4-1【四人目】
ーーー夢の中
「ユキ様、昨夜、いや今夜はお疲れ様でした」
「あぁ、もう朝なのか」
ユキ様はどことなく眠そうな視線を向ける。
「ユキ様が急ぎ起きる必要があったので、夢の中からも覚醒を促していたのですが、なかなか反応してもらえず本日の面会時間は5分間しかありません」
「それは、、、急ぎスキルシートをお願いします」
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前回確認時
・教導ex
・神の寵愛
(魔力の素養e、武芸の心得f)
・弓術g
・調薬f
・魔道具作成f
・交渉術f
・看破g
・(隠蔽g)
↓
現在
・教導ex
・神の寵愛
(魔力の素養e、武芸の心得e)
・弓術f
・軌道操作g
・調薬e
・魔道具作成e
・交渉術f
・看破f
・(隠蔽f)
・潜伏g
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「ユキ様、やりましたね。軌道操作スキルと潜伏スキルを新たに習得したようです」
「今のところは順調と言った感じですかね」
「はい。これで丸々三日のハンデがあるとは思えませんよユキ様。寝込んでいた三日を除いて、本当に無駄なくこの一週間を過ごせておいでです」
(そうか、この世界にきてもう一週間か)
ユキ様はこれまで自分が歩んだ道のりを振り返りながら長いようで短かったその時に想いを馳せる。
「ユキ様、そろそろ時間のようです」
「あぁ、今日は5分しか話せないんだっけ」
「そうですよ。ユキ様はどうも寝起きが悪いのが唯一の弱点のようです、いつか寝首を掻かれても知りませんよ。ここはそういう可能性の無い世界ではありませんので、お気おつけを」
ーーーサンハリー領、サンハリー邸
「なに、土人形ですと」
「はい、昨夜この近辺を周回しておりました」
「そやつが、この街の地場を狂わせていたと」
ユキ達は、昨夜の戦いの詳細を領主に伝えに、サンハリー邸まで来ていた。
「土人形がいるなら、それを扱う術師もいる」
ルナはいつもの口調でそう進言する。伯爵は街での治療活動と地場の安定に関して彼女が尽力していたことを知るため、その程度のことで気を荒立てることはなかった。
「それならば、私からもサトウ殿達にお伝えしなければならないことがあります」
伯爵はユキ達に代々サンハリー家で管理している家宝である『開拓の鍬』と呼ばれる農具が、ここ数日の間に何者かによって盗まれたことを明かす。
「くれぐれもこのことは他言無用で頼む」
「その件と今回の件に関係性があると。サンハリー伯爵はそうお考えなのですか」
「開拓の鍬は土の魔力に関する魔法道具だと代々受け継がれてきた。この土地で作物がよく育つのも、全てはその魔力によるものだと」
「なるほど、話はわかりました。開拓の鍬が第三者に盗まれ、その者が鍬の力を使い、この街を強力な土魔法で支配していたとお考えなのですね」
「開拓の鍬は、先の戦でその魔力を使い果たしており、私自身その力を確認したことはないが。そう考えておいた方がいいだろう」
(伝説の魔法道具が敵の手に渡っているのならば、それを奪還する難易度も跳ね上がる。未熟な実力で関わる事件ではないということか)
本件に対応する人員は、敵の土人形と互角以上に戦える者が最低条件として、敵の土魔法に対して絶対的な強さを誇るルナの協力が必須となる。
「正直に言うと、この街は平和がすぎる。戦闘魔法に関しては使える者はおらず、土人形が相手になると、武力となれど多勢に無勢だろう」
伯爵は近くで付き従う兵士に合図を出すと、ぞろぞろと同じ鎧に身を包む兵士達が応接室へと入ってきた。それら兵士の手には様々な武具や防具が抱えられていた。
「私からの依頼は敵情の視察、もちろんのこと無力化できるならそれに越したことはない。この武具、防具は好きに使っていただいて構わない」
「こういうことを聞くのもなんですが、報酬は」
「サトウ殿には娘の件から、治療院の件とまだ礼ができておらぬ。本件の成果が関係するため、すぐに提示はできないが、期待いただいて構わない」
ユキとしてはこの件を受けるつもりでいるが、ユウカはなんとなくわかっているとはいえ、ルナへの確認は必要だろう。
「ルナ、手伝ってくれるか」
「うーん、やだ」
(それは、全力で困るのだが)
ユキは幾らかの情報から、敵の本陣は昨日ユウカが調査に行った洞窟だと考えている。土魔法を使う事で洞窟内部の偽装を行えば、ユウカの目を欺くことも可能だろうし、何よりも昨日の土人形はユウカの事を知っている素振りをしていた。
「敵、洞窟の中。私、魔法しかできない」
自己申告によるとルナの武芸はgランクだ。洞窟の中という動線が限られた場所での戦闘は、必然としてルナにとって不利に働くだろう。
「洞窟の外から、敵の地場への干渉を妨害するだけでも大丈夫だから」
「ユキ、忘れてる。私の力、ユキが見てないと使えない。外でユキと二人ならいい」
「敵情の視察だけだし、私一人で行ってこようか」
ユウカはそう言うが、昨夜のサポート寄りの戦い方が、ユキに多大なフラストレーションを与えていることもあり彼は決断出来ずにいた。
(ルナの魔法の発動条件に関して解決方法がないかはまた考えるとして、最低限ユウカねぇ一人で視察はできるから依頼は受けられるか)
「サンハリー伯爵。その依頼、私達が受けさせていただきます」
「それはよかった。期待しておるぞ」
話もひと段落つき、伯爵が応接室を出た段階でユキ達は支給された武具、防具を物色する。
「武具はスキルが関係してくるから、下手に選べないのはこの場では勿体無いな」
この世界では入手の難しい鉄製の各種武器が並んではいるが、ユキは心を鬼にしてこれらを拒む。
「私も、流石に格闘術で使える、しかも足の武器なんてないなー」
(昨夜の戦闘を見る限り、ユウカねぇの場合は下手に武器を装備してもすぐに花火に変わりそうだ)
「重い武器は持てないからこれかな」
ルナは鉄製のナイフを手に取る。武芸のランク上げのためにも、武器を一つ持つことに意味があるルナにとってはユキのような葛藤は無いのだろう。
「防具は、流石に軽めの鎧でも多少の動きずらさはあるね。となると鎖帷子、、、いや、これめっちゃ擦れそうだし嫌だな。可愛くないし」
「ローブとかないの。どれもこれも魔法使いっぽくないし、こっちは無しかな」
少しの間、ユキ達は防具を見渡したが、最終的に選んだのは今着ている服と大して変わらないスペアといえる防具だった。
「えっ、これだけでよろしいのですか」
「いやー、防具が重い方が問題になりますし」
「いやいや、防具は命に関わりますよ」
「今回の任務はあくまで視察ですから、動きやすさを重視しただけのことですよ」
応接室に残された兵士の驚く視線を受けながらユキ達は部屋を後にする。
「あー、やっと出てきた」
その時だった。応接室を出たそこには、まるでユキ達が出てくるのを待っていたと思える黒髪の少女がそう口にした。
「誰かの知り合い」
「僕じゃないかな」
「私も知らない」
「ユキ、ユキはこの中にいるのね」
(僕ですか)
白黒が反転した修道服を身につけている彼女の事をユキは知らずとも、その姿をしている人物には一人心当たりがあった。
「まさか、王都の黒髪の聖女」
「なんだ、知ってるのね。不本意ながらそうよ」
数日前、アンジェを治療する前に目に入った新聞記事。その時の人がユキの目の前にいた。
「私のことを知ってるなら、話が早いわ」
「僕がユキです、ご用件はなんでしょうか」
「単刀直入に言うわ、、、」
どことなく勝気な聖女はユキに告げる。
「ユキ、私に変わって黒髪の聖女をやりなさい」
「えっと、僕、男なんですけど」
そのユキの言葉に、なんとも言えない空気が二人の間に流れる。
「アンジェ、アンジェ。ユキって女の人に病気を治してもらったって言ってたわよね」
「はわわわ。ユキさん男の人だったのですか」
聖女の影から綺麗な銀髪の幼子が飛び出す。彼女の名はアンジェリーナ・サンハリー。数日前にユキが治療を行った、サンハリー伯爵の愛娘だ。
「えとえと。あれは、その、感謝の気持ちといいますか。その、男の人だなんて知らなくて。だから、私としても、忘れてほしいと、、、ふしゅぅー」
ユキは知らない事だが、アンジェの治療の後に倒れたユキは一日だけサンハリー邸にて大事をとっていた。その際、アンジェはユキへの感謝から付き切りで看病を行い、その、色々と、、、
「アンジェ。大丈夫、湯気出てるわよ」
「あぅあぅあぅ」
「ユーキ、お嬢様に何かしたの」
「ユキ、流石に幼女はだめ」
この場にいる女性の視線の全てが、ユキに向かって鋭く刺さる。
「いや、何もやってないって。覚えてないって」
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