プロローグ
(ゲームの中に入れたら。そんな子供のような夢、、、)
「異世界転移、、、ですか」
「はい、このゲームのプレイヤーの全てはそうなるよう主神様より言付かっておりまして」
「あなたは?」
「神様候補の1人となる立場の者です」
彼は、今日本でテスト稼働中の携帯端末『NOA』のテスターの一人であり。このゲームに関しても、管理元から自動で配信され、自動起動を確認した瞬間にこの空間へ飛ばされた。テスターは1万人存在しており、神様候補の証言が正確なら、彼と同じく異世界に転移される人数はテスターの数と同等だろう。
「神様候補ですか?」
「神の使命とは人を導くものですから。これから貴方様を転移させていただく世界において、私は貴方様を正しく導き、その経験を最終選考とし神としての位を主神様より賜る手筈となっております。簡単に言えば就職テストのような物です」
「テストですか、、、」
(異世界の神様のごたごたに、別世界の下々の者を巻き込まないでいただきたいのだけども)
彼自身、このような展開には多少の抵抗はあるものの、そこまで嫌いではなかったりする。しかし、ゲームプレイヤーの全てが異世界転移させられるのであれば、当然の事実として彼の最愛の人も本件に巻き込まれている現状を看過することは出来なかった。
「なんですか、どことなく不満気ですね」
「いやいや、確認も前置きもなく僕を異世界に拉致して、元の世界での生活はどうなるんですか。不満の一つや二つぐらい言わせてくださいよ、家族に行ってきますくらい言わせてくださいよ」
彼はほぼほぼワンクリック詐欺と同じような過程でここまで飛ばされて来た。それらの経緯から彼は口を少々尖らせた。
「それなら大丈夫ですよ。私が神になった際には最大限の配慮のもと元の世界に送り戻す事も可能です。むしろ、貴方様の働きのおかげで私が高位の神となることが出来ましたら、お土産を持たせて上で転移直後の時間軸にお送りさせていただきます」
あれやこれやと、神様候補のアピールは続く。その姿を見て、彼の心も半ば諦めはついたのだろう、彼の思考は次第に建設的な方向へ変わっていった。
「どうせ、今から帰らせろ、とか言っても無理なんだろうし、少しでも高待遇で帰れるように異世界生活を頑張ることにするよ」
「なんと慈悲深いお方、、、これは私の転移者ガチャガチャも大当たりのようですわ、虹色に輝いておいでですよ」
(神様候補に慈悲深いと言われましても。あとすごく俗っぽいなこの神様候補、会話しやすくはあるけども)
「それでは、プレイヤー登録を行います。私の方からいくつか質問させてください。各質問に対してひとつだけ貴方様からの質問が許可されております、是非ご活用いただければと思います」
「質問は無制限に出来ないんですね」
「あまりこの工程に時間をかけすぎるのも非効率ですし、百聞は一見にしかずともいいますし、案ずるより産むが易しです」
そう言い終えると神様候補は彼の返答を記録する用紙を取り出し、返答者へと向き直す。
「それでは、最初の質問です。貴方様のプレイヤーネームはいかがいたしますか?」
「質問、プレイヤーネーム役割とはなんですか」
「解答、主には私からの貴方様に対する呼称です。それ以外の場合では、第三者が貴方様のプレイヤーネームを把握できるケースはごく稀なことだと思います」
「『ユキ』で登録をお願いします」
彼の転移前の世界での名前は『佐藤祐樹』いつもゲーム内の命名では祐樹を文字って『ユキ』という名前を使っている。
「二つ目の質問です、ユキ様の性別は女性でよろしいでしょうか」
「質問、何故に女性と決めつけるか」
「解答、ユキ様の世界では男性プレイヤーが女性アバターを使用する、通称『ネカマ』という行為が一代ムーブメントを築いていると聞きまして、私はそのような文化に興味津々であります」
「はいはい、性別は『男性』でお願いします」
そのやりとりの終わりに、神様候補が小声かつ早口で『中世的かつ少し可愛い方向にアバターの調整、元の素質がある分イメージしやすくて助かります、この一手間があるかないかでこれからの私のモチベーションが、、、』等と口にしていた事をユキはまだ知らない。何をやっているんだこの神様候補は。
「コホン、それでは最後の質問です。ユキ様は異世界に一つ持っていけるなら何を持っていきますか? それに該当するスキルを私の方から転移の際に付与することができますす」
(なるほど、これが転生、転移系の物語ではよくある、俗に言うチートスキルって奴になるのか、これはゲーマーとしての経験がかなり有利に働きそうだ、、、ユウカねぇ大丈夫かな)
ユキにはユウカという親しい姉がおり、神様候補の言うことが正確ならば彼女もこのゲームへ参加している、する事になる。それを考えた上でユキの質問は、、、
「質問、この世界での回復魔法等、人間の機能を改善する能力はどの程度の力を持ちますか」
「解答、本世界の回復薬、回復魔法は応急処置程度の力しかなく、『死者を生き返らせる』、『欠損した部位を再生させる』、等は大きな代償を伴う、どちらかと言えば黒魔術に近い扱いとなっております。以上の事からオススメは致しません」
神様候補の返答にユキは長考の態勢を取る。
「ユキ様がどのような経緯で回復魔法等に興味を示しているのか私には解りかねます。しかし、異世界転移の際に転移者の全ては基本的な神の恩恵を得られます。その恩恵により転移直後の身体は無病息災かつ五体満足であることを保証します」
(それならユウカねぇは大丈夫か、、、そうなると異世界を生き抜くために必要なのは、武力、魔法。いや、回復魔法があるなら攻撃魔法もあるとは思うが、質問権を使ってしまった現状、選ぶのは流石にリスクが高すぎる。それは、武力も同様だな」
「異世界での『知識』に関するスキルにしたいと思います。質問権は使ってしまったので、申し訳ありませんが。どんなスキルがあるかだけ少し教えていただけませんか」
(先の質問から強力な力には相応の代償が伴うのだろう。即死スキルとか、不死身とか分かりやすく強力な能力を選ぶ場合、代償として何を要求されるか解ったものではない。現状での最善手は『鑑定眼』又は『大賢者』だ)
「ユキ様、素晴らしい慧眼です。私からユキ様へオススメできるスキルは二つほどあります。一つは、自分の視野に限定して全ての知識を開示する力。もう一つは、目の前にない事柄であっても広い知識の中から正解を導き出す力です」
(前者が鑑定眼、後者が大賢者といったスキルなのかな。軽く考えたら鑑定眼よりは大賢者の方が強力なスキルそうなんだけど、この二つが並んでオススメされているという事は大賢者に関してはなんらかの誓約がついているのかもしれない。だけど、、、)
「『後者』のスキルでお願いします」
「承りました。ユキ様にEXスキル『教導』を付与いたします。本スキルは、この世界における全ての教典を身に宿し、自由に閲覧する事が可能となります。その中には、私達神様候補、天使の教典も存在しております。ユキ様には是非とも私達の域まで到達できるよう研鑽を積んでいただければと思います」
(教導の能力で与えられるのは知識は辞書のようなもので、必要な項目に関する、検索機能や知識の使用等に関わる応用能力はプレイヤースキルに依存するかたちなのか)
最後の質問も終わり、ここに神様候補とユキの間に契約が交わされた。以上の手続きを踏むことでユキと神様候補の間でのみ限定的に神様の候補としての制限が取り除かれる。
「それでは、ユキ様。異世界転移の時間です、これより貴方様を導くのはこの私『2382番』、ユキ様だけの神様です」
(2382番、、、つ、み、は、つ、罪と罰。わかりやすい番号でよかったと思うけど、流石に彼女の愛称としては使えないかな)
「あっ、まずっ。勢いで転移ボタンを押してしまいました。多少の説明忘れがありましたので、いまから転移までの時間で説明させていただきます。まず、私がいくらユキ様専属の神だとしても、1日に接触できる時間は10分に限られ、タイミングはユキ様の起床前の夢の中とな、、、」
(あぁ、神様ぁ、マジですか、、、)
最後に見たユキは、どことなく優しい笑みを浮かべ、どことなく全てを悟ったような表情をしておりました。
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