3-4【姉無双】
ーーー夢の中
「ユキ様、ユキ様、お起きください」
「っ、神様、、、」
ーーーサンハリー領、レッグの納屋
「ユキ、早く起きる」
時刻は深夜、ユキはルナに叩き起こされ目を覚ます。同じ納屋で暮らしているユウカは既に起きており外行きの身支度を済ませている。
「どうしたんですか、こんな夜中に」
「敵が近くまで来てる、ウシシが制圧した範囲が直接取り戻されてる」
相手が夜の時間しか動けないのならば、こちらが昼の時間にまた取り返せばいいとは思うが、そもそもの動機がそこにあるとは思えない。
「敵はどのあたりにいるかわかるのか」
「昼の洞窟がある方向でウシシの制圧範囲の境界線のあたりを取り戻されてる」
「うん、その場所の制圧にあまり意味は感じない。そうなると、あえて感知させて誘き出そうとしていると考えるのが妥当だとは思う」
「無視はできない、寝るのに気が散る」
ルナの様子から、魔素を制圧することの戦略的意味と当人の精神的安息は天秤の上にあることをユキは知る。
「ユウカねぇ、地図をお願い」
「おいっす、任せてね」
ユウカは夜に叩き起こされたとは思えないほどに上機嫌だ。昼に投影した地図に加えて、ウシシの制圧範囲も記憶していたのか、追加で記入してある。
「今、敵がいるのはこの辺り」
「そこの近辺は敵の制圧圏内だろうから、戦うなら流石に場所をずらしたい」
「わかった、場所にもよるけど私が誘き出す」
ルナが敵の干渉に気づいたように、敵も同様にルナの干渉を察知することができることだろう。
「作戦はルナの制圧範囲に敵を誘き出して、三人で叩く。これくらいシンプルな方が連携が楽だろう」
『わかった』
「その上で、どこに誘き出すかだが。ユウカねぇ、この辺りで出来るだけ遮蔽物の多い場所とか知らない。森とかなら尚更いいんだけど」
「それなら、この辺りだけど。ルナルナはこれくらいの距離だったらどうにかなりそう」
「大丈夫。あと、その呼び方は流石に辞めて」
敵を向かい撃つ三人は、その後の手筈に関して詳しく調整を行い、街はずれの森に急いだ。
ーーーサンハリー領、街はずれ森
「まさか、嬢ちゃんかい。人の国を勝手に乗っ取ろうっていう不届き者は」
「言ってる意味がわからない」
ルナはユキ達との打ち合わせ通り、街はずれの森でウシシを召喚の後に、敵制圧地への干渉を仕掛けて対象者となる大男を誘き出すことに成功した。
「にしても、こんな嬢ちゃん、、、」
「動かない方がいい」
ルナの合図に合わせてユキは不可視の矢を放つ、その矢には風糸が結われており、矢の軌道を風魔法で制御しながら大男の右腕に糸を巻きつけユウカが待機する木上に撃ち込む。
「縛り上げろ、ファントムバインド」
杖を取り出したルナは仰々しく魔法を詠唱する。
「くっ、腕が」
今度はユウカがルナの合図に合わせて、引き抜いた矢を木の幹に引っ掛けながら飛び降りる。必然と大男は右腕を宙に吊られる形で拘束される。
「これは私の魔法の糸。貴方には見えないだろうし、簡単にはちぎれない」
「さっき、そっちの方で物音がしたぜ、協力者がいるんだろ。ったく、無駄な事しやがる」
大男は拘束していない方の手でユウカのいる方向を指差す。風魔法を使用して着地時の衝撃や音を緩和したのだが、彼は何かを感じとったのだろう。
「それに、この糸だって見えてるぜ。空気とうまいように同化しているが、風の魔素が少し残ってるよな。だから俺の目にもしっかり写ってるぜ」
(看破に近いスキルを持っているのか、それならユウカねぇの着地時の魔法の使用も察知可能。これはもしかして只者じゃないのかもしれない)
「だからどうしたの、貴方はこの拘束から逃れられない。そこが変わらないなら何を知ったところで関係ないじゃな、、、」
その瞬間、大男は自分の右腕をなんらかの力で切り落とし、ルナに向かって距離を詰める。切り落とされた右腕が次第に風化していく姿から、ルナはひとつの答えを導き出す。
「土魔法の義手と言った感じですか」
「嬢ちゃんも嬢ちゃんで、面倒なくらい糸を張り巡らせてんな。実は臆病なのかい」
大男はユキがあらかじめ仕掛けていた風糸を的確に避け、進み続ける。しかし、、、
「目に見える物だけが全てじゃなくてよ」
(エアカッター)
ユキはスキル『隠蔽』で隠しておいた風糸に大男が触れた瞬間、その糸を伝って風魔法を放ち大男の片足を切断することに成功した。
「あらあら、こちらも義足ですの。さながら土人形ですわね」
ユキは片足を失い倒れ込んだ大男の後ろ首直上に矢を放ち、少しでも体勢を起こせば首が風糸に触れる状況を作り出した。
「流石に見えないでしょうからお教えしますが。貴方の後ろ首、その直上に私の糸を仕掛けました。手足は土人形であったとしても、流石に首を落とせば貴方も死ぬのではなくて」
「ハッタリ、では無さそうだな。首の後ろに嫌な魔素の流れを感じるぜ」
「そう。それじゃあ、なんで街に対して一般人の許容量を超えた土魔素をばら撒いたのか早く、、、」
大男の顔に月明かりが当たる。その一瞬の間にルナは彼の正体を知り即座に距離を取る。
「エアカッター」
(エアカッター)
ルナの合図に合わせてユキは風糸に魔法を通す。その風魔法で切り落とされた男の頭も、手足と同様に次第に風化していく。
「これは昼間は街に出てこれない訳ね、土人形が歩いてたら流石に街の住民に不審がられるわ」
「嬢ちゃん、あんた危険だわ」
今度は全身風化した大男、いや、土人形はルナの足元から再生し、もう隠す必要がなくなったと拳をドリル状にして彼女に殴り込む。
「っと、助太刀するよ」
「お前は、昼間の女」
ユウカは二人の戦闘に乱入し、土人形を全力で蹴り飛ばし、近くの木にぶつける。
「おお、これはいい蹴りだ。だとしてもその力はまさしく大地の力。これだけ強いとなるとかえって邪魔にもなるだろう」
土人形は先程と同じ箇所から再生し、あたりに砂塵を振り撒いた。これは、かつてユキがユウカの蹴りを完封した戦略と同等のものだ。
「私に対しての対策、ひとつのセオリーなのかな」
土人形に対策された上で、ユウカの足技は彼の身体をしっかりと捉えていた。
「ぐふっ、何故」
「弱点を弱点のまま放置しているはずないじゃん」
ユキは砂塵に遮られる中で、ユウカの足に注目する。その足は靴下を履くように土魔素により強化され、長靴を履くように風魔素で覆われていた。
「しかも、これ面白いんだよ」
「なっ、何を」
ユウカの蹴りを食らった土人形は、また同じ箇所から再生し。彼女はその人形を容易く上空へと打ち上げた。
「なんか、全力で撃ち込むと爆発するの」
「ちょっ、待って。まじ洒落になんないから」
ユウカの風の靴は、常に自身の身体強化のための土魔素と力が拮抗している。それらのエネルギーに彼女の蹴りによる第三の力が加わることで、拮抗し増幅した力がインパクトの瞬間に解放され、言葉通りの意味で爆発的な威力を産み出してしまう。
「っと、ちょっとまだ低かったかな」
「くぇっ」
無敵に思えた土人形も地面に接していない現状ではその再生効果を活かせない。ユウカは辺りの森への影響を加味してもう一段階蹴り上げる。
「こんなもんかな『天翔け』」
ユウカは木の頂点を足場にし、更に上空へ、落ちてくる土人形へ向かって跳躍する。
「一回、砕けとく」
「いやいやいや、なんか足光ってる。それ、本当にダメなやつだって」
ユウカの激しい動きに、風の靴の中では風魔素と土魔素が恐ろしい速度で擦れ合い、その蓄積されたエネルギーは今にも爆発しそうだった。
「メテオストライク」
ユウカのエネルギーを最大まで溜め込み放つ一撃は、土人形を一瞬で綺麗な花火へと変えていた。
「あねさん、本当に、何者」
「ははは、、、」
ルナは杖を握った状態であっても、テンション低めのオフモードで事を静観していた。
(一緒に異世界に転移した姉が強すぎて、僕たちの価値観を崩壊させていく件について)
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