1-1【教導】
「異世界での初夢は如何ですか」
「、、、」
「なんだか、またどことなく不満そうですね」
「異世界自体は楽しんでますよ」
(昨日聞いた話によると、神様とは1日に10分しか会話出来ないらしい。神様には言いたい事が色々とあるのだが、時間も限られている事だし、不満を呑み込んで話を進めることとする)
「それにしても、私ながら実に愛らしい中にもメリハリのしっかりとついたバランスの良いキャラクリ。良い仕事でした」
「神様、真面目に意思疎通する気はありますか」
私の神の手によって性転換一歩手前の美少年に改造されたユキ様は、薄暗い笑みを浮かべながら私を睨みつける。その姿は実に愛らしく、世は満足であるぞ。
「それでは定期面談を行いますか。ユキ様がこちらの世界に転移されてから1日が経過しました。お身体の具合はいかがですか」
「転移直後のプレイヤーを、布の服、武器無し、所持金無し、の状態で街中に放置するなんて、この世界の神様は転移者のに対して数十ゴールドすらお恵みにならないのですか。普通に餓死しますよ」
「お食事に関しましては、お手持ちの教典を参考にしていただければ、無毒のキノコや山菜に関する知識は一通り手に入るかと。むしろ、転移直後はやれることがある程度縛られていた方が今後の見通しを立てつつ冷静に物事を見ることができるものですよ。そうですね、チュートリアル期間と言うことです」
(住環境に関しては野原に雑魚寝の現状だが、神様の推測とおり、食事に関しては『ドリアードの教典』より多様な植物の特性を学習し、危険なく行うことができた。しかし、、、)
「異世界に来てすぐでも、教典のおかげである程度の知識は手に入ったよ。それにしても、少し教典の数が多くないかな」
「それは、教典が108種族分ありますからね」
「煩悩の数かですか。流石はこの世の全て、ぶ厚いですね」
「ユキ様のおられた世界における、国の数よりは少ないかとお思いします。何よりもこの世の全ての教典ですし」
(今日手に取った全ての教典において、文字が日本語に統一されていたため、語学に関する知識を新たに習得する必要が無かったのは不幸中の幸いと言ったところだった)
「これは、貰うスキル間違えたかなー」
「手持ちの道具が無い状態で、火魔法でキノコを焼いて食べて、水魔法で身体と服を洗い、風魔法でそれらを乾かして、土魔法で小規模な拠点を作成し、安心して眠っていられる。魔法がある生活は、それだけでプライスレスな物ですよ」
「それは教導スキルと関係ないでしょ。神様から貰った基本的な恩恵の中に魔法適正の向上とかあるんじゃないかな、教典を読むだけで魔法が使えるようになる世界観でもないみたいだし」
「そうですね、関係ないと言われてしまえば反論はできませんが。しっかりとしたイメージは魔法の精度に影響しますよ。教典というものは、学問によって裏付けされたイメージである事は確かです」
「わかりました、もう少し長い目で見ることとします」
雑談半分の話がひと段落したところで、ユキ様の雰囲気が変わったのか真面目な空気が辺りに満ちる。
「それじゃあ神様、これからの事なんだけどさ」
「どういたしましたか」
「神様は僕に何をしてもらいたいのさ」
(とりあえずと人族の教典には一通り目は通したのだが、この世界には魔物もいなければ、モンスターもいない。ファンタジー風の世界観にしては冒険の理由が見つからなかった)
「魔物を倒せー、とか。モンスターを倒せー、と。目的としてわかりやすい敵は確かに存在しませんね」
「こういう世界観ではよくある、ステータスオープン、とか。色々試してはみたけど一向に確認出来ないし。自分の能力を確認出来ないと、強くなるという目的に対しても否定的だよね」
(チートスキル? に関しては、実際に教典なるものが脳内で確認出来ている以上、神様に付与して貰ったスキルはしっかりと存在するようだけど)
「それは、なかなかに難しい問題ですね、、、」
「そこが難しい問題なんて、、、」
困りました。ユキ様を導く者として何かしらの託宣を授けない事には私自身の成績にも悪影響が出そうです。
「そうです。折角教導スキルを持っているのですから、目指すはやはり天使の教典ですね、それしかありません」
「天使の教典ですか、あの全面黒塗りされた証拠文書みたいな教典を解読するとなると流石に骨が折れそうです」
天使以外の眼にあの教典はそのように映っているんですね。
「天使の教典を完全に読み解くには、この世界の知識の全てを理解する必要があります。神様候補である私達は、それらの知識が脳に馴染んでいる状態で産まれます。そのため条件が無く全文を理解しているのですが、ユキ様の場合ですと自分の知識に裏付けされた文字のみ開示される仕組みとなっているのでしょう」
「他の教典を読み解き知識を蓄えない事には、その文字すら現れない。なかなかハードな要求ですね」
「教典の読解は入り口です。あくまで教典は学のためのもの、その内容は前提条件のようなものです。そこから、知識を深掘りする事で天使の教典の一部に該当するようになります」
ユキ様の目から生気が抜けてます、諦めないでください。
「天使の教典はその一部が読めるようになるだけでも大変名誉な事ですよ。読破を目標にするのではなく、この世界への理解度を示す一つのパラメータとして定期的に目を通す事を推奨いたします」
「一朝一夕で身につく知識でもないし、ゆっくり進めていくよ。それと、神様に一つお願いしたいことがあるんだけど」
「ユウカ様、ユキ様のお姉様のお話ですか」
「あれ、前回その話してたかな」
ユウカ様に関しては本来私が知り得ない情報であるため、ユキ様は不思議そうな表情を私に向ける。
「私とユキ様の間には神様と使徒の繋がりがありますので、言葉だけでなくその思考までもが上位である私の方へ流れ込んで来るのです。そのおかげで、睡眠中のユキ様とこのような形で連絡を取ることができる仕組みとなっております」
「僕から神様には誤魔化しや、嘘は通用しないのか」
「そうなりますけど、通用しないといっても誤魔化しや、嘘は大切ですよ。それがわかる私の立場として何故誤魔化したのか、何故嘘を吐いたのかと。本来の言葉が持つ以上の情報を含んでおります」
(ネタをばらした上で魂胆を伝えるなんて、まるで上手く使ってくれといった感じなのか)
「それで、ユウカねぇは元気にしていますか」
「すみません、そちらに関してはお答えできかねます。ユウカ様の神様も私の同胞であるのは確かです。彼女と連絡を取る手段はあるので、詳しいことは明日報告させていただきます」
ユキ様は用意している質問を一通り聞き終えたためか、肩の力抜いてぐたっとしている。そもそもが夢の中だ、気を張りすぎると必要以上に疲れてしまう。
(108の種族がいる世界に、チートスキル? を持つ人族が1万人も転移している現状、この世界のバランスはこれからどうなっていくのだろうか)
「そうですね、なるようにしかなりません。ただ、私達神様は決して争いを望んではいません。これも必要なことなのです。ですから、先頭に特化した筋骨隆々な身体ではなく、人々の癒しになれるようユキ様の今の姿はあるのですよ」
「無茶苦茶な理論ですね。まあ、駄々をこねたところでどうせ姿は変えられるないのだろうし、今は騙されておきます」
「そうですね、騙されちゃってください。私のユキ様に対する育成方針は長所を伸ばす、ですので。悪いようにはしません」
そう私が言い終えると、周囲の空間に多少の歪みが現れた。そろそろ楽しい時間も終わりのようだ。
「そろそろ時間のようですね。私からユキ様にお願いしたいことは現状ありません。ただ、少々曖昧でございますが、私という神の使徒として恥のない行動を心がけつつ、できる範囲で世界に対して良い影響を与えるよう行動していただければ幸いです」
「今日は、流石に一文無しの現状をいち早く打開したくはあるし、魔法でも使って商品を作って街に降りるよ」
「そうですか。それもまた有意義な時間でしょう」
最後に見たユキ様は、先日と同じで優しい笑みを浮かべていた。次の瞬間2人の空間を眩い光が包んだ。
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