3-3【親好】
ーーーサンハリー領、治療院
「ウシシさんありがとう」
多くの患者から土魔素を吸い取ることで、ルナが召喚したウシシは並の牛程度の大きさまでの成長を遂げていた。
「ウシシの特性は魔素のコントロール、コントロールできる量は他者からの譲渡によって多くなる」
(これまた都合のいい能力だな)
ルナは静かながら自慢げに自分の能力の解説を行う。ユキはというと、治療はウシシに任せる事ができたので、念のために治療院に残りながらも風糸の量産を行っている。
「ルナさんが来ていただいて本当に助かりました」
「お礼は大丈夫、私も合理的にウシシの食事ができる。うぃんうぃんな関係」
ウシシの治療は患者が召喚獣と触れ合うだけで、余剰分の土魔素を吸い取り風化させていく。
「私の召喚獣は、魔素のやりとりした生物との間に魔素の譲渡に関する契約が交わされる。これが私のEXスキル『親好』。この街の多くの人は知らないうちに私の力を高めてくれてるの」
「まさか、契約した人から無理やり魔素を抜き取ったりできるわけじゃないよね」
ユキは純粋な疑問を口にする。
「出来るか出来ないかと問われれば、出来る。ただ、契約者は契約元の召喚獣に魔素を譲渡しているのを把握できる。もし、その契約を破棄したいと思えば自然に破棄することができる」
「無理に魔素を集めると、契約自体を破棄されるリスクが高まるのか。それは乱用できないね」
それらの誓約がなければ、ルナの能力はこの世界を統べる力にもなりかねない。ユキは、実にこの世界のチートスキルらしい、と心の中で微笑んだ。
「それにしても、色々と話してくれるけど。僕のことそんなに信頼して大丈夫かな」
「んー。大丈夫か大丈夫じゃないかじゃなくて、これもひとつの誓約なんだ。私の能力を正しく把握している人の前でしか魔素の徴収はできなくてね」
「僕は監査官ってことですか」
「まあ、転移者なら私の能力を理解してもらいやすいし。ユウカって子より貴方の方が魔法に関してはしっかりしてそうだったから」
ルナが治療院に入ってきた段階で、ユウカの治療による断末魔が耳に入り、その様な決断をしたのは自明のことだった。
「それと、これが最後の誓約」
ルナはそう言うと、急に恥じらう仕草を見せる。
「私、もう、貴方に嘘がつけなくなったから」
「と、いいますと」
「貴方はさっき自分の事を監査官と言ったよね、監査官に私が嘘を吐くと、私と貴方の契約関係も破棄される事になるの」
「ただ喋るから聴いてたけど、これも契約なの」
「面倒なことに、そうなんですよ」
説明を終えたルナはその場を立ち上がり、ウシシの方へとかけていく。
「ユキ、ちゃんと見ててね」
(ちゃんとみててと言われましても)
「見てないと、土魔素黙らせられないから」
その瞬間、ウシシに四方八方から土魔素が集まっていき、それを体内に溜め込んでいるウシシは徐々に土色に輝き出す。
「ジオ・コントロール」
ウシシに蓄えられた規格外の土魔素が、薄く、地面を通して辺りに広がった。
「何をしたんだい」
「ウシシの契約者を中継地点に、この街全体の土魔素を掌握した。これで、この街全体の土魔素は私の指示なしでは干渉出来なくなる」
試しにユキは土魔法を使ってみるが、彼自身の周囲の魔素への干渉を何かに止められ不発に終わる。
「いやー、これは、戦いたくないな」
「うん、魔法使い相手には凄く有効」
そうとだけ言うと、ルナは土魔法で割り箸程度の棒を作り出し、治療院の床に突き立てる。棒を支える指から力を抜いたら、当然の如くそれは倒れた。
「こっちの方角に敵がいる」
「土魔素の汚染源を特定したの」
「違う、街にあふれていた土魔素が、ウシシの干渉を受けてこっちの方角に逃げてる。誰かが私みたいに大量の土魔素を操ってるのは確か」
ルナの話を聞いて、ユウカはひょこっと顔を覗かせながら話に飛び込んで来た。
「よし、ちょっと待ってね」
ユウカは倒れた棒の軸を指で抑え、目を閉じて精神を集中させた。すると、ユウカの指から土魔素が溢れ、次の瞬間には土魔素は形を変え、その場には確かに地形図が残っていた。
「この辺りの地図だよ、ユーキが眠ってる間に一通りのところは踏破してるからね」
(ユウカねぇのスキルは便利だな)
あくまで、ルナの魔素の操作は周囲の魔素に干渉できなくなるだけで、各々が体内に所持している魔素はその対象ではないのだろう。
「今、ウシシが土魔素を制圧している範囲はこれ。となると、この範囲外かつこの方角に何かある」
ルナはユウカの書いた地形図に風魔法でウシシの土魔素の制圧範囲を記し、彼女に意見を求めた。
「あー、ちょっとした洞窟があったかな」
「それは流石に怪しいな」
「そんなに大きな洞窟じゃないけどね」
「とりあえず、一回現地を見に行こうか」
「それは無理。今、私とユキは動けない」
「ユーキこの子と何かしてるの」
「ウシシの土魔素が、まだ土地に浸透していない。今この場を動いたら、また敵に取り返される」
ルナは、ウシシを活動させるために彼女が必要で、彼女が能力を使うためユキが必要と説明する。
「なんか、面倒な能力なんだね。わかった、洞窟の方には私が一人で行ってくるよ」
「ユウカねぇ、よろしく頼むよ」
ユウカは善は急げと、いつもの具合に治療院を飛び出し、全力で目的地へと向かった。
「ん、はやい。あねさん、何者」
「ははは、、、」
(流石は西の国の走る災害)
ユウカと入れ替わりになるように、今度はリーナが治療院に入って来た。
「ユウカちゃんが出ていかれましたけど、治療はひと段落ついたんですか」
「追加の人員が来てくれたので、思いの外すんなりと終わりましたよ。あっ、リーナさん風糸です」
「上手くいってる、もう問題はない」
ユキは会話の片手間に作っていた風糸をリーナに渡す。正直、ルナの活躍で折角用意した塗り薬や手袋を使う必要がなくなるかもしれないが、もしもの時の備えはあった方がいいだろう。
「あら、また黒髪の方が増えてますね、ユキさんと同郷の方ですか」
「そうですね、今日この街に偶然着いたみたいで、来てすぐで悪いけど、治療を手伝って貰いました」
「ルナ、よろしく」
「あらあら、もうお昼時だしご飯を持ってきたんだけど、ユウカちゃんいないみたいだし、ルナさんが食べちゃって」
そう言うとリーナはバスケットを取り出し、ユキとルナに差し出す。中には様々な具の挟まれたサンドウィッチが並んでいた。
「おぉ、まともな食事」
「リーナさん、いただきますね」
「こっち半分がユキさん、こっち半分がルナさん。どうぞ召し上がってください」
ユキとルナが料理に手をつけようとしたその時、治療院の前を一筋の風が吹き抜ける。
「ユーキ、洞窟、何もなかったよ。って、昼ご飯」
「あら、ユウカちゃんのご飯はルナさんにあげちゃったし、今からお家で作ろうかしら」
「そう言うわけだから、ユーキ行ってくるね」
(僕が寝ていた3日の内に二人とも仲良くなったよな、よかったと言うか)
ユウカはリーナをお姫様抱っこして、全速力で走り出す。リーナの視点から考えるとさながらスリル満点といったアトラクションである。
「ユウカねぇ、怪我だけはさせないで」
「私も、流石にあれには乗れない」
「ははは、、、」
身内の恐ろしさにユキは言葉を濁す。
「そうだ、ユキ、ねずみは嫌い」
「嫌いも何も日本ではそう見ないし、むしろ知らないと言った感じかな」
「そう、よかった」
ルナの薄い胸元からそれはひょこっと顔を出す。
「ネネ、私の召喚獣の一柱」
「やっぱりルナさんの召喚獣のモチーフって」
ユキとルナはゆっくりと食事を行った。ルナのサンドウィッチはハムにチーズ、卵にトマトと普通のサンドウィッチだったが、ユキのサンドウィッチはサラミにピクルス、カリカリベーコンにキャベツと食材が個性的だった。
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