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DUST☆PUNK  作者: マカロン
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"OWL"(2)

 芥見は足元に若干残っていた砂煙から、素早く弾丸を拵えようとする。


「……見つけたの」


 だが、少女も砂煙が薄くなったことと、弾丸の飛来した方向から芥見のおおよその位置を割り出したことで攻撃態勢に移る。


 弾丸を防いだ梟は、身体が再生し終わり、宙で一回転した後に羽ばたき始めた。


 また、床に散らばっていた油も少女の操作を受け、再生。これで四体全ての梟に再び命の火が灯る。


  


 初動の速度が物を言う射撃戦、口火を切ったのは少女であった。


「飛べなの」


 芥見の弾丸を警戒してか、護衛の梟を一匹増やし、芥見を狙えと残り二匹の梟を撃ち放つ。 

 

 命を受けるや否や、梟達は引き絞られた矢弾のように高速で飛翔する。


 芥見も遅れて少女に照準を合わせ、弾丸を射出しようとするが、梟達は既に一息で胴をぶち貫ける圏内にいた。


 極限まで神経を張りつめていたが故に芥見は何とか反応、照準を梟に変更し、弾丸による相殺に狙いを変える。

 

 すんでの所で放たれた弾丸は、着弾寸前の梟の片方に吸い込まれて頭部を吹き飛ばし、撃墜させた。


 しかし、もう一羽には間に合わない。梟による本気の攻撃に備え、芥見は覚悟を決め――




 瞬間、鈍く骨を震わせるような重低音が響き渡り、芥見の身体が打ちあがる。急な浮遊感と身体の軋みを覚え、息が出来ないもどかしさにより、手は自然と空を掻く。

 

 梟の全霊の一撃の前では、覚悟など意味をなさなかった。吹っ飛ばされた自分がやけにスローな世界の中で、他人事の様に俯瞰して見えてくる。しかし、それでいて肺が潰された様な痛苦に関しては鮮明に、身をもって感じるという矛盾した感覚。


 段々と周りの音が聞こえなくなっていき、落ちていく体に合わせる様に意識も薄れる。ぼんやりと、視界が暗く、冷たく、これで終わり……


「ッ!? カハッ……!!」


 と芥見が死を想像したとき、背中から唐突に強い力を受け、意識が引き戻された。


 急激に世界は加速し、等速に戻り始める。聴覚はまだ薄っすら残っている砂煙の擦れる音を伝え、視覚は白くチカチカと光を見せる。背中に力を加えたからか、それとも時間が経ったからか、肺はまだ生きようと大きく空気を取り込んだ。


 芥見は背中から地面に落ち、叩きつけられたことで九死に一生を得たのだ。


 まだ上手く回らない頭はほぼ本能で突き動かされ、生き残るための算段を立て始める。




 一秒にも満たない思考の後に、鉛のように重い体を奮い立たせ、顔だけでも少女の方へと向ける。少女は既に追撃用の一匹を飛ばそうとしていた。


 発射まで数秒。次喰らえば、今のように運良く助かる可能性など無いに等しいだろう。


 それを見て芥見が選んだ選択肢は、弾丸の製作であった。……十数秒前の芥見ならば、決して取らなかった選択肢。


 先程の弾丸生成の速度の差を思い出せば、愚策。間に合うはずがない。


 そんな勝機が薄く思える、細い糸くずのようなクジを引いた芥見の判断は、生死を分かつ極限状態の現在においてのみ起死回生の一手、如来の蜘蛛の糸となり得る。

 

 芥見の身体は死から逃れるために、火事場の馬鹿力としか言えない反応を見せたのだ。


 先のもたつきはどこへやら、弾丸の生成速度は瞬きよりも早く、構えから射撃実行までの一連の動作は、少女に事態を理解する暇すら与えない。


 以前よりも数段速く、大きい(ここ・・・ルビ)ミサイル状の弾丸。それは、少女から離れたばかりの梟に触れると同時に、爆発した。


 爆破された梟は四散、油となり少女周辺の床に付着する。少女は砂の爆炎……爆砂とも言うべきもので包み込まれる。


 爆砂は少女を中心として緩く渦を描き、芥見への更なる追撃を阻む。芥見はその隙にふらふらと起き上がると、仕切り直しを試みる。


 少女を妨害している爆砂が晴れきる前に逃げなければ、今度こそ芥見の敗北は確定する。


 後ろから梟の突撃が来ないことを祈りながら、少し離れた場所にあった柱の裏に移動する。

 

「はぁっ、はぁっ……!! 」


 息と体勢を少し整えると、短い時間の中で生き残るための思索に耽け始める。




「どうする……!? あの攻撃が思ったよりも上手く行ったから、少しは時間が稼げたけど……!」


 芥見の言うとおり、少女は砂の妨害に手間取っているようである。しかし、決して時間があるわけではない。少女は既に爆砂を裂くようにして梟を旋回させており、そう猶予はなさそうだ。


「考えろ……! あいつに攻撃を当てなきゃいけないのは変わらない。けど……」


 まだ生死をさまよった興奮が冷めやらぬが、それでも思考だけは回す。芥見が懸念しているのは、仮に不意打ちだとしても、少女への攻撃は全て梟達によって自律的に防がれたということだ。




「まずは梟を無力化する必要がある。普通に破壊するだけじゃ再生される……でも」


 芥見は自身の腹に目を落とす。腹からは、ぽたぽたと油がしたたり落ちていた。油は、一向に梟になろうとする様子はない。


「再生されないこともある……!条件はなんだ?」


 少女の行動を一つ一つ思い出し、頭の中で反復していく。出会いがしらの攻撃、問答、能力の暴走、制御からの不意打ち、そして、息もつく間もない攻防……。


「なにか、手掛かりはないか? なにか……。っ! そういえば、あの時あいつは僕に近づいて……!」


 引っ掛かったのは、少女が奥の部屋に続く通路から出てきた時のこと。


「なんであいつ、僕に梟をぶつけてきた後わざわざ近付いてきたんだ?」


 そこまで口にして、芥見はちらりと少女の方を盗み見る。本格的に爆砂は取られ始めており、もう間もなく少女は自由となるだろう。


「僕を協力者と言って警戒していたのに、近付いてきた理由は……?」


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