2-1【スキルシート】
ーーー夢の中
「ユキ様、昨日ぶりでございます」
「本当に毎日夢の中に入ってくるんですね」
「はい、ユキ様の神としての義務ですから」
(聞きたい事がある時だけで、僕的には大丈夫なんですけどね。この空間はなんか、その、無駄に疲れるというか)
「そうですか、ならユキ様のスキル鑑定は必要ないという認識でで大丈夫ですかね」
(スキル鑑定だって。この世界ではステータスやスキルを確認する事は出来そうに、、、神様なら)
「お察しの通りです。ステータス、身体能力は数値化が難しく、神の間で基準として共有されてないので残念ながら出来かねますが、スキルに関してはその言葉に認識のふれ幅は存在しません。神の眼でしか確認できませんが、私にはそれが可能です」
私は神の権限を行使し、ユキ様のスキルシートを創造し、それを片手に彼にいじわるな視線を向けます。
「確認が必要ないようでしたら、私の方だけで楽しませていただきますよ、ユキ様のス、キ、ル」
「いやいや、ちょっと待ってください。それなら全然、毎日、お話につき合いますから、見せてくださいよ」
ユキ様は私の手からスキルシートを強奪します。あぁ、小さな身体でぴょんぴょんと、実にいじらしいですわ。
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前回確認時
・教導ex
・神の寵愛
(魔力の素養g、武芸の心得g)
↓
現在
・教導ex
・神の寵愛
(魔力の素養e、武芸の心得g)
・調薬g
・魔法道具作成g
・交渉術f
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(これまでの生活で追加されたスキルは、調薬、魔法道具作成、交渉術、どれもこれまでの経験から考えられるスキルとなる)
「あら、あらあら、まあまあ」
ユキ様がスキルシートのスキル欄を注視する傍ら、私は別欄の変化に目を輝かせます。
「性別が『女性』になっておいでですよ、ユキ様」
「勝手に僕の性別を変えたの」
「いえいえ、先日までは確かに男性でしたよ」
(それは、まあ、ついてるものはついてたし)
「ユキ様、つかぬことをお伺いしますが、これまでに自身の事を女性と偽った経験はございますか」
(えっ、それって)
私の指摘にユキ様は心当たりがあるような表情を浮かべます。
「あー、これは隠蔽スキルを所持されてますね」
「隠蔽スキルって、スキルシートには、、、」
「ユキ様、隠蔽スキルですよ。それがスキルシートに出てきては本末転倒だとは思いませんか」
(スキルシート見直すと、スキル欄の一番下に他のレイアウトから考えた場合に謎に改行された形跡があるな)
「それにしても、隠蔽スキルですか。神様や認識、識別スキルを騙せるスキルですね。これは私に対する反抗心の現れですかね」
(特定のスキルの対策スキルか。回りくどいスキルだな)
「確かに使い勝手が良いスキルとは言えませんが、そもそもユキ様が嘘をついたのが元凶です、甘んじて受けてくださいね」
私が指を弾くとスキルシートは霧散した。
「それと、ユウカ様の件ですが」
(そういえば昨日の夢の際に頼んでいたか)
「彼女は元気にしてますよ。それはもう、元気すぎて担当の神様も困り果てているとお聞きしました」
「そうですか、それは安心しました」
「冒険者として、ここより西の国を順に走破している模様です。笑顔で走り続けるその姿は、西の国近辺の吟遊詩人における今のトレンドと聞いております」
(笑顔で走り続ける、か。それは、本当に良かった)
「ユウカ様の方からもユキ様の現在地が知りたいと担当の神様にお願いされていたようで、勝手ながら位置情報をお教えしました。早いうちに再会できるかもしれませんね」
「わかりました。連絡をとっていただきありがとうございます」
後の時間は、雑談交えながらも今後の方針に対して頭の中で整理されているユキ様に、必要なタイミングで助言を与え、気づいた時には制限時間が来てしまいました。
ーーーサンハリー領、街はずれの民家
「先日は、本当にありがとうございます」
「俺からも礼を言わせてもらう。本当にありがとうな、坊ちゃん」
ユキは昨日のジンとの夕食の際に、リーナとジンは同じ商人としていくらか面識があると教えてもらった。
「おぅ、大先生。こんな朝早くにすまねぇな」
リーナの夫となるレッグさんが朝一の畑仕事を終え、ユキ達の囲むテーブルに遅れながらも加わる。
「それでは、全員揃ったということで、今回の病に対して何が原因だったのか僕の方からお話致します」
「お願いいたします」
ユキはリーナに促され、重い口を開く。これからのことも考えると知っておいてもらわないとならない事は確かな事だ。
「結論から言いますと、リーナさんは生まれつき土を扱うのが得意ではない体質だという事です」
ユキは極力わかりやすく、リーナは畑仕事後に手や足が荒れやすい事。それも治すために塗っていたネリイモの軟膏が土魔素が主体となる塗り薬ということもあり、症状を悪化させていた事。それらについての説明を行った。
「なるほどな、農家の基準でリーナにやっていた対処法が元商人のリーナの身体には合わなかったのか」
「先日お渡しした塗り薬はこの辺りで採取できる薬草を原材料にしております、作り方はこちらの一枚紙にまとめさせていただきました。そんなに難しくはないですよ」
「私も元々は商いをしておりました。簡単な薬は自分で作ってましたし、手先も器用な方なんですよ。心配しないでください」
リーナは少し戯けたようにそう返す。その姿を見て身体の具合も良さそうだとユキは安堵する。
「これじゃあ、リーナには畑仕事を手伝ってもらうのは流石に辞めたもらったほうがいいな」
「それがいいと僕も思います」
「ギルドの方で働き手を募集して、人が見つかるまでは俺が頑張ればいいだけだから、どーにかはなるか」
「あなた、今の状態なら少し余裕のある生活ができていますが、人を1人雇うとなると。私のためにそこまでしていただかなくても」
「いや、それはいかん、俺が頑張れば済む話だ」
「頑張る、頑張らないと、出来る、出来ないは違います。私があなたの妻である以上、出来ない頑張りをさせる事は叶いません」
暖かくはあるが確かに静かな空気が場を包む。
「あーの、少しいいか?」
それを断ち切るようにジンは声を上げた。
「リーナ、先生の話は聞いただろ。野菜作りは農家の仕事なんだ、お前が身体壊して野菜を作ってもお前も、レグも、客も喜ばねぇ」
「生きていく事が大前提です、それが叶わないのならば、私の身体のひとつ顧みません。その覚悟があって私は彼とひとつになったのですから」
こういう時の女性は強い、というか、融通が効かない事をユキは身に染みて感じてきた。
「あー、それは違うんだよ。俺が言いたかったのは農家は野菜を売って金を稼ぐだろ。お前さんは自分も農家のつもりなのかもしれんが、先の件もあって現状そうとは言い切れないだろ。なら、商人はどうやって金を稼ぐんだ?」
「そんなの、仕入れた商品を上手く売る、、、」
「お前さんの商人としての手腕を知っている俺としては、普通に考えてお前さんが野菜作るより、野菜を売る方が稼げると思ってるんだがな、流石に贔屓がすぎるか」
そして、ジンはユキに、悪い少し巻き込む、と耳打ちした。
「こっちの坊ちゃんは、腕自体はお前らの見たとおりなんだが、なんの理由があるのか知らんが、街外れの木の下で夜営をしている」
(それは、いきなり異世界に投げ出されたものですから、宿に泊まる金もなくて仕方ないと言いますか)
「リーナ、坊ちゃんと取り引きしな。坊ちゃんから色々聞いて、野菜以外の商品を作るのもよし。坊ちゃんの商品を売って手間賃を取るのもよし。悪い話じゃないだろ」
(なんか巻き込むっていうよりは、引きずり込むって感じな気がする。僕が台風の中心みたいになってないですか)
「ったく、俺が最初に唾つけておいたんだが。事情が事情じゃ仕方ねぇ、商売が軌道に乗るまでお前に貸してやるよ、リーナ」
「ジンさん、唾をつけるなんて、そんな風に思ってたんですか」
「坊ちゃんもいいじゃねぇか、親父につけられた唾より、美女につけられた唾の方がお前さんも嬉しいだろう」
ユキは気づいている。ジンの話が進むにつれて、リーナから次第に熱い視線が向けられていることを。獲物を前にした獣というか、金を前にして商人というか。
「ユキ様、この後ですが、少々時間をいただいても構いませんか」
「はっ、は、は、は」
(ジンさん、流石にそれは無いですよ)
「昨日は見事に化かされたからな、諦めろ」
ユキは商人という生業に少しの恐怖を覚えた。
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