えーと、今日の成果は……。」


 石、石、枝、小魚、小魚、石、エビの赤ちゃん


 以上。

 なぜゴミどもをリリースしないのかといえば、普段はとっておかないと桶がすっからかんだからである。

 何かないと空しい。それだけの理由で捨てない、いや、捨てられない。


「ほら、帰りな。」


 バシャッ


 湖に向かって桶の中身をぶちまける。

 魚たちは水しぶきに紛れて姿を消した。


「……大きくなって出直しな。」


 強がりである。あの小魚が大きくなったところで、この男が釣り上げられるわけがないのである。

 

 ダストが家に戻ると、今日は珍しくお客がいないようだった。

 皿を拭いているジュリが、小さく「おかえり」と言ってくれた。

 いつ「おかえり」が聞けなくなるかわからない。その不安も確かにダストは抱いていたが、ダストはそれを表に出さない。

 そんな不安を忘れられるくらい、ジュリが自分を愛してくれていることを知っていたから。

 無口な性格ゆえ、めったにその気持ちをあらわにすることはないが。

 

 いつまでもジュリを頼っていられない。


 いつまでもダストは頼ってくれればいい。


 それぞれの想いを抱えて、今日も二人は同じ布団で横になった。


※ ※ ※ ※ ※


「はい、今日もダメでしたっと。」

 

 日が傾き始め、そろそろ切り上げようかと桶をのぞけば、


 石、枝、石、枝、どろ団子


 今日はは小魚すらも釣れていない。


「……ん?」


 ダストは、どろ団子なんてものが釣れていることを疑問に思う。

 釣った瞬間は気にもしなかったけど、よくよく考えてみればおかしい。

 ブツを桶から取り出して、なんとなく湖の水にさらしてみる。

 すると、ほろほろと団子がその形を崩し、中から出てきたのは二つの指輪。


「指輪……?でも……。」


 本来指を通す場所にもう一個の指輪が通ってる。

 つまり組み合わさってしまっているのだ。

 とりあえず桶の中身をぶちまけ、家に戻る。

 そして夜、それぞれ宿の仕事を終わらせてちゃぶ台で向き合う。


「で、これがさっき話した指輪なんだけど。」

「……キレイ。」

「コレ、ついに俺お宝釣ったんじゃないかなって思ってさ。」

「うん。」

「都に知り合いの鑑定商がいるから会いに行こうと思うんだけど。」

「うん。行く。」

「一緒に?」

「うん。」

 

 ダストは必至で顔をにやけさせまいとするが、抑えきれていない。

 「一緒についてきてくれないか」と言う前に、ジュリが言い出してくれたことがうれしくてたまらないのだ。

 ジュリはうれしそうなダストの顔を見て、自分でも気づかないほど小さく微笑んだ。


 善は急げ。二人はすぐに旅支度を済ませ、宿のある村を発った。

 目当てにして村を訪れた人は気の毒だが、まあ仕方ないということで出発。

 この村から都までは馬車を乗り継いで一日程度。

 早朝の便に乗れば日没のころには着く距離だ。

 二人を乗せた馬車は、幸い魔物の襲撃などもなく、ゆったりと進んだ割には予定よりか早く目的地に到着した。

 久々に見る都は、夜になってもその活気を失わない不夜城のごとき景色だった。

 目的の人物との会談は明日ということで、二人の宿より幾分豪華な宿で身を休めた。


 ※ ※ ※ ※ ※


「で、それが釣れたっつうお宝かい?」


 筋骨隆々の大男が、ダストの手のひらの上にある指輪を見て問う。

 彼こそが知り合いの鑑定商、名はポンスケ。両親が東方の生まれで、この辺では珍しい名前だ。ポンスケはダストの短い学生時代の友人で、ともに最下位争いをした仲である。

 彼のギフトは『解析』。物体の材質、性質、年代などを知ることができるギフトだ。

 ポンスケはブツを凝視して言った。


「おー、こいつぁすげえ。古王国時代のアーティファクトだな。」

「それってすごいのか?」

「ああ。それにただのアーティファクトじゃぁない。俺が今まで解析したどれよりも優れてやがる。こんなに便利で強力なやつぁみたこたねぇわな。」


 そう言ってポンスケは豪快に笑った。


「これって二つで一つのアーティファクトなのか?」

「いんや、そういうわけでもねえな。むしろアーティファクトっつうのは装着しねぇと効果をだせねぇもんだから、このままじゃただの置物だな。」


 またも豪快にわらうポンスケをしり目にダストは悩んだ。

 ポンスケがこういうくらいだから、二つの指輪それぞれは売ればそれなりの額が手に入るのだろう。

 売れたらその金でジュリのプレゼントを用意することができる。

 指輪をそのままプレゼントにするという選択肢もある。


「いやしかし、どうやったらこう繋がるんだろな。効果がちげぇから別々に作られたもんなのは確かなんだが、なんでこうやってつながっちまったのかねぇ。」


 ポンスケはそう言って首をかしげる。


「あー、で、ダストよ。」

「なんだい。」

「えらい別嬪さんと結婚したもんだな。」


 ポンスケはダストの横で出店のアクセサリーを眺めているジュリを見て言った。

 

「意外か?」

「いんや、おまえさんはあの頃も人気だったからなぁ。むしろ納得だで。」


 学生時代、ダストは男女問わず人気があった。成績がいいわけでもない。イケメンなわけでもない。そんな彼のもとに人が集まり、好かれていた要因はほかでもない。彼の人柄の良さだった。

 ポンスケもそんな彼に惹かれたうちのひとりであり、彼が学校を去ったあとも彼に一目置いているのである。


「ただなぁ……。」


 ポンスケは悩ましそうにあごひげをこすり、ダストに耳打ちする。


「……営めるうちに営んどけよ。」

「余計なお世話だ。」


 ダストはポンスケがジュリを解析したことを察して顔をしかめた。


 ※ ※ ※ ※ ※


 都から村に戻って数日たっても、ダストの考えはまとまらずにいた。

 ポンスケ曰く、そのままで売ればまあ片方だけで売るよりは高く売れるだろうとのこと。

 片方を壊してアーティファクトとして使うか、置物とするかは買った人が選ぶだろうから、とのことだ。

 プレゼントとするにも同じことが言えそうな気がするが、そうでもない。

 ジュリに二つセットで渡したら、それを壊してアーティファクトにするはずがない。

 逆に、片方だけで渡せば指輪としての価値と、アーティファクトとしての価値が共存することになる。どちらがいいかと言われたら、後者のほうがいいだろうとダストは考えていた。

 つまり、売るならセット、プレゼントなら片方なのである。

 売ればプレゼントを買って、お祝いのおいしいものを買って、それでもおつりがくるほどの大金が入る。

 普段手伝い程度しかできないダストにとって、家計の足しにできることも魅力的だった。


 悩み続けて二週間、誕生日はすぐそこにまで迫っていた。


 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 誕生日当日。

 宿屋の営業を終えた夜。


 寝室のドアの前には、小箱を手にしたダストの姿があった。

 果たしてジュリは喜んでくれるだろうか。

 そんな不安を胸に、ノブに手をかけた。

 

 部屋の中には、布団の上で女の子座りするジュリの姿。

 ダストが入ってきたことに気づきそちらを見るが、なにやら緊張しているようなその様子に不思議そうに首をかしげる。


「……どうしたの?」

「ちょ、ちょっときて。」


 ダストが手招きすると、ジュリは立ち上がってトコトコと駆け寄った。

 近寄ってダストの顔を見上げる。


 ダストは黙って小箱を差し出し、箱を開ける。


「……誕生日おめでとう。ジュリ。」


 箱の中には、キレイになって輝きを増した一対の指輪。

 ダストの選択は、『二つをプレゼントすること』だった。


「指輪、なかったろ。結婚したのに。」

「……二つ。」

「うん。こうやって、ずっと一緒にいられたらいいなって。」


 数秒の沈黙が、ダストの不安を掻き立てる。

 本当にこれでよかったのか、と。

 やっぱり最初に考えていた、片方だけの指輪のほうがよかったかな、と。


「……好き。そういうとこ。」


 ジュリはそういうとダストの手を引き、ダストはジュリを布団に押し倒した。


読んでくださり、本当にありがとうございます!

もし良いなと感じて貰えたら、感想を貰えると励みになります。

連載中の長編のほうも、よければ味見してみてくださいm(_ _)m

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