2-2【二人目】
ーーーサンハリー領、レッグの家
「あの、ジンさんどうかしましたか」
リーナとの商談を終え疲弊したユキは、レッグの家を出た瞬間に今度はジンに捕まっていた。
「いや、別に俺の商売の話じゃないぞ、そんな顔するなよ。さっきは悪かったって。ただ、まあ、なんだ。お前さんの客人が街に来ていた、、、」
吹き抜ける風がジンの説明を遮る。
(えっ、なに。風、強い)
「ユーキ!!」
ユキは超速度のそれに不意打ちを受け、その身体は実にあっけなく宙を舞った。
「ユウカねぇ、落ち着いて、ちょっと待って」
「会いたかったぞぉ」
(笑顔で走り続ける姿って、この速度で。それは吟遊詩人も歌うよ、一人の人としてではなく、ひとつ災害として)
「おっ、おう。嬢ちゃん大丈夫か」
「どちらかというと僕が心配される側じゃないか思いますけど。ジンさん、姉さんを引き剥がしてください」
ジンは言われたとおり、ユキの身体からユウカを引き剥がし、興奮気味の歩く災害を宥める。
「坊ちゃんの親戚だって言うから連れてきた訳だけど、それ自体は間違ってないんだよな」
「はい、彼女は僕の姉のユウカです。色々と理由がありまして、今まで別々に行動してました」
「そうだよな、髪の色も目の色もこの辺りでは珍しくて、坊ちゃんと嬢ちゃん以外に同じ色の人なんてそう見当たらないからな」
呼吸が落ち着いたのか、ユウカの瞳は不思議そうに真っ直ぐじっくりとユキの顔を見つめている。
「あれ、ユーキ。なんか可愛くなった?」
「そんなユウカねぇもだいぶスマートになったね?」
「お互いの変化に対してとやかく言うのはもうやめましょうか、神様の使徒として実に不毛な事です」
(まあ、お互いに色々とあったのだろう)
ユウカは再会モードを解除して、さっきとは違った瞳でユキの顔を見つめている。彼も応えるように彼女の瞳を見つめ返す。
「ユーキ、今、私が考えてる事、当ててみて」
「多分だけど、僕が考えている事と一緒だと思うんだけどな」
「それじゃあ、一緒にせーので言っちゃおうか」
『せーの』
『デュエル』
「この世界に来てからずっとユーキはどれだけ強くなっているのかなーって、考えながら過ごしてたんだもん」
「ここ数日僕がどれだけユウカねぇのこと心配していたか。それがこんなに元気に走り回って、僕の心配を返してよ」
ジンが、今日はなんで二度も惚気ながらの喧嘩に付き合わなくちゃならんのだ、とグチグチと言っているが、当の二人はお構いなく、この数日で溜まった愛情を相手にぶつけていた。
ーーーサンハリー領、ユキの拠点
「なに、決闘だ? さっきまでの口喧嘩は一体何だったんだよ」
ひとしきり言いたいことも出し尽くしたのか、ユキとユウカは仲睦まじく手を繋ぎながらルンルンと街を飛び出した。ジンは、興味本位で二人を追いかけここまで来ている。
「それが、僕達姉弟の流儀なんですよ」
「そうそう、肉体言語ってやつなんです」
二人の様子にジンは大きなため息を吐く。
「わかった、俺が立ち合ってやる。お前達の決闘のルールを俺は知らんが、絶対に殺すなよ、洒落にならん」
「今から、僕とユウカねぇがある程度離れた位置に動きますので、いい感じになったら開始の合図だけいただければ、後はボーッと眺めるだけで大丈夫ですよ」
「よろしくお願いします。おじさん」
ユキとユウカは互いに大股10歩程の感覚をとり、お互いの瞳で相手の瞳を捉えながら対面した。
「それじゃあ、今からこの硬貨を上に弾く、その硬貨が地面に触れたら決闘開始だ。いいな、何度も言うが絶対殺しだけはやるなよ」
2人は集中しきっているのか、ジンの言葉への返事は頷く程度のアクションしか返ってこなかった。もう仕方ないな、とジンは上空に硬貨を打ち上げ、大事を取って戦闘範囲から離脱する。
「エアハンマー」
硬貨が地面に落ちるまで待てなかったユウカが、風魔法で硬貨を地面に叩き落とす。その衝撃に土埃が舞い、辺りを覆っていく。
「ちょっとズルくない、ユウカねぇ」
ユウカは人ならざる速度でユキとの間合いを詰めユキの顎に拳を放つ。その攻撃をユキは避けるではなく、右掌で受け止めた。
「まあ、これで終わっちゃ面白くないもんね」
(ユウカねぇの外属性は風なのか、セオリーでいくと内属性土で、僕の属性と対照的になってる)
ユウカは、これくらいの距離なら一瞬で間合いを詰められるぞ、と言いたげにユキからの距離をオーバーに取る。
「サンドストーム、サンドスワンプ」
ユキは自分を中心にドーム状の砂塵を起こし、周囲の視認を妨げる。それに加えて、砂塵が舞う範囲の足元を沼化する事によってユウカの足を地中に捉え機動力を削ろうと罠を張る。
(この距離なら僕の詠唱は聞かれていない。移動速度はどう考えてもユウカねぇに敵わないから、ここに腰を据えて勝負といくか)
「隠れたって、無駄なんだからね」
ユウカは砂塵に臆する事なく、真っ直ぐユキに飛び込んでくる。視認阻害はまるで効いていないようだ。
(内属性は土か、想定通りだね)
沼に踏み入れたユウカの足は軟弱な足場を瞬時に踏み固める。土魔素の特性として接触した物を凝結させる力があり、その光景を見る限り、ユウカの体内に流れる魔素に土魔素が多い事は想像つく。
「今度は本気で行くんだから」
ユウカはさきはど拳を使って攻撃をしたが、ユキはそれを容易く受け止められた。それもそのはず、人を超えた速度で移動する彼女の魔素は移動強化のため足に集中している事だろう。拳での攻撃は様子見程度の意味しかなく、彼女のメインウェポンが足であり、蹴り主体の格闘術で攻めてくることは想像がつく。
「エアソード」
ユキはユウカの足技の間合いを警戒して、風の剣を用いることで自分の間合いを伸ばして対応する、、、フリをした。
「っつ、なんで」
ユウカは蹴りを繰り出せなかった。ユキが発生させた砂塵がまるで生きているかのように、彼女の足に絡みついて離さない。
「ユウカねぇの足は沼もしっかりとした足場に変えるんだ、となるとこの砂塵はどうなると思う」
ユキが仕掛けたのは正解がない2択、距離を詰めるためには沼の足場を土魔素で固めないといけないが、土魔素を帯びた蹴りは砂塵に阻まれ、決して彼に届くことはない。
「足の魔力を抜けば、軸足が沼に呑まれる。だけど魔力がある状態では僕にその蹴りは届かないし、そこまでの脅威ではない」
「流石だなー、ここまで自由な世界だとユーキのゲーム脳には流石の私も敵わないか」
「蹴りの強みは足の稼働範囲と長さから勢をつけて打ち込める所。技の出だしを抑えられれば少しの拘束力で止まってくれる」
「肉体の動きに合わせて魔法を絡めてこないでくれるかな、私の考えの甘さに泣きたくなるんだけど。でも、これならどう」
次の瞬間、ユウカは足から魔力を抜いた。しかし、その足は沼に呑まれることはなく、その場で砂塵の遥か上空へと跳躍した。
「スキル『天翔け』、効果は接触した足場の安定化と跳躍能力の向上で、短時間なら水面も足場に出来る私の切り札だよ」
ユウカは砂塵のドームの上空から、まるでユキの位置がわかっているかのように勢いをつけて踵を振り下ろす。
「蹴りに勢がついたと言っても、この感触はまだ慣れないかな」
ユキは砂塵のドームの上部で、砂塵がユウカの蹴りに抵抗しているのを感じ取り身構える。
「押し込めぇえええええ」
ユウカの踵は砂塵のドームを切り裂き、その攻撃は直下のユキの頭上に届、、、。
「硬い? えっ、何もないはず」
その時ユウカは気づいた。砂塵が彼女の視界の一角、踵が触れている部分には全くない事を。
「エアシールド」
ユキは魔力を抜いて大気と同化した風の盾に再び魔力を注ぎ込みその姿を解放させる。押し返す風に勢いのなくなったユウカの攻撃は耐えきれず、沼の範囲を飛び越え後方へと押し戻された。
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